経理はあらゆるビジネスに共通した課題

藤本泰輔氏(以下、藤本):今回freee様と当社が業務連携をし、そのご縁もありまして今日はfreeeの佐々木社長にご講演いただくことになりました。

私はウイングアーク1stのCFOをやっております。なぜここで私がお話ししているかと申しますと、今日、佐々木社長にご講演いただく「2030年 未来のバックオフィス」ということで、非常に興味を持って聞かせていただきたいということと、少しお話もしたいと思いまして、ご紹介をさせていただいております。

ではさっそくですけれども、佐々木社長、よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

佐々木大輔氏(以下、佐々木):どうも、今ご紹介にあずかりましたfreeeの佐々木と申します。

簡単に自己紹介をしますと、私はfreeeという会社を立ち上げまして、中小企業のバックオフィスの自動化というテクノロジーへの取り組みをこの5年間やっております。

やろうと思ったきっかけについてです。私はこの会社を立ち上げる前にGoogleで5年くらい中小企業向けのマーケティングをやっておりました。そこでインターネット広告を中小企業に広めるという仕事をしていたんですけれども。

その中で、アジア領域全体の責任者をやるようになりました。日本の中小企業のテクノロジー化をもっと広い世界の視点から見ていくと、「これ、このマーケットにこれから先どんどん投資できるのかなぁ?」と、すごく疑問に思うことがあったんですね。

それくらい中小企業に新しいテクノロジーが入っていくペースは、世界的に見てもすごく遅かった。この状況を広告という必ずしもすべてのビジネスに必要だというわけではないソリューションを中心に変えていこう、というのはなかなかできないんじゃないかと。

なにか新しいことができないかなと考えていたときに、前に東京のベンチャー企業でCFOをやっていたことを思い出しました。そのころ自分の社内の経理や財務を見る、資金調達をする。それから会社全体の構成を作る。こういったようなことをやっていたんです。

当時、自分のチームの経理担当が1日中手作業で入力の仕事をしている状況がありました。それを見るのが耐えられなくて「なんてもったいないことをしているんだ」「これは本当に人がやる仕事なんですか?」と言って、徹底的に「なぜその入力業務が必要なのか」を分析してみたんです。

その結果、わかったことは「なんとこの1つひとつの入力業務は意味があるだろう」でした。まったく無駄というものはないんですね。意味があって、無駄がない。

では、なにに限界があったかと言うと、会計ソフトに限界があった。その問題をふと思い出して「経理というのはすごくおもしろい問題だな」と思いました。というのは、経理はあらゆるビジネスに共通している課題で、どんなビジネスでもやらないといけない。

では、誰でも簡単に自動化できるものを作れたら、あらゆる会社で利用いただけるものになっていくだろうと考えたのです。そういう世の中全体を変えるためのレバーとして、中小企業向けのバックオフィス業務は非常におもしろい領域だなと思って、この5年間粛々と取り組んできました。そういったバックグラウンドです。

バックオフィスのAI化で働き手が143万人減る

佐々木:今日はこの先の未来、スモールビジネルのバックオフィスにどんなことが起こっていくのか、そういったことをテーマにお話させていただける時間をいただいているんですけれども。

2030年になったときに、なにが起きるのか? いろいろなテクノロジーの文脈を考えてみたときに、今までいろいろなものが出てきましたよね。私が一番おもしろいなと思うのは、実はこういったものの前提となっているパソコンです。

パソコンは、日本において25パーセントの世帯普及に至るまでに何年かかっているか、みなさんご存知でしょうか? 実は22年かかっているんですね。

ところがスマートフォン、iPhoneは2007年発売となっています。これが25パーセント世帯へ普及するのに、実は3年しかかかってないんですね。22年かかっていたものが、今3年で広まる。そのようなペースで世の中のテクノロジーは変わってきている。

「パソコンだ」「クラウドだ」「スマホだ」ときて、じゃあ今どんなことが言われているんだろうとみると、僕が思った通りにきているのはAIだと思います。自動運転にはじまり、それから囲碁もAIのほうが圧倒的に強い。こういう時代になってきているわけです。

