起業のノウハウをわかりやすく解説した雑誌『起業時代』

司会者:今日のメインの、ゲストスピーカー講演に移りたいと思います。freee出版の『起業時代』編集長の井口さん、よろしくお願いいたします。

井口侑紀氏(以下、井口):みなさんはじめまして、freee株式会社の井口と申します。今日はよろしくお願いします。簡単な自己紹介から始めさせていただきます。1987年に生まれ、上智大学の経済学部を卒業したあと、20人ぐらいの小さな事業会社に新卒で入社しました。

そこからマイナビの新規事業部門を経て、昨年の7月にfreee株式会社に入社をして、『起業時代』という雑誌の立ち上げを行っておりました。同時に昨年、個人事業主としても開業しております。

簡単にプライベートの話をすると、埼玉県生まれ埼玉育ち、今も埼玉に住んでいます。家族は3人と1匹で、3歳の娘とミニチュアシュナウザーがいます。おかげさまで娘は動物好きに育っていて、週末は動物園に行って動物の餌やり体験をすることにハマっています。

また、家業は呉服屋で父親が3代目です。なのでスモールビジネスに関しても身近な存在だったという、そんな人間です。

freeeに入って携わっているのが、この『起業時代』という雑誌です。こちらは「起業・開業をするならこの一冊」というキャッチなんですが、起業・開業を検討している人が明日から動き出せるような段取りを、わかりやすく網羅的に解説する雑誌です。

また、いろんな先輩起業家の方々を取材させていただきまして、インタビューを掲載しています。より等身大の起業を知ることができる。プラス、段取りに関しては、税理士の方と経営コンサルタント監修の下、正確な情報をお届けする。そういうものを今年の1月に創刊いたしました。

大企業だけでは、世の中はワクワクしない

井口:今日はこの『起業時代』という雑誌をベースに、なぜ起業に関する雑誌を立ち上げたのかというところ。あとはfreeeとしても、起業の雑誌を立ち上げるのは新規プロジェクトということで、新規事業がどのように動いていったのかも、もしかしたらヒントになるのかなと思っています。

そのあたりの、ある意味ドタバタをお見せしつつ、実際に起業家の方々を取材していますので、そちらの実例を今日のテーマに沿ってご紹介できればと思っております。

まず最初に「なぜ『起業時代』を創刊したのか」というところなんですが、そもそもfreeeという会社は、「スモールビジネスを、世界の主役に」というミッションを掲げています。

freeeというと、会計ソフトや人事労務ソフトのイメージが強い方が多いかもしれません。実際にそちらをメインで行っていますが、ソフト屋さんだとか、クラウドの会社だという意識を持っている社員はそんなに多くなくて。「誰もが自由に経営できる環境を作っていくんだ」といったところが、会社のミッションになっています。

そして、このfreee出版という活動もその一環として行っています。なので、『起業時代』に関しては「スモールビジネスをどう盛り上げていくか」というところが課題になっています。やはり盛り上げるためには、起業・開業を選択肢の1つにしてくださる方が今以上に増えることが重要だと思っています。

そもそも、なぜスモールビジネスにこだわっているのかということに関して言うと、世の中に多様性をもたらしたり、社会を進化させていくイノベーションの源泉はスモールビジネスにあると思ってるからです。

正直、自分自身も、大企業だけの世の中だとわくわくはしないよなと思います。新しいもの、特に社会をより良くしていくものは、スモールビジネスとスモールビジネスが掛け合わさって生まれるものなんじゃないかと思いますし、freeeとしてもそういう気持ちでスモールビジネスを応援していこうと決めています。

週休3日制や時短勤務など、多様化する働き方

井口:あとはタイミングですね。やはりこの時代のライフスタイルにおいて、起業・開業を選択肢に持つことはとても重要だと思っています。「なぜ今なのか?」というところをもうちょっと掘り下げると、「働き方の多様化」という言葉が最近よく使われますが、どちらかと言うと会社の制度の文脈が強いんですかね。

週休3日や時短(勤務)とか、そういう使われ方をされていると思いますが、だいぶ会社員以外の選択もしやすくなったかなと思っています。特にこのコロナ禍によって加速されているリモートワークの普及などで、今まで以上に制約がなく仕事ができるようになってきています。

また、副業解禁の波もありますね。やはり、最初の一歩のハードルはどんどん下がってきています。「個の時代が来ている」ということも最近よく言われますが、単純に「1人で何かをやっていこう」ということではなくて、自分自身で考えていこう、自分で考えて行動に移そう、という時代が来ているんじゃないかと認識しております。

次はちょっと違った角度の話なんですが、(スライドを指しながら)これは中小企業庁が発表した、日本・中国・イギリス・アメリカの起業に対する意識の調査結果です。この結果は「起業するために必要な知識、能力、経験がある」と答えた方の数の比較ですね。アメリカと日本では約5倍の差があるというデータになっています。

つまり日本の方は、起業に対する知識とか、もしくはそれを周りに相談できる環境が足りていない、そういう環境が周囲にない。と思っている方が多いということなんじゃないかなと思いました。

起業は「ビジネス」というよりも、「ライフスタイル」の一環

井口:そこでfreeeは、もう少しそこを深掘りして調査をしました。起業・開業をする時の課題として、この4つが多かったかなと思っています。

まず(スライド)左下から言うと、「起業・開業したくてもその方法がわからない」。これは自分自身がWebやIT、エンジニアをやっていた人間なので、「そんなことはGoogleで調べればいいじゃないか」と思ってしまうタイプで、昨年開業する時も「ネットで調べよう」と思っていろいろやっていたんです。

それでも、やはり情報はすごくいろいろあるというか、何を信じていいのかわからない。どれを選んで、そもそも何から調べていいのかわからない。意外と難しいなと思いました。実際、そう感じられる方が多かった印象です。

次の「資金」に関しては当然重要で、お金に関しては一番重要だと思っています。あと、意外と多かったのが「身近に相談できる環境がない」「家族をどう説得するのか」という、周囲の環境に関するお悩みがあるなということを、うかがっていて実感しました。

ですから、「スモールビジネスを盛り上げていこう」となった時に何をするべきかと言うと、起業のハードルを下げることなんじゃないかと考えました。その方法としてテーマを3つ挙げていますが、まずは起業を決めた人の障壁を取り除く。起業を決めたら、スッと起業できる状態を作ろうと。

次に、起業を決めかねている人の迷いに寄り添う。あと、一歩踏み出せない人の背中を押す。そして、起業を選択肢にすることが当たり前の世の中にしていくこと。

これは、「起業する人を増やそうぜ」という単純な話ではありません。「起業はビジネス」と言うより、「起業はライフスタイルなんだ」というところを軸に発信することで、ライフスタイルを自分で考えていく中の1つの選択肢(だと思ってほしい)。別に起業しなくてもよくて、1つの選択肢として起業というものがあるんだと。

就職や転職は考える方が多いと思いますが、(同じように)起業も選択肢にすることを当たり前の世の中にしていこう、と考えました。

なぜこのタイミングで「紙の雑誌」を選んだのか

井口:「じゃあ、なんでそれを紙の雑誌でやろうとしてるの?」というところも、少しお話しできたらと思っています。まず最初に書いているのが、「モノとしての形で伝えたい」。

開業や起業をする方は、「決めた。今すぐやろう」だけじゃなくて、半年とか1年かけてじっくりとやられる方も少なくないと思います。なので、そういう時にじっくりと準備をする中で、手元に紙の雑誌を置いて、必要な時に必要なページを読んでほしいなと思っています。

また、「シンプルで重要なことだけをまとめたい」。先ほど情報が多いというお話があったんですが、「必要な情報はこれだけですよ。この厚さですよ」というのが目でわかるのも紙の良さかなと思っています。一冊あれば、段取りがわかって準備ができる。そんなことも紙ならではの伝えられる要素かなと思っています。

次はその上の2つと併せて、「Webとは異なる『体験』」というのがあるかなと思っています。例えば、本屋でたまたま見つけたり、レジに並んで買ったりしたという「体験」が、やっぱりWebとは異なります。

一説によると、紙の読書のほうが呼吸が深くなるそうなんですね。「呼吸が深くなると理解が深まる」という日本の大学の調査結果もあったりして。これが合っているかどうかはわからないですが、やはりWebで見るものと紙で見るものは、脳の理解する場所がちょっと違うよなとも思ったりします。

もともとfreeeはデジタルに強い会社なので、もちろんデジタルの取り組みも考えています。重要なのは、紙もデジタルも選べることかなと考えています。

目指すのは「ふつうの人が、フツーに起業できる時代」

井口:では、2番目です。『起業時代』の特徴などをお話ししながら、簡単に使い方を説明できればと思っています。まず『起業時代』がテーマとしているのは、「ふつうの人が、フツーに起業できる時代」ということです。

この「ふつうの人」というところ。そもそも起業と言うと、一部の人の特別なもの(のように思われてきました)。例えば、今までにないようなビジネスモデルを生み出すとか、それもすごく重要な起業の要素なんですが、それだけではなくて。もっと一言で言い表せるような職業。例えばデザイナー、雑貨屋さん、花屋さんとか。

そういった普通の事業、ふつうの人がフツーに起業できる時代。この「フツーに起業できる」というのは、段取りがわかって軽やかに行動に移せるというのもありますし。もう1つは、先ほど「周囲の環境」というのがありましたけれども、仲間ですね。

周りに起業をしている仲間がいたり、世の中的に起業しやすい環境や、起業を理解してくれる方が増えていく。そういう時代が来れば、もっと軽やかに一歩を踏み出せるんじゃないか。そんな意味も込めて、「ふつうの人が、フツーに起業できる時代」としております。

雑誌の特徴として4つ紹介させていただきます。まず「起業」という言葉は、会社設立と個人開業のどちらも含めて「起業」と呼んでいます。

実際の「起業」という単語には、もともとどちらの意味も含まれていて、自分のビジネスを起こすことを表していますし、『起業時代』としても、そのどちらも取り扱っています。なので、本の中でも法人設立と個人開業は平等に扱っていて、どちらの段取りも網羅しています。

自分もそうでしたが、最初の段階で「個人で始めるか、法人で始めるか」というのがあると思います。そちらも判断軸をいろいろ提示しながら、理解できるように、自分で判断ができるようにということを意識しています。

“仲のいい先輩”のようなスタンスで、起業への道をサポート

井口:次が、起業・開業する段取りがシンプルにまとまっている実用的な本であることですね。自分も起業に関しては初心者として取り組んでいたんですが、ある意味そのおかげで、自分の本領を発揮できた部分です。

プロのベテラン経営コンサルタントが書いてはいるんですが、どうしてもちょっと難しい要点が多いとか、「これは前提知識がないと、わからないよ」というところがあって。

多くの人に理解してもらえるものにしたいなと思ったので、なるべく難しい用語は使わない。そして、シンプルで必要なものだけをまとめる。この(雑誌の)サイズだと、そもそも入る容量(の制限)もあるので、なるべく本当に必要なものだけを詰め込むことを意識しています。

次に、先輩起業家の誇張のないリアルな体験談ですね。「起業って無敵だよ」という話をしたいわけではない。

「起業すればいいじゃん」だけじゃないので、起業した人の誇張のないリアルな体験談をまとめていこうと意識しています。創刊号では、33名の方が登場するんですが、ありのままの姿を意識して取材をしております。

最後は「前向きになれるポジティブな表現」ということで、例えば、どうしても起業に関する本を作ろうとすると「起業するならこのくらい知っていて当然」と読者にプレッシャーを掛けるような内容になってしまいそうになるんですよね。

『起業時代』は、本当に伴走に近く、隣に寄り添う。自分も同じ1年生なので(笑)、同じ状況でしかできないというのもありますが、前向きでポジティブな表現で「一緒に起業していこう」というスタンスですね。

なので、書いているコンサルタントも先生じゃなくて、仲のいい先輩・後輩みたいな立ち位置で書きましょうと決めて、実際にそういう表現を使っています。

「起業=正しい」ではなく、あくまでも選択肢の1つ

井口:あとは「やらないこと」もお話しさせていただきます。(スライドの)上から言うと、「儲かる起業」とか「稼げる業種」といったものを扱うことはありません。金儲けという概念より、生き方にフォーカスしているのでこうなります。

当然、お金のことはすごく重要なので、税金や開業資金の話とか、そういうお金の知識に関するものはしっかり網羅はしていますが、「1,000万円稼ぐ」とか「1億円(稼ぐ)」という話はしていません。

それとも連動しますが、「起業=正しい」という煽りはしておりません。「起業しなくてもいい」というスタンスですし、選択肢の1つとして起業を考えてほしい。先ほど言ったように、上から目線の表現も使いません。

あと、ちょっと意外かもしれませんが、freeeプロダクトの「freee会計」「freee人事労務」なども必要以上に宣伝をしていないというか、本文の中においては「freeeを使おうぜ」とは一切言っていないんですね(笑)。あくまでも起業・開業が主題なので、起業・開業に関するテーマ、そしてプロダクトに対してもフラットな立場のぶん、自由に表現できるというのを意識しています。

もちろん別のfreeeの宣伝ページでは、独立したものでfreeeのお話もありますけれども、本編の段取りに関しては、freeeを特別にひいきはしていないという特徴があります。

まとめに近いですが、起業を決めた人に関しては段取りを読んでもらいたい。時系列に段取りが書いてありますので、順番に「これをやって、これをやって」というのが、読みたい時に読めるという感じですね。