エンジェル投資家との出会い方
石井健一氏(以下、石井):「エンジェル投資家」という立場の方がいらっしゃると思います。エンジェル投資をなりわいとしている人もいれば、たまたま手元にお金あって友達・知り合いだから出すよ、という立場上エンジェルになっている方もいらっしゃるかと思います。そんなエンジェル投資家さんって、そもそもどこで会うんだろうと。
ビジネススクールで習うんですよ、みんな起業して事業計画ができたら、まずエンジェルを回るんだと。そこでだいたい2、3,000万集めてプロジェクトを回して。その次にベンチャーキャピタルに会いに行けと習うんですが、どこに行ったら会えるのかは書いてないんです。どうされたんでしょうか?
井上真大氏(以下、井上):本当に人の縁って不思議なんですけど、偶然で。僕たち、千葉功太郎さんという、元KLabの取締役でコロプラの副社長をされてた、現エンジェルの方に入れていただきました。
もともと僕たちは人材系のサービスをやっているんですが、千葉さんの奥様が当時リクルートにお勤めで我々のサービスにご興味持っていただいて。最初、千葉さんの奥様にアポに行ったんです。普通に外で会う予定だったんですが、お子さんの都合で家に来てほしいということになり、お宅に訪問させていただいたら、たまたま千葉さんもいらっしゃって。「あ、なんかベンチャーの人が来てるんだったら10分だけ話聞いていくわ」みたいな感じで千葉さんも同席されて。
10分だけ話聞くはずだったのに、奥さんよりも千葉さんのほうが僕たちに興味を持ってくれて、奥さんはそのまま子どもを外に連れていくために出て行かれて、千葉さんはずっと僕たちの話を聞いてくださって。「君たち面白いから、お金入れたい」みたいに言ってくださって、投資につながった感じですね。
とにかく人と会って、話すこと
赤澤夏郎氏(以下、赤澤):いわゆるエンジェル投資と言われているものは僕らは受けていませんが、アドバイスはたくさんいただいていました。
そもそもどこで知り合ったかのというと、自分たちが出ていたからですよね。すごく重要なアドバイスを受けていたエンジェル投資家というのは、3年前ですかね。アメリカでSXSWというテック系のイベントがあり、僕らはそれに行きたいと思っていました。
たいして根拠はなかったんですが、ちょっと行って打って出たいとなった時に、そのツアーの主宰をやっていた方がエンジェル投資家の方でした。それをきっかけによく相談をさせていただくようになりました。なので、先ほどと一緒でいろいろ出ていったり、この人と仲良くなりたいと思ってつきあっていった結果かな、なんて思います。
井上:そういった意味では、横のつながりではないですが人付き合いでご紹介いただくというか知り合うケースが多いので、おそらく一般化しづらいのかなと思っています。それぞれケースがあって、赤澤さんがおっしゃったとおり、とにかく人と会って話していくことが大事かなと思いました。
エンジェル投資家が株主にいるメリットはあるか?
石井:ありがとうございます。たぶん投資家さん、VCさんから見ると、投資するにあたって株主構成を気になさるかと思いますが、例えば界隈で有名なエンジェル投資家さんがチームに入っている場合は、なにかいい方向でのインセンティブはありますか?
萩谷聡氏(以下、萩谷):基本的にはポジティブですけどね。エンジェル投資家さんにはいろんな種類の方がいます。それこそ最近は日本でもM&Aが増えてきて、IT業界でも会社を立ち上げて売却して、今はエンジェルになっている方、最近だとエウレカの赤坂さんやサイタの有安さんなどたくさんいらっしゃいます。
そういうインターネット系の方だったり、金融系でけっこうお金をいっぱい稼いでエンジェルになって若者を応援するみたいな、そういったエンジェルの人だったり、上場企業の役員の方だったり。いろいろなタイプのエンジェルの方がいて、そのビジネスを、組織面なのかビジネス面なのか、なにかしら支援ができる方だったらいいかなという感じです。
石井:岩田さんもそうしたケースは多いですか? エンジェル投資家が入っていて。
岩田諒祐氏(以下、岩田):僕らはファーストラウンドといって最初の投資が前提になるので、著名なエンジェルさんが入ったら新規投資はやらないんですよ。ただ、すでに僕らが新規投資して、次のラウンドやフォローでもう1回投資します、というのだけはやっています。
そのときに一緒に入れてくる人が著名な方だと、多少は後押しになりますね。ただ、あくまで僕らの見方で事業を見て、資金を入れるか入れないを決めるので、そこが大きく作用することはないですね。
石井:ありがとうございます。梅澤さんのところはどうですか?
