PayPayのサービス開始のきっかけ

Aditya Mhatre氏(以下、Aditya):簡単に自己紹介させてください。私はAdityaといいます。みなさんには初めてお会いすると思うのですが、どうぞAdiと呼んでください。

私の簡単な経歴ですが、私はPaytmから出向しております。Paytmというのは「Pay Through Mobile」ということで、モバイルを使った決済を表しています。インドの会社で、ほかの国でも会社を作っています。

私はプロダクトチームを管轄しているのですが、プロダクトマネジメント、プロダクトデザイニング、プロダクトエンジニアリングの3つがproduct divisionで行われています。エンジニアチームはバックエンドとフロントエンドに分かれています。

PayPayの前は、Paytmのカナダにおりました。その前はインドのPaytmにいました。以上が自己紹介になります。

PayPayにはPaytmからの出向者が何名かいて、技術面で協力しています。重役会議のあとのランチで、ある役員の人が「こんなサービスはおもしろいんじゃないか」というピッチを始めたんですね。「Paytmを日本もやったらいいんじゃないか」という話でした。ですが、「そんなことあるわけないじゃないか」「日本でキャッシュレス?」という話になりました。

日本をマーケットにするというアイデアはそのときが初めてでした。日本のイメージといえばテクノロジーが進化していて、様々なものが自動化されているという感じですが、そんな日本はいまだに現金主義。「確かに日本でキャッシュレス事業を始めるのはおもしろいかもしれない」となりました。

キャッシュレスといったプラットフォームは、当時の日本では、まだ確立されていませんでした。キャッシュレスがプラットフォームになるためには、ユーザーグロースと加盟店の開拓、両面を同時にグロースさせる必要がある。このやり方は、インドでのやり方と同じだったので、この問題もうまく解決できるのではないかとアイデアがまとまり、「じゃあPayPayを立ち上げよう」ということになりました。

さまざまな企業のノウハウをPayPayに結集

「なぜそもそもキャッシュレスを日本で始めるのか?」「どういうふうに始めたらいいのか?」と考えたときに、すでに日本でも一般的になっていたクレジットカードの場合を考えました。クレジットカードの場合、5パーセントから2パーセントなど、少し(手数料として)チャージされますよね。そして、どんどんそのクレジットカードの手数料がお店にとって増えていっているわけですね。

なぜかというと、アメリカなどもそうですが、誰も疑問に思わず、利用できることに慣れると、どんどんクレジットカードの使用率が上がっていくんです。それだとお店はキャッシュレスの手数料に売上が取られてしまうので、現金のみ使えるお店が多くなってしまう。そういった声を実際のお店からヒアリングして、であれば、「PayPayは0パーセントの使用料で始めればいいじゃないか」というメインアイデアでスタートしました。

また、コンビニや小さな店舗も含めて全国各地の店舗を幅広くカバーしていくためにはどうするかというところで、ソフトバンクの協力が加わってくるわけですね。非常に優秀な営業チームを持っていて、ノウハウがあるということで、そこで協力をしてもらいました。ソフトバンクは、出資しているだけではなく、より重要なセールスやマーケティングのノウハウを提供してくれています。

ほかのパートナーとして、当然ヤフーがいますね。ヤフーは多くのカスタマーへのアクセスがあります。新規にカスタマーを得るのはすごく難しいんですが、ヤフーを通せば、チャネルがすでに作られているので、それを活用することができます。それを最初にフックとして使いました。

その後、どうリテンションを高めていくかというところも課題ではあるんですが、実際に非常に多くの人たちが加盟店に行ってサインアップしてくれました。そうしたことによって、私たちのかけなければいけない費用が下げるわけですよね。そこは非常に有利でした。

Paytmに関しては、技術提供をしてくれているのですが、技術だけではありません。過去にインドとカナダで展開していくにあたって、いろいろな失敗をしているわけです。その失敗から学んだ経験やノウハウも提供してもらっています。

ほかにも、カナダのオフィスの中にビッグデータ・マシンラーニングを専門でやっているチームがあって、そういう情報やノウハウをすべて結集して、今のPayPayを作り上げていったわけです。

PayPayの成功のカギ

PayPayの成功のカギですが、「決済回数」を一番重要なKPIとして考えています。どれだけの人が何度も使うか。例えば、クレジットカードは手数料を取りますよね。なので、その1回の使用額が大事になってくるわけですが、PayPayは決済手数料が0パーセントなので、使用金額がマネタイズに直結してくるわけではない。じゃあどうすればいいかというと、使用頻度を上げていくしかない。

※2020年3月時点

使用頻度を上げるためにはどうすればいいかということですが、まずオフラインからスタートしました。そうすることによって、ユーザーが加盟店で使う決済方法としてPayPayのほうがいいんだと思ってもらえる。それを確立したところで、今度はオンラインに移っていきます。

