多様な人々と1つのゴールに向かうには?
橋本英樹(以下、橋本):ちょっとここで話題を変えたいと思います。山崎さんの冒頭のお話の中で、国際宇宙ステーションにはいろんな国籍・文化をお持ちの方々がいらっしゃって、そのなかでいろいろな活動をされてきたとおっしゃっていたと思うんですけれども。
いろいろな訓練であったり、実際に国際宇宙ステーションに行ったときに、いろんな文化の方々がいらっしゃるわけじゃないですか。そのなかで、1つのゴールに向かって活動されるときって、一番重要に考えたこと、ポイントというのはなにかあるんですか?
山崎直子氏(以下、山崎):はい。ありがとうございます。実は宇宙船の中だけでもけっこうダイバーシティは大きいんです。我々、インターフェースがものすごく広くて。
例えば、地上にいる地上管制官の方はもっと幅広いですし、宇宙船を作ったりメンテナンスしている人とか、射場でそれこそ現場守ってくれてる人とか、現場は現場の雰囲気があったり。また、宇宙の授業をするとお子さんを相手にするときがあったり。
あるいは宇宙船と総理官邸やホワイトハウスを結んで、そういう方とインターフェースを持つときもあったり。いろんな人とインターフェースを持つときに、やっぱり最初はわからないんですよね。その都度、戸惑うんですよ。「どうしたらいいの?」って。
そういう時に、やっぱり船長さんはベテランなので、船長さんが教えてくれる。その背中を見ながら学んでいったり。あるいは、まだ訓練開始してぺーぺーの時には、1つ上のクラスの先輩で宇宙飛行士のメンターさんがついてくれるんですね。訓練なども時々一緒に立ち会ってくれたりしながら。そういった先輩の背中というのが、良いところも悪いところも含めてすごく頼もしかったです。
橋本:1つのゴールに向かって先輩の方々が一緒についていただく。先輩、つまり経験者ですよね。経験者の方々が一緒についていただいて、自分が目指すゴールに対していろんな支援をしていただけるような環境で、訓練やミッションを行われてきた。つまり、そういうことになりますかね。
山崎:そうですね。はい。
橋本:実はこういうシステムというのは、スタートアップの業界でいくとメンタリングといいます。これは自分が「こういう事業をやりたいんです。こういう事業で自分は生き残っていきたいんです」っていったときに、ある部分でわからなかったりする。その場合に、経験者であるメンターの方々にお願いをして、アドバイスをいただきながら自分を磨いていくっていう、メンタリングという期間があるんですね。
今回は、このS-Boosterの一連のプロセスのなかでも、エントリーが終わったあと、実際にリアルビジネスをおやりになられている起業家、実業家の方々のアドバイスを受けることができます。「自分が考えていることを宇宙産業として、宇宙事業としてやっていけるという、高みまで一緒に伴走してくれるようなシステムが、プログラムとして組まれている。
先ほど山崎さんのお話のなかで「宇宙産業ビジョン2030」という言葉が出てきました。その「宇宙産業ビジョン2030」のように、こういう仕組みを政策として、ステートメントとして謳っているものは、世界で見てもあんまりないと思うんですよね。少なくとも僕は知らないんですけれど。
そのへんは、まさにその策定のど真ん中にいた畑田さん、思いとか「ここがすごいんだぞ」というところ、ありますか?
宇宙を「自分事」にしてほしい
畑田康二郎氏(以下、畑田):まず2年前から法律を検討しまして、昨年、法律が国会を通過して、今、その準備をしてます。言ってみれば規制法なので、単にルールを作っただけで、じゃあ民間宇宙ビジネスというのが本当に花開くかというと、まったくそんなことはなくて。どうやって宇宙産業を実際に立ち上がらせていくかというところが一番肝だと思っています。
日本ももちろん、各国で、宇宙基本計画を作って、科学技術もやります、安全保障も大事です、産業振興もやりますって、総合的なバランスの取れたものはこれまでもありました。各国の政府も、そういった宇宙政策の全体のレポートというのを出しています。けれども、宇宙産業に特化したものを出してるところはなかなかないと自負しておりまして。
これの狙いは、やはり「自分事」にしていくことが大事だと。単に「宇宙産業という、はるか彼方にある一部の人たちがやっているようなことなのね」となったら終わりだなと我々思っておりまして。
これまで、「内閣府宇宙開発戦略推進事務局です」って名刺渡すと、「いや、夢があっていいですね(私には関係ありません)」みたいな声が聞こえてくるような感じがあったんですね。
ところが「いやいや」と。「みんな実は宇宙使ってるんですよ」と。今いくつかお話ありましたけれども、現実はもうここまでやってきている。
この宇宙産業ビジョンにも、39ページのレポート中44回「ベンチャー」という言葉が出てきます。新しい人がこれまでのたった3,000億の宇宙開発予算、たった7,000人程度の直接宇宙に関係してる人だけじゃなくて、まったく関係ない世界から「宇宙おもしろそうだね」「行ってみたいな」「やってみたいな」という人がどんどん増えていけば、日本の宇宙政策も相当変わるんじゃないかと思っておりまして。そういったビジョンに思いを込めています。
