LINEはリリース直後から大ヒットを予感させた

茂木健一郎(以下、茂木):こんばんは。よろしくお願いします。

森川亮(以下、森川):よろしくお願いします。

茂木:もう、先週がね、面白過ぎて。本当に注目されているLINEなんですけども、今日はLINEの創業のご苦労みたいなのを是非お聞きしたいなと思います。先週もお話しましたように、今LINEは大変なことになってて、世界で1億7000万ユーザー。日本でも4500万ユーザー(当時)ってことで、私自身もヘビーユーザーなんですが。

森川:ありがとうございます。

茂木:ここまで大きくするのって、みんな大きくなってからは「ああ、良かったね」とか言うんですけど、やっぱり最初は大変だったと思うんです。そもそもLINEのコンセプトっていうか、どんな想いから出てきたものなんですか?

森川:僕たちは、コミュニケーションにどういう価値を加えられるかってことをずっとやってきまして、NAVERっていうソーシャルサーチ、人に聞いて答えるというデータベースを作って、価値を高めてやってきました。ゲームでも、一緒にコミュニケーション取りながら遊ぶという、ソーシャルゲーム的なことをやってきましたので、コミュニケーションというものにずっとこだわってきたんですよね。で、スマートフォン×コミュニケーションという中で、LINEというものが出てきました。

茂木:じゃあ、コミュニケーションっていう命題はずっと変わらないんだけど、スマホという新しいツールを手にした時に、どういう形があるのかということを探ってきた中でってことですね。

森川:はい、そうですね。例えば写真のコミュニケーションもありますし、もちろんテキストもあるし、声もあるし、いろんなコミュニケーションの形がある中で、まずはLINEというシンプルなメッセージングから始めようと決まったんですね。それを震災の前にいくつか検討していまして、震災の時に一旦会社を閉じて、福岡に移ったんです。

茂木:そんなことがあったんですか?

森川:はい。その時にソーシャルメディアが急激に伸びて、そこでLINE、今しかない、今でしょって(笑)、急いで開発して出したんですね。

茂木:開発期間ってどのくらいだったんですか?

森川:1ヵ月半ですね。

茂木:えっ? 1ヵ月半で公開まで持って来ちゃったっていう。

森川:そうです。

茂木:最初のユーザーの伸びってどんな感じだったんですか?

森川:最初はですね、どこまでいくかわからないし、プロモーションもせずに、社内の社員同士で使い始めたんですね。社員はマストで、他は社員の友達とか家族とかに。ただ、そこからものすごく評判が良くてですね、最初からユーザーがグワーっと増えました。

茂木:あ、意外と順調だったんですか。

森川:そうです。ユーザーの増加は、ほぼ下がることはなかったですね。

茂木:リリース後、例えば1週間でどのくらいだったんですか。

森川:もちろん何十万とかはいかないですけど、当時多分、一日で新規ユーザーが1万人いったらものすごい大成功なんですよ。でもそれに近いような数字でわーっと伸びていったので。

茂木:いきなり最初から1日1万人くらいも。

森川:1万はいかなかったですが、かなり良い状況で伸びていきましたね。

茂木:だって今、4500万ユーザーですから、例えば単純計算で1日10万増えたとしても年間で3600万ですから。これ、普通の企業で考えたらすごいことですよね。新規顧客が1日数万人増えるみたいな。

森川:まあそうですね。もう最初から「これは伸びるな」と思いましたね。

茂木:ということは、私はLINEを拡大するためのご苦労をお聞きしようと思っていたんですが、意外と苦労しなかったってことですね、その点においては。

森川:そこに関してはですね。

日本企業は自分の強みに固執しすぎ?

茂木:やっぱりあれですね、人は何回も何回も試みて、その中で、スイングでいうと、1スイング目は空振りでも、2スイング目はチップでも、振り続けてると場外ホームランが来るってことですね。

森川:そうですね。この前社内で……あ、トンボ捕まえたことあります? オニヤンマを捕まえる時の話をしたんですけど、オニヤンマっていつも高い所を飛んでて、なかなか捕まえられないんですけど、一瞬下に降りてくるんですよね。そのチャンスをどう掴むか、って話をちょっとしたんですけど。

たぶん、チャンスが来るタイミングってのは人それぞれ同じくらいの数あるんですけど、その時に備えてるかどうかが、成功にとって重要かなと思います。

茂木:なるほどね。おそらくLINEはこれからもすごく伸びていくと思うんですけど、もうちょっと広く見て、日本からなかなかそういう新しい産業の革命みたいなことが起こりにくい。特にインターネットはアメリカ発の企業が多くて、日本を含め他の国もなかなか難しいぞって言われてきた中で、LINEが成功したその経験から、何が大事だって思いますか。