梅澤亮氏(以下、梅澤):似たような答えになってしまいますが、その事業に貢献してくれる人が入っていて、会社の成長を深く考えてくれている。それは経営陣であったり事業の方向性としてバリューアウトしてくれる人であればぜんぜんいいです。あとは時と場合によってはエンジェルからVCとして株を引き取るといった話もケースバイケースで出たりします。あと、エンジェルって出会いにくい。
石井:そう、出会いにくいんですよ。
梅澤:楽天に売却しました、ヤフーに売却しました、DeNAやグリーに売却しました。という事例は5年前に比べたらすごく増えてきているんですが、けっこう難しいですね。
VCに会うのとはまた違うレイヤーですし、周りでけっこうストーカーをやってる人いますね。Facebookでフォローしておいて、「今ここにいる」みたいにしたら、もう駆け込んでそこに会いに行くとか。基本的に紹介ベースで会うのが一番なんですけど、それぐらいじゃないと会ってもらえないとか。
暇だったらもうエレベーターピッチで30秒でもいいので、「今ここでプレゼンさせてください!」の気合をぶつける。それでドン引かれるエンジェル投資家もいますけど、それで「OK。その気力に負けたから投資するよ」みたいな人たちもなかにはいます。
ただ会いにくいですね。イベントに行ってもけっこうフィルターをかけてもらわないと困るとか、「どこの誰かわからないので」みたいなことも多かったりしますね。
VCとエンジェルのメリット・デメリット
石井:ありがとうございます。また質問を頂きたいともいます。
質問者2:簡単な質問で、エンジェルを使うメリット・デメリット、VCを使うメリット・デメリットをそれぞれお聞きしたいです。
石井:井上先生、お願いします。
井上:VCの方を目の前にしてVCを使うデメリットってちょっとお話しづらいんですけど(笑)。
1つ間違いなく実体験も踏まえて言えるのは、エンジェルの方は自己資金で、自分のお金で投資されているので、社内で踏まないといけないプロセスみたいなのが当然ないんですね。
ベンチャーキャピタリストさんだと、当然、企業としてやっているので、上にあげないといけないとか、全員の承諾を得ないといけないということがあるんですけど。
エンジェルの方は、もちろんその名のとおり個人投資家さんなので、個人のその人がOKと言ったらそれでおしまいなので、決断がすごく早いし、すごくスムーズであるというのは1つありますね。だから1人に説得したら終わりというのがすごく楽というか、早いかなと思います。
赤澤:エンジェルやVCという以前に、そもそも外部の資金を入れて自分たちの目標を実現するかどうかでお答えさせていただくと、私たちはずっと外部の資金を入れずに自分たちの自己資金で10年以上会社をやってきましたから、外部の資金を入れるということに関して決してポジティブなわけではありません。
でも、やりたいことを実現するためにどうしても自己資金では実現できないとなったときにはじめて入れるべきで、それまで投資ありきでビジネスをスタートするのは、僕らから見たらちょっと違うんじゃないかなと思います。最近こういう場に来てこうしたお話をすることが多いんですが、そんな見方もあるんじゃないかと思っています。
エンジェルに株を譲渡しすぎた問題
石井:僕の場合はどちらかというと、会社を立ち上げるときは別に会社を持っている人間が集まった会社だったんです。なので、必然的に自分たちで資本金をちょっとずつしか出さないで作ってしまった会社なので、回していくためには絶対的な外部資金が必要でした。
知り合いに声をかけたら、「おもしろそうやん。いっちょ乗るわ」というかたちで手あげで資金調達をしていったら、けっこうな株式を出してしまっていて。それが先ほどの資本政策について「これやりすぎやろ」と教えてくださったのがVCさんたちなんです。
だから当時、「この時期にこれだけエンジェルに株をやってるベンチャーいねえぞ」というところからスタートしたので、今していただいた質問を僕も2年前の会社を立ち上げた時に聞いておけば。
さっきのバリュエーションにも当てはまってくると思うんですよ。当時、本当に1株いくらの感覚だったんですね。自分たちが1株1万円で会社を作ったと。お金を出してくれる人がいくら出すというか、ほんなら1株10万円でお願いしましょうかって、バリュエーションで割り引くとかじゃなくて、単純に10倍。
だって売上もなにも立っていないのに、株が10倍になることなんてないよね、というド素人の生兵法でやってしまったことは、失敗したなと思っています。
でも、今それをこういう機関投資家やVCの方々からいろんな意見をいただいたり、逆にどんなかたちで戻していくか、エンジェルさんと交渉していくか、そうしたところはディスカッションしながら、まともな資本政策になるようにがんばっているところです。
ですので、僕はどちらかというとはじめから外部資金ありきでビジネスモデルを考えていました。要するに、スケールさせるために絶対にお金が必要であって、その必要なお金がいくらかを逆算して作ったので、良い悪いではなくて、必ず両方組み合わせてやっていこうと思っていました。こんな感じでいいでしょうか?