ただ、ビジョンも言ってみれば絵に描いた餅ですから、それを描いたからといって自ずとベンチャーが出てくるわけじゃなくて。フラッグシッププロジェクトとして、実際にこれにいけばなにかできるかもしれないって思うところが必要だと思いました。それで、このS-Boosterというのを立ち上げた次第であります。
単に政府、JAXAが「やります。みんな来てね」って言ってアイデア勝負したところで、やっぱり「自分事」にはならないと思っておりまして。そこで民間スポンサー企業の各社さんに、「こういうのやりたいんです。ぜひお金をまず出してください」と回りました。
日本政府が予算で賞金というと、いろんな人がうるさいわけですよ。そういうのはやりたくないので、「ぜひ民間スポンサー資金から賞金を出すというかたちで、アイデアを一緒に発掘しましょう」とお話に行きました。するとみなさん乗ってくれまして。
例えば、ANAさんであれば、PDエアロスペースという宇宙ビジネスをやっているベンチャーに出資をして、実際に宇宙旅行事業をやろうと取り組んでおられます。
三井物産さんも、あまり知られていないかもしれませんが、アクセルスペースに出資をしてまして、衛星データを使って、ビッグデータを利用したビジネスに本気で取り組まれている。
大林組さんも宇宙エレベータを。「いつかできたらいいね」という感じですけど、それだけじゃなくて、本当にオープンイノベーションを使って、そういった「宇宙開発の時代のゼネコンってなんなんだ?」ってことを真剣に検討されている。
こういった方々が我々の趣旨に賛同してくださいました。政府が旗を振ってビジョンを作り、実際にこういった民間のスポンサー資金を使ってアイデアコンテストができた。
就職活動のときに「宇宙やりたいな」と思っていろいろ見ても、「JAXA、採用若干名」。「三菱重工、若干名」。「これじゃ宇宙できないじゃん」って言って諦めた人がきっといっぱいいるはずです。
今日集まってきてくださったみなさんも、きっと「JAXA落ちた」とか、「宇宙興味あったけどやっぱり現実的にビジネスにならないよね」という方々だと思っておりまして。こういった方々のアイデアが本当に出てくれば、相当日本の宇宙政策も変わると思っております。
スカパーは、4K放送やサッカーだけじゃない
橋本:ありがとうございます。畑田さん、今、1社、社名を抜かしましたよね。
畑田:このあとに取っておいた(笑)。
橋本:あ、取っておいたんですね。遅ればせながら、我が社、スカパーJSAT株式会社も、アクセルスペース社には出資をさせていただいております。それからLeoSatという会社。これは今アメリカにありますが、もうすぐヨーロッパに本社が移るんです。低軌道衛星をやってる、本当のスタートアップです。
今まで通信というと、衛星が1個あったら、その衛星と地球が都度都度ピンポンでやっていたんです。LeoSatという会社はどこがすごいかというと、1回低軌道衛星を打ち上げますよね。そしたら宇宙空間にある低軌道衛星60~70個の衛星を、Peer to Peerでポンポンポンと宇宙空間の中でネットワークして、衛星と衛星でネットワークをして、アメリカの本土までドーンと落とすことができると。
そうするとなにが起きるかというと、低遅延ですね。光ファイバーで送っていたデータよりも実はレイテンシーを下げることができて、地球の裏方にデータを送ることができたりします。このようなスタートアップが出ていますので、そういうところにも我々は出資をさせていただいています。
先ほど画像の話も出ましたけれど、Planetという会社とは我々アライアンスをさせていただいております。地球を撮った映像からどういうふうにデータの解析をして、どういうマーケットにそのデータをインプットしていったら、どういうマネタイズができるかというところも含めて、実は我々も活動を始めたところです。
ですので、みなさん、スカパーというと、4K放送だとか、サッカーだとかあるんですけど……実は、衛星通信をやっている会社であるということもお忘れなく、よろしくお願いいたします。
さあ、時間もそろそろ押してきました。今日のお話のなかからいくつかメッセージとしてもう一度取りあげます。先ほど山崎さんがおっしゃっていた、訓練のなかで先輩宇宙飛行士のフィードバックを受けながら、1つのゴールを目指し、そして宇宙に行ったというお話がありました。
この流れと同じように、今回のS-Boosterの取り組みでも、4つの事業会社、それから1つの技術を持っているJAXAが、ピタッとファイナリストの方々に伴走させていただきます。メンタリングというかたちで、事業化まできちっと支援をするというような仕組みになります。
そこの最終的な後ろ盾になっていただくのが内閣府の畑田さんであり、実行組織に移られた経済産業省の畑田さん。ビジネスを阻害するような要因をどんどん排除していって、世界で勝っていける宇宙事業が作れるようなコンディションを整えていただくと。
さあ、ありがとうございました。ちょっとでも宇宙ビジネスに興味を持っていただき、S-Boosterという仕組みを使っていただいて、少しでもチャレンジをしてみましょう、というような取り組みがこれから始まろうとしています。
みなさま、どしどしとご応募をしていだきたいと思っております。本日は貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。
(会場拍手)