世の中、考えつくようなことというのは自動化される。そんなことは2030年までにはほぼ達成されている。おそらく「これは面倒くさいから自動化しようかな」ではなくて、さらにその先の「あなたはこういうことしたほうがいいんじゃないの?」というアドバイスとか、インテリジェンスをAIが持ち始める。

これがおそらく2030年といったスパンでは必ず起きていく変化なんじゃないかなと考えています。

その結果としてなにが起こるのか。バックオフィス業界はとかくコンピュータに置き換えられる、AIに置き換えられる。こういうことを徹底的に言われ続けているんです。

日本では、143万人というキーワードがあります。これはどういうことかと言うと、2030年までに、AIによる影響でどんな職業の需給バランスが変わってくるのか。こういうことが予想されているんです。

その中でバックオフィス要員は減少すると言われていて、143万人減る。一方で、販売業務など、コンピュータに置き換えられないような高度なコミュニケーションスキルが必要な分野については人が増えてくるだろうと。このような予想がされています。

事実、いろんな会社が「どれだけ業務の効率化ができているか」に関連して、大きな人員削減が発表されているわけなんですけれども。最近はとくにメガバンクさんですね。大きな人員削減が発表されていて、三菱東京UFJ銀行では1万人削減、ちょうど今週発表されているのが、みずほグループで2万人削減。合わせて、3万人の削減が発表されているんですね。

さっきの143万人が大きなピクチャーではあるものの、その中で2030年までと言わずとももっと早い段階からバックオフィスの分野に関して人を削減していく流れはもうすでにできていると思っています。

バックオフィスを進化させる上で求められるもの

佐々木:とはいえ、人が減るというだけだと思うので、結果としてどんな変化が起きていくかを考えていきたいなと思います。

もう1つ、先ほどの何万人も削減すると発表しているのは、実はこれは大企業だけということです。小さいビジネスにおいてもこの2030年はどう訪れるのか。これも考えていきたいと思います。

まず、これまで日本の中小企業はなかなかテクノロジーが入りにくかった。「クラウドとか言っても、中小企業のおじさんおばさんにはわからないんだよ」と私も徹底的に言われてきましたし、もちろん新しいテクノロジーを広めていくことは簡単ではないと私たちも実感してきているところです。

ただ、例えば中小企業の経理という仕事に注目したときに、その中でルーティンではない仕事、簡単に即機械やコンピュータに置き換えられない仕事ですね。それは、3割ほどしか存在していない。あとは自動化できる仕事になるわけですね。

これだけ自動化して削減できる仕事もあるんだけれども、現実はそうなっておらず、残念ながら中小企業の生産性は、日本の中でも大企業と比べると非常に低い。これは世界と比べても日本の中小企業の生産性は、やはり低い結果になっています。

テクノロジーに置き換えられていく仕事は、さらに労働人員の削減の対象になってくる。ここから更に生産性を上げていくという考えは、中小企業の場合には、先ほどの非ルーティン作業である3割にフォーカスできる未来ですね。即アクションしていくことによって、なんとか大企業と同じレベルにできる状況だと思います。

では、こういった小さな会社小さなビジネスにおいても大企業と同じ、あるいはより進んだバックオフィスを構築していく上でなにが求められるかを、考えていきたいと思います。

バックオフィスを支えるプレイヤーだからこそのこだわり

佐々木:私たちはこの5年間、最初は3人から始めて今では400人を超えるような会社に成長してきました。その中で、この成長を維持していくための足腰を作っていくというところで、大きなお金をベンチャーキャピタルから集めてくるなど、いろいろなことがあったわけです。

やはりこの成長を支える社内の屋台骨を作っていくところには、自分たちがバックオフィスを提供するプレイヤーだからこそ徹底的にこだわってやってきたんですね。

これは大きく3つのステップというか3つの考え方でやっています。実は3つ目というのは、まだ見えていないところになるので、まず2つ。

1つ徹底的にこだわってやってきたことは、「クラウドを徹底的に活用しよう」です。それ以外は使わない。私たちの会社のパソコンにはセキュリティ向けの対策やセキュリティのソフトウェアはしっかりインストールしてありますが、ある時点までは、セキュリティ関連のもの以外はなにも入っていない状態で、新入社員が入るとノートパソコンだけを渡します。固定電話機など、そういうのも当然ないんですね。