質問者2:大丈夫です。ありがとうございます。
萩谷:あと1点、エンジェルとVCで大きな一番の違いは、VCはファンドというものを作るんですね。
我々はファンドにお金を集めるんです。いろんな事業会社さんや金融機関のところに行って。
そのお金を運用するのがVCで、そのお金をスタートアップ投資をして、そのリターンをそのファンドに出資してくれている人に返していくという運用の責任があるんですね。だからイグジットに対してのコミットをしなきゃいけないというのが大前提で違います。
エンジェルの方は基本的に自分のお金を出しているので、その人の事業をそもそも応援するし、人に対して投資する感じで投資しているケースが多いので、前提が違います。VCから受けると、基本的にはM&AかIPOを目指すという前提に立つということは、しっかり理解してもらうといいかなと思います。
資金調達前に、よく考えるべき
石井:ほかに質問のある方はいらっしゃいますか?
質問者3:世界最大のエンジェル投資家のネットワークの日本代表をしております。ですから、エンジェルとベンチャーをつなぐ立場なので今もちょっとこそばゆいなと思いながらお話を聞いてました。
先ほどの話にも出たように、エンジェルがいいとかVCさんがいいという話ではなくて、立場の違いやそのステージの違いになってきます。ですから、スタートアップの人たちはその違いもわかった上で、あとは資本政策をしっかり作ってもらった上で、早い段階ではエンジェルを活用してもらって、そのあとにはVCさんということで、わかった上でそれをうまく使い分けてもらえればいいかなと思います。
ですから、どちらかというとスタートアップのみなさんにそれをもう少しわかっていただた上で、資本政策、資本調達をやってもらいたいなと思います。
私たちも日本のエンジェル投資家を集めて、毎月イベントをしています。
ですから、そうした会う場ができる仕組みはできてきているので、ちょっと宣伝めいた話になってしまいましたが、エンジェルの人に会いたいとかエンジェルから投資を受けたいということがあれば、会う気になれば会えると思って動いてもらえばいいかなと思います。質問ではありませんが、そういうことを補足でさせていただきます。
梅澤:1つコメントを追加すると、起業も手段ですし、起業って法人格作ると、例えば、会計士さんに相談しないと、弁護士さんに相談しないと、責任も出てくる。今日のトピックの資金調達というのもあくまでいち手段でしかないので、お金を入れてもらう=株主になってもらう。そうすると意見が言える。
例えば34パーセント、拒否権は50パーセント以上持っていなかったら全部支配できないなど、いろいろかたちはあるんですが、とはいえ、株主になってもらうということは、株主としてちゃんとリスペクトして意見を聞かないといけないので、時間も作らなければいけません。そこはいろいろと考える必要があります。
だから自己資金で全部やっていくと、変な話、自分のお城を作って好き勝手できます。例えば前に出して例の1人100万円を福利厚生に使えたり。VCが入ってくると意見が違うかも知れませんし、個人投資家の人も最初はファンだったんだけど、事業をピボットしたら「君のこのやり方は気に入らないから」となるケースも出てくるので、そこを深く調べて、本当に相性も合うかとか、お金を集める前の段階で深く考えて動いていただきたいなと思います。
本当にメリットとデメリットを書き出していくというのはすごく重要です。VCの立場で言ってはダメかもしれませんが、結局、自分でお金を借り入れて成功するのであれば、それが一番幸せな世界が描けるかもしれません。なので、どんな事業をやるか、どんな手段でやっていくかは深く考えていただきたいなと思っています。
VCとどう付き合うか?
