開会の挨拶と自己紹介

藤本真樹氏(以下、藤本):はい、よろしくお願いします。

宮坂学氏(以下、宮坂):はい、お願いします。

藤本:DXD(※Developer eXperience Day)、いよいよ始まりましたということで、最初のセッション、基調講演を始めます。

タイトルがなかなか大仰で、「日本の未来を支える力とは?」ということです。抽象度がわりと高めですけれど、大きい話を東京都副知事の宮坂さんをお迎えして、40分、45分ほどできればと思うので、みなさま、お付き合いいただければと思います。よろしくお願いします。

宮坂:お願いします。

藤本:というわけで、さっそく自己紹介って感じですかね。おっ、進まねぇ(笑)。まぁ、こういうこともありますよね。あっ、いった。

自己紹介をさっそく。僕のことはどうでもいいので、宮坂さんの紹介をしたいと思います。あらためまして、東京都副知事の宮坂さんです。1、2分ほど自己紹介をお願いしてもいいですか?

宮坂:わかりました。はい。今、東京都の副知事をしながら、「GovTech東京」という、東京都の外側に民間として新しい開発団体を作って、そこの理事長も兼任でやっています。

この仕事をする前は、民間のヤフーやソフトバンクグループで、20年ちょっとぐらい、ずっと仕事をしてきました。そういう経歴で紆余曲折があって民間から公務員の世界に移るという転職をして、今ここにいるという感じですかね。

藤本:なので宮坂さん、前職でもけっこう偉いポジションにいらして(笑)。

宮坂:はい(笑)。

藤本:今もけっこう偉いポジションにいらして。その両方でやはり見える景色が違うかなと思うので……。

宮坂:ぜんぜん違いますね。

藤本:そういうところを活かして、「今後僕らはどうしていけばいいんだっけ?」というのを、ちょっとでもヒントをいただければと思っています。

併せて、私はいろいろやっているのですが、一応、今日は日本CTO協会の理事ということで、宮坂さんのインタビュアーをしますのでよろしくお願いします。藤本です。

宮坂:よろしくお願いします。

藤本:お伝えし忘れましたが、みなさま、本当にお忙しい中、会場の方はお越しいただきまして、オンラインの方はブラウザを開いていただきましてありがとうございます。御礼申し上げます。

日本のデジタル競争力の現状

藤本:では、さっそく話を進めていきたいと思います。「未来、どうすればいいんだっけ?」となると、その前に「今、どんなだっけ?」みたいな話がやはりあるにはあって、特に、僕ら(が関わっている)デジタルやソフトウェアではいろいろあります。

(スライドを示して)文字が小さいのであまり見えないかもですけど、とりあえずランキングを見ようとなると、電子政府ランキングは、日本は絶賛34位になっています。これは国連が出している諸々の統計を取った数字ですが、これはこれでいいような悪いような。でも、すげぇ良くはない、みたいなのがあったり。

あと直近でニュースが出たのでご覧になった方もけっこういるかなと思います。これはこれでいろいろな複合的な指標なので、何がとは言われていないですけど、とりあえず、「デジタル競争力ランキング、過去最低を更新」と書いてあって、なかなかすごい。ただ、今、日本がそんなにすごく、現状すごく駄目かというと、住みやすいし、いい国だよねと思うんですけど。

宮坂:そうですね。

藤本:「未来ってなるとどうよ?」というのがあるので、「じゃあ、それをどうしていこうかね?」っていうことなのですが、まず、「この現状や未来の育成を、宮坂さん的にはどんなふうにご覧になっています?」というのを聞いても大丈夫ですか?

東京の都市ランキングとデジタル化の課題

宮坂:はい、わかりました。私も東京都に来てから、都市ランキング(というもの)がけっこうあるんですよね。世界都市ランキングは、いろいろな団体や国際機関が出しているものがあって、どの都市ランキングを見ても、東京はだいたいベスト5に入るんですよ。

藤本:まぁ、まぁ、いい街ですよね。と思います。

宮坂:そうなんですよね。僕も海外に仕事とかで行って、例えば、空気が……僕、ジョギングするのが好きなんですけど、やはりジョギングしていてけっこう喉に来るなという街がけっこうあるんですよね(笑)。

だから、まず空気をなんとかしてくれよみたいな街が(海外には)けっこうあるし。あと、(東京は)水がじゃんじゃん出ますよね。よくシャワーの栓をひねったら、水がちょぼちょぼしか出ないとかですね(笑)。

藤本:なんなら、ちゃんとお湯も出るみたいな。

宮坂:そうそう。そういうのがけっこうあるじゃないですか。だから、そういう意味で、東京は世界都市ランキングのだいたいベスト5、ベスト3に入るんですよ。

ただ、デジタル系のランキングだけすごく低いんですよね。僕は、それがすごく謎というか1つのテーマなんですけど。すべてのエンジニアリングが駄目だったらわかるんですよ。でも、日本はたぶん、デジタル以外はみんなすごいじゃないですか。

藤本:ソフトウェアエンジニア、それこそ海外で一緒に働いていても、すごく個々の能力が、それこそ、ご覧になっているみなさんエンジニア一人ひとりを見ても、すごく違うなとか、そんなことはありませんよね。

宮坂:そうですね。だから、僕は今東京都の仕事をやっているのですが、東京都や行政がデジタルという領域のエンジニアリングでもっと良くなる可能性は、僕はぜんぜんあると思うんですよ。

それはなぜなら、ほかの技術だって全部できているわけですよね。だから、たぶん、ほかの技術に比べて取り掛かりが遅かったんだと思うんですよね。でも、ぜんぜんチャンスがあると僕は思いますけどね。

藤本:なるほどね。あれですね。今はあれだけど、逆に言うと伸びしろがいっぱいある、みたいな(笑)。

行政のデジタル化への取り組み

宮坂:僕は5年前に都庁に来たんですけどね。入って最初に、いろいろ調べたりするんですけど、例えば世界の主要都市の中のデジタル部門があるかないかとかをけっこう調べるわけです。

「ニューヨークとかロンドンとかどうなってんだ?」と調べると、僕はデジタルサービス局とGovTech東京を作ったんですけど、みんなだいたいそういうデジタル庁に当たるものを持っているんですよ。そういう中に専門のデジタル組織があって、外側に開発団体を持っているとか、だいたいそういうのを持っていたり。

藤本:UKだとGDSみたいなのですかね?