これは、すべてソフトウェアは基本的にはクラウドを使って回るようになってますし、エクセルでさえみんな入ってない。電話ですらパソコンからかける。あるいは、人によっては携帯電話を持っているわけです。

そういったかたちで、すべてクラウドサービスでやっていくことによって、新しいPBXを買ったり、ハードウェアにとらわれたりせずに拡大することができ、ライセンス管理も簡単に行っていける。こういった意味で、全体の業務効率化もそうですし、組織が急成長するといった中でのソリューションもすべてクラウドのツールからやっていくことをベースに取り組んできました。

私たち自身が今、クラウドのERPとして会計・人事労務の分野を徹底的に自動化しています。それらのツールをfreee のユーザーとして一番活用していこうという意志を掲げてやってきた。これも社内のバックオフィスを徹底的に効率化することに役立ってきました。

また、freee自体がこの先のAIを活用してどうやって経営をよりよくすることができるかという課題に取り組んでいきたいと考えています。freeeは現在従業員400名、いろいろヒアリングしてみると、同じ規模の会社であればだいたい経理や人事労務担当は3人から4人くらいが通常だと言われている中で、freeeにおいては1人でフルタイムじゃない状況でも回すことができる。そういう体制を実現することができています。

では、これで単に人を削減できたらそれでよいのかと言うと、実は答えは違うところにあるんじゃないかなと私たちは考えています。

効率的にバックオフィスの仕事をする、単純に経理として数字をまとめるという作業については今までより圧倒的に人は減りました。人事労務に関しても、従業員情報をまとめるという作業は圧倒的に人は減りました。そして「バックオフィスコストが減りました。万歳」と思っているかと言うと、実はそういうことではありません。

この分のリソースはもっと攻めに回すようなかたちでやっていくのがいいんじゃないかなということで、これまでfreeeで取り組んできていることを簡単にご紹介しようと思います。

必要なデータは簡単に集まる状態を作らなければいけない

佐々木:まず大きく2つあります。

通常、「経理」と言われるようなチームを、私たちは経営ナビゲーターチームと言うんですね。これは社内外のあらゆる情報を用いて経営の仕組みをサポートするチームだと。

今まで経理と言われていたのは、社内のデータを集めてそれを会計というかたちでまとめる。これが仕事だったんです。しかし、せっかく社内から集めたデータを持っているなら、会計だけで終わる必要はないなと、集めた情報を課題特定や投資判断にどう生かしていくか、こういったコンセプトでもっと広い扱いをしています。

一方、人事ですね。コンセプトじゃないですけど人の事と書いて、なにをする人なんだろうと。本当に今の時代、優秀な人を採用することは一番大変なことですが、採用できたメンバーがベストなコンディション、ベストなマインドセットで仕事ができる、これは本当に生産性に影響することなんだけれども、十分に投資されていない部分ですよね。

「なにをしているんだ」を明確にしようということで、メンバーサクセス。従業員のみんなが成功する、最大限のパフォーマンスを発揮できる。この状態、この環境を作ることに責任を持つチームです。大きくfreeeのこういった2つのバックオフィスのチームを設定して取り組んできています。

まずは経営ナビゲーターチームがどういうことをやっているかを見ていければと思います。私は以前Googleで、最初はデータサイエンスチームというところにいました。

Googleにはいろんなところにデータサイエンスチームがあるんです。あるとき、たまたま研修で一緒になった人がファイナンスチーム……いわゆる経理財務のチームですよね。そのデータサイエンティストだというので「なにをしているんですか?」と聞いたら、「サーバーのトラフィック提供促進」と。

もちろん、これはGoogleにとっては死活問題なんですね。サーバーのトラフィックを今後予想する、それに対してなんのハードウェアをこれから買っていかなきゃいけないのか。

