マルチプレイに張り続けるという戦略
花澤雄太氏(以下、花澤):縛りの話でいうと、先ほど言ったように、会社としてはビジネスとして成功するという縛りがあるものの、どう成功させるかは部やプロデューサーに委ねられています。時には上から案件が降ってくることもありますが。
XFLAGさんだと、方向性が合わないと「ちょっとうちは」となりますけど、うちは部の異動が可能なんです。そこはおもしろいとこですかね。
多留幸祐氏(以下、多留):いろいろなパターンがあっていいと思うんです。ゲームを作る環境はいっぱいあるので。
花澤:入ってみて1年経って、部の方向性と合わなければ、FAが可能(笑)。社内転職ができる。最近はアニメ部も立ち上がりました。
多留:僕らの場合は、もう転職するしかないです。こういうコンセプトでしか作らないと決まっているので。
花澤:社のコンセプトが固定されてる分、ナレッジという点では、かなりたまりますよね?
多留:たまりますけど、そんなに一筋縄ではいかないです。顔合わせのマルチプレイのゲームを作るといっても、例えばモンストの成功はそれだけではなくて、そのときの時代の流れとか、いろいろな要素があった。だから、なかなか同じことを実現していくのは難しい。
ただ、あきらめたら終わっちゃう。オンラインゲーム化していくのも簡単ですが、そうすると今までのナレッジがなくなるし、ただやみくもにゲームを作ることになってしまうので、ずっとマルチプレイに張り続けます。
10年かかっても、もう1回ホームランを出すほうが、勝つ確率は高いんじゃないかという戦略です。
花澤:難しいですよね。ナレッジはたまるに越したことはないし、どちらがいいわけでもない。
多留:僕はどっちかというと縛りがあったほうが考えやすいので、そういう人は合うと思います。マルチプレイのゲームという範囲で、世間の人が遊んでる姿を見たりもできますし。「なんでもいい」となると、全部が参考資料になっちゃうので。
花澤:今は完全内製開発ですか?
多留:モンストと同じようなかたちをとってます。モンストは岡本吉起さんと一緒に立ち上げてますけど。
マルチプレイにこだわり続けるための努力
多留:基本的には、XFLAGと、業務委託としてだいたい1社と協業してやります。僕らはプロデュースとマーケティングという強みを持ってるので、コンセプト決めを中心に、ゲーム制作のプロの方々の力を借ります。
岡本さんのおかげで、ミクシィ社のゲームを作るノウハウは貯まってきてるんですけど、いくつもいくつも内製で、自分たちだけではできないので、基本的には業務委託の方々と一緒にやってます。
なおかつ顔合わせマルチにこだわるのは、本当に大変なんです。僕らも何個かゲームを出してますが、やっぱりうまくいかない。ぜんぜん数字が伸びない。そうするとGPSの距離を広げたり、オンラインでのランキングとか全国マルチとかをしたくなるところを、やらないようにしないといけない。
それをわかっていただくためには、作ってるときからずっと会話しないといけないので、基本的にはミクシィ社に来てもらいます。開発が全部入ってる。
うちの社員と同じように、ずっと常駐で、会社ごと入れちゃうようにして、普段からそのマインドを共有しています。オフィスの席を確保するのも大変なんですが、なんか問題があったときに、コンセプトの議論から始めたくないので。
花澤:そのコンセプトは、最初からですか?
多留:モンストも同じようにやってます。基本的には業務委託の方々も同じオフィスで、席並べて、見た目は本当に社員と一緒です。
花澤:参考になります。
多留:DMMさんはどうですか?
