書いた企画は他人に見せるべき
花澤雄太氏(以下、花澤):弊社では、年に1回、企画コンテストが開かれるんですが、今年からエンジニアさん、デザイナーさんも一同に会して3人ぐらいのチームを作って、目的のところまで作る場にしようという流れがあります。
プロデューサーやってみたい、自分のゲームを作りたいという人にも、企画書だけの人と、企画書にある絵を実際に○○さんに描いてもらいましたという人がいる。絵を描いてもらっただけでも、その人は自分の企画を自分の中で完結しないで、ちゃんと出したということですよね。
企画を引き出しの中に入れておく人が多いですけど、書いたら見せなきゃだめだと思うんです。
多留幸祐氏(以下、多留):そうですね。
花澤:自分の作ったものを人に見せるって勇気がいりますよね。でも、最終的には百万人以上に遊んでもらいたいんだったら見せないと。そして指摘をもらわないと。
その段階を経て、ブラッシュアップして、多くの人に「いいね!」と思われるものが作れる。自分の時間というコストを払って、小さな形でもなにかできる人って、企画が面白いかは置いておいて、いいなと思います。
多留:人がちゃんと増えていくイメージがありますよね。アサインしなくても自然と増えていく。
花澤:前出の通り、周りを巻き込む力が必要ですから、企画を立ててる段階でぼんやりでもチーム編成ができていくような人だと……。
多留:いいですね。
花澤:ゲームだけ見てるんじゃなくて、ビジネスを見てる。
多留:適材適所の話につながるかもしれないですが、人前に出していれば、この人はここにはまるよねということもわかってくる。
花澤:ここがディレクターとプロデューサーの大きな趣向の違いだと思います。
多留:別にプロデューサーがいいというわけではない。
チームが優勝すればいい
多留:よくプロ野球に例えるんですが、結局、チームが優勝すればいいんです。
花澤:わかります。
多留:優勝したチームは全員の給料が高いですよね。2番バッターも億万長者になれる。プロデューサーは、そういうことが得意な人がいいと思います。
こういう膨らませたイメージを実現させる人たち、つまりマーケター、エンジニア、デザイナー、プランナー、ディレクター、いろんな人たちが絶対必要なんですね。そこで一番それぞれの力を発揮できる打順やポジションで働いている人が多いと得点につながり優勝に近づいていく。優勝できないと、2番バッターの給料は上がらないですし、チーム全体の給料もあまり上がらない。優勝しなければいけない。
だから適材適所という考えにはすごく共感しますし、むしろ会社ではそういうところを評価します。この人自分に一番向いているところで一番活躍しているな、ということをちゃんと見つけて、物理的に評価することもやってます。それが優勝に向かっていくからです。
花澤:結局、自分がやりたいプレイをやる、ではなくなってくる。「僕は4番でホームランを打ちたいんだ!」って言っているよりも、「でも、バントで塁に出るほうが得意なので、チームを優勝させるために1番バッターやります」って言える人ってすごいですよね。会社としてもそういうことを認めてあげると、そういう人が生まれやすいと思います。
対して、昔の働き方ですが、やっぱり4番バッターがいいとか、自分で役割に優劣をつけちゃっている人にはただ単にポジションが違うだけだから優劣はないんだよって言い続けないとなかなか変わってくれない。
多留:考え方1つだし人生1回きりなので、適正がどうかはおいといて、好きなことをやるのは全然ありです。
花澤:そう。その考えを否定する気は全然ないんです。ただ、うちのチームだとプレイできないね、ということはしょうがないですね。
多留:人生は本当にそれぞれですから。私も向いているか向いていないかわからないけどやりたいことで突き詰めていました。やってみたら適材適所だったのでやめたんですが。
花澤:計算高い(笑)。
億単位のプロジェクトが閉じても折れない心
花澤:プロデューサーって野球でいうと監督に近いですよね。でも、優勝して喜ぶ、みたいなタイミングってあります?
多留:難しいですね。胴上げしてくれたら喜ぶかもしれません。
花澤:でもすぐ下ろされません?