これは非常に大きなコストアイテムですので、その予測をするためにPh.Dを持ったすごく優秀な人がいろんな予測モデルを試しながらやっていたんですね。その予測モデルをどう作っているかという話を聞いて、「うわぁ、ここまで徹底的に投資されてるんだ!」と思いました。

私たちが最近考えている中で、経営者の視点や経営学は当たり前のことですけど、非常に重要なポイントとして必要なデータは簡単に集まってくるという状況がないといけない。それを可視化するコストがかかってしまうと意思決定するというところまで結びつかないので。

データを収集して可視化して意思決定する。ここまでを自動化できるなら自動化するし、そうじゃないものはデータサイエンティストのようなしっかりしたスキルを持って分析をする。こういった仕事が今後さらにどんどん求められていくんじゃないかなと思っています。こういった考えでやることによって、より早くPDCAが回るということですし。

実際にどんなプロジェクトを経営ナビゲーターチームで回しているかと言うと、やはり、いろいろなシナリオを想定して、その分析に時間を費やしています。今、私たちは約100億円を資金調達して投資しています。それがどんな売上につながっているのか、それぞれの顧客セグメントで一定の投資をした結果、あるシナリオが起こっていく場合にどんな選択肢をとっていかなきゃいけないのか。こういったことを徹底的にシミュレーションしてやっているんですね。

「重要な意思決定とは?」を並べ、分析を効率化

佐々木:これはみなさんもご存知かもしれないですけれども、freee のようなクラウドサービスというビジネスは、非常に頭を使うというか、非常に計算が重要なビジネスなのです。

どういうことかと言うと、今まではライセンスをソフトウェアとして販売する。これは、売った時点で採算が取れているので、あとは簡単なんです。しかし、クラウドサービスはそうじゃない。クラウドサービスは、販売した時点でのマーケティングコストや営業コストを毎月のサービス利用料を積み上げて回収していきます。

こういったビジネスモデルをとっていると、「そのように予測したライフタイムの通りお客様が残っているか?」「この時点で獲得コストは適切か?」「この獲得コストのままやっていったときに自分たちの持っている資金って十分なの?」と、沢山のパターンでシュミレーションしておかないと思い切った先行投資ができない。その結果として、早い成長を達成できないんですね。

ここについての分析は非常に大掛かりな作業で、こういったところをまず徹底的にやることを経営ナビゲーターチームは取り組んでいます。

また、私たちはカスタマーサポートをチャットやメールを中心に行っています。1年に1回、確定申告の時期になると特に個人事業主のユーザーさんの中から多種多様な問い合わせが短期間にワッときます。そしてユーザー数が一気に伸びる中でも、これをきちんと処理してお客さまに満足いただくために、しっかりその年の確定申告期に適切な量のサポートを確保する。これも非常に重要な作業になります。

まさにここもいろんな予測モデルを立ててしっかりデータから分析し、必要な人員計画を立てています。

あとは営業時間の拡大をすることによって、どれだけ新しい収益が見込めるのか。こういうようなこともいろいろなデータから本当は分析できるはずなんです。しかし、たいていはこんなことをする前に、感覚で物事を進めるしかない。しかし、そういったところに成長の限界がある。

ならば、「そこはアナリストを集めて経営のナビゲーションをするんだ」「重要な意思決定ってなんだ」を並べていくことによって、もっと簡単に意思決定を回せるようにする。こんなことにも取り組んでいます。

テクノロジーで効率化した分、信頼関係を築けるカルチャーを作る

佐々木:一方でメンバーサクセス。この人事労務というのは、こういったテクノロジーを使っていくことによって非常に効率的に業務を行うことができるんです。しかし、この人事労務こそ、片方で効率性を追求するとともに、一方で非効率なことに取り組む。これをやっていくしかないと思っています。

どういうことかと言うと、「人と人との信頼関係と誇れる組織のカルチャー」、これを効率的に作る方法はたぶんないと思うんですね。人と人との信頼関係は、おそらく一緒に過ごした時間やその濃さ。