花澤:うちは内製といわれる内部開発のタイトルもありますし、金沢にも開発スタジオを持っていまして、『文豪とアルケミスト』とかはそっちで作っています。
そういうパターンと、他の会社さんとの協業がメインです。中国、韓国、台湾とかの国外が多いですね。やっぱり技術の発展というか。
そういうふうにやっているので、お互いの強みをいかに生かすかをコンセプトにすることが多いです。ゲーム自体というよりは、「その会社さんとやるならこれ」という決め方が多い。
3Dが得意な会社さんなのに、2Dの企画の話をされても、違う違う、と。そこは同じようなかたちかもしれません。
多留:わかりました。
花澤:だからいろいろ試せる。1つ1つに対してプロフェッショナルになれればいいな……という考えです。
多留:なっていく会社なのかっていう。ゲーム会社は本来、どちらかというとそっち寄りかもしれない。
「スマートフォン」にふさわしいことをやっていく
花澤:次にいきましょう。「ゲーム以外への展開について」。最近はゲームだけにとどまらないですよね。昔はファミコン、ゲームで完結するのが普通だった。せいぜいジャンプにちょっとマンガがあるくらい。『ロトの紋章』でしたっけ、あれはおもしろかったですよね。あとコロコロコミックは、攻略マンガを読んだりするくらいだったのが、最近はアニメどころか、劇場版もある。
多留:そうですね、ヒットしていくゲームタイトルの、メディアミックス戦略の1つだと思っています。アニメとかマーチャンダイジングとかもそうだと思うんですが、もちろんそれはそれで展開しつつ、やっぱりスマートフォンゲームなので、それにふさわしいことをしていく。
花澤:デバイスが変化しましたからね。
多留:それについてずっと考えています。例えばモンストでいうと、ゲームプレイの報酬がモンスターとかアイテムじゃなくて「銀だこ」とか「サーティーワン」がもらえるという企画をやりました。
花澤:干支のレースみたいなのもやってましたね。でも仕組みがよくわからなかった(笑)。
多留:十二支再競争ですね? ゲームをプレイしていて、普通に生活しててもいいことがあるように持っていきたいんです。スマートフォンだと、日常的に外でやったりする。
花澤:持ち歩くわけですからね。
多留:銀だこを食べたくなったときに、プレイしたら銀だこがもらえる。運極というものを作らなきゃいけないので、そこそこプレイはしないといけないんですが。こういうことをやるのもおもしろいと思うんです。他ではやっていないということもありますが。
花澤:さきがけに近いですよね。
多留:アニメもヒットするものを作りたいですし、普通のメディアミックスはもちろんこだわってやっています。だから日本でいうと、モンストはやってなくても知ってる人が多いと思います。
花澤:まったく知らない人がなかなかいない。
多留:今さら新規で、というのもなかなか難しい。
みんなが楽しめる場所を保つ
花澤: モンストさんのすごさってリテンションですよね。これだけの長い間トップでい続ける、そのすごさを感じます。
多留:これはチームで意識していることでもありますが、顔合わせのマルチプレイというシステムが生きてるんです。銀だこさんとのコラボで、運極を作ると銀だこがもらえるイベントをきっかけに復帰したり。基本的には何回も何回も周回して、運極を作るゲームなんです。もちろん高難易度のクエストに勝つということがありますが。
花澤:何度も交戦して、ラックを溜めていく。
多留:銀だこをもらえるクエストは、すごく難しくはないんです。爆絶という最高難易度のクエストや、覇者の塔とか、上級者向けのコンテンツもいろいろ出すんですが、「みんなの興味が同じ、誰でも臨めるクエスト」を絶対に設けている。そういったクエストのプレイUUがゲーム全体の中でもトップじゃなくなったらダメ。誰でも臨めるので、誘い合うきっかけにもなり、復帰してもらえる機会にも繋がっていると思います。
花澤:ゲーム内だけじゃなくて、いろんな仕掛けを連動してますよね。そういえば、XFLAGさんのロゴに謎の3文字が……。
多留:バーベキュー(B.B.Q.)というのは、文字通り肉を焼くやつですけど、それが戦略コンセプトなんです。バーベキューって、正直、肉の質とか野菜のなにが入ってるかとかはあんまり関係ないですよね。みんなで肉を焼く、その場が楽しい。XFLAGではそういうコンテンツをやりますという表明です。
花澤:かならずしもお肉がおいしい、高いものじゃなくていい。
多留:バーベキューでA5ランクがきてもたぶんわからないし(笑)。
花澤:火力が強すぎますよね(笑)。
多留:そういう問題ではないですが(笑)。みんなが集まってる空間が大事ですよね。僕らも、そういう場所を作っていきましょうということです。
ゲームにとどまらないエンターテインメントプロデューサーへ
花澤:スマートフォンというデバイスに、より密接な遊び方を探ったところが強さですよね。
多留:持ち歩けますし、ほぼ確実に全員持ってますし。
花澤:モンストさんがきっかけでいろんな会社が意識するようになったと思いますが、いわゆるゲーム機が初めて「みんなが持ってるもの」になったという考え方になった。一緒に対戦するって、ちょっと面倒なことだったのに。