森川:昔、よく社内で議論してたのが、アメリカのサービスというのは、ある意味むかしのフォードのような、あるひとつのモデルを作って、それを安く早く世界に送り届けると。その次に出てくるのが市場の細分化で、成長した中でそこに合った、よりオリジナルなものが出てくる。

なので、僕たちに必要なのは、その市場のニーズを理解して、それに合った最適なものを出すことだ、と理解したんです。それで僕たちは日本で成功して、今度は海外でも同じことをやっているのかなと思ってまして。おそらく現地のニーズを知ることが、大事だと思うんですね、当たり前なんですけど。自分たちが作りたいものを作るんじゃなくて、やっぱり、求められているものを作らないといけないんじゃないのかなと思ってます。

茂木:今の話をうかがっていると、意外と日本メーカーが今までやってきたことと、本質的に変わることではないということですよね。

森川:そうですね。よく議論するんですけど、何かやるときにすぐ「自分たちの強みはこうです」ってやってしまう。けど、強みはどうでもいいんですよね。求められてるもののために、強みを捨てなきゃいけないってことが常にあると思います。

茂木:深い!

森川:はい。それが出来るかどうかですね。

茂木:それだね。よく、過去の成功体験に捕われてしまう、って言い方をしますけど、ひょっとしたら日本は、自分の強みというものに固執して失敗してしまってるところがあるのかなあ。

森川:技術がいろいろあるじゃないですか。この技術を使わないと勝てないみたいな。でもTooMuchだったりする場合が多いですよね。それを使おうとするとスペックが高くなる、時間もかかる、みたいな。シンプルなものが今、求められてるんじゃないかと思いますね。

茂木:シンプルが求められてる。確かにLINEはサクサク動くもんなー。LINEのメッセージ、スタンプをパッと打った時の、レスポンスの早さっていうのがね、ユーザーとしてはすごいありがたいんですが、そこですね。

森川:シンプルさとか、気持ち良さみたいなところが重要かなと思いますね。

茂木:いやいや、この番組でこんなに価値のある放送をね。

森川:いや、堅くてすみません。

茂木:みんな、メモっときなさい。森川さんの言葉は本当にね、お金払ってでも聞く価値があるっていう。

両立は非効率! なにかを"捨てる"度胸がみんなをハッピーにする

茂木:ラジオネーム「ぴかりん」さんからご質問が来ててですね。入社して10年経って、余裕もあって、結婚して子どもも育てて頑張ってるんだけど、要するに両立が難しい、という。趣味・仕事・家庭、現代人はいろんな両立が難しくって、昔はアーティストのライブも行ってたのに、最近は行けないな、と。どうしたら両立出来るでしょう、というご質問なんですが、いかがですか?

森川:そうですね。ちなみに僕は両立はしないようにしてます。

茂木:えっ? どういうことですか?

森川:なぜならば、人間やっぱりひとつのことに集中したほうが、パフォーマンスが出るんですよね。なので、何か捨てないといけないんじゃないかなって思います。

茂木:あー、これね……。

森川:まずいですかね?

茂木:いや、いいと思います。前半でもお伺いしたんですけど、意外と「捨てる」ってことが大事だと。生活をシンプルにするっていう。

森川:あの、家庭を捨てろってことじゃないんですけど(笑)。

茂木:そうですよね、さすがにそれはちょっとね(笑)。

森川:女性であれば、家庭のお掃除とか、そういうのを外部の方にお願いするとか、たぶん一番それに集中したほうが、みんなハッピーになるんじゃないかなと思います。

茂木:僕ね、今わかりました。ペースを作るってことかな。思うんですけど、おそらく「ぴかりんさん」は頑張り屋さんで、仕事も頑張ってて家庭もやってて、お子さんも一生懸命育てててっていろいろあるんで、ちょっと心の余裕とかなくなってるかもしれないですけど。「断捨離」って言葉がありますけど、ちょっと整理することで、よりひとつのものへのクオリティーが高まるみたいな。

森川さんの場合、今、仕事以外は捨ててるってことですか?