濃さと効率性は、これも比例します。カルチャーもやっぱりある集団がどれだけ同じ問題に直面したか、あるいは同じ楽しいことに直面したか。なにがいいと思って、なにをかっこ悪いと思うのか。こういうものをどれだけいろいろな角度から共有したか。こういうことでないとやはり信頼関係を作っていけない。

テクノロジーを使って効率化した分は、組織として良くなるための信頼関係を築けるカルチャーを作る時間に割く。こういったところに投資していかない限り、いいカルチャーや信頼関係を短期間に作っていくことはできないんじゃないかと思っています。

そこで私たちが取り組んでいるメンバーサクセスの取り組みも、直接的に効率性を考えるのではなくて、いかに強いカルチャー、強い信頼関係を作れるのか。これをとくに重点課題だと思って取り組んでいます。

ボトムアップでさまざまな取り組みを促進する価値基準委員会

佐々木:なかでも非常に大事にしているのは、freeeという集団で、その一人ひとりが信念にしているというか、価値を感じる部分はどこなのか。これを言葉として定義して、「こういった考え方のもとに仕事をするのが好きだという人間が集まってきている」と誇りを持てるようにするにはどうしたらいいか、そして「だからこそ、それを忘れないよう、どうメンバーに浸透させていくのか」を徹底的に考えて取り組んでいます。

この言葉みたいなものは、ある意味で造語なんですよね。こういう言葉を言っただけで「あ、freee用語だな」みたいなものが社内の人間にはわかる仕組み。非常にオリジナリティがあると言えるような誇りを持って感じることができる、価値になっていくということ。

あとは、こういった言葉はキャッチーになっているので社内のミーティングの中でも「それは理想ドリブンで考えるとこうだ」「自分の考えをあえて共有するとこういうことです」。こういうことがふだんの会話の中で出てくることによって、これらが本当にメンバーの行動に影響しているんだなと感じることができるようになっています。

単にこれだけセットすればできるようになるかというと、そういうことじゃない。やはりしっかり時間をとって四半期に1度は自分たちのチームの行動や、自分たちのチームの成果がこの価値基準に則ってやっていけたのかを振り返る時間をとっています。

確かめてみると「もっとこういうことが足りなかったよね」、あるいは「これってもうちょっと考えられたんじゃないか」など。こういう振り返りというのは必ず出てきてますね。そういったところからどんどん「もっと価値基準をベースに考えていくと自分たちのアウトプットは上がるんじゃないか」と話し合われています。

あとは価値基準委員会を作って、社内でもっと意識を高めていこうみたいなところで、ボトムアップでいろいろな取り組みをしています。これは価値基準委員会の人たちが予算を持っていて、彼らは自由にその予算の中からいろいろな活動をしていく。

社員全員に価値基準委員会からの年賀状を送るなど、そういうことが行われるわけですけれども。従業員からしてみれば、元旦は最初に会社からじゃなくて会社の価値基準委員会からの年賀状が来て「よし、今年もこういうことを考えてやっていこう」みたいなことは非常に意味のあることです。

社内でおもしろいポスターを作ったり、価値基準サイコロみたいなものが社内の畳の部屋に置いてあったりするんですね。これを転がして出てきたお題に対して、自分が最近どんな行動をしたかなどを話す。そんなゲームができるようになっていたりします。

こんなかたちでボトムアップの委員会がいろんなものを作り、自分たちのカルチャーを作っている。

「人がサイボーグ化していく」が重要な時代になる

佐々木:もう1つ、さっき言った信頼関係は、もちろんマネージャーとメンバーが1対1の時間をかけて話すところも重要なんです。それ自体がすごく非効率で時間もかかることですが、それに加えて組織のいろいろなところとつながることも重要で非効率です。

関係構築のための設計として、ご飯も無料で出るし、飲み物も無料で自由に取っていけるようになっている。そして、それらを取る場所が1つの会話のスペースとして使われている。あとはいろいろな社内の部活も推奨していて、それに参加する人も多いし「こんな楽しい活動をしました」と社内のSNSでシェアする。そういうことがいたるところで行われているわけです。

