熊本で「ミニバブル」が起きているワケ

赤池実咲氏(以下、赤池):三宅さん、気になるニュースはありますか?

三宅一弘氏(以下、三宅):注目すべきは3位(「半導体メーカーの九州シリコンアイランド進出相次ぐ」)ですね。TSMC(台湾の半導体メーカー)が熊本に進出して景気が非常に良くなっているというのは、非常に注目だと思いますね。

赤池:ちょうど昨日テレビで、「熊本の駅周辺に、各地で高級マンションが建っている」というのをやっていて。熊本の人がそれを見て、「誰が住むんだ?」って言ってたんですけど、藤野さんはどうですか? 熊本に1軒(笑)。

藤野英人氏(以下、藤野):熊本、良いところですよね。水がうまいから、熊本市内にはけっこう良い喫茶店があるんですよ。でも今、TSMCが出てきたおかげで渋滞が激しいんですね。

なんでかというと、車で通勤する人が多いから渋滞が激しくなった。だから今じゃあ、道路を整備しなきゃいけないということになってきて、土木作業の必要が出てきたりしています。

比較的、富裕層の人や経営層が(熊本に)来ているので、そういう人たちがお金を使えるレストランを作ろうということで、今はものすごいミニバブルになっている様相ですよね。

全国平均を上回る、熊本の有効求人倍率

三宅:実際に景況感がどうかを見たのが、この図になります。鉱工業生産を熊本県・九州・全国で比較したものなんですが、熊本の場合はけっこうアップダウンはしているんですけれども、水準レベル的に見ると飛びぬけています。

赤池:そうですよね。熊本・九州だけ、なんかすごく儲かってそうな(笑)。

三宅:(笑)。すごい活況なんですよ。求人がどれぐらい多いかも見ていて、全国平均・九州がだいたい1.3倍なんですが、熊本は1.4倍を超えていますから、雇用市場や労働市場についても非常にひっ迫感が出てきているんですね。

ですからそういう面では、日本が再生するための2つのドライバーがあると思っているんですが、1つは、ハイテク分野の対内直接投資とインバウンドです。

世界的にも回復しつつあるインバウンド

ナレーター:日本経済が良くなるためには、ハイテク分野の対内直接投資だけでなく、インバウンドの拡大も必要だと話す三宅さん。では今後、日本のインバウンドはどうなっていくのでしょうか。

赤池:私は今、京都に住んでいるんですが、観光客がすごく増えてるんですよ。おそらく外国人もいろんなところからいらっしゃっていて、三宅さんはこれからのインバウンドの影響をどう考えますか?

三宅:世界同時的にコロナが収束して、経済が再開して、そして旅行・観光・サービス消費のほうにグンと舵が切られ出しています。これはなにも日本だけのことじゃなくて、世界的な規模で観光・旅行需要がすごく増えだしているなと思うんです。

そうした中で、日本については(訪日外国人数が)月間300万人が過去最高だったんですが、だいたいその半分ぐらいまでは回復してきているところなんです。

その中で、中国からの観光の方がだいたい3割を占めていたので、今後中国の規制が緩和されて(訪日外国人観光客が)入ってくるような環境が整ってくれば、過去最高も夢ではないと思いますし、数年タームで見ればそれを超えてくる可能性もあるんじゃないかなと。

安価であることが、必ずしも良いとは限らない

藤野:まず、外国人の目でサービスの見直しをする必要があると思うんです。

僕、銚子で人気の定食屋さんに行ってきたんですが、「海鮮メガ盛り」というのがあるんですね。とにかくすごくて、ご飯も入れてこのぐらい(高さが)あるんですね。お刺身がメガで盛ってあって、2,500円とかだったかな。

日本人の感覚だと高いんだけど、メガ盛りにせずにもうちょっとプレゼンテーションを良くして、3,000円とか4,000円ぐらい取ればいいんじゃないかなと。

日本人は、値段が安くて行列することが良いことだと思ってるんだけど、それって誰にとっても良いことではなくて、そこで働いている日本人はただ疲弊してしまうということがあります。

