ジェームズ・ガンは劉備玄徳である
山田:わかった、もうじゃあ言うよ。1つ、ガンちゃんの話しますよ。ガン、ジェームズ・ガン。
乙君:(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の)監督の話。
山田:監督の話ですよ。ジェームズ・ガンは劉備玄徳です。
乙君:その心は?
山田:そして諸葛孔明でもあります。
乙君:え、そんなヤツいないでしょ。
山田:います。はいそれでは今からその話します。
乙君:ジェームズ・ガンってさ、アメリカの田舎で生まれてんだけど、お父さん弁護士みたいなことやってて、そしたらウェーイって感じじゃん。
でもね、兄弟多すぎんですよ、5人いるんですよ。だから教育にお金が回せないの。大学もちゃんと行けないみたいな。けっこう苦労するんですよ。
で、苦労したあげくにいろいろなことをやってって映画にたどり着くんだけど。映画の世界、劉備はね、曹操のもとで落ち着けなかったでしょ、でかいところで落ち着けないんですよこいつ。
で、トロマー映画っていうところにたどり着くんですよ。知ってますかトロマー映画って。まぁB級映画の中心ですね。バカ映画といえばトロマー映画と言われる。で、そこで一番有名なのがさっき言った悪魔の毒々モンスターなんですよ。
乙君:あー。
山田:なんかのはずみで化学薬品のなかに落ちちゃった男が、メチャメチャ醜い格好のまんま戦うっていう。
乙君:へー、おもしろそう。
盟友との約束を果たしたガンちゃん
山田:悲しくて下品でどうしようもない映画なんですよ。そのどうしようもないところで出てくるんだけど、ここには、トロマー映画の本質っていうのはね、マイノリティの叫びなんだよ、逆襲なんだよ。
だからガンちゃん、ジェームズさんは、逆襲から始まってんの、逆襲の物語なの。それは、メジャーに対する、つまり曹操に対する逆襲。
で、問題はですよ、いますよね張飛と関羽が。いるんですよこいつにも。こいつを支えてくれたんだけど、いろんなかたちでマイナー時代に支えてくれてた仲間を裏切らなかったんですよ。
乙君:裏切らなかったんだ、みんなでいっしょに。
山田:いっしょに行くんですよ劉備ですから。そんでガーディアンやるときにいよいよメジャーのステージ。この1個前になんだっけな、そういう映画を撮ってるんだよ。
なんだっけな。とにかく撮ってて、それがなかなか評価されたんで、「お前メジャー映画いけるぞ」、そして「原作なんとマーベルだぞ」となったときに、集合。
みんな劉備のもとに集まれっていって、そいでみんな集めてやってる、2作目もそうなの。つまりこの人、ガチの友情をやってるわけなのね。そこがまた信用できるところで。
で、実はすごくトガッたB級の娯楽作品で低俗なものをやってるんだけど、非常に知的な人。頭がいい。高い哲学性があるんだけど、どういう意味があるのかっつーと。この作品の前、『スリザー』って映画やってんだけどさ。
その前に毒々モンスターとか要するにマイノリティ側の逆襲なんだけど、スリザーって、テーマが愛に気をつけてね、って意味なんだよ。
乙君:へえー、おもしろそう。
山田:なかなかすごいよ。最終的に追い詰められた主人公が勝つっていうときにポイントになった敵の弱点はなんだってときに、愛なんだよ。人間の愛が、敵の弱点になってくっていうSFをつくってるの、スリザーで。
乙君:どう描くのか。
スター・ウォーズの文脈を排除した
山田:観てもらいたい。ただ非常にグロテスクです。そしてここからですけど、あ、もう1個言っとこうと思ったのが。捨てたものはね、オタク的な排他主義を捨ててんだよ。
つまりこの人ってめちゃめちゃマニアなんだよ。でオタクなんだよ。で、スノッブなの実は。
で、スノッブなヤツがわかる雰囲気っていうのに必死でついていこうとするのがオタクカルチャーじゃん。
だから三賢者とか言われると必死に調べてついていこうとするのがオタクカルチャーなんだけど、これ全部やめてんの。普通のギャルでもわかるように切ってんのバッバッバッと。それは排他主義を排他してんのね。
あともう1個、血族の話でね、血の呪い。つまり、「俺が特別なのは父ちゃんが特別なんだ」っていう話の、スター・ウォーズ的な、ああいう延々とくる「俺って特別だ」っていうヤツを2作目で断ってる。
まさに2作目は血の呪いっていうのを、終わりにしてるっていう。で、劉備ガンちゃんですよね。それで一番ポイントになるのがスリザーのカットに撮った映画があるんですけど。
これ実はヤングサンデー始めたころなんだけどね、イベントやったときにサインしてくれって並んでくれた人のなかで、熱く俺にこのDVDをくれた人がいました。どうかこれを観てくれと言われて『スーパー!』観ました。
このスーパー!がまぁ素晴らしすぎて。でも、ガンちゃん祭りやってたんで、話すところがないよなって思ってたんだけど。これおっくん、このスーパー!のあとにガーディアンズ・オブ・ギャラクシーやってるっていうのがすごいんだよ。
で、これスーパー!、実は関連商品があります。これです。
痛快なストーリーだったキック・アス
乙君:あれ? 「白黒つけるぜ!!」?
