行政でのエンジニアの役割と可能性
藤本真樹氏(以下、藤本):あと併せて、一応「2つの」と書いてあるので、というのをやっていく中で、実際に、僕らソフトウェアエンジニアが「行政で働くぜ」となった時に、何ていうんでしょうね、普通の会社でソフトウェアエンジニアをやるのと、行政の中でやるのと、あるいは行政の仕事を請けて企業としてやるのと、両方あると思うんですね。
宮坂学氏(以下、宮坂):そうですね。両方あると思いますね。
藤本:「今このへんが足りねぇな」とか、「もっとこういうふうになったらエンジニアとして楽しく働けるのにな」とか、「そうするとこういうこと起きるぜ」とかそういうことで考えていらっしゃることはありますか?
宮坂:僕はどんどん中に来てほしいという立場なので(笑)。
藤本:(笑)。ポジションですね。
宮坂:そうですね、ポジショントークになっちゃうんですけど、すぐじゃなくてもいいんですけど、職業人生が長いじゃないですか。
藤本:はい。
宮坂:今、寿命が延びて。僕が小さい頃は、日本人の平均寿命は75歳とかで習っていたんですけど、今、25歳増えちゃったわけですよね。
藤本:そうですね。
宮坂:たぶん働く期間も10年、15年増えますよね。
藤本:たぶん70歳ぐらいまで普通に働きますよね。
宮坂:そうですよね。前は55歳が定年とかでやっていたのが信じられない。僕、定年になっている年代なんですけど。
藤本:(笑)。
宮坂:そういうことで、増えた(分は)我々の先人がもらえなかったボーナスタイムをもらったわけですよね。そのボーナスタイムを何に使うかってあると思うんですよ。それをひょっとするとパブリックセクターで使うのは、僕はありかなと思っているんです。
「50年やれ」と言うつもりはないんですけど、3年とか4年とかをボーナスタイムの使い方の1つとして、ちょっとパブリックセクターでやってみようかなみたいなのを選択肢として入れてもらえると、僕はとてもうれしいなと思っています。それは、みなさんがその後民間に戻る時も絶対すごく役に立つと思うんですよね。
藤本:実際、5年ほどやられていて、この後の宮坂さんのキャリアは本当にどうなるかというのはあると思うんですけど……。
宮坂:本当ですね(笑)。
行政での経験で「得たものと失ったもの」
藤本:けっこう、あれですか、やはり「やって良かったな」というのは、間違いなくありますか?
宮坂:失ったものもけっこうあって……。
藤本:(笑)。
宮坂:今日はいろいろなぶっちゃけトークなのでしゃべると、給与・待遇とかも激減するわけですよね(笑)。やはり公務員の体系がありますので。前がちょっともらいすぎていたのかもしれませんけど、びっくりするぐらい減りますよね。家族からするともう、最初「転職する」って言って給与の話をしたら、「もう1回頭を下げて戻してもらったら?」と言われたぐらいなんですよ(笑)。
藤本:(笑)。
宮坂:「そんなことできるか」とか言ったんですけど、そういうのはやはりあります。あと、今この世界で何が流行っていて何が来ているのかとかの最新の業界動向には、もう完全に僕はついていけないわけですよね。やはりそういう人たちが職場の中にもいないし、行政系のイベントばっかり行くようになるので、こういう場に来ることもほとんどないんですよね。読む情報メディアが変わるわけですよ。
藤本:なるほど。はいはいはい。
宮坂:だから、そこは完全に失ってしまうところなんですけど。1個、得たもので大きいことは、やはり、あえて「アウェイ」という言い方をしますけど、自分が慣れていない環境であるアウェイの環境の中でのマネジメントはめちゃくちゃ勉強になりましたね。
だからもし、今、このアウェイ環境でやったマネジメントで学んだことを、前の会社に戻ってやったら、前の会社をもっと楽に運営できると思いますね。
藤本:なるほど。
宮坂:筋トレみたいなものですよ。負荷がめちゃくちゃかかっているんですよね(笑)。
藤本:(笑)。
宮坂:なにもかも違うし、全員知らない人だし。
藤本:ステークホルダーがめっちゃ多いし、みたいな。
宮坂:前の会社だったら、まず部下ができたら、まず飯に行って仲良くするとかやっていたんですけど、当時コロナで、そもそも対面で会えないわけですよね。全部オンラインでコミュニケーションしながらチームを作る、それをアウェイでやるのは、本当に自分の中でやったことがない経験だったんですけど、そういう意味ではマネジメント筋肉っていうんですかね、マネジメント筋は激増したかなと思いますね。
行政デジタル化の新たな局面
藤本:なるほどね。というわけでご興味がある方はぜひ、という話です。これはあれですよね、でも結局そちらの、例えば行政なら行政のほうでしかできないことは間違いなくあるし、それは僕ら、別に全員がそう思っているからですけど、どうせやるなら世の中にインパクトを出したいよねっていう中ではそういう選択肢もあるよねみたいな。
宮坂:はい、そうですね。先ほども言いましたけど、GDPの4割ぐらいは行政なので、やはり山としてはとてつもなくでかいわけですよね。そこでデジタルとかソフトウェアとかデザインとかデジタルマーケティングとかがわかる人は、ほとんどその山を登ろうとしなかったわけですよ。僕も含めてですけど、たぶん見えていなかったんだと思うんですよね(笑)。
突然、霧が晴れて、僕はたまたまいろいろな偶然でその山の入り口に連れていってもらえたんですけど、「こんなのあったんだ」みたいな感じなんですよね。もちろん未踏峰なので、なんにもない感じがすごいんですけど、ようやくちょっと登り始めて、デジタル庁もできてきましたしね。そして、安野さんとかが出られて、僕はすごくインパクトがあったと思うんですよ。