多留:なってみるとすごいなと思いますが、スマートフォンゲームって1人で遊ぶのが当たり前だったので、気づかなかったんですよね。みんな持ち歩いてるし、誰でも操作できるから、当然なんですが。でもそういうポイントを見つけるのがやっぱり楽しいです。うまいこと見つけると、大ヒットになるので。ホームランを狙ってるというのはそういうところで、ヒットは出なくてもいい、でもまたモンストみたいなものを出していくぞという意気込みです。
花澤:そういうところは本当に、今後勉強させていただきたいです。弊社でいうと、今『刀剣乱舞-ONLINE-』というゲームがありますが、グッズなどはもちろんですが、ニトロプラスさん主導で、「2.5次元舞台」というものをやっています。刀剣男士(注:所謂キャラクター)たちが行う、舞台、演劇、ミュージカル。あと最近だとアイドルゲームから飛び出してライブをやる。ニトロプラスさんを通してそういう世界もあることを学びました。またそれがすごい熱なんです。
初めは演劇やミュージカルなんてあまり知らないジャンルですし、おもしろいのか疑問だったんですが、実際目の当たりにしますと、お客さんの熱もそうだし、クオリティも本当にすごい。これはきっともっと大きくなっていく世界で、かつゲームとも非常に相性が良いと思いました。そういう点で、ゲームプロデューサーというよりはエンターテインメントプロデューサーになっていかないと、限界があるし、いつか置いてかれてしまう。
多留:そうですね。
花澤:プロデューサーとは? というところですね。
多留:本当にそうだと思います。
花澤:難しいです。しかも多岐にわたっていくので情報を取り入れる量もどんどん増えていきますし。
デバイスの変化とともに新しいやり方が生まれている
花澤:家庭用機を作っていたときって、昔からゲームを作っている人のルールの延長線上だったんです。表現の広がりはあるものの、やっぱり昔からやっていて詳しい人が先導していく、という世界ではあったんですが。携帯ゲームになって、スマートフォンになって、月額制から課金型になって、メディアミックスがどんどん当たり前になって、新しい知識がいっぱいになってきた。
これまでみたいに、長くやってる人がいいかというと、それだけじゃ足りなくて、いろんな人の……好きな人って5年6年追っかけてたりとかするんです。もう、さわりで何回か見たとかでは、お呼びでないんです。「俺はわかってんだ」みたいにやっているプロデューサーってどうにもならない。それぞれのジャンルを熱を持って追いかけいる人たちの武器をつぶさないで、協力してくれる人が増えたら、うれしいなと思います。
多留:それで、新しいエンターテインメントが生まれてる。
花澤:そうなんです。私自身も新しい仕掛けに敏感に反応して、少なくとも熱のある人の気持ちに耳を傾けて取り入れて、協力してもらって、世界を広げてほしい。
多留:我々も基本的にはやっていきたい。
花澤:年寄りですけど頑張ってついていかないと(笑)。
多留:そうですよね(笑)。今のお話のような、「そんなことやる意味あるの?」みたいなことへのチャレンジは僕らもやっていて、例えばXFLAGで音楽フェスに協賛したりしています。
WARPED TOURという、日本での開催は初めてなんですが、北米ではけっこう歴史のあるパンクのフェスです。今は、日本のロックフェスでアイドルが出るみたいな感じで、パンクだけではなくなってるんですが。それに「なんでXFLAGが」って言われる。
花澤:わかります。
多留:それはその通りだけど、やってみて、「XFLAG、けっこうかっこよくフェスやるじゃん」ってやっていかないと、ずーっと、「なんでただのスマホゲームのやつらが、音楽フェスに入ってくんの?」というまま。やらないと変わらない。
多留:初めはそうかもしれないけれど、長くやり続けて印象を変えていく。
花澤:文化を変えてく感じ。
多留:そういうことをやるのが一番気持ちいいし、楽しい。
未知のものを取り入れることが成長につながる
花澤:私はその感性がすごいと思ってます。
多留:それによってキャラクターの魅力を広げていく。演劇の役割に近いですね。
花澤:そうですね。
多留:その手段を変えていくというのは、すごいその通り。
花澤:見ててすごいなと思います。もう本当に世界が変わっていっているので、それぞれのジャンルの知識がある人からいかに吸収して、いかによりがんばってもらえるかが大事だなと実感しています。
多留:実際、自分でも体験した、「そういえば実際そうだね」ということありますよね。
花澤:プロデューサーの仕事は環境を整えることだと思っているので、そういうところをうまくやる。さらに上の人ってそういうところに許容範囲がなかったりするので、私たちがうまく説明しなくちゃいけない。
多留:そうか、上のほうになるほどなんの意味があるのかってなりますよね。
花澤:そうなんです。だから、その間の通訳のような仕事ができたらいいなと思っています。
多留:そういう仕事は楽しいですね。未知のことを取り入れることは、よくわかんないからちょっと気持ち悪くなるときもありますが、でも最終的には成長につながる。
花澤:同じところを守り続けるだけだと、結局先細りになっちゃう。
多留:ゲームは嗜好品なので、絶対いつかは飽きが発生するんですよね。
花澤:あくまでお客様が先導している。こちらがいくら「おもしろいでしょ」って言ったところでダメですから。
多留:そうですね。やっていきましょう。
花澤:いつまでもお客様の気持ちに敏感になれるよう、頑張りたいですね。