とっつきにくさのないIoTの話を

菊地仁氏:みなさん、はじめまして。ソフトバンクの菊地といいます。こんばんは。今日はTech Trend Talkの2回目ということで、GIGさんの場をお借りして「シリコンバレーで見たIoT開発最前線」ということで、小一時間お話させていただきます。

今日お話しすることはIoT(Internet of Things)の話なので、「ハードウェア系のディープな話だよね」とか、「IoTって難しそうだよね」とか、とくにGIGのみなさんは、だいたいWebのエンジニアとかプラットフォームとかデザイナーとか、そちらのみなさんだと思います。ですのでちょっととっつきにくい話題はなるべくすっ飛ばすようにして、どんなトレンドかをお話しするようにしたいと思っています。

ちなみに今日来ていらっしゃるみなさんの、バックグランドを最初におうかがいさせていただいて、それをもとに言い方とかを変えようかなと思っているのですが、まずこの中でGIGの社員のみなさま?

(会場挙手)

ありがとうございます。それ以外の会社、IT関係の会社の方たち? 

(会場挙手)

Webデザインとか広告とかそっち系の方は?

(会場挙手)

あとはICTじゃなくて、ユーザー企業とか、そっちの方は?

(会場挙手)

なるほど。まぁそこそこですね。それぞれの職種なんですけれども、Webエンジニアのみなさん?

(会場挙手)

バックエンドとかインフラのエンジニアのみなさん?

(会場挙手)

やっぱりバランスよくですね。あとはデザイナー、UI/UX関係のみなさん? いないんですね。うーん、なるほど。Webデザインとかそっち系かな。あとはそれ以外、企画・プランナー・営業みたいな方は?

(会場挙手)

だいたいバランスよく揃っている感じですか。なるほど。じゃあちょっと、どこにフォーカスを絞るか難しいんですが。

4年ほどシリコンバレーに駐在

私、菊地仁と申します。「やりましょう」って社長が言って、Twitterでわらわらするという会社がありますが、そこで今年の2月まで4年ほどシリコンバレーのほうに駐在しておりました。

アメリカで「Maker Faire Bay Area」というイベントがあって、二足歩行ロボットががトランスフォームするみたいな、「J-deite」というロボットを我々のグループ会社の人間がやっていたりするんですけど、そこを個人的にお手伝いしに行って、通訳がてら現地の子どもたちにこういうのを見せて、わーっとか、まぁそんなこともやっていました。

ソフトバンクをご存じない方が多いと思いますので、ちょっとご説明させていただきますが……。

(会場笑)

もともとYahoo! Inc.の、Jerry Yangに投資した、孫正義という男がいて。2006年にVodafone K.K.(日本法人)を買収して、携帯ビジネスに参入しました。なんでVodafone K.K.を買収したかというと、インターネットからモバイルインターネットに変わるんだよねってことで。実際この間になにが起こったかというと、スマホシフトが始まったというのはもうみなさんご存じのとおりですよね。

2035年までに1兆個のデバイスがばらまかれる

その間にどういうことが起こったかというと、通信容量がもう10倍、100倍の比じゃないレベルにどんどん指数関数的に伸びていきました。なので、ネットワークを提供する側もけっこう必死に容量を大きくしていったりして、PDC、3G、4G、LTEとやってきましたけど、その次のトレンドはIoTだと言われておりまして。

IoTになるとなにが起こるか? 大きく2つです。1つは、デバイスの数が半端なくなるんですけれども、2015年から2035年までの20年間の間に、1兆個のデバイスがばらまかれると。これは我々が勝手に言っていることじゃなくて、Ericssonという会社があって、そこがだいたい今のトレンドでこんな感じだよね、ということで。

実は今もうスマホというか、モバイルとタブレットの合計よりも、IoTのデバイス、要はネットにつながるなんらかのモノの数のほうが、これはWi-FiとかBluetoothも入ってなんですけど、もう157億を超えているんですね。

これがどんどん伸びていくので、間接的にクラウドと連携するモノっていうのが、もう1兆個になる。これは毎年の出荷数なので、累積すると1兆個になるんですね。

この1兆個のデバイスのセンサーデータが、クラウドに上がってくる世界って想像がつかないというか、インフラエンジニア的には悪夢でしかない感じなんですけど、「IPアドレスという概念も、そもそもないんじゃないか」という話になってきます。この世の中に向けていったい我々はなにをするのかを、日々考えていたりするんですね。

これは日本にいようが、シリコンバレーにいようが、ネットワークセンターだろうが、本社の人間だろうが、みんな同じ問題意識を持ってというか。まぁ孫さんがこういうビジョンを描くので、それに合わせて我々2万人の社員がいろいろとやっているわけですね。

一方で、ムーアの法則が相変わらず毎年続いていますって状態になったので、1個のプロセッサに乗っかるトランジスタの数が、だいたい300億を超えると今年言われています。

