GovTech業界の人材不足と課題
藤本真樹氏(以下、藤本):そういう危機感はありますよね。その中で、あらためて、じゃあ、そこをどうこうしていこうかとなった時に、「課題、どんなふうなところがあるんだっけ?」っていう。
本当に、いろいろな側面があると思うんですけど、開発者という側面で、あるいは観点で。今日はやはりソフトウェアに関連する人が多いと思うので、そういう観点で。「どのへんが、『じゃあ、そういう未来、変えていこうぜ』ってなると課題かね?」というのを、宮坂さんのビューでおうかがいしたいのですが。
これはちょっと、念のためですが、デジタルで社会を変えていこうぜってなると、だいたい民間の企業自体が、別に何もなく、行政も関係なく、すごい会社ができればそれですごい社会を変えるよね、みたいなのもあれば。
「行政自体のサービスをもっとデジタルにすればみんな便利になるよね」もあるし、なにより行政の本当の仕事で、例えば制度を作るとか、国の仕組みを変えることでデジタル化を社会全体で促進するとか、いろいろな側面があると思います。
そういったことをやっていく中で、宮坂さんのビューで、何ていうんでしょうね。このへんが大きいボトルネック、あるいは「僕らがもっとこういうことを意識したら社会が変わっていくんじゃねぇの? 未来、良くなるんじゃねぇの?」とか、あるいは課題に感じていらっしゃるところがあったらおうかがいしたいです。雑なボールで恐縮です(笑)。
宮坂学氏(以下、宮坂):いえいえ、いえいえ(笑)。そうですね。私は、漠然となんですけど、GovTech業界みたいなのをちゃんと作りたいなという思いがあるんですよね。
それは僕や藤本さんみたいに、民間の人が行政に100パーセントいたり、兼業でいてもいいんですけど、民間から行政で働く人もそうだし、民間企業の中でパブリックセクターの仕事をする人がもっと増えればいいなと思っているんですよ。
別にどっちに行ってもいいんですけど、結局全部のシステムを中で作ることはあり得ないので、やはり外のパートナーさんと一緒に作るわけですよね。この業界全体の才能の総量が増えないとたぶんうまくいかないと思うんですよ。
もちろんその中で、官と民で行ったり来たりが、よく言う、回転ドアが起きればいいと思います。今、回転ドア以前に総量がたぶん少ないことがすごく危機感として持っています。それで、行政としてもスタートアップからの発注をもっとできるようにしようとしたり、いろいろやってはいるんですけど。
雑なまとめになりますけど、「GovTech業界の中で働くソフトウェアエンジニアとか、そういう企画をするのが好きな人がどうやったら増えるんだろうな?」と。それは官でも民でも、どちらでも僕はいいと思っているんですけどね。そこがすごく今、自分の中で課題ですね。
パブリックセクターにおけるソフトウェアエンジニアの重要性
藤本:そういうのは間違いなくソフトウェアエンジニアが足りない。特に、「良い質のソフトウェアエンジニアが、パブリックセクター、プライベート関係なくそもそも足りないよね」というのは、ずっと言われているんですけど……。
宮坂:そうですね。
藤本:特にその中で、「バランス、もうちょっとパブリックセクター、寄ってもいいんじゃないの?」みたいな(笑)。
宮坂:この中でパブリックセクターの仕事をしている人っています? まぁまぁ、このぐらいですよね(笑)。
藤本:まぁまぁ、まぁまぁまぁ。
宮坂:そうなんですよ。GDPの3割か4割が、たぶんパブリックセクターなんですよね。
藤本:確かに、それはあります。
宮坂:いわゆるスタートアップでいうTAMというか、トータルのマーケットサイズはむちゃくちゃでかいんですけど、そこはほとんど誰も……僕は山にたとえるのが好きなんですけど、その巨大な山、GDPの4割の巨大な山に登ろうとしている開発者もあまりにも少ないというのがすごくあります。それは、魅力的じゃないとか、なんか面倒くさそうとかいろいろ課題はあると思うので、そこは僕らが直さないといけない点ではあるんですけどね。
藤本:そのへんをやって、パブリックセクター、もうちょっとダイレクトにエンジニアリング、ソフトウェアに関わることで、行政自体もたぶん良くなっていくし、国・地方の活性化みたいなのも進むかね、みたいな感じが。
宮坂:そうですね。
藤本:けっこうそのへんは、何でしょう。東京都をやられて、今、何年ぐらいでしたっけ?