で、キック・アスにおいては、非常に悪を悪として描いてます。悪いヤツ。だから倒せ!ノれるんですそのまんま。で、『ゼブラーマン』は、置いときます。
乙君:置いとくの? 紹介したのに。
山田:キック・アスとスーパー!の間に、ゼブラーマンが入るからなの。なんでかっつーと、悪は悪なんだからやっちまえっていうのがキック・アスで、痛快な物語なんだよ。
スーパー!のほうは、この人が戦うときに持ってんの、スパナとかレンチです。で、倒す相手も非常にショボいです。で、この人どうしてこういう格好になったかっていうと、奥さんをドラッグディーラーに寝取られてんです。
乙君:ええー、切ない。
山田:ケヴィン・ベーコンです。
乙君:おお、出ましたベーコン界一の俳優。
山田:大好きなベーコンの1人ですけど、そうなんですよ。だけど、彼には人生に誇れる瞬間、ベスト2しかないんですよ、3ないんです。ベスト2!っつって。1個目は、奥さんと結婚したことなんです。
乙君:おお良いじゃないですか。
山田:でも取られちゃったから。もう1個は、犯罪があって犯人が来て、で、犯人が逃げた、追っかけてくる警官がいる、あっちです!って言うんだよ。それが、2番目。
乙君:誰かの役に立ったってことね。
山田:「やった、おれはやったんだ」と何回も思い出します、そのシーンを。そんなやつなの。
で、こいつが巨悪を倒すと、言ってヒーローになって、列の割り込みをするヤツとか現れるじゃないですか。そしたら「俺倒すぞ」っつってやるんだけど。
ガンちゃん、ここでもすごい若いんです。なんでかっつーと、その相手倒すときに、このレンチでほんとにバーン叩くと、リアルに頭が割れるんです、パーンと。
乙君:ええ!?
山田:むちゃくちゃグロいんです。そして、まぁ観てくれたかたはわかるけど、壮絶なラストに向かっていきます。
乙君:へえー。
山田:ここで描かれてるのはなにかというと、正義によって自分が正しいってことによって行動するってことは本当に正しいのかってことなの。
乙君:おいおいおいおい。
クドカン&三池タッグのゼブラーマン
山田:倫理学の話にもなるし宗教の話でもあるわけ。実はふざけたB級のなかでものすごく哲学的なことをやってるのがこっちでキック・アスよりもものすごく、クソレベル高いの、内容は。
ただルックは悪いんです。だから僕、何度も観たくないんです。気持ち悪いんですこれ。気持ち悪くなっちゃうんです。いい映画なんだけど。
で、ゼブラーマンはどうかっつーと、そのあいだに立って葛藤する人間の話を描いてんだよ。だからグロくならないっつーか。ただ、この映画、ゼブラーマンに関しては僕は関係ないですからね。
これはクドカン(宮藤官九郎)と三池(崇史)さんが書いてて。しかもあとで言いますけども、変な宇宙人と戦う『マーズ・アタック』みたいな映画にしたいって思った、クドカンが書いた脚本を、三池さんが買い取ってるからクソふざけてます、これ。
「後半どうすんの三池さん」みたいな感じになりますゼブラーマン。ただ俺の描いたゼブラーマンは違うんだよ、本気で真ん中描いてる。宗教的な問題、正義の問題っていうのを、徹底的にやってるから。実を言うと俺、こっち(スーパー!)派なんだよ本当に。
だから、「ヤバいぞジェームズ、お前もやったんだ」っていう。俺が2004年に撮ってて、これ2010年だから。だからお前も来たかジェームズと。カモン、ジェームズと。お前も仲間だって言ってからのこっちなんだよ。
つまりどういうことかっていうと、ここではアーティ(芸術家気質)だし、長渕(剛)なんですよ。主張的だし、メッセージ強くて排他的なんです、実は。「俺らはB級ムラがわかる人間しか来なくていいし」っていうのがあるんだけど、全部捨てて、こっちに行ってんだよ。
で、こっちでやったこともおんなじことやってんだよ、伝えることはね。そのへんが正義とか悪とか言ってるけどそこをちょっと茶化すことによって、しかも覚えてる? 2だととにかく、ちょっとゴスっぽくカッコつけるとププッってなるくだり、覚えてます? 覚えてない?