多留:下ろされます(笑)。
花澤:私はチーム(ゲームタイトル)を複数持ってるので、1チームが優勝しても、負けてるチームが心配だから「みんなすごいね! おめでとう!」って言って次のチームを見に行かないといけない。あんまり喜べるタイミングがないわりに、負けた時は全責任を負わなきゃいけないから、喜びと落ち込む時間が釣り合わないなと思います(笑)。
多留:そうですね。責任は絶対だから。
花澤:優勝したときは「良かった良かった」と思うんですけど、選手が活躍してくれたのが大きな勝因であって自分が優勝させたなんて思えないし。
多留:そういうもんだと思うしかない。
花澤:というわけで、プロデューサーを目指す方は心が折れないことが重要です(笑)。
多留:本当にそう思います。
花澤:2億、3億円のプロジェクトが失敗してクローズになった時の心的ダメージは、膝をつく感覚なんです。今週はちょっと変わったイベントをやってみようって提案したら想定売り上げの10分の1くらいで、土日でもちょこちょこwebで確かめて、「え」って……。
多留:そういうこともあります。長くやってると。
花澤:くらっとしますよね……。
多留:しょうがないですよね、プロデューサーの定めです。
花澤:でも月曜になったらまた出社しなきゃいけない。責任は重く受け止めつつもそれは成長の糧にして、大きいところでは優勝に行くぞって思い続ける。
多留:監督がいないとできないですよ。どんなに優秀な選手がいても絶対優勝しない。
花澤:本当ですか? そう信じて進めばいいですか?
多留:監督がいないチームを見たことがないのであれですけど。
ガチャは楽しさを前提にして提供している
司会者:せっかくなので、なにか聞きたいという方がいらっしゃいましたらお願いします。
花澤:答えないパターンもありますが(笑)。
司会者:答えられる範囲でいかせていただきたいと思います。
質問者1:お話ありがとうございました。最近ソーシャルゲーム業界だとガチャが主な収入源だというイメージがあるんですが、そのことに関してはどうお思いでしょうか?
多留:ガチャに確実な表示をするかしないかという話について、何年も前から考えていることがあって。僕は、ガチャも遊びの1つだと捉えてるんです。キャラクターを手に入れる手段ではなくて、ガチャって楽しい。だから、ご存知の方もいるかもしれませんが、居酒屋の養老乃瀧でガチャを導入したりもしました。
磯部揚げとかの居酒屋のメニューが当たるというものです。何が出るかわからないという、ガチャの楽しさを提供しています。昔からあるガチャガチャもそうですよね。こちらも確率表示はしていない。
花澤:キン肉マン消しゴム、よくやったなー。欲しいロビンマスクが全然でなくて……(笑)。
多留:確率表示していたら引くって、遊びとして成り立ってないと思うんです。僕はまず遊びを大前提として捉えています。
日本と中国のデザインの差がなくなってきている
花澤:ゲームの1つという性質と、少なくても納得して引いてもらってると思うんです。無理やり引かせるわけではないですし、昔に比べて、課金ガチャを引かなくても十分に遊べるボリュームになってきています。
昔はガチャで出るキャラがいないと勝てないという感じだったのが、最近はテクニックなどの別の要素でかなり緩和されているので、ガチャに対する昔のイメージとはずいぶん変わっていると思います。もちろん、ガチャで強いキャラを引いたうえでのテクニックには勝てないとは思いますが。
そこをいかに他の見せ方だったり、他のシステムをうまく使うかという、タイトルによっていろいろ試してますよね。変化もするし残りもする、システムの1つというふうに思っています。
多留:そうですね。遊びの要素の1つ。
花澤:答えになってますでしょうか?
質問者1:ありがとうございます。
質問者2:お話ありがとうございました。デザイナーの仕事をしております。先ほど中国市場のお話がありましたが、日本と中国市場で、見た目に関するところでギャップを感じたり、日本ではうけるけど中国ではうけないとか、そういったご経験や知見はございますでしょうか?