石井:ありがとうございます。ここまで、おつきあいの仕方や、どちらがいいかという話が続いたんですが、ここでちょっとだけピボットして、どんなVCさんと付き合うべきか、どう選ぶべきかというテーマでお話ししたいと思います。
先ほど相性ってお話が出ました。相性にもいろいろな意味があると思いますが、どのような切り口があるのか、シェアしてもらえればと思います。
岩田:僕、まさにファーストラウンドということで一番に投資する立場なので、まさにフィットするかどうかだと思います。
それで合うかどうかが大前提です。その上で、VCだろうがエンジェルだろうが、提供できるものは基本的に2つだと思っています。「お金」と「ノウハウ」です。
お金は単純に資本政策上で考えていただければいいかなと。例えばバリューが1億つく会社と2億がつく会社って、基本的には2億つけてくれる会社のほうが有利に働くし、そういうところは見ていただければいいと思います。
ノウハウというところでは、そのサービスや自分が持っているもの、例えばこれは持っているけど、これは持っていないとか。僕らだったら、大企業とのネットワークは事業の関係上たくさんあるので、そことつながると一気に加速するモデルであればありかなと。
一方で、僕らはゲーム会社への投資実績が直近ではないので、そのアドバイスはあまりできません。そうした分野であればほかの会社さんに行ったほうがいいと思いますし、そこでなにをもらえるのか、逆に僕らのことをデューデリしてくれればいいかなと思います。そこで合うところと、一番自分にとって都合がいいというか、条件合うところと組めばいいかなって思っています。
萩谷:基本的にベンチャーキャピタルって会社単位で見られるんですが、キャピタリストの個人単位でしっかり判断していったほうがいいというのが前提にあります。基本はキャピタリストの方がどれだけ能動的に動いて、当事者意識を持って支援するかというところに尽きると思っているので、それが前提にあるかなという感じです。
僕が投資しているところはIT系全般ですが、投資支援として基本はなんでもやりますね。ただ、そもそも事業戦略、組織戦略、資本政策の壁打ちで精度の高いアドバイスをしていくのが一番のバリューだと思っています。
その軸で見ると、SaaSやマッチングなどビジネスモデルや、バーティカルに、例えば物流にすごく詳しいとか、建設業界が詳しい、ヘルスケアだったらめちゃめちゃ詳しいなど、そういう軸やパターンの中で得意なキャピタリストがどれに当てはまるかで選んでいくのがいいのかなと思います。
アメリカのVCではそこが明確になっていて、「僕はここができるから、こういうところだけしっかり投資して支援する」ということが明確になっています。日本もやっとそういう流れが出てきそうな感じになっているので、そういったところを信頼できる人見つけてもらえればいいかなと思います。
自身の得意な分野、良いVCの見つけ方
石井:萩谷さん、せっかくなので自分はどこのゾーンが得意なのか宣伝してください。
萩谷:僕は昔ゲームアプリのディレクターをやっていたので、アプリのグロースやWebメディアのグロースは得意でした。かつ、いろんな領域、物流だったり建築だったりヘルスケア全般は幅広く興味分野を持っています。そういった人たちはITに詳しくない方も多かったりするので、今はその支援がメインです。
石井:うち、まさにそうなんですよ。ボードメンバーがメディカル寄りなので、コードを叩ける人間があまりいない状態で。
もっと言うと、僕らは医療サービスなので、患者さんは来て当たり前というところから呼びにいかなければいけないモデルに変わるとき、その部分をハンズオンしていただきたくて、萩谷さんにはかなり早い段階からご相談させていただいていたのを覚えてらっしゃいますか?