しみちゃん:どこでしたっけ。
山田:えっとね、えーっとえーっと、そうそう、2作目のヤツで、悪役に勝ったヤツが。
乙君:2の話ね、remixの。
山田:俺こんなことになったから、傷だらけになったから、俺ちょっと名前変えっから。テイザー・フェイス。
そしたらみんなでププッってなって、テイザー・フェイスとかって言ってるし、みたいな。 このノリがずっと続くんだよ。
つまり、カブけない。だからカッコつけらんない。ヒーローっつのはわーでてきて俺はカッコいい!ってやるのがスタンダードだったんだけど、ここだとププッってなっちゃう。
まだそんなことやってんの、みたいな。つまり、軽やかにそういうステージを超えちゃってるわけなんだよ。要するに、ナルシズム、ヒロイズムっていうものを軽やかに超えてる。
おわかりですか。まだおわかりではない。はいわかりました、じゃ次いきまーす。
乙君:いやいやうん、なるほどなっとは思うんですけども。
踊って行こうじゃないか!
山田:で、そういう流れで、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」っていう作品にたどり着いてる。
要するに、誰もが楽しめるっていうもの、アーティだったものを超えてここまで来てるんだけど、なにを言ってるかっていうとさっきから繰り返し言ってますが、人ことで言うと、キツいけど踊ってこうぜ。
これが2作目でセリフ出てきますね。だから、人間には2つのタイプがいる、人間だかどうかわかんないけど、宇宙人なんでね。踊る人間と踊らない人間、2種類。重要なことなんだよ。
問題が起きたときに、ピーター・クイルは踊るんだよね。1作目でも踊るんだよ。踊ってればなんとかなんだよ。これ平凡会で散々言ったヤツです。
この、キープ・オン・ダンシング、それでも踊ろう。踊る人間と踊らない人間だったら、踊って行こうじゃないかっつって。そして俺たちにとっては、最低だけどゴキゲンに行こうと。
俺たちには「アート」、これコンテンツのことです、と「フレンズ」があるじゃないかと、この「フレンズ」っていうのがまぁ張飛たちですよ、張飛たちが、あるじゃん、ウェーイ!っていうのが「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」。
ここをちゃんと伝えてくれれば、この作品で救われるヤツがめちゃめちゃいたのになっていうのが悔しいなって。
乙君:なるほどねー。
山田:で、これに言ってはいけないことがいくつもあんの。いちばん言っちゃいけないヤツは整合性なの。そんなの関係ないの。
うおーって言いながら、ロケットが助けにきて突っ込むだけでいいの。この作品は基本的に不時着や軟着陸はしません。着陸するときはぶっ壊れるんだ、どーんと。
いいのそれで。これはどういうことかというと、正しい意味でのマンガを映画にしてるんだよ。マンガってそういうデタラメで良かったわけ。もともとがコミックっていうのは。 だから、そもそもコミックっていうのは真面目で整合性があるものになったらつまらなくなってくんだよどんどん。
もちろん、そっち側のハードSFっていうのはあるんだよ。だけど、そっちばっかりになっちゃって、やたらと整合性、あそこの辻褄があわない、ここの辻褄があわないとか言いだすと自由さがなくなり、苦しくなり、つまらなくなっちゃうんだよ。
それをぜんぶ、そういうのいいっすから、って言って作っちゃったのが「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」。ここがちょっとわかってほしい。
で、2に至っては、さらにふざけてるんで。っていう部分で観てもらいたいなっていうことですね。
乙君:わかりました。
山田:はいはい。ま、問題は気に入らなかったら限定のほうで。
乙君:ああぜんぜん、別に言うことはないです。
山田:ほらねー、2つしか言えなかったー。
乙君:え、どうします。ジブリはやっとこうか。
山田:ジブリやっとく。じゃあごめんなさい、延長決定!公式枠延びました、すみません調子にのりすぎました。
乙君:ぜんぜん大丈夫です。
山田:じゃあジブリぱぱっと。
乙君:なるほどねー。