芯を食う会話ができる状況はすごく大事

佐宗純氏(以下、佐宗):そういったこと(作る過程も含めて、自信を持って自分たちの商品としてきちんと提示できること)をデザイナーも大事にできるようにするには、どういう意識を持って、どういう行動をしていくべきなのでしょうか?

タカヤ・オオタ氏(以下、オオタ):僕、先ほどの木村さんの12/JU-NIのお話ですごくよかったなと思うのが、取り立てて言葉をどう飾るのかというのを考える必要がそもそもなかったという気づきをチーム全体が得られたこと。すごくいいなと思っています。

やはり営業の人、マーケティングの人という、それぞれの立場だけで考えると、どうしても「売るためにはなにか言葉が必要なんじゃないか」とか、デザイナーだったら「売るためにはなにか差別化する見た目が必要なんじゃないか」とその職種の立場で考えるのが、当然責務だとは思います。

でも、もうちょっと俯瞰して立ち返って、自分がイチ消費者になってみると、もっと違うものの見方ができると思っています。

売ることも大事、いいデザインを作ることも大事だけど、そういういろいろなものをまずいったんリセットした状態で、「自分たちが言いたいこと、その商品が言いたいことって何だっけ?」と、芯を食う会話ができる状況がすごく大事だなと思います。

そういうのは、もう要件が決まっていて、その要件を発注先に伝えるだけというスタイルだと、なかなか再現できないと思うんですよ。なので、あまり凝り固まっていない状態からいろいろなことを話せる環境、シチュエーションをどうやって作ればいいんだろうということを、けっこう僕は大事にしています。

佐宗:非常におもしろいです。

想いをカタチにする上でタカヤ・オオタ氏が大事にしていること

オオタ:(コメントを見て)匿名出席者さんがおっしゃっているように、それを言われると、「それはデザイナーの職種の範囲じゃなくない?」とか、「どちらかというとそれはマーケティング的な思考のほうじゃない?」と感じることもあると思います。僕は別にマーケティングの専門知識をつけて話す必要はないと思っていて、やはりマーケターにはマーケターの、デザイナーにはデザイナーの最終的な責任があると思うんですよ。

デザイナーだったら、いくらコミュニケーションがよくて、そういう芯を食うことをチームで話せても、最終的なアウトプットはやはりいいほうがいいし、みんなが手に取りたくなるものがいいし、それぞれの家の中にあってうれしいデザインのほうがいいし、こういうところを担保するのがやはりデザイナーの能力だと思います。

でも、その手前の部分の、どういうふうに売ったほうがいいかとか、どういうコミュニケーションをするかというのは、そういうディスカッションベースでも広げられる部分がすごくたくさんあるんじゃないかなと感じています。

タカヤ・オオタ氏がふだんしているインプット法

佐宗:まだ回答できていないところをお付き合いいただきたいなと思うので、もう少しだけお時間をいただければと思います。事前にいただいている質問から5個をピックアップしてきました。

「業務でコーポレートブランディングに関わることになり勉強中なのですが、学びが深まるやり方や、ご自身がふだんされているインプット、お薦めの書籍・事例があれば教えていただきたいです」。これはどうでしょう。タカヤから、ありますか?

オオタ:有名なやつだと、『ブランディングの科学』とかそういう本はありますが、各企業、事業によって事情が違っている中で、そういう英訳された本は、世界的なメガブランドがやるマーケティングとブランディングの話が多いので、それが実務に置き換えられるかというと、けっこう難しいところもあります。

僕はそれよりはけっこう、純文学や社会学の本を読むのが好きです。『多様性の科学』という本では、今日話した、すごく有能な1人の人がなにかを考えるよりも、複数の立場からいろいろなことを話したほうが、結果的にはいいものができ上がるよという話があったり。

コーポレートブランドのことを考えてなにかインプットをするというよりは、もっと抽象度を高く、自分のふだんの考え方をどう整理するのかというところから、今自分が携わっている仕事に落とし込んでいくほうがやりやすいんじゃないかなと、ちょっと思いました。

佐宗:たぶん質問をした方は、より具体的なアプローチで質問をされていると思いますが、回答としては、より本質的な抽象的なアプローチのほうが、最終的にはつながるというところなのかなと思いました。

木村氏が実践する、自分の考えや行動をおさらいする「感想戦」

佐宗:木村さんは、コーポレートブランディング専門というわけではないと思いますが、いろいろな自社ブランドを展開していく中で、なにかしら学びを深めるとかインプットするとかがあったと思います。こちらに関してなにかありますか?