宮坂:そうですね。で、国にも当然デジタル庁のようなものがあったりとか。5年前はそういうのがぜんぜんなかったじゃない。

藤本:そうなんですよね。

宮坂:だからまず、デジタル化以前はたぶん、構えがなかったなと思うんですよね。そこが1つ大きな、ここまでデジタル化が後れていた理由かなと。行政に関しては、デジタル化をやるという構えがなくて、専門部署もないし専門組織もない中でやってきた過去数十年っていう感じかなと思うんですけどね(笑)。

藤本:(笑)。なまじね、別になんとかなってきたがゆえにみたいなところがあるのかもしれないですね。

宮坂:そうですね。一方で、例えば東京の水道や下水道は、世界で見ても相当レベルが高いと言われているんですよ。水道だと漏水率が3パーセントを切っているのかな? 世界の都市だと2桁台は当たり前なんですよね。水が水道管からじゃんじゃん漏れちゃっているようなところがあるんですけど。

あと(東京都の人口が)1,400万人いて、藤本さんも課金やったことあると思うんですけど……。

藤本:(笑)。

宮坂:やはり水道の量を毎月毎月測って請求かけて課金するのは、実はけっこう大変じゃないですか。僕もけっこうやらかしたことがあるんですけど。それを、何十年もちゃんとやりきっているんですよね。

藤本:なるほどね。

宮坂:都庁では、ハード系っていう言い方をよくするんですけど。道路を作ったり、水道や公園やビルを作っている人たちをハード系の部署って言うんですよね。

ハード系の部署の人たちを見ると、なんとなくエンジニアと事務屋の比率が1対2ぐらいあるんですよ。エンジニアが1で事務屋が2ぐらいかな。だいたいそういう構造なんですよね。でも、そもそもデジタル部隊がなかったので、エンジニアがゼロですからね、もうね。

藤本:0:10じゃないですか。それは大変ですね。

宮坂:それは外の人のベンダーさんにもう全部お願いになるよなと思いましたので、まず構えがなっていなかったんだろうなと思いましたね。

藤本:なるほどね。なので宮坂さんビューでは、ここからちゃんとやっていけばぜんぜん戦っていけるようになっていけるねみたいな。

宮坂:いけると思いますね。

藤本:もうこの話だけでぜんぜん僕は、1時間はいけるなと思うんですが(笑)。

宮坂:そうですね。それでデジ庁もできたわけですからね(笑)。

藤本:そうですね(笑)。とか、あとね、GDPもそんなにとか。

インフラ維持とデジタル公務員の必要性

藤本:あと、これはどれぐらい引っ張っていいのかな。今インフラの話がありましたけど、ちなみに一つ、これは本当にただの興味で聞くのですが。

今まさに、それこそ水道がすごくちゃんとしているというのがありましたが、これから人口が減ったり、あるいは、GDPとかでお金が回りなくなったりして、そういうインフラが老朽化も進んで、特に地方とかでインフラの維持自体もけっこう大変になってくるんじゃないかとか、そのへんって。まぁ、それをなんとかするためにデジタルでどうこうできないかというのが僕らがたぶん考えることだと。

宮坂:そうですね。

藤本:そのへんは、どうだろうとか、思われていることはありますか?

宮坂:はい。自分はハードのところはすごく見ているわけじゃないんですけど、一般的に言われているのが、たぶん国の機関が出しているデータなんですけど、今から2040年、2050年に向けて、公務員の数が4割ぐらい減るんですよね。それはほぼ確定的なことなんですよ。

実は、今ですら定数が割れている自治体がいっぱいあるんですよ。デジタル部隊以前に定数を満たしていない自治体がそれなりにあって、その中でデジタル化もしなきゃいけません。でも、やはり働く人の数が減っていくので、行政ばっかり公務員になってもらうと、民間の方が、みなさんのところが困っちゃいますよね。やはり公務員を増やすという線はたぶんないんですよね。

「じゃあ、仮に4割減るとするとどうするの?」というと、僕はやはりデジタル公務員を作るしかないと思うんですよ。公務員の仕事の半分、50パーセントとか40パーセントをデジタルが代わりにやってくれるとか、AI公務員が代替してくれるとか。全部の仕事をやると言っても無理があると僕は行政に来ていて痛感していて、すべての仕事をやはりデジタルで置き換えるのはちょっと無理があるかなとは思うんですけど。

やはり業務の何割かをデジタルとかAI公務員で代替するというのは、けっこう現実的にあるし、逆にやらないと、本当に回らなくなっちゃうと思うんですよね。

藤本:そうですよね。

宮坂:そういう意味では、東京都でも同じ問題を抱えているので、日本全体の課題だと僕は思います。ここにいらっしゃるようなソフトウェアとか強い方は、どんどん公共の世界へ来たり、民間のいいサービスをどんどん行政が取り入れて。東京都庁に、今公務員が警察、消防、学校を入れて、16万人いるんですよ。やはり8万人ぐらいはデジタル公務員を作っていかないと、あと20年ぐらいで詰んじゃうんですよね(笑)。

(次回へつづく)

<続きは近日公開>