ソフトウェアエンジニアやデジタルクリエイターが世の中にこういう貢献の仕方があるんだというのを表現して、あれだけの票を取るわけですよね。すごく僕はおもしろいですし、すごいインパクトだったと思うので、やはりこのでかい山に登る人は増えてきてほしいと思います。
そして、都庁でもGovTech東京でも、デジタル庁でも、認証アプリを内製したと聞きましたけど、今までは良き発注者になるという目標から、良き開発者になるというところまでやろうよというところに、ようやく行政デジタル化もちょっとギアが上がった感があるんですよ。
だからそういう意味では、作りたい人も、作るよりもマネジメント、チェンジマネジメントを極めたい人も、両方にとって僕はすごくおもしろい局面だと思いますね。
藤本:ありがとうございます。そこの、最初のほうにありましたけど、いわゆるプライベートとパブリックのバランスをちょっと変えていくことで、行政でできることが増えたりすると、「未来、もうちょっと良くなるんじゃねぇの?」ってなるし。
それはたぶん、どこか、ひいては3年か5年後ぐらいで、僕ら民間企業でやっていく中でも、それはきっとプラスになることは間違いなくあると思ったりはするので、なにとぞという。
宮坂:そうですね、はい。
大きな挑戦の重要性
藤本:意外にあれですね、質問が5つぐらい来ているので、いったん最後のトピックにいきつつ。
行政とか大きくくくると東京都みたいなのがあって、その中で働くのは本当は一人ひとりの目線、一人ひとりのビジネスパーソンやエンジニアだったりします。ちょっと繰り返しになるところもあるかもしれないですけど、そういったところや、あるいは、企業で働くエンジニアの人たちへ、「日本の未来、こうなっていくよ。なのでこういうことをがんばっておくといいと思うよ」とか(笑)、「これ、チャレンジしたらいいんじゃないの?」とか、「こうやるとおもしろいことがあるかもしれないね」っていうのが、1個は行政で働くというのは間違いなくあると思うんですけど。
こういうマインドでチャレンジしてほしいなとか、宮坂さんが考えていらっしゃることがあったら教えていただければっていう感じですが、なにかメッセージみたいなものはありますか?
宮坂:そうですね。今日も、このイベントのページやCTO協会さんのホームページを見ていたら、例の「Software is eating the world」というのがあって、あれが今も現在進行形で起きていると思うんですよね。ただ、やはりほとんど誰も食べていなかった巨大なものがここにあるわけですよ(笑)。
藤本:まだまだ実は場所があるぞというのが、今日一番お伝えしたいことですね(笑)。
宮坂:そうですね、そうですね。そこですよね。本当に、これは民間側から行ってもいいと思うんです。民間側からその山にチャレンジするのは、僕はありだと思うんですよね。
準公共の領域とか、けっこうありますよね。教育とか医療とか、最近だとライドシェアとかも新しい企業ができたりとか、聞いていますが、そういった領域もあります。
そういう意味では、やはりでかい山を登るのは大事だと思うんですよね。小さい山はやはり飽きちゃうので。高尾山は楽しいですけど、1回行ったら、もう飽きますよね。
藤本:(笑)。
宮坂:好きな人には申し訳ないですけどね。
藤本:ぜんぜん僕、あそこのビアガーデン、すげぇいいと思いますが……。
行政の特性と技術の永続性
宮坂:やはり、でかいところに取りつくのは、僕はすごく重要だと思っています。やはりでかいところに……大変は大変なんですけどね。大変は大変ですけど、やはりでかいところでやるのが大事かなと思います。
ソフトウェアを作る仕事の人も行政はすごく求めているし、行政じゃないパブリックセクターの人たち、準公共領域の人も求めているとは思います。ソフトウェアでサービスを作るのも大事ですけど、「行政の、民間と最大の違うところって何だろうな?」ってこっちに来てよく考えます。僕は政治家でもなんでもない、行政マンです。公務員なんですよね。
最大の違いは、やはり絶対潰れちゃいけないということなんですよ。買収もできないですよね。東京都をどっかに買われるのはやはりできないので、やはり継続性、永続性はもうすごく大事です。
そうするとやはり組織を作るとかサービスを生み出すための仕組みを作るとか、技術負債を残さず更新していく仕組みを作るとか、それを、人生100年なので、今日生まれた子どもの100年後のデータを持っとかないといけないですよね。
それはたぶん技術論とはちょっと違うとは思いますが、そういった組織作りや、どうやって開発のライフサイクルを回していくのかは、今まで行政はぜんぜん考えていなかったんですけど、そういったことなんかにも興味ある人は、すごく僕はおもしろいタイミングかなと思いますね。
藤本:あと、僕もCTO協会理事という関係ない立場ですが、聞いていて思ったのが、当たり前ですけど行政のいろいろは、普通に生活していたり、あるいは会社で働いていて、関係をあんまり意識していなかったけど、すごくやはり影響あるし、めちゃめちゃ関係あるんですよね。
宮坂:あります、そうです。
藤本:そういうのをより見えるようになったり、あるいは場合によっては変えられるんだ、もっと良くできるんだというのは、普通に一エンジニアとして働いていく、あるいは会社をやっていく中でも、けっこう影響あるなと思います。興味を持っていただくだけでも働いていくスタンスも変わってくるし、実際やっていてもおもしろいなと思ったところなので、ぜひぜひという感じですね。
(次回へつづく)