木村祥一郎氏(以下、木村):僕も一応、ブランド本やマーケティング本を読みはするんですが、それは基礎知識として身に付けておいたらいいというレベルで読んでいます。

若い人たちに、自分が買って愛用しているものを、どういうプロセスで知って、それを知った時はどういうシーンだったか、どんな感情を抱いたのか、結果的に買うまでどういうプロセス、どんな葛藤があったのかという、自分の振り返りを何度もしなさいとよく言っています。

僕は「感想戦」と呼んでいるのですが、将棋が終わった時に、最初の打ち手から順番に再現してやる感想戦をやります。

そうすると、なぜ自分がその時にそう思ったのかと考えるじゃないですか。そういうことを繰り返すほうが、自分なりの解決策を見つけていく力を養うんじゃないかなと思っています。

ただ、ベースには考えるための力がたぶん必要だと思っているので、基礎知識はちょっと身に付けておく。それこそ、人文学の本とかメタ認知とか、そういう本を読んで考える力を養っておいて、自分の行動や考えをおさらいしていくほうが、身に付けられるものは多いんじゃないかという感じがします。

オオタ:やはり自分自身が生産者になることもあれば、自分自身が生活者であり、消費者であることのほうが時間としては多いこともあります。

この質問をされた方は、コーポレートブランディングに携わる時間が業務の中である一方で、ふだんの生活だと、コーポレートブランディングされたものに触れる時間のほうが多い。その中で、何を感じるのかをリバースするというのは大事。大事というか、すごくよさそうだなと思いました。

木村:なんでこの会社を好きなんだろうとか、どこかで知って、いつの間にかその会社のことが気になっていたとかって、絶対あると思うんですよね。その原因やプロセスを探っていくと、いろいろ見えてくるものがあるかなと思うんです。

佐宗:確かに。今のお二人の話は、模写や基礎作りにすごく共通しているなと思いました。UIデザイナーも、UIデザインの骨格を模写して、なんでこういう骨格になっているのかというのをリバースすると思うし、経営者も、世の中で伸びているサービスや事業がなぜ伸びているのか、なぜこんなに利益が出しているのか、逆になぜこんなに利益を出していないんだとか、分析する癖がたぶんついていると思います。そこにも通ずるなと今感じました。

木村:そうですね。

登壇者2名がセッションを通じて感じたこと

佐宗:最後にラップアップで、お二人が今日のセッションを通じて感じたことをおうかがいして、締めにしたいなと思います。

登壇順で、タカヤさん、どうでしょうか?

オオタ:いただいているこの質問とも重なる部分ですが、「ブランディングとは何を指すのか」というところで言うと、僕はやはり、企業のすべての活動、あらゆる一つひとつの動きがブランドを作っていくと思っています。

もちろんデザイナーの観点からすると、ロゴを作ること、ビジュアルを作ること、商品パッケージを作ることも、ブランディングの1つではありますが、それだけではないという中で、そういう相対的な動きをどうブランディングと捉えられるのかというのが、すごく大事になってくるんじゃないかなというのを、木村石鹸さんの日頃の商品や活動を見ていてもすごく感じるので、今日はそういうお話が聞けてよかったなと感じました。

木村:ありがとうございます。

佐宗:木村さん、いかがでしょうか?

木村:デザインやブランドのことは考えてはいるのですが、第三者的に考えてみるとか、デザイナーやクリエイターが関わる領域や、関わり方、パートナーとの関係の作り方を考える機会が今まであまりなかったので、今回、タカヤさんのお話もおうかがいして考えられて、すごくいい機会だったなと思っています。

というのは、先ほども言いましたが、今CDOに対して、実は憧れがちょっとあって(笑)。これからそこが必要なんだろうなと思っていて、どうやってそこを見つけ出すのか、あるいは社内で確保するのか、外部の方なのかとずっと悩んでいたところもあったんです。

それを考えていく上でも、ヒントになったなと思っています。ありがとうございます。すごくいい機会でした。

佐宗:ありがとうございます。もしかすると、今日の機会で、今後このお二人がご一緒する可能性もなくはないと思いますね。

木村:いや、実は本当にずっとお仕事をしたいという(笑)。

オオタ:うれしいです。ここをちょっと過激な営業の場にしてはいけないという自制心があるのでアレですが、ぜひいつかご一緒できることを楽しみにしています。

木村:ありがとうございます。

佐宗:ありがとうございます。ということで、今日は大変学びのあるセッションだったと思います。ぜひ、グッドパッチ、ReDesignerとしても、デザイナーの価値を上げていくであったり、デザイナーのパフォーマンスを最大限に発揮できる社会を作るために、このようなイベントをしっかり運営して、みなさまに価値を届けていきたいなと思っています。

それでは、本日はありがとうございました。