宮坂:今、僕は5年目ですね。
藤本:5年か、そうですよね。
宮坂:ちょうど1期目の任期が終わって2週目に入ったところですね。
行政のデジタル化における内部人材の必要性
藤本:そうかそうか、はいはい。やはり、ここが行政のデジタル化で、中にエンジニアがもっと増えれば世の中が良くなるぜ、みたいな肌感はあったりしますか?
宮坂:それはもう、ものすごくあります。先ほど海外の組織を調べましたって(話しましたが)、だいたい5年前でだいたいみんな数百人レベルの部隊を持っているんですよ。5年前ですよ。今はもっと多いと思うんですけど(笑)。
当時、都庁にいた情報技術者は、民間から来た7人しかいなくて、そういう感じなんですよね。今はもうだいぶ増えて230人ぐらいの体制にはなってきたんですけど、そういうのもありましたし。
やはり中に作れる人がいるのはすごく大事で、全部が全部内製することはたぶんできないとは思うんですけど、何ていうんですかね、結局自分が、最初に今やりたいなと思っていることが、ベンダーさん、パートナーさんにプロとして発注できる人を増やしたいなと思っているんですよ。やはりお互いプロ同士で仕事をしたいと思うんですよね。
ざっくりした発注を受けることほどしんどいことってないと僕は思うんですよ(笑)。「なんかいい感じにやって」とか、「とりあえず3案持ってこい」とかですね(笑)。「おいおい」みたいな感じになると思うんですけど。ちゃんとプロフェッショナルな発注者になるのが最初の第1歩だと思います。
それで徐々にやはり作る能力も増やしていくっていうことで、最初の1年目は、なんとか発注能力を上げるというのを一生懸命やっていました。ちょうど今僕も仕事としては2週目に入ってきたので、2週目はそろそろ、数少なくてもいいので、内製するプロダクトをちゃんと作るのを、今すごく大きな目標にしてはいますね。
藤本:ありがとうございます。この調達の話だけで、これはこれで、ぜんぜん3時間ぐらいいけるな、みたいな気はしますが……。
宮坂:そうですよね、いけますよね(笑)。
民間企業と行政のイノベーション促進策
藤本:ちょっと今日は本題ではないので。そういうお話をいただいて、それはそれとして、「行政のほうでもっとやっていこうぜ」もありつつ。
言うて多くの方は民間の……民間というとあれですけど、普通の企業の中でエンジニアをしていたりその中で経営者をしていたりという人も含めて「じゃあ、行政がどういうことをしてくれると、そういう、民間企業ももっと活発になるんだっけ?」とか、そこで「イノベーション生まれるんだっけ?」とか。
あるいは「行政の中でもうちょっとイノベーティブにやっていこうぜ」となると、「どういうチャレンジをしていこうぜ」というのは、何ていうんでしょうね、どういう働き方をするかとか、「行政がもっとこういうことをすると、民間の企業も、行政の仕事を手伝うんじゃなくて民間自体がもっと伸びるぜ」とか、そのあたりの、「こういうのがあったらもっと伸びるんだけどな」というのは、何かあったりしますか?