これ自体はやはり非効率です。非効率だしお金もかかる。けれども、こういったところに使える分の投資は、先ほど言ったように、バックオフィスでそれまで人が手を動かしてやっていたことを自動化して削減すれば、それができる余裕をいくらでも作ることができます。

本当にこれから考えていかなきゃいけないと思っているのは、効率化できるところは効率化して、むしろ非効率なところをやっていくことによってそれを強みにする。僕たちの場合には、みんなが会社のロゴが入った同じTシャツを着てくれるなど、そういうのも含めて、あらゆるところが組織の一体感や強さになっていくわけです。

それが組織の信頼関係の強さであったり高度な分析力であったり、こういうところにしっかり投資して使っていくことで、小さなビジネスであっても、より世の中を大きく動かしていける存在になると信じています。

結果として、2015年から3年連続で「働きがいのある会社」の中でもランクインさせていただいているんですけれども。こういった組織への投資をしているが故に、会社の強みになったというのは1つ間違いないところかなと思います。

先ほどの話に戻ります。徹底的にクラウドを活用して、それをデータにつなげてERPとして活用する。その中に入ったデータがAIを通じて次に新しいインテリジェンスとなっていく。これによって、今までの世の中全体の仕事の需給バランスが変わっていきます。

143万人の今までの仕事はなくなるかもしれないけれども、先ほど言ったとおり、実は非効率だけれどももっと会社の強みにつなげるような仕事はいっぱいあるわけなので、こちらにリソースがシフトしてくる。それがまさに本業という会社もいっぱいあると思うので、そういった時代になっていくんじゃないかなと思っています。

そのときに、このAI自体はしっかりデータさえ溜め込んでおけば、それ自身が先ほどの人が一生懸命に分析しているといったところを担っていけるようになる。経営者自身、自分の社内のいろんなインサイトを得ることも、この部分に関してはAIが代わりに見ている。こういったものをどんどん作っていくことによって、人がサイボーグ化していく。サイボーグ化CFO/CHO、こういうことがこれから非常に重要になってくるのではないかなと考えております。

これができるように私たちとしても日々プロダクトを進化させて、いろいろな製品と連携してこういった世界観を作っていくことに取り組んでいます。

こんなかたちでこれから2030年に向けて、自動化できるところは自動化されるし、むしろインサイトがいろいろ得られるような時代になっていくことが、これから私たちが作っていきたいテーマです。

みなさん、ご静聴ありがとうございました。

(会場拍手)

生産性を上げるには「徹底して重複をなくす」

藤本:ありがとうございました。ここからは、佐々木社長に質問をさせていただければと思います。

143万人というのは、大きいのか小さいのかが非常に微妙なラインだなと思いますけれども。その中で御社の経理が400人の社員で0.8人というと、相当効率化されているんだなと思います。

当社は社員が500人くらいで、今経理の実務で3人、4人くらいいます。当然バックオフィスでは御社の製品を使っているところが大きいですけれども、ほかにどれだけのものを効率化しているというか、気をつけながら生産性を上げているのか、なにかございますか?

佐々木:それは経理、人事以外のところですか?

藤本:いや、経理人事ですね。0.8人で400人を回すというのはけっこう大変かなと。

佐々木:1つは徹底的に重複をなくしていくということなんですね。

例えば、マーケティングチームが発注したコストであれば、しっかりマーケティングチームが管理する。経理チームでなくてもマーケティングチームから使ったコストの記録、それに対する支払いの依頼を簡単にかけられるようになっているので。

彼らはある意味、これまで経理が負担していたところの一部をしっかり担う。会社全体として一番効率的なことを徹底してやっているところですね。

藤本:なるほど。経理集中じゃなくて分散して最適化されているような。

佐々木:そうですね。分散して最適化することによって、その取引について一番知っている人間がしっかり判断できる。

もう一方は、しっかり社内の意識を上げる。これを言い続けることは大事かなと思いますね。

藤本:なるほど。ネーミング、経営ナビゲーターというチーム名は、非常に経理をやっている人からしても粋に感じる名前かなと思います。

私もずっと経理畑できたんですけれども、やはりエントリーや入力は……佐々木さんも冒頭で言ってましたけど、大切な仕事なんですけど、やはり単純作業なのでそれがどう使われているのかわからないから名前を変えて新しいところに注力することは非常にいい試みかなぁと。

最終決定だけでなく「今どんな感覚か」も語り続ける

藤本:その中でfreeeさんがやっている、いわゆる財務ですね。どういう投資でどういう回収をしてみたいなところを経営ナビゲーターチームで作られている。それも逆にパッケージ化して売り出すと非常に売れるんじゃないかなと思って(笑)。そういったお考えはないんですか?

佐々木:そうですね、ある程度まとまってきたら考えてみたいなと思います。

最初はやはりいろいろな分析が手探りなので、「毎回毎回するのかな」「これは他社もできるんじゃないかな」といった方向で考えてやっていると、なかなか足元の分析がうまくいかないところがあります。

まずはいろいろなものに取り組んでみて、あるときに振り返ってみて「いろんな会社にも実は適応可能なものはないのか」という視点で振り返るタイミングをつくる。それによってなにか生まれてくるのかもしれないなと思いますけどね。

藤本:両輪と言うんですかね、しっかり実務でやるところと価値基準を非常に大事にされていて、それが浸透されている。私も2回ほど関らせていただいたんですけど、やはり社員の方々と接していると、非常にそういったことを社外の人間も感じるということで。

いろいろ試みをされているんですけれども、佐々木社長自身が社員に向かってメッセージを出すとか、年に1回とか何回とか、そういったところの取り組みはなにかされているんですか?

佐々木:毎週全社ミーティングがあるので、そこでいろんな話をする。あとは状況を伝える時間というものを定期的にとっています。

やはり経営していく中で、少しずつ考えが進化していったり、問題意識がシフトしていったりするということがありますよね。

大事なことは、あるときいきなり「方針転換をドーンとしました」と言っても誰も納得いかないんです。こういうふうに、なんとなく問題意識が変わってきているのは継続的に伝えていく。

そうすることによって「そうか、いろいろ環境が変わってきたり、ビジネスが進捗することによって少しずつこの会社の問題意識が変わってきてるんだな」とみんなに肌で感じてもらう。そうすると「次の年からこっち側を向いてやっていきたいんだ」と発表してもみんなに受け入れられるんですね。

でも、それがないと単に経営陣が勝手に決めたことになってしまうので、「少しずつ感覚が変わっていってる」「今時点でどう思っている」を自分の言葉で語り続けることは非常に重要だと思ってやっていますけどね。

藤本:なるほど。地道というか、それが一番大事なのかもしれない。

佐々木:これも当然、非効率なことなんですけれども。ただ長い目で見ると絶対に大切なことだと思ってやっていることですかね。

藤本:ありがとうございます。

freeeが目指す「人工知能CFO」

藤本:最後に、今「2030年」がキーワードになっていましたので、おっしゃっていただける範囲でけっこうなんですけれども、2030年のfreeeはどういった会社になっていますかね?

佐々木:freee自体が人工知能CFOになろういうのが1つのコンセプトとしてあります。

それが完全に人に置き換わるというよりかは、最後に少しキーワードを申し上げたんですけど、会計分野については人をサイボーグ化するというか、そういうツールになっていくんだろうなぁと思っています。

「この分野に関して資金繰りを最適化したい」ということであれば、そのための施策をすべて人工知能CFOが選べるでしょうし。あらゆる社内の取り組みというか、お金の動きを初動ラインのところからすべて自動で吸収され、それが経営のインサイトとなり、ファイナンスに関しては最適なアクションが自動化できるなど。こういった世界を作っていきたいなと思っています。

藤本:わかりました。今日は本当にどうもありがとうございました。

佐々木:とんでもないです。ご静聴ありがとうございました。

(会場拍手)