ここではさまざまな新しいバリューを提供していくのがメインだったわけですが、例えば、加盟店への支払い方。もしくは、請求書の支払いであるとか、P2P、人と人の間での送金などを可能にしていく。こういう選択肢を増やすことによってユーザーをどんどん増やしていこうということでトライしたわけです。

※2020年3月時点

ただ、PayPayというのは単なる決済のサービスを提供する会社ではありません。先ほど言いましたが、プラットフォームになることを目指しています。そのためには、PayPayを多くの人にたくさん使ってもらうことが大事です。そのなかで、ユーザーのライフスタイルにいかにして食い込んでいくか。そうすることによって、決済だけに特化したサービスでなく、スーパーアプリとしていろいろな領域をカバーしていくのが大事だということになりました。

例えば、実際にもう提供しているのですが、「DiDi」の配車サービスもその1つです。そのほか近々展開していく予定なのが、注文システムですね(2020年4月発表のPayPayピックアップ)。PayPayを使いながら飲料水などの食べ物などを注文できるようになる。そういったことを一つひとつ順次展開していこうと思っております。

手数料0パーセントでどう収益をあげるのか?

Aditya:今までの段階で何か質問等ありますか?

質問者:決済手数料が0パーセントとおっしゃっていましたが、今後もずっと使用料を0パーセントのままにするつもりなんですか?

Aditya:未定です。2021年9月末までは0パーセントとしていますが、ビジネスですので、当然ながら……ただ、使用料を少し上げることだけで収益をあげようとしているわけではありません。例えば0パーセント以下にすることもあり得るかもしれません。

そうするとビジネスとしてはまったく成立しなくなってしまうのですが、0パーセントもしくはマイナスのパーセントかもしれないということはお伝えできます。

ほかに何かありますか?

質問者:そういうふうに0パーセントもしくはマイナスにするというと、どこで収益をあげていくんでしょう?

Aditya:例えば、DiDiの配車をするたび、DiDiから数パーセントのキックバックを受けています。居酒屋で飲んでいて夜中の1〜2時過ぎだとします。そこでDiDiを配車をしよう、もしくはタクシーを使おうとなったときに、PayPayが必要になってくるわけですね。

マーケティング戦略みたいなものですが、ほかのサービスを紹介して、広告料をいただく、みたいなビジネスモデルも考えられると思います。

ほかにもいろいろなサービスがあります。例えば、日本は年に2回ボーナスが出る企業が多いと思うのですが、何かを買おうと思ったタイミングがボーナスのタイミングと合わないかもしれない。そうしたときに、例えばボーナスが出たときにまとめて支払えるサービスを展開していくことも考えていますし、そこで収益をあげることも考えられると思います。

あとは、投資も考えられると思います。いろいろな分野に出ていこうというのが今のところの計画です。

日本って収益の中でファイナンシャルのレートがすごく低いんですね。なので、そこをどうやって上げていくか、そうすることによってマーケットを拡大していくか、加盟店だけに特化したのではないサービスを展開していくか、というのが今後の計画になっております。

質問者:「PayPay Investment」というサービスを展開するということですか?

Aditya:そうですね。そういう可能性もあるという可能性を示唆させていただきました。

質問者:日本には多くの外国人の方がいます。現時点でPayPayアプリは日本語のみのサービスですが、いつ英語版を始めるかが知りたいです。

Aditya:この質問はよく受けます。英語のバージョンは今ちょうど作成中ですね(2020年6月より対応開始)。英語だけではなく、他の言語の対応も考えています。

質問者:それも全部スーパーアプリとしてのサービスを展開をしていくということでよろしいですか?

Aditya:そうですね。決済だけではなくスーパーアプリでの展開を考えています。もちろん最初はペイメントのサービスに特化したものになりますが、ここからスーパーアプリとして拡大していきたいと思っております。

多国籍なプロダクトチームのコミュニケーション

Aditya:以上が私たちがやっているビジネスについての説明なのですが、次にプロダクトチームの説明をさせてください。

プロダクトチームの約40パーセントぐらいの方が外国籍の方ということで、公用の言語は英語と日本語です。僕はいま日本語を学んでいるのですが、エンジニアでは外国語、英語を学んでいる人もいます。

いろいろな人が入社してくるのですが、多くの人から「英語で仕事がしたかったけど、日本でどうやってやっていけばいいか」という質問をよく受けます。仕様の文書化については英語で、そのほかにもプレゼンなり会議なり、そういうものはすべて英語で文書化しています。そのほかにも、もともと英語のものは日本語にしていきます。

世界中でいろいろなカンファレンスがあると思うのですが、そういうものはすべて英語で行われているわけですね。それが翻訳されて日本語になるまで、6ヶ月ぐらいかかります。なので、そうした環境のなかで、英語を学ばないと大変だというのがエンジニアの中で共通認識としてあるわけです。PayPayは英語が公用語になっているので、そういうところで仕事をしたいというエンジニアが多くいることに、最近になって気づきました。

私たちは後発でマーケットに参入したので、今後も新しく機能を追加していこうという計画です。ただ、そのためにはいろいろなタスクをやっていく必要があるわけです。そのタスクを細分化していきます。