ちゃんと自信を持ったサービスをして、ちゃんとお金を取る。それができたところが発展するし、お客さまにもリピーターになってもらえる。それをもっともっと、たぶんこの10倍ぐらいに伸ばすことができるんじゃないかなと思いますよね。

日本人は、人件費まで「激安」

藤野:でも、国内投資を拡大するのもインバウンドも、日本が長年デフレであったこと、それから円安であったところが大きくて。要は、日本って安いんですよ。

この間、韓国の半導体メーカーの経営者が「日本に工場を出したい」という話をした時の理由は、日本人の労働者のコストが安いから。

赤池:なんか、すごくショックなんですけど……(笑)。

藤野:そうなんですよ。でも、これは事実で。例えば、日本の部長さんクラスはベトナムの部長さんよりも給料が安かったりしているので、東南アジアの中でも日本人は給料が安い。特にエリートクラスだと、「激安」みたいになってる。

とはいえ、日本人がアジアの国に対してレベルが低いかとか、技術力が落ちたかというと、そんなことはなくて。たぶんこれは、経済政策がうまくいかなかったところが大きかった。

顧客の満足と利益を両立させる

藤野:逆にそれはチャンスでもあって、海外投資を呼び込む。それは観光というかたちであっても、工場誘致であっても、どんどん呼び込めばいいと思います。

それがきっかけで日本人のお給料が上がっていったり、生活水準が良くなって景気が良くなれば、これは循環してる話だから、その循環にうまく乗ればいいんじゃないかなと思うんですね。

赤池:元阪神タイガースの藤浪(晋太郎)も、今は(年俸)5億ぐらいじゃないですか。たぶん、日本にいる時はそんなに稼いでないと思うんです。

藤野:日本のプロ野球選手とアメリカのプロ野球選手は、だいたい(年俸が)10倍違うんです。でも、これってやはりビジネスの仕方の違いだと思うんですね。

アメリカの場合はビジネスとしてどうやって拡大するのかというと、球場外の売上だったり、それからケーブルテレビなどを使った課金の仕組みを考えたんだけれども、日本の場合は古い考え方で球団経営をしているところが大きいです。

なので、これから僕らは考え方を変えて、「どうやってちゃんとお金を稼いで、お客さんに喜んでもらって、楽しくするのか」ということを、隅々まで気持ちを巡らすことが大事です。そういうことをしたところから、どんどん伸びていくと思いますね。

変化を怖がる人・楽しめる人

ナレーター:ビジネスの仕方が変わっていく中で、プロの投資家・藤野さんは今後どのような分野に注目しているのかを聞いてみました。

藤野:これからAIが発達してくると、AIを使うことによって働き方を変える、もしくは生産効率を変える、消費者に対するアピールを変えるという会社が出てくるんだろうと思います。

なので、「どの業種」というよりも、考え方を変えて、販売の仕方などを変える会社が伸びていくだろうと思いますね。

さらにAIが普及してくると、AIでできないことの価値が上がる。実は、資源とか農業の分野は、これから再度注目されると思います。

今、どちらかというと農業は生産人口がどんどん縮小していて、農家が高齢化してきていて、耕作放棄地がたくさん出てきている。5年とか10年経って立ち行かなくなると、農業のあり方を抜本的に変えないといけない時がきます。

その時に合わせて、農業の大規模化や機械化、スマート農業化とかが出てくることによって、伸びていく会社がいっぱい出てくるんじゃないかなと思いますね。

赤池:では、「どの分野が」というよりも、企業それぞれが成長の芽・空いてる穴を見つけていって、見つけられる人が成長していくと。

藤野:そうですね。なにか変化があった時に、「怖い」と思う人と「おもしろい」と思う人がいると思うんですよ。

別に、怖いと思うことがダメってことではなくて、気持ちの持ち方なんだけれども、「おもしろいね」「楽しいね」「なにかできないか?」と思うことが、すごく大事だなと思っています。