実は大脳の細胞の数は、Cellの数がだいたい300億と言われています。単純な1-0の情報処理という意味で、脳細胞とプロセッサのトランジスタが同じだとした場合、実は処理能力ってほぼ1個のチップが、「ある目的に最適化してやると、同じぐらいのパフォーマンス出るんじゃないの?」ということです。

例えば、今、囲碁とかいろいろあると思うんですけど、「目的を与えてあげれば、実はプロセッサは人間よりすごいことができるよね」みたいな話があって。今AIブームになっていて、「音声認識もここまでよくできたよね」とか「翻訳もけっこういけるじゃん」みたいな話になっているわけですよね。

こういう状態で、「ばら撒かれるものが1兆個、そこに入っているプロセッサが人間より賢いという世の中で、僕たちはいったいなにをするのか?」っていうのが、けっこう大きいテーマなのかなと思っています。

これからは5Gのネットワークになってくる

具体的には「IoT」「AI」「ロボット」っていう、この3分野を強化するかたちで、新規事業を立ち上げようとしています。

「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」という、孫さんがやっているファンドというのがあるんですけど。10兆円を、例えばSlackだとかUberであるとか、Uberの中国事業を買収した「滴滴出行」という会社だったり、世界中のライドシェアの会社に投資しています。もう孫さんは楽しくてしょうがない。(後ろの本棚を指して)ここの本の中にも『孫正義 300年王国への野望』などがあるので、これを読んでいただけるとなぜ楽しいかわかると思います。

孫正義 300年王国への野望

また、これからネットワークは5G(第5世代)になってきます。たくさんのデバイスをどうやって収容するか。VRコンテンツに向けて超高速にしようとか。

あとは、自動運転であるとか遠隔手術をやる上で、遅延をできるだけ最小限にしようってことで、ワイヤレスであろうがほぼ遅延がゼロというような技術開発も進めております。

もう我々は通信会社じゃないんですね。IoT、AI、ロボット、クラウド、電力ビジネス、シェアリングエコノミー、あとWeWork。「新事業開発をするのが本業だ」ぐらいな勢いで、我々は日々がんばっています。

シリコンバレーの中のホットな議論を、リアルタイムで掴む

会社の説明というかソフトバンクの説明は以上として、じゃあそんななかで我々駐在している人間が、いったいなにをしているかということをご説明します。

これ、例えばARMのTechnology Conferenceとか行って、そこに集まってきている組み込み系のエンジニアの人たちとかが、どんな議論をしているのかを一緒に行って体感してくるとか。

シリコンバレーって、いろんなデバイスとか、Apple、Google、いろんなエンジニアの人たちが集まってきていますから、会社の枠を超えたいろんなかたちでの交流が毎日のようにあります。なので、やはりそこは出張ベースではなく、駐在している人間で手分けして、シリコンバレーの中のホットな議論を、リアルタイムで掴んでいくということをやっています。

今年のARMの新ネタはなにかというと、セキュリティ。PSA(Platform Security Architecture)って呼ばれるIoTセキュリティの仕組みをARMとして提案しますという年だったんです。こういう開発動向も、なかなかマスメディアや記者からの情報だけだとわからないので、一次情報をなるべく取ってくるという感じです。

あとは、半分趣味ですけど、(サンフランシスコ)49ersの試合に足繁く運んで。

ここのリーバイス・スタジアムというのが4年前に新築されたスタジアムなんですけども、スタジアムがまるごとWi-Fiでカバーされているんですね。スマホで注文をすると自分の席まで物が届くとか、最新のプレイをいろんなアングルから、スマホでビデオでチェックできるというような感じなんです。

実際にスタジアムに行って、アメリカのスポーツビジネスとか、そこでどういう技術を使っているかとか、そういうのをリサーチしてみたりします。

アメリカには開発ボードやニッチなものがたくさんある

あと、IoT系の開発ボード。

よくあるのはArduinoとか。いわゆるプロトタイピングをするような、IoTのセンサーデバイスをマイコンボードというかたちで1つのコンピュータとして動かすものがあります。

(スライドの開発ボードを指さしながら)アメリカに行くと、3G通信ができるようなものであったり、ARMのmbedがちゃんと使えるようなものであったり。あ、これも3G回線が使えるやつですね。SDカード型のものとか。あとはWi-Fi・Bluetoothのものがけっこう多いです。

おもしろいのは、TesselというJavaScriptでばりばりコーディングができちゃうみたいな、そういう開発ボードとかすごくニッチなものがたくさんあるので、「うわ、これおもしろい」とか思って、どんどん買い込むわけですね。そういうのを買い込んでいろいろいじっていくというようなことを半分趣味、半分仕事でやっていました。

IoT開発をするためのキットの交渉をすることも

こういうことをやりながらシリコンバレーにいたんですけど、「これはおもしろい」っていう開発ボードがあって。このElectric Impという、今手元に持ってきていますが。