司会者:ご本人の分析としては、それを感じてらっしゃる。
質問者2:あるかもしれないという不安があるので、情報があればお聞きしたいです。
多留:日本とはちょっと違うところはあるかもしれませんね。
花澤:いわゆる中国っぽいものもうけてるんですが、日本っぽいのもうけてるので、どっちもうける市場になってきています。
日本ではあまり中国っぽいものはうけてないですが、中国の人が書いた日本っぽいものがうけてきているので薄まってきている。かなりお手本にされてます。
多留:そうかもしれない。印象とかタッチとかは全然違うと思うんですが。
国民性がゲームシステムに現れる
多留:大きく違うゲームシステムは、VIPみたいなものがあったり、ガチャがなかなか受け入れられなかったりする。
花澤:ゲーム性では、国民性なのか、プレイのスタイルなのかですね。
多留:中国って、花澤さんに仰っていただいた通りで、絵でうけるかうけないかというところはなくなってきてる。
花澤:日本でうけてる絵も、中国の方や韓国の方や台湾の方が描いてることは多い。日本が広がった感じがします。逆にライバルも増えているかもしれない。
質問者2:ありがとうございました。
質問者3:お話ありがとうございました。最初にお話があった、役員会でのプレゼンについて、主にDMMの花澤さんにおうかがいしたいです。プレゼンは基本的にプロデューサーがやると思うんですが、企画自体はどこからでも上がってくると思うんです。デザイナーさんが出てたり、エンジニアさんが出てたり。
そういうときに、デザイナーさんとかエンジニアさんが直接プレゼンまで行くケースがあるのかをお聞きしたいです。それと、役員会で企画が通る勝率というか、何本出て何本死んでいくかということを参考までにお聞かせいただきたいです。
花澤:これも部単位での話なので、部によるということと、どんどん出してというパターン、もしくはお題を出してもらうパターンがいろいろあるので一概には言えないですが。
私はメンバーみんなに出してって言ってます。それを企画書作成が得意な人がブラッシュアップすればよいかなと考えています。
技術職が書く企画書ならではの強みがある
花澤:システムさんでも全然オッケーだし、むしろシステムさんが考える企画って強いですよね。実現性がすごいある。
多留:はい。
花澤:絵描きさんの書く企画書も強い。ぴったりの絵を描いてもらえる。そういう点があるので、どんどん増えていくと思いますし、アイデアレベルであればけっこうあると思います。この間だとロボットものの良いエンジンがあったのですが私はロボットあんまり好きじゃないんです、市場があるのは認めてますが。
これも適材適所なので、「ロボット好きいる?」って聞いて、手を挙げてくれた人に考えてもらったら、課金ロジックが悪かったのでそこだけ直して実現し、リリースしました。出してくれると嬉しいです。
通る率はですね、弊社は本数が多いので。
多留:毎週1本以上はあるんですか?
花澤:出ない週もありますが、そうすると怒られます。
多留:毎週1本以上。
花澤:1~3本ぐらい。
多留:全部承認したらすごい数になりますね。通る率は半分くらいですか。
花澤:まず部で精査するので、当然有象無象で上がってくるのではなく、しっかりできたものが上がってきます。もしグラフィックアートさんから企画書が上がってくれば、ものが良ければ私が番組を組んだ状態で上にもっていきます。そのときにプレゼンするかしないかもその人を見て考えます。
熱い思いがあれば、コンテンツ部分の説明ははよろしくとか、部分的にプレゼンしてもらうことも多いです。こういった経験は大事ですしね。
何度も精査するから通る企画になる
花澤:そこまでやるので、打率は半分くらい。
多留:それは、花澤さんの部ではということですか?
花澤:ではなく。
多留:社内全体で。
花澤:出し直しもありにしてます。こことここがだめだから、という感じで。
多留:1回で通らないこともありますよね。
花澤:2、3回出しなおして、解決したので承認、ということもあります。それを1提出1承認と考えるのであれば半分くらい、という意味です。
多留:1回で引き下がらないレベルということは、ある程度精査されているということですよね。
花澤:あと、プラットフォーマーの強みというのもあります。
もし尖ったタイトルで売上的には上がらなくても、話題になってプラットフォームに来てくれれば他のゲームで遊んでくれるきっかけになるかもしれない。そういう意味では投資しやすいという点が弊社のおもしろいところだと思っております。
質問者3:どうもありがとうございました。
司会者:最後にお二人から一言お願いします。
多留:ありがとうございました。このあと懇親会があって、弊社のプロデューサーと企画メンバーもいますので、絡んでいただければおもしろいと思います。僕と絡んでいただいてももちろん構わないです。
花澤:長い時間ありがとうございました。おもしろい話があれば協力し合っていきたいので、今日でも明日でもぜひお気軽に、声かけていただければと思います。