萩谷:はい。
石井:いま体感しているのは、本当にこのノウハウって買えないんです。例えば「CMOをやってました」という人が1人入る以上の経験値があるというか、似たような業種のほかの会社さんでやったケースをそのまま持ち込むことは守秘義務があるので難しいですが、同じようなケースで適用できるとか、KPIの作り方をどうすればいいのかというときに、キャピタリストさんのスペシャル性はすごく大切だと感じています。
ってしゃべってしまうと、梅澤さんはすごくしゃべりにくいと思いますがお願いします。
梅澤:うーん、けっこう答えが出ちゃってますけど、先ほどもお話ししたように、弊社の場合は日本だけで9名、インドネシアにもオフィスがありますし、シンガポールにもいて。領域、得意、不得意……不得意というか、いっぱい見てきている分野があるので、調べながらそこで役員にも入っていたりするので、役員として入っているかどうかを見ながら選ばられるのが一番いいかなと思います。
本来であればファンドとして通るものが、担当者によっては通らないものも出てくるので、あとは相性で決めたりという部分だと思います。
自分はプラットフォーム系が得意なので、鶏か卵での事業ですね。なにか乗せたい人、乗りたい人、とまりたい人、とめたい人、会いたい人とか。そういうプラットフォーム系をずっとやってきているので、そのさじ加減ですね。どこでアクセル踏むべきかとか、卵がいっぱい集まっちゃったので今度は鶏を集めないといけないというノウハウが、個人的にはたまっているかなと思っています。
起業家はVCをどう選ぶべきか
石井:ありがとうございます。それでは起業家側もいきましょうか。ぶっちゃけて言うと、投資を経験したあとだから「こういうのがいいよね」ということが言えると思います。最初の「投資をしてください」と言っているときにはそんな余裕はないんですよ。先ほど井上さんがおっしゃったように、10社20社お願いして1個目のGoが出るハードルがすごく高いですよね。
そんななか、今の視点と当時の視点を比べて、言葉を選ばずにいうと、VCの選び方はどうしていますか? VCさんの前では言いづらいかもしれませんが(笑)。
井上:そうですね、これ本当に個社じゃないですが、各社ごとによるのかなと思うので、なかなか一般論では語りづらいかもしれません。
そもそも論として、キャピタリストさんとして会社の事業にコミットしてくださるじゃないですが、すごく入り込んでいろいろとアドバイスしてくださったり手伝ってくださる方も入れば、付かず離れずじゃないですが、静観することが好きなキャピタリストさんもいらっしゃるので、そこもさまざまかと思います。
そもそも論になってしまって申し訳ないんですが、会社のCEOの仕事とはなにかを考えたときに、会社のCEOには会社を成長させることが当然求められていますが、その中で、いまの成長のボトルネックはなにかをきちんと見抜くことが一番CEOとして必要かなと思っています。
大きい話でいえば、それはエンジニアリングが足りていないという話かもしれませんし、集客が足りていないとか、営業が足りていないとか、法務がきちんとできてないという話かもしれません。
そのなかで会社のボトルネックがなにかをきちんと見抜いて、そこに資する投資家さんがいらっしゃるのであれば、その視点で投資家さんを選ぶのが大事だと思います。
例えば我々でしたら、最初にお話したように適正検査サービスをやっているので、当然、中小の方にもご利用いただいているんですが、やはり大企業さんご利用いただくと、すごく大きいんですね。
そういった意味で、大企業さんとのつながりを持つということはかなり大事になってきています。我々の投資家さんの中でも、以前勤めていたとか、友達がいるということで大企業のクライアントを紹介してくださる投資家さんもいらっしゃったりして、すごく助かっていますね。
赤澤:僕たちの場合は、実際にハードウェアを作っているので、その時点でフィルターがかかっています。「ハードウェアにはまったく興味ないよ」と。「ハードウェアを売って収益モデル作るのはスケールしづらいから、そこには投資しません」というのが1つフィルターになってるんじゃないかと思います。
さらにそこから先では、僕らもVCさんやエンジェルさんを選ぶ余裕はそもそもなかったので、こちらから「この人がいい」とか「あの人がいい」といういうのはありませんでした。
投資家さんに限らずですが、ビジネスパートナーもそうだし、顧問やってくれている方もそうなんですが、ものづくりをやってると、興味というかそこで話せる領域が多い人が必然的に相性いいので、その時点で仲良くなれる人ってだいたい決まってきます。それは別に投資家さんに限らず、わりとはっきりしているかなと思います。