シリコンバレー発祥のIoT開発するためのキット、Wi-Fi開発キットみたいなものがあったので、日本で売れないのかと聞いてみたら「ちょうど技適が取れた」「ああ、やった! じゃあ我々のサイトで売ろうよ」って。

これは実際にモーションセンサーとか、3軸モーションとか、温度・湿度計とか、あとは気圧計がついていて。RGB LEDもついています。あとはここのGroveというコネクタを使って、いろいろセンサー拡張ができます。

とりあえずハードウェア設計は、はんだ付けなしにこれでできます。ここ(通信モジュール)にWi-Fiが入っていて、Wi-Fiが自然とクラウドにつながる機能が、始めからビルトインされています。なので、とりあえずこれに電池を入れて、Wi-Fi設定を流し込んでつなげてしまえば、あとはWebブラウザで開発ができちゃうという、そういうものです。

こういうのがシリコンバレーの会社にあって、「なんかこれおもしろいね。ちょっとこれ、セルラー版でやってみない?」みたいな話をしていろいろ交渉したりとか、「日本のLTEネットワーク、我々にやらせて」みたいな交渉をしたりとか。

こっちが7,980円で、こっちが5,980円で、売れれば売れるほど私のボーナスが増えますので、ぜひあの……。

(会場笑)

「IoTのプロトタイプ開発ってどんな感じ?」というのを、ちょっとお見せしようと思うんですけど、実際にこのElectric ImpのWi-Fi開発キットを、キャンディマシンに組み込むということをやってみました。

この「Breakout Board」が5,980円で、Wi-Fi機能があって、Arm Cortex-Mプロセッサが載っていて、Wi-Fi接続は勝手にやってくれますと。キャンディディスペンサーの中に、これを組み込むんですね。

Maker Faire Bay Area でキャンディのイベントを考えたが…

キャンディスペンサーがなにをやっているかというと、モーターが動いていて、このモーターがガラガラって回るとキャンディが下に落ちるみたいな仕組みなので、これはこのまま生かして。抵抗とかダイオードとかを使って逆流しないようにしながら、回路を作るみたいなことをやるんですけど。家の中が工房化していて。こうやってちょっとはんだ付けを……この場合ははんだ付けがいるんですけど、はんだ付けをしながら改造します。

改造してつなげたら、このプロセッサに「お前、動かせ」「このピンの電源をオンにしろ」「1秒だけオンにしましょう」とか「3秒だけオンにしましょう」というコーディングをすればいいんです。

例えばTwitterである特定のハッシュタグでつぶやいたときに、それをTwitter APIでクラウド側で捕捉して、それをもとにこのデバイスを動かすみたいなことが、このキットを使うと簡単にできます。Twitterと連携するライブラリとか、AWS IoTと連携するとか、Watson IoTとかAzureとか、いろんなものと連携できるようになっています。

こういうのを試しに作ってみて。「Maker Faire Bay Areaってつぶやくとキャンディをあげるよ」ってやろうとしたんですけど、許可がいるというのが直前になってわかりまして(笑)。NGになったということで、涙を飲んで、という感じでした。

Amazon Alexa を使った開発

さて次に、これをAlexa対応にしてみようじゃないかってことで、クラウド側の仕組みだけ変えて、スマートスピーカーで動かしてみました。どういうことをしたかというと、Amazon Alexa Skills KitのWebサイト側で設定をすることで、Skill向けにある発話がされたら、AWS Lambda経由でElectric Imp側に飛んでくるという仕組みですね。

ここでさっきのWi-Fiモジュールがあって、クラウドに常時つながる状態になるまでは勝手にやってくれるんですけど。つながったあと「あるオーダーが来たらこいつを動かせ」って処理をする、マイクロサーバみたいなAgentがElectric Impのクラウドで動いています。開発者は無料で使えるんですね。

ここで、例えば「Alexa, give me some treat from Snackbot.」ってAlexa側 に話しかけると、「give me some treat」という部分が音声認識されて、それがこうやってJSONで、「TreatMeIntent」という(インテントの)名前が出てくる。

JSONが飛んできたら、「TreatMeIntentが来たら、キャンディマシンを動かせ」とやります。

こっち(デバイス)のもの(ソースコード)はほぼ変わりません。この部分は変わらないんです。このクラウド側のコード(だけ)を変えることで、Amazon Alexaにも対応できるし、Twitterにも対応できる。自分でもいじってこれは便利だって思ったので、「これを日本で売るぞ」と思ったわけです。

それで、すいません、Alexa……。

(Alexaのデモ音声が流れる)

3回目になると断られるみたいですね。2回目までは普通に出るんですよ。3回目になってから、「いや、お前、フルーツを食え」みたいな、そう返すみたいな。

なんかもう、仕事なんだか遊びなんだかよくわからないですけど、こういうことをやっていました。