宮坂:今日スタートアップの方も多そうな雰囲気があるんですけど、やはり規制の問題がありますよね。何ていうんですかね、開発する以前に「それやっちゃいけない」と言われていると、できないじゃないですか。
だから、規制のデザインをどうするのかというのは、東京都だけじゃなくて国の仕事も多いんですけど、そこはすごくやるべき点が多いと思いますね。
例えばコロナの時に、やはりハンコを窓口に持っていくのがしんどいというのがあって、あの前までは、民間企業で使っていた、いわゆる電子証明サービスは行政で使うのは禁止だったんですよね。そこは行政ではNGになっていたんです。
藤本:それは普通に、条例、条文でっていう?
宮坂:ルールでそうなっていたんですよ。それを規制改革推進会議に持ち込んで「できるようにしてください」と言って、今は普通にみんな使えるようになったんですけど。
行政の人もこういう技術があるのはけっこう知っているんですよ。でもそれが、サービスよりもルールのほうが上位概念だから、ルールで駄目と言われたらやったら法律違反になるので(笑)。
ルールで駄目なケースがけっこう多いので、そういったものはみなさんから声をいただいて、僕も規制改革推進会議に出ていて、いくつか規制改革とかやったんですけど、そこをやるのは、行政としては、市場を作るという意味においてはすごく大事な役割かなと思いますね。
藤本:いや、僕も、それこそこの直近2、3年ぐらいで、これは、公開情報としてデジタル臨調みたいな、臨時調整会議(※「デジタル臨時行政調査会」のこと?)で、あれで全法律を見て、アナログじゃなきゃ駄目なところを全部リストするとか。
宮坂:そうですね、はい。
藤本:それこそ目視じゃ駄目なところを全部ドローンでOKにするとか、そういうのをやっていたりします。
宮坂:はい、そうですね。
行政手続のデジタル化と法律改正の必要性
藤本:やはり思ったのは、さすがに来月とかは無理ですけど、ちょっと1年、2年かかっちゃいますけど、意外にやれば、なんか変わるもんですね、みたいなのはありますかね?
宮坂:そうですね。ちょうど、東京都でも今、行政手続のデジタル化を一生懸命やっています。行政手続デジタル化比率は僕が来た時に、5パーセントぐらいだったんですよ。今、78パーセントぐらいまで来て、あと3年でたぶん100パーセントに行くと思うんですよね。行かないやつは、国に規制改革の要望をするかたちでつなぐ役割をやろうかと思っているんですけど。
藤本:(笑)。
宮坂:その時にすごく新鮮だったのが、みんなやりたいんですよ、行政手続デジタル化って。好きで紙でやっているわけ……な人もいますけど(笑)、現場はそうでもないんですよね。
何が起きていたかというと、ルールとして別にやってもやらなくてもどっちでもいいというルールだったんですよ。それを、2020年だったかな、東京デジタルファースト条例というのを作って、行政手続は原則デジタル化しないといけないという条例にしたんですよね。ルールをまず書き換えるわけです。ルールを書き換えると、やらないとルール違反になるんですよね。それで一気にガッと進んでいくんですよ。
なので、行政のデジタル化をする時に、サービスを作るという意味でのコーディングと、法律を作るコーディング。これは明日、たぶん安野(貴博)さんがまた話されると思うんですけど、やはり行政……世の中は法律というコードとソフトウェアのコードの2つで、表裏一体で生まれるじゃないですか。
やはり法律というコードを書き換えない限りはデジタルサービスを作れないわけですよね。行政のすごい役割は、ソフトウェアでできることを理解した上で、上位概念である法やルールや条例や規則を書き換えていくことで、これは僕は、すごく大事だと思います。だから技術のわかる人が行政に来て、別にソフトウェアを書かなくてもそこがすごく大事だと思っているんです。
藤本:法律の条文は、セマンティックをちゃんと、何でしょう、それこそマークアップされていたら、実際そういう試みがあるんですけど、もうちょっとわかりやすくなるよねとかね。
宮坂:はいはい、はいはいはい。そうですね。
藤本:全部読んで矛盾がないかチェックしなくても、別にLinterをかければ、みたいなところはあったりはしますけど。なるほど。
(次回へつづく)
<続きは近日公開>