石井:ありがとうございます。ハードウェアなんかもそうなんですね。ネットサービスじゃないとやらないVCさんもあるんですね。
萩谷:そうですね。もちろん今IoTは盛り上がってきていますが、ハードをしっかり理解してそれをビジネスにしていくところをしっかり支えられるキャピタリストが少ないというのが実情かなと思います。
調達した資金を使いすぎてしまうのはなぜか
石井:ありがとうございます。せっかくなので、ここでまた質問をいただきたいと思います。
質問者5:スタートアッパーの方におうかがいしたいんですが、よく資金調達をされる際には一気にたくさんのお金が手元に来ると思います。よく「思ったよりすぐ使っちゃう」みたいなお話をお聞きするんですけど、「こんなにすぐなくなちゃうんだ」ということは、実際に事象としてどんなものがあるのかおうかがいしたいです。
井上:じゃあ順番で。
石井:僕から?(笑)。いいですか。
思いっきりあります。最初の調達で、萩谷さんがここにいるから怒られちゃいますけど、「○ヶ月これで回します」と言って事業計画をしていく。しっかり精緻に積み上げているんですけど、「このセクションやる人の人件費考えてなかった」とか、仕事やり始めてみると自分たちのチームの中にそこを担える人がいないケースが、とくにスタートアップには人がいないので、あるんですよね。必然的にそのリソースを短期で調達しようと思うと外注になるので、コストが高くなるんです。
うちの場合はSEOだったんですが、自社の中ですぐにできる人材が用意できなかったので、その分だけでも「バーンレート」と言われる1ヶ月に使う金額というのはじわじわ上がっていきました。おっしゃっていただいた、お金があっという間に減っていったというのは外注費でしたね。
開発についても、なかなか期間どおりに乗ってこないものです。ウォーターフォールでやっていてもアジャイルでやっていても、その日にその機能が乗らないということになると、それを乗せるまでの期間にまた開発費が乗っかったり、想定外のバグに工数取られたりということがあるので、VCさんの前で言うと怒られるけど、事業計画どおりなかなか進まないのがシード期なのかなと思っています。ごめんなさい。
梅澤:普通だと思いますよ。そこも見越して「この人だったらなにかしら対策を打ってくれるんだろうな」とか「お金が足りなくなったら稼ぎにいってくれるのかな」ということは考えています。
変な話、お金がショートしても、「じゃあコンサルやってきます」とか「ちょっとこの部分を埋めないといけないので受託をやります」とか「ブリッジでやっていきます」とか、臨機応変に考えられる経営者が求められるので、「計画どおりいってないからだめじゃないですか!」というのはおそらく銀行系が言う話ですね。
事業が始まれば、資金は一瞬で消えるもの
石井:(笑)。井上さんどうですか? 井上さんは緻密に予定どおりでしたか?
井上:緻密に予定どおりというと聞こえはいいですが、僕自身すごくケチなので、とにかく必要ではないところにはお金を使わないたちでして。
ぶっちゃけ言うと、僕の役員報酬って96万円なんです。年収96万円で、自分の役員報酬もすごい削って。これはぜんぜん褒められた話じゃなくて、良い悪いはあると思いますが、投資家さんからは、ありがたられているじゃないですけど、それだけコミットしていると思っていただけています。
それってお金持ちになりたいと思ってベンチャーをやろうという方にはあまり夢を与えられないかもしれませんが、今は僕たちの会社はまだ成長フェーズにあると思っていて、会社の成長のためにお金を使いたいという思いがあるので、とにかく削れるところは削っています。
赤澤:すばらしい。
石井:すばらしいね。
赤澤:はい(笑)。たぶんご質問の意図としては、例えば1,000万入れてもらった場合、まだ起業する前の方々が1,000万がボーンと来たら、「いや、めっちゃ来た。めっちゃ使える」みたいな。3年は大げさですけど、「これで向こう1年半ぐらいはいけるんじゃないか」みたいなイメージをされてるけれど、でも一瞬で溶けてしまうことに対して、「そのギャップはなんだろうな?」というのがご質問の意図かと思います。どうやってなくなるかはおっしゃっていただいたとおりです。
おそらく、そのあたりの気持ちのギャップだと思うんです。1,000万もあったら十分時間があって十分考えられて軌道に乗るだろう、というイメージを、始める前はもちろん僕も持っていましたし、みなさんも持っているんじゃないかなと思います。ですが、始まっちゃえばそれは一瞬で解けるもんやと思っておいたほうがいい気がします。