森川:一言で言うと捨ててるんですけど、僕よりすごい人に任せるってことですね。すごい人に任せるって、ある意味すごい人を活かすということだと思うんですよ。自分が全部やろうと思うと、すごい人は活きないんですよね。なので、僕の生き方はすごい人を探すことですね。

茂木:で、自分はまた違うことに集中しようっていう。

森川:そうです。これでも、音楽に近いんですよね。ドラムたたきながら、歌いながらって正直無理だし、良い音楽作れるかっていうと、違いますよね。

茂木:確かにバンドってそうですもんね。それぞれポジションがあって。これでも、森川さん、若いときからそういう風に捨てるってことが出来たんですか。

森川:もちろん昔はそうじゃなかったんですけど、結局、時間には限界があるので、時間を有効に使おうと思うと明確にやることを整理しなきゃいけないかなと思いますよね。そういう時に、いろんな人がサポートしてくれて、かえってそこでいい結果が生まれたので、すごい人に任せるということがお互いにハッピーかなと思いますね。

茂木:この任せるっていうのは、ある意味信頼関係ってことでもあるし。森川さん今、あれですか、僕の理解では、経営者ってのは意思決定するってのが一番重い役割かなと思うんですが、そのあたりに集中してると。

森川:そうですね、2つあると思います。自分で決めるということと、決める人を決めるってことです。自分が決めるよりも、良い決定をする人っているんですよね。ある特定の分野において。そしたらその人に、決める分野を任すと。

茂木:権限を与えてってことですね。

森川:はい。

茂木:それもまた、大変な仕事ですよね。こいつに任せられるってのを、判断するのも大変ですよね。

森川:なので本当に、最初に人を見るとか、人を探すとか、人と繋がるとか、そういうところが、仕事において重要かなと思いますね。

茂木:それって、まさにLINEの命題でもありますよね。人と繋がるってのは。

森川:そうですね。そういう意味で僕たちがそういうものを生み出して、それが仕事にも活きていて、相乗効果で良くなってるっていう実感はありますね。

森川氏が醸し出す、「ゆるキャラ的なリーダーシップ」とは?

茂木:今までいろいろお話を伺ってきて、今日、ぴかりんさんの質問にもお答えいただいたんですが、僕はやっぱり森川さんにこの番組のテーマ「夢」を聞きたいですね。どういうことが夢ですか?

森川:今はLINEというものが、世界でナンバーワンのサービスになるってところが大きな夢かなと。

茂木:これイメージ的には、もう、twitterとかFacebookとかと並ぶ、あるいはそれを越えるものにしたいってことですよね。

森川:はい。そうですね。

茂木:すごくないですか、それ。

森川:世界中の人みんなが使ってる、くらいまでいきたいなと思います。

茂木:それ自体、ものすごい大きな夢ですよね。大変なことになりますよね。マーク・ザッカーバーグの横に森川さんがいる、みたいな感じですよね。

森川:まあ、あの……わからないですけど(笑)。

茂木:(笑)。フォーチューン誌で森川さんが表紙になるってイメージですよね。それすごいですよね、でも。

森川:でもちょっと見えてきてるんですよね。

茂木:僕もすごく期待しております。それやっちゃったら、その後どうされますか?

森川:まだ考えてないです(笑)。

茂木:(笑)。そうか、僕でも、googleに会議で行って、セルゲイ・ブリンみたいな人見てると、学生からすごい変わってないような感じですよね。一方、ビル・ゲイツさんってのはオタクを絵にしたような方ですよね。

一方、マーク・ザッカーバーグさんってのは、ある種アグレッシブなんだけど、やっぱり基本的にオタクみたいな。で、スティーブ・ジョブズさんがいたでしょ。今まで世界のパラダイムを作った、ベンチャーの起業家って何となくイメージがあるんですけど、森川さん、その誰とも違いますよね。

森川:まあ、アジアらしいスタイルっていうんですかね。

茂木:誤解を恐れずに言うと、「ゆるキャラ」っぽいっていうか。

森川:(笑)。でも何かその、音楽とスポーツだと勝ちパターンが違うように、アジアにおいてはほとんどダイバーシティ(多様性)がない世界じゃないですか。だから、あまり何かを主張して巻き込むというよりは、感じながら一緒に広がって行くというところが、まずベースに。

ただ、それが日本から出るとまた違う国の人たちがいて、これもそのスタイルに巻き込むことによって、今までと違うリーダーシップが取れるんじゃないかなと。

茂木:いいですね、インスパイアされるんですよね。何となく今まで、ベンチャーっていうとアメリカ的なスタイルしかないと思ってたんだけど、森川さんがLINEで、また違うベンチャーの成功のスタイルを示してくださると、それが我々にとってのドリームになるのかなって。また期待しております。

今日は、LINE株式会社の代表取締役社長森川亮さんにお話を伺いました。ありがとうございました。

森川:ありがとうございました。