日本のエンジニアには「質をちょっと妥協しても、まずすべてのタスクを終わらせることが大事だ。目の前のタスクに集中することが大事なんだ」ということをよく言い聞かせています。例えばセキュリティ、もしくはスケーラビリティ以外のことであれば改善を加えていくことが可能であるということを一生懸命伝えています。それをいかにしてわかってもらえるか。とくに、日本の市場に理解してもらえるまでに時間がかかりました。

ただ、PayPayのアプリが出てから、その結果を見て「こういうふうに開発していく手法もあるんだな」とわかってもらっていると思っています。

そういったことを可能にしていくためには、「間違いを犯してもいいよ。だけど、あとで改善をしてね」ということをエンジニアに伝える必要があって、それを常日頃気をつけて行っています。

日本にある多国籍企業ですが、そうした環境の中でいろいろな人が、日本語がしゃべれないとなったら例えば同僚でわかる人に翻訳してもらうとか、いろいろな方法を模索してコミュニケーションをとっています。このように、プロダクトチームでは、まずそもそもコミュニケーションをとろうという意思を持つことが大事で、その意思を持っていない人は、チームには必要ないということを言っています。

「率直に本音を言う」文化

その次に「Be Sincere」。このSincereとはどういう意味かというと、率直に言ってね、思っていることをそのまま言ってねということです。回りくどい言い方をして本音を言わないというのではなく、「正直に率直に言ってね」と言っています。

いろいろデリケートな表現が必要なときもありますが、要点をズバッと言うのが大事であると。例えば、もし仕事にコミットすることができないというのであれば、ほかの人に無理だというのを伝える。そういうふうに率直に正直であることが必要だよということを言っています。

その他に、プロダクトチームで重要視しているのが、Company First という考え方です。例えば「フレームワークはどう考えたらいいか?」となったときに、一番最初に「PayPayにとっていいものは何か?」、次がチーム、一番最後が自分たち。その優先順位で決めてほしいと考えています。

同様に、「Ego is not welcome」。そのままですが、エゴは勘弁してくれ、いらないよと言っています。PayPayは非常にフラットな組織で、エンジニアはあまりジョブの肩書がないんですね。僕がいて、プロダクトマネージャーがいるだけ。シニアプロダクトマネージャーという肩書きすらないんですね。「そもそもそれは何だ?」という話になりまして。

テクニカルチームに関しても同じことが言えます。モジュールリードがいて、テックリードがいるのですが、ほかはソフトウェアエンジニアという肩書のみなんですね。

当然、メリット・デメリットがあるんですが。なので、そもそもここで言いたいのは、この地位を上げる、地位を上げることでその肩書に合わせた仕事をさせようということではないということです。今のところ、そのフラットな組織は非常にうまくいっています。私は時々言いすぎてしまうことがあるのですが、そこもお互いに認識してうまくいってるなと思います。

ワークライフバランスの考え方

最後ですね。ここが一番大事なのですが、「なぜPayPay入りたいのですか?」という質問をしたときに、例えば「直近の仕事でちょっと退屈している、いい仕事がない」と答える候補者がよくいます。すると、オファーをする段階になって、今度は「福利厚生が悪いな。フリーランチがないの?」と言ってくるわけです。

僕にしてみれば「フリーランチっていったいいくらなんだ?」という話ですよね。それを計算して年収に入れてあげたら、それで自分で買えばいいじゃないかと。「年収に含まれているでしょ?」という。

なので、「いい仕事を与えることができるけれども、マッサージもフリーランチもないよ」という話なんですが、いい仕事がしたいというのであれば、いい仕事をしなければ意味がないわけですよ。

例えば、サービスローンチをしてから最初の3ヶ月は、本当に大変だったんですね。一番最初なので、80人のうち40人ぐらいが日本人で、まったく知らない、会ったこともない人たちと会って、いきなり3ヶ月後にサービスをローンチしてくれと言われたわけですよ。でも、うまくいってサービスをローンチできました。

そうした、さまざまな困難の中でプロダクトがここまで大きくなった、ということがあった結果、ありがたいことにいろいろな方がPayPayに入りたいと言ってくれるようになってきたのですが、「入りたいけど9〜18時の仕事がいい」と言うんですね。そううまくはいきません。PayPayというのはそういう、大変なこと、困難なことをやり遂げてきているだけあって、それはなかなか難しいということは言っています。

ただ、そうは言ってもワークライフバランスはちゃんと考えていて、家族のことや付き合いがあるというのはわかっています。例えば、子育てを始めたばっかりのお母さんは早く家に帰って家族のケアをしなければいけないということは重々承知しています。

ただ、それであれば、フリーランチ、フリーマッサージが欲しいなどということは言わないでほしい。そのあたりのバランスが大事ですよね。たぶん私たちのCEOも同じことを言っていると思うんですけれども、そういうことを理解してくれる人材を開拓していきたいなと思っています。