手を動かすことを手放さない

古西孝成氏(以下、古西):(スライドを示して)このあたりからはベテラン層として気にしておくこと。手を動かすことを手放さないことです。プログラミングやコンフィグなどの実装を触ることが、役職が上がると少なくなってくると思います。どうしてもリーダーは、調整などに手が取られます。

世の中は変わっていくので、今どういう技術が使われるようになってきているのかがわからなくなると、危険で、本当に説得力がなくなってきます。また、自分の理解力も怪しくなってくるので、チュートリアルだけでもやっておいたほうがいいかなと思っています。

それから、最近歳をとってきて自分がよく思っていることは、労働年数が長期化していることで、自分も1メンバー/スタッフに戻ることが普通にあり得るだろうということです。その時に自分1人でタスクを完結できるのはわりと重要で、求められるかはともかく、そういうふうにはしておきたいなと思っています。

長期スパンでは技術トレンドが変わることに柔軟に対応する

(スライドを示して)あとは、長期スパンでは技術トレンドが変わることに柔軟に対応するということです。20代から60代まで40年は仕事するとすると、最初に身につけた技術だけでは生きられないと思います。

私もネットワーク構築や運用から始めて、ルーター、L3スイッチやサーバー、Linuxが出てきた頃から触っていますが、今は別にオンプレのサーバーを触らなくてもクラウドのほうが重要になってきているので、最初に覚えたことだけでは生きられないなと思っています。

その時に、新しい技術に対応するための柔軟な思考を、身につけておく必要があると思うのですが、覚えるよりは論理的思考と行動が大事だとよく思っています。

論理的思考とは何かというと、AだからB、BだからC、だからAの場合はCだよねとか、Aが確認できていてCになっていないから、ちゃんとBを確認しようねとかいうことです。

新しいことはどんどん出てくるので、聞いたことのない話はいっぱいあるのですが、その時にちょこちょこっとネットで検索して、ああ、だいたいこれはCに似ているな、この部分がCと違うなとか、そういうことがわかっているというのが非常に重要かなと思っています。

あとは、かつて覚えたこと、身につけたことが、正しいわけでもなくて、時代が変わって間違っているということもあるので、そういうのをきちんと更新していく自分でいることも重要かなと思っています。

自分の価値がどこにあるのかを自問自答し続ける

(スライドを示して)自分の価値がどこにあるのかを自問自答し続けることです。長く仕事をしていると、自分はどういうコースを選んで仕事をしていくかをよく考えると思います。マネージャーコース、専門エンジニアコース、技術コンサルタントコース。ITのエンジニアから始めると、こういうところが多いのではないかと思っています。言ってしまえば自分の人生なので、自分で何度もよく考えるのが重要かなと思っています。

(スライドを示して)どういうキャリアを歩むかですが、先ほど言ったようないろいろなパターンがあると思っています。私はSIをやっているのですが、真摯に相手の話を聞き、本質的な課題を引き出し、プロフェッショナルな解決策を導出し、相手にわかりやすく説明し、相手を突き動かしていくことが真の問題解決というのが、この『エンジニアがビジネスリーダーを目指すための10の法則』という本に書いてあります。

私は、これをいい言葉だなと思っていて、こういうことができるようになったらいいな、と思って仕事をしています。ただ、狭義のエンジニアのタスクは、上の解決策に導出というところだけにはなりますし、広義のエンジニアのタスクとしては上記で全部になるので、言ってしまえば、上が専門家、下がコンサルタントかなと思います。

このあたりはどれが偉いとかはなくて、自分がどうしたいか、どういう価値を発揮していきたいか、もっと言ってしまえば、なぜ技術キャリアにこだわるのか、顧客や周囲のメンバーにどういう貢献をしていきたいのか、そのために自分は何ができるのかを常々考えるのがいいのかなと思っています。

(スライドを示して)もっと自分のパーソナルなところに入っていくと、なりたい理想の自分みたいなものは、やはり重要かなと思っています。

なんのために働くのか。みなさん働いている理由があって、生活や家族、やりがいのためなど、いろいろあるかなと思います。

その時に、需要のある仕事をしないと当然収入は得られないわけです。もっと高い収入を得ようとすると、付加価値の高い仕事をしなければ得られません。

この時に、期待する収入と充実感、やりがいと受け入れる自己犠牲のバランスは非常に重要で、いろいろなパラメーターがあります。「稼げるようになったんだけど、私はこんな人生にしたくなかった」みたいになると、それは幸せとは言えないですよね。

大企業でありがちかなと思うのは、キラキラしたキャリアに乗ってしまうと降りられないことです。部長になってしまうと部長の役割を求められるので、エンジニアとしてそんなことをやりたいのではないんだと、自分はキャリアではない道をきちんと考えて、そっちの道に行かなければいけません。

とは言っても、現実は自分が好きなようにはならないわけです。自分の想定外のことがたくさん起こります。そこから目を背けず機会を探っていくのが重要ですし、先ほど言ったように価値観、判断基準を大切にするのも重要かなと思います。

自分が大切にしてきたIdentity・Integrity・Accountability

(スライドを示して)振り返ると、自分が大切にしてきたことはIdentity、Integrity、Accountabilityです。自分がどういう人なのかを、私はこうやって価値を発揮できますよというのをまずきちんと作って、応対してくれる方にきちんと誠実に対応して、かつ、説明責任を果たすことは非常に重要です。

例えばトラブル対応したりする時も、どういう理由があって、どういうトラブルがあって、回復するためにはどういうことをしなければいけないか、きちんと事実と今後の手順を突き詰めて説明していくのはエンジニアには必要だと思っているので、そういうことができるのは非常に重要かなと思っています。

これは別にSIerは関係ないでしょうという話があるのは重々承知です。でも、日本の世の中でSIの会社は一定の責任とタスクを担っているわけで、そういう意味においては私はこういうことをこれまでもやってきたし、今後も求められたらやっていこうかなぁと思っています。

だいたいこんなところの話をしました。ありがとうございました。

質疑応答

司会者:古西さん、発表ありがとうございました。私も元SIerというか、以前御社にいた時に、セルフブランディングみたいなことをしていて、別のキャリアを歩むきっかけになったので、見ていて思うことはメチャクチャいろいろありました。

質問もきているので答えてもらえたらと思います。1つ目、「SIerじゃないと得られない経験とか技能はありますか」ときています。話の中で、SIerでは技術を得られないのは誤解だという話があったので、そのことだと思いますが、SIerならではの経験があれば教えてください。

古西:事業会社の方と話していて、SIerでキャリアを積むとSI脳ができるなとよく思います。プロジェクトマネジメントやスケジューリング、チーミングなどですが、これは普通は得られないことなんだなと思いながら、よくしゃべっています。

いついかなる時も、必ず、いつまでに・どういうスコープで・どういう着地点を目指すのかを、瞬時に頭に組み立てて話をしています。それは、普通はありません。

特に会社の中はそういう人ばかりなので、そういうフレームワークの中で話が進んでいくのですが、そうではない場に出ると、すごく発散するところでファシリテートをしてしまうことはあります。これがSIerの中で一番身につけられることなのではないかなと思います。

司会者:なるほど。予算や期間が決まっている中でそれを実現するとなると、やはりタスクの分解などがすごく得意な人が多いなと、私も見ていて思いました。

古西:そうですね。ただ、今は答えがない仕事がたくさんある世界なので、答えがない中でそれをどうやっていきますか、みたいな点においては、「最初に要件定義しましょう」というのではない世界が待っているかなとは思います。

司会者:そうですね。今のアジャイルなど正解がわからないところに対してという意味で言うと、向かないこともあるかなと思います。SIという、その正解がある程度決まっている中ではものすごく強いかなと、私は思っています。

古西:はい。

司会者:もう1つ、中で技術トレンドを追いかけようという話がありましたが、「目前の仕事と、その世の中の技術トレンドを追いかけようという2つがあった時に、それをどうやっていましたか」という質問です。

古西:今の技術というか、目の前の仕事のほうが当然重要なのですが、1割か2割は技術トレンドや、世の中でも必要なものをやっているというのが重要かなと思います。1割か2割でいいのではないかなとは思います。私は(今の業務ではない)サーバーやネットワークをやったりします。

司会者:それは業務の中でやったりしますか?

古西:業務の中ではなかなかできなくて、サーバーやネットワークをやっている時にアプリの話やデータベースの話はほぼ出てこないので、やりません。ただ、その時は裏で隠れてJavaをやっていました。

やはり意識してやったほうがいいのではないかなと思います。今はオンライン学習があるので、一通りオンラインで授業を受けてみてもいいのではないかと思います。

司会者:そうですね。今はわりと教材が世の中に溢れている状態なので、その中でどれがいい教材なのか、選ぶのは難しいと思うのですが。

古西:そうですね。それは難しいですね。ものすごくお金をかけなくてもいいと思うので、知っている人にちょっと聞いてみたり、安めのものを試してみたりするのがいいのではないですかね。

司会者:私はコミュニティに参加していて、そういうコミュニティの勉強会はオンラインでわりと参加しやすいので、そういうのもありかなという気はします。では、時間もきていますので、古西さん、発表をありがとうございました。

古西:ありがとうございました。