井上:すいません、1つだけ補足しますと、従業員の方にはきちんとしたお給料払っているので、そこだけはご安心していただければと思います(笑)。
(会場笑)
石井:今ので井上さんの好感度めっちゃ上がりましたよね。ねえ。ずるいよね(笑)。そうなんですね。ありがとうございます。
赤澤:想定外の残業代であるとかね。それはもう開発には絶対つきまといますよね。
石井:残業の話をここでしていいかどうかわからないんですけど、スタートアップをしていると、どっちかというと8時間労働とか週40時間とかの外側に負荷をかけちゃうことってやっぱり多々ありますよね。だからそれを本当にどこかのタイミングで法律どおりにしていかなきゃいけないというフェーズは、コストがめっちゃ膨らみますよね。
赤澤:ああ、もうびっくりしますね。
石井:実は今まさにうちがそのフェーズなんですけど、ちゃんと見直さないといけないということは、言っていただきました。ありがとうございます。
本日の振り返り
石井:それでは、時間が近づいてきたので、今日の話をラップアップさせていただこうと思います。
最初は自己紹介のところから入っていって、なんの話からしましたっけ? 調達にどんな種類があるのかというところでしたっけ? デットとエクイティの話。
あとは用語の定義ですね。確かにネットにいろいろと書いてあるんですよ。でも1年前の僕はそれを知らなくて、むしろ投資家の方々からそういう言葉を教えてもらいながら勉強したんですが、今ではネットで検索すると、そういう言葉って普通に出てきていますよね。
赤澤:そうですね。
石井:「この時期のベンチャーさんの時価総額はだいたいこのぐらいだよ」とか、そんな話もけっこう出てきていると本当に感じています。そのあとは何の話でしたっけ? ぜんぜん覚えてないね(笑)。
赤澤:どうやって出会うかみたいなところですね。
石井:そうでしたね。ありがとうございます(笑)。どうやって出会うのかというのは、ここのようなインキュベーション施設に来るとか紹介してもらうとか、Facebookで追いかけるということもありましたよね。
赤澤:ああ、ストーカーですね。
石井:ストーカー。梅澤さんに食いつこうと思ったらどうしたら良いのでしょうか? どこに一番滞留していますか?
梅澤:(笑)。ネット経由でご連絡いただければ、基本的に会っています。
石井:ホームページからでも?
梅澤:ホームページからでも、問い合わせフォームとか。急にFacebookでメッセージが来たりして、ちょっと怖いなと思いながらも、基本的に会ってます。
石井:会ってくれるんですね。ありがとうございます。
梅澤:会います、会います(笑)。でも一斉にここで50名来られたら困りますけど。
石井:ちょっとやってみましょうか。FacebookのMessengerを全員がワシャワシャにしてみましょうか。
梅澤:東京オフィスであればぜんぜん。来ていただけるのであれば、おそらくそれだけでフィルターがかかると思います。
石井:フィルターかかりますからね。ありがとうございます。
大阪からスタートアップが羽ばたくために
石井:そのつながりでVCさんやエンジェルさんの話も出てきたかと思います。あとなにを言いましたっけ?(笑)。
梅澤:手段じゃないですか。金を集める・集めない。あとVC vs エンジェルという流れの大きな枠組みとして。
石井:大きな枠組みの中で。その中でお金をそもそも集める必要があるのか、というところから考えてみるべきだよね、という話も出ましたし、萩谷さんがおっしゃってくれた、会社の色じゃなくてキャピタリストさんの色で得意分野にパターンがあるという話も、今日はいい話が聞けたと思います。
おそらく今日手を挙げられたのはいわゆる起業家志望という方で、おそらく1年前の僕と同じような状況かと思います。幸い僕らのようなスタートアップを支援してくれる箱が大阪市内にもたくさんできていて、それを取り巻く大人の方も増えてきている、すごくいい環境だと思います。せっかくなのでこうした施設を思い切り活用させていただきながら、大阪、関西からスタートアップやベンチャーが飛躍的に出ていける。
我々が鐘を鳴らすときに「あの時いやがったあいつらだな」とみなさんに思っていただけるようになれば、僕ら3人も、それから向こう側にいる投資家さんたちもきっとハッピーになっていただけるんじゃないか思います。
それでは時間になりましたので、このセッションを終わりにさせていただければと思います。台本なしのキャスティング、みなさんおつきあいいただきまして、ありがとうございました。またよろしくお願いいたします。
(会場拍手)
ありがとうございました。