行政サービスのデジタル化による時間短縮効果

宮坂学氏(以下、宮坂):マイナンバーカードの普及とか、マイナの認証アプリができたとか、東京都もデジ庁さんと共同開発させてもらって。

ちょっと知らない人に補足説明すると、「018サポート」というサービスがあるんですよ。これは、0歳から18歳までのお子さんを持っていらっしゃる都民に関してはお金をお支払いします、補助しますという仕組みなんですよね。

初年度は、デジ庁さんの仕組みがちょっといろいろあって使えなかったので、自分たちで銀行口座をもらって振り込んでいたんですよ。もうすごく大変で(笑)。だって、190万人いますからね。これは、仕事としてはぞっとしますよね。それをやるわけです。

藤本真樹氏(以下、藤本):(笑)、そうですね。

宮坂:案の定、けっこう大変で、突貫で作ったのでトラブルだらけでオペレーションも大変だったんです。けれど、デジタル庁さんが作っている受取口座のサービスをちょっと一緒に共同開発で改造して、2023年は平均して190万人の人が、平均で30分以上かかる人が半分以上いたのですが、2024年はたぶん5分切っていると思うんですよ。メチャクチャインパクトでかいじゃないですか。

藤本:そうですよね。

宮坂:これが未来永劫にわたってこの時間が浮くわけですよね。やはりすごいことで、これは本当にデジタル公共財というか、みなさんが開発している中でも、「基盤が大事だ」と言うじゃないですか。やはり社会の基盤が、デジタル化がほとんどされていないんだなとつくづく思ったんですよ。

だからマイナンバーとか「GビズID」とか、あとは、何ですかね。今、ベース・レジストリという言い方をするんですけどね。制度や仕組みのデータベース化がぜんぜんできていないので、そういったものは、これからやはりデジタル社会を、民間企業の人がビジネスをする上においても、その基盤がないとできないと思うんですよ。僕は、これは明治期の地図作りに似ているなと思っているんですよね。

藤本:はいはい。そういう意味での社会の基盤を作って、みたいな。

宮坂:そうです、そうです。当時はたぶん地図は超先端テクノロジーで機密情報だったと思うんですけど、当時の陸地測量部のみなさんが日本中、剱岳の山頂まで登って全部測位するわけですよね。その公共財の上で我々は、たぶんみなさん、地図を使ってビジネスをすごくやっていると思うんですけど、地図は、国土地理院に載っているやつは一企業でそこまで作りきれないですよね。

藤本:なるほど。

宮坂:「魚は水に感謝しない」という言葉が、僕はけっこう好きなんですけど、行政はそういう仕事なんだと思うんですよね。

藤本:そうですね。

宮坂:感謝はされないというか、意識されたらもう負け、みたいな。たぶん使い勝手が悪い時に意識しているかと思うんですけど(笑)。

藤本:(笑)。

宮坂:そういうレベルまでデジタルがいければいいなと思っていますけどね。

行政のデジタル化がもたらす社会的価値

藤本:でも本当に、あえてネガティブっぽく言えば、別に行政のサービスがすごく良くなっても一銭も儲かりはしないんですけど。

宮坂:そうです、そうです。

藤本:ただ、それがボトルネックにならなくて、滑らかに社会が回っていくことで、結局いろいろな、それこそソフトウェアがもっと開発しやすくなる、もっといろいろなチャレンジがしやすくなる。そして結果として、この国がもっと変化が大きくいいほうに行くよねというのが目指すべきところですよみたいなのは、すごくわかりますね。

宮坂:この前、子育て支援をしている人との会に出ていて、子育てのデジタル化を、今、都庁はすごく力を入れてやっているんですよ。行政からいろいろな、東京都もだいぶ支援メニューを拡充していて、子育て世代の支援をけっこうやっているんですけど。

ふと言われたことがあって、僕はすごく印象に残っているんですけど、「いろんな制度とか支援をもらうのはいいんだけど、時間が欲しい」というのがすごくあったんです。行政ってやはり時間を奪うことが多いんですよね。でもそれは、やらざるを得ないじゃないですか。

藤本:そうですね。そうですね。

宮坂:でもそれを、3時間かかっているものを、10分にするとか1分にするのは、売上にはまったく効果はないんですけど、やはり行政が時間泥棒……あえて時間泥棒という言い方をしますけど、みなさんから見ると時間泥棒に見えちゃうんだと思うんですよね。「こんな紙1枚出すのに、なんで半日有休取っていくんだ」みたいな。

藤本:しかも、平日昼間じゃないと、みたいな(笑)。

宮坂:そうなんですよね。だから時間泥棒をやはりデジタル化やソフトウェア化によって、何ていうんですかね、みなさんに時間をお返しするっていうんですかね。

返したものを、慣れるとたぶんみなさん、それはもう当たり前になって、「魚は水に感謝しない」みたいな感じで溶け込むと思うんですけど、そういうことかなと思いますね(笑)。

行政への人材確保の課題と対策

藤本:なるほど。ありがとうございます。というような感じで目指してやっていきましょうということで、なんか、思ったよりご質問が(笑)。

宮坂:本当だ。

藤本:いきなり一番上、めちゃくちゃ答えにくそうですけど大丈夫ですか? せっかくなので、いただいたご質問を1つ、2つ、見ていきたいと思います。

「いいね」が一番ついているやつからどうしてもいくと、「ぶっちゃけ、収入が激減したとのお話ですが、それが(行政に)移ってこない最大要因じゃないんですか?」というのが来ています。「それ、どうしたらいいですかね?」っていうのを、何かお考えはありますか? 「給料低くなるから来ないんだよ」って言われると、「まぁ、そうだね」みたいに思いますが、どうするとかありますか(笑)?

宮坂:それもあって、GovTech東京は外に出したんですよ。

藤本:なるほど、はいはい。

宮坂:結局公務員だと、地方公務員法とか人事院の縛りの中でしかできなくて、給与がいじれないんですよ。GovTech東京は民間団体なので、とはいえストックオプション出したりできないので、そこは絶対勝ち目はないんですけど、公務員の中ではかなりいい水準で出せているとは思います。民間の中でもそんなに変な遜色はないので。

でもちょっと本当に上限はきりがないので(笑)、そのレベルで言われてしまうとちょっと困っちゃうんですけど、そういう意味で制度として、GovTech東京はあえて外にちぎっちゃったんですよね。

藤本:あれはやはり身動きが取りやすいですよね。

宮坂:だから例えば、採用の仕方も、公務員は平等に採用しないといけないので、やはりリファラルとかできないんですよね。公務員用語だとコネって言われちゃうから(笑)。GovTech東京はもうバンバンやれるので、そういう意味で、組織としてちぎったというのがありますね。

藤本:そうですね。というわけで、お金が出るそうなのでぜひ(笑)。

宮坂:はい。選択肢に入れてください。

藤本:(笑)。

行政とスタートアップの連携における課題

藤本:では2つ目が「スタートアップ経営者です。東京都ではPoCの予算を作っていただいてありがたいですが、成果が出ても予算化議題承認プロセスに時間がかかってストックにならない」と。確かに、そもそも単年度予算ですしね。

なので、そのへんをどうしていくといいよね、PoCで良かったこの企業を、来年どうそこを積み上げていこうみたいなことは、仕組み上も多少やりづらさあるし、ならなかったりするみたいなところで、スタートアップがどういうふうに、行政の調達にかんでいくといいかとかは、こういうことをしていきたいとお考えのところはありますか?

宮坂:どうしても仕組みとして「5年契約で5年一緒にやりましょう」が今、できないんですよね。

藤本:そうなんですよね。

宮坂:これは先ほど言った、ルールがサービスの上位概念なので、ルールが変わらないと変えられないという、ちょっと越えられない……。

藤本:5年も一緒にやると癒着しまくるだろう、お前ら、というやつですね。

宮坂:ところなので、ちょっとここは今すぐ答えられないです、申し訳ないです。

藤本:(笑)。鋭意改善ということで。

宮坂:そうですね、がんばります。

デジタル化に抵抗がある人々とのコミュニケーション

藤本:すみません。やばい、時間がない。では最後に……ごめんなさい、順番は特に意識していなかったので、わりとすごくミクロな話です。デジタル化に理解がない、あるいは常識が古くて話がかみ合わないみたいな人が、それこそやはりいろいろな方とお会いしているといると思うんですけど、大人の先輩として、そういった方とのお付き合いのコツがあればお願いします(笑)。

宮坂:それは、僕もこの組織に来て最初にいろいろな人に話を聞いたんですけど、一番役に立ったのが、やはり非デジタル業界の人の話だったんですよね。

藤本:なるほど。

宮坂:やはり僕の前いた世界は、デジタル化しちゃっている人しかいないし、デジタル好きな人ばっかりなんですよ。DX、トランスフォームの必要がないんですよね。新しいデバイスが出たらすぐ買うし、アプリとかほっといてもすぐインストールするし。

でも、この世界に来てつくづくわかったのは、実は世の中のほとんどの人、たぶん8割、9割の人は、ガジェットとかソフトウェアとかアプリに対して、そんなに興味がないんですよ。

製造業や小売や物流とかでやっている人たちの、中でデジタル化やっている人の話が、すごく勉強になったんですよ。やはり現場にいる人はめちゃくちゃ忙しいので、「そんなん、スマホ渡されても困るわ」みたいな感じがもう大前提なんですよね。

そこが僕はまったく見えていなくて、むちゃくちゃ勉強になって、だいたいみんなにいろいろ聞いたんですよ。「これ、どうやっているんですか?」って言ったら、けっこうやはり……型が多かったのは、それがGovTech東京にもつながるんですけど、やはりみんな「組織をちぎる」って言うんですよ。

もうカルチャーが違いすぎるので、開発部隊を外に出したほうがいいよと。出した後にまた取り込んでいるケースも最近増えているんですけどね。いったん出したほうがいいっていう話は、けっこう多かったんですよ。人事制度とかカルチャーとか変えやすいですからね。

もう1個やはりすごく言われたのが、やはり「上から目線でしゃべらずに、一緒に飯食いに行け」と言われたんですよ。すごいベタな話なんですけど(笑)。

藤本:飯行ってっていう。

宮坂:やはり人間的に信用できないやつは絶対一緒に開発をやってくれないので、そういう、本当にコテコテなことも含めてやるのがやはり非デジタルの世界のDXかなと思いますね(笑)。

藤本:(笑)。ありがとうございます。やばい、時間がギリだ。

というわけで、ご質問に全部お答えできなくてあれですが、宮坂さんにいっぱいお話をいただきました。今後ともプライベートもパブリックもセクターも、いろいろなところでチャレンジがあると思います。今日のお話がちょっとでも刺激になったらいいなということで、今後、日本の未来が良くなるようにお互いがんばっていければと思うので、今後ともよろしくお願いします。

では、以上で、宮坂さん、あらためましてありがとうございました。

宮坂:はい、どうもありがとうございました。どうも。

藤本:ありがとうございました。