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『“偲び足りない“が生み出した葬儀・お別れのフリースタイル』 ~鎌倉新書×カヤック対談セミナー~(全5記事)

「値段を下げるのではなく、価値を上げて折り合う」価格が不透明な葬儀業界で、ユーザーを満足させるサービスのあり方

葬儀・埋葬・供養の専門展「エンディング産業展2017」で、鎌倉新書×面白法人カヤックの対談セミナーが開催。「“偲び足りない“が生み出した葬儀・お別れのフリースタイル」というテーマで、新しいお別れのかたちを提供する2社がこれからの葬儀のあり方について語りました。

葬儀は価格が不透明

土屋敏男氏(以下、土屋):清水社長は長らく葬儀業界というかエンディング業界に対してて、そのへんの変化とか、これからどう展開していけばいいと思います? 「偲ぶ」ましてや送るほうの気持ちが活かされるようなものというのはどうしていくのかな、ということを。

清水祐孝氏(以下、清水):そうですね。さっき柳澤さんにご指摘いただいたような部分が確かにありますし、我々はポータルサイトとして、葬儀社とユーザーの方をつなぐということをやってます。我々以外の会社では価格を先に打ち出して、価格にビビッドな人たちを集めている。

確かに多くのユーザーが「葬儀は価格が不透明だ」と思ってるので、19万8,000円、39万8,000円、59万8,000円みたいなところに行くのはわからなくもないんですが、価格破壊的なところを打ち出しても、やっぱり裏の仕組みがないと。

昔ね、ユニクロなんかが1,980円でジーパンを売れたのは、あれは中国で安いコストで大量に作って、もう何百店舗のインフラ・お店で捌けるから、1,980円で利益がとれる。

ただ、そこの仕組みを作らないでただ価格だけ差し替えをしてるとなにが起こるんだろうと考えたときに、どうしても稼動が低い葬儀屋さんが利益は出ないのに受けると、だんだん首がしまっていくというのが、これから業界に起こる……もう起きている。そして看板こそ変えないけれども、経営母体がどんどん変わっていくというのが今の流れですね。

やはり葬儀って、事業構造上、原価というものに対する意識が捉えにくい部分がある。とくに小さな会社にとっては、原価がどれぐらいなのかというのはきっちり把握してる会社ってあんまりなくて。

そういうなかで、空いてる日は少しでも埋めたいからといって、安いのでも取る。なんか儲かってるような理屈はするけれども、実はきっちり原価を出したら赤字で、それを取っているとどんどん首がしまっていくという構造が、たぶん業界の再編というところにつながってきます。

我々の立場としては、そこに追い打ちをかけるようなことはすべきではないと思います。その人に合ったお葬式をしてもらおうと思うと、価格を出すよりも、先に葬儀社をわかってもらう、あるいは葬儀会館を知ってもらうということが大事で、私どもは葬儀会館であったり、葬儀社を紹介をするというスタイルでやってきています。

本当にユーザーの願望に合ったものを作り上げるというのは非常に難しいところです。買う機会の多い買い物ではないので。やはり「高いんじゃないか」「ボラれるんじゃないか」という意識があって、「うちなんて本当に小さいものでいいんです」ということを言います。

真に受けた担当者は「わかりました。じゃあそれで」と言って、お互いが……まあ、ビジネスサイドから見てもつまらないし、ユーザーも「やっただけ」みたいな話になる。このマッチングの不幸をどうやって減らすことができるかというのは課題だと思います。

土屋:非常に大きな課題ですよね。

清水:そうですね。そういうなかで、やはりユーザーの多様なニーズに応えていこうという1つの形態が、この「Story」というかたちです。

先ほどのご指摘のように、確かに定型化するのがすごく難しいので、1個1個がオーダーメイドになる。だから、ビジネスとしてすごくいいかというと、ぜんぜんそんなことはない。我々はユーザーの多様なニーズに対応していくということが使命だと思っていますので、ペイするとかペイしないという話はあとにしよう、ということで今は進んでいます。

値段を下げるか、価値を上げるか

土屋:僕も「LIFE VIDEO」という事業を2012年からやっていて、例えば50万円ぐらいのスタンダードなもので、やっぱり最初に値段を出さないと、「じゃあ写真何枚ですか」「インタビューは何時間するんですか」「あがりは何分ですか」みたいな。どうしても最初は数字なんですよね。

こちらも、引き出すものとか作り上げるものとか、いわゆるディレクティングの要素やクリエイティブを価格に反映するというのがすごく難しかったなと思うんです。

だんだん浸透するにしたがって、逆にいうと一番シンプルなもの、例えば14万9,800円とかで設定して。でも、一方では1,500万ぐらいものを何件かやっぱり受注する、みたいな。そういう幅がやっている間にだんだん出てくる。

自分の人生を振り返るために出せるお金というのをもう1回自分の中で。「いくらだからやる」じゃない部分がもう1回出てくる。

葬儀というもの、自分の父親の最後というか、見送るということに関して、「自分はどういう気持ちなんだろう?」というところから、もう1回やっぱり価格みたいなのを、自分の中で問い直すというか。逆にいうとユーザーのほうに問いかけるというか、そんなフェーズですかね。難しいんでしょうけれども。

清水:葬儀もいろいろ時間がないなかで難しいことは難しいと思うんです。

今おっしゃったとおりで、やはりお客さんに買っていただくというのは、要するに値段を下げていけば、ポンと折り合うところが来る。「じゃあ、これでOK」という話が1つあります。一方で、もう1つは、価値を上げていって、そこで折り合うというかたちもあるわけです。

先ほど馬場さんもおっしゃったように、やっぱり亡くなった方のお話を聞く。「なにをやってたんですか?」「どんな方でしたか」とか、旅行の思い出話だったり、いろんな話を聞いていく。それで、だんだんその人の思い入れが膨らんでいくと、例えば最初は「100万は高いわね」と思ってたものが安く思えるタイミングが来る。これをどうやって作り上げるかですね。

多くの人はそれをしないで、「100万円高いわね」って言われたら、「じゃあ75万でどうですか? 50万でどうですか?」「50万だったらやります」みたいな。

だから、要するに価格を下げて折り合うのではなく、そうやって価値を上げて折り合うというふうに多くの方がしていけば、ユーザーも喜ぶし、事業者も、これから全体としては厳しくなっていくなかで、しっかりしたところはきっちり生き残っていけるんじゃないかなと思っています。

土屋:馬場さんはどうですか?

「偲びたい」という気持ちを大切に

馬場翔一郎氏(以下、馬場):現場で感じることなんですけど、決してうちは安くはないんですね。事例で話すと、宗教葬で85万円のプランを選んでいただいた方で、よくよく話をすると、会社役員の方なんですね。一般葬をやると1,000人クラス来ると言われていて。ただ、それをやっちゃうと本当とんでもないことになっちゃうから、自宅でやりたいと。

最初に85万のプランを選んで、お話を聞いているうちにどんどん「これもやってみたい」「湯灌してあげたい」とか、そういうご希望があり、最終的に220万ぐらいに見積もりが上がって。そのあともいろいろ話を聞いてたら、やっぱりその方を慕っている方たちになにかしてあげたいということで、返礼品が入ったりして、総額でたぶん450万ぐらいになりました。

また、周りの参列できなかった方たちが偲びたいということであれば、「お別れ会といったこともできますよ」と、僕は提案をしてます。すごく非効率なやり方でやってはいるんですけど、結果的にそういうふうになると、実感しています。

土屋:あとは、「安ければいい」「簡単でいい」「子どもたちに迷惑かけたくないから」という言葉をそのまま真に受けるじゃないですけど、そのとおりで一番安いところで直葬するということが本当にこれから起こっていくなかで、気持ちみたいな部分をどうやったら……。

本当にたぶん清水社長もおっしゃったように、たぶん業界全体のことなんだと思うんですけど、そこを私たちはどういうふうにしていったらいいのか。もちろん、こういうたくさんの事例を紹介していくということがあるんでしょうけども。

ちょっと今、会場にいらっしゃる方から質問をお受けしたいと思いますので、なにかその前にこちらのほうでありましたら。よろしいですか。

じゃあ、質問の時間に入らせていただきたいと思います。会場にいらっしゃる方でなにか。「このことに関してこんなことを聞いてみたい」とか。お気軽にと言ってもあまりお気軽な業界じゃない。

(会場笑)

柳澤大輔氏(以下、柳澤):(土屋氏を指して)そんな金髪の方いないですからね(笑)。

土屋:あ、そうですか(笑)。

(会場笑)

土屋:そうですよね。自分が見てないので時々忘れるんですけど、金髪なんですよね。

質問者1:それでは座ったままでよろしいですか。

土屋:はい、どうぞ。

葬儀業界の人材育成

質問者1:埼玉からうかがいました。三愛メモリアルと申します。大変お世話になります。

とても素晴らしい話を聞かせてもらったと思うんですけれども、先ほどの自宅葬ですね。鎌倉自宅葬儀社ということで、自宅の葬儀ということで、間違いなくこれからこのニーズが増えてくるなと自分も思っております。

ただ、先ほど馬場さんも言っておられましたけれども、「やりがいがある」という部分。自分も20歳からこの業界に携わって、今は55歳ですから、35年経ちます。20歳の頃というのは、自宅か、集会所か、お寺かというような。今はホールでお葬儀をするのは当たり前の時代になりましたけどね、当時は、本当にオーダーメイドと言いますか、行くところもう常に、サイズも違えば、場所も違うわけです。

職人肌みたいな人たちでