沖縄県宜野湾市の市長選挙
堀潤氏(以下、堀):続いて木蘭さん。テーマの発表をお願いします。
(テーマ「沖縄のホンネとタテマエ」について)
脊山麻理子氏(以下、脊山):アメリカ軍普天間飛行場がある沖縄県宜野湾市の市長選挙が17日に告示されました。基地の早期返還などを訴える現職と政府が進める名護市辺野古への移設計画に反対する新人の2人が立候補しています。
堀:さて、宜野湾市長選。対立の構図は。
現職の佐喜眞淳氏は、辺野古移設を進める政権の支援を受けていて、政権与党の自民・公明の両党が推薦しています。一方、新人の志村恵一郎さんは、辺野古移設阻止を掲げる翁長知事と民主党など、翁長知事の県政与党の全面的な支援を受けていると。
沖縄の場合、与党というと。自民は野党、そして、対する革新を含む政党が与党になってきますからね。国政の与党野党とは違うので、混乱なきようお願いします。さぁ、木蘭さん。
アピールするのは「お金」か「精神性」
泉美木蘭氏(以下、泉美):沖縄の基地問題が出てくると、いろんな主張が飛び出してくるんですけれども。今回の件で。
まず「基地はもうイヤだ!」。いろいろな今まで我慢してきたことがあって、基地はもうイヤだ。
それから、辺野古を埋め立てるのかということになると、「海を守ろう、ジュゴンを守ろう」という人が出てきたり。
一方で、基地に関する振興資金がすごく必要だと。これのおかげで教育も成り立ってきているし、町も作られてきましたというのを必要とする人もいる。
とにかく早く土地を返してほしいという人もいる。
今回の2人の候補者の場合は、はっきり2つに分かれていますよね。現職の佐喜眞さんは、はっきりと「お金」を前面に出していて、「これだけの交付金で今までこれだけの道路を作って給食費を半減してきました、医療費も無料化してきました」ということを、ものすごくアピール。とにかく「お金」。「基地によってこれだけお金を得てきましたよ」というアピール。はっきりしている人。
一方、翁長さんをバックに付けている志村さん。はっきり「新基地の建設は反対だ、県外から出て行ってほしい、できれば海外に出て行ってほしい」というアピールで、こちらは、「沖縄を取り戻したい」という「精神性」。この「お金」か「精神性」かで対立しているんですけれども。
候補者2人のホンネとタテマエ
ところがこの2人の候補者の話を最後まで聞いてみると、お金を前面にアピールしている現職の候補であっても、「今まで基地でお金をこれだけ我々は得てきました」って言っていたにも関わらず、演説の後半になると、「それでも『基地のない宜野湾』を目指します」とか、「普天間への固定化にはNOを突きつけます」と、なぜか最後に基地反対を訴えるわけですよ。
そうすると、「あれ? 基地でお金を得てきたって言うのに、でも最後は?」
堀:「必要だ!」って言うのかと思いきや。
泉美:思いきや、最後は「基地はいらない」と言ってしまうという。
本音としてはお金が必要なんだけれども、一方で、普天間の昔あった沖縄の国際大学にヘリが墜落したり、米兵が婦女暴行をはたらいたということで、沖縄の人たちは根本的に基地とか米軍に対する嫌悪感を持っているわけですよね。
それが、何かのきっかけで、バッと吹き出してきたときに、「お金のために沖縄を売りやがって!」と言われてしまうのではないか? それを恐れて、本音の部分を建前で補完して、言っている主張がすごくねじれてひっくり返ってしまうんですよね。
堀:僕も実際取材をしていると、地域の方から聞くのは、政治の現場は県民の皆さん冷静に見ている方もけっこう多くて。
「『反対』って言わないと、国会議員になれないからね」なんて言って。本音の部分と選挙戦の建前というのは、皆さんシビアに冷静に見ているものだと思いましたよ。
泉美:一方の、「沖縄を取り戻そう、誇りを守りましょう、基地に全部出て行ってもらおう」という沖縄の精神の部分を大事にする候補者のほうに関して、翁長知事にも同じように思うんですけども。
もし本当にそうやって基地を出て行ってほしいと。こっち側の候補者の言いたいことは、「日本の政府が無理やり辺野古の基地を作ろうとしている。私たちは犠牲になっている。沖縄は差別されている」ということを前面に出してくるんだけれど。
それだったら、今度は逆のことが言えて、こちらの候補者ははっきりと「自分たちは基地に関する振興費は、今後いりません」とはっきり言わなければいけないと思うんですが、それは言わないというところに、また1つ大きな納得のいかない感じが自分は出てくるんですよね。
堀:それだけいろいろ複雑な要因が合わさって現在の状況を形作っているので。もう0か100かというような議論はおそらく現実的ではないというところでもあるんでしょうね。
沖縄の自立できない構造
泉美:私個人としては、新しく基地を作る必要ないじゃないかと思うけれども、例えば、「辺野古反対」と言う人がいる一方で、沖縄にはまた辺野古に基地が来ることを望んでいる人たちもいるわけですよね。それによってお金が入ってきて助かるということがあるので、「辺野古」という言葉を言ったり言わなかったり。
堀:沖縄と言えば格差の象徴で、年収1,000万円以上の人がいる割合が全国トップ10に入る。一方で、県民の収入というのが最下位だと。
要は、「国から降りるお金はどこに集約されていっているの?」というところに、いろいろな不信の温床になっていたりすると。
開沼さん話聞いていていかがですか。
開沼博氏(以下、開沼):僕も原発立地地域のことを研究しているので、よくわかるんですね。似ている部分があって。「お金のために」と言ってしまうと、それイコール良くないことだって思われているんじゃないかと住民の方言ったりするんですね。
でも、彼らの言葉で言わせると、やっぱり「子や孫が地域で暮らしていけるような未来を守るために」というのが最初の言葉で。それが結果的に「地域振興策だよね」みたいになってしまっていると。
どうしても東京からだとそういう内情が見えてこないというところで、議論がかみ合わないというのは、とてもお互い不幸だなと思います。
堀:最終的な結論のところだけ見てしまう。
開沼:そうなんですよね。
泉美:結局、沖縄に対してお金を入れていくことで、沖縄が自分の力で立てないようにずっとしてきたというのがあるので、国と沖縄の戦いというよりは、こっちなんだなと。
「自立できない構造 VS 沖縄」
「自立できないような構造になってしまっていること」と、「沖縄」との対立になっているので。これがずっと続いたままになっていると、候補者の演説を見るたびに「またやってるよ……」という、ある意味茶番のように見えてしまうかもしれない。すごく危ないことだなと思いました。
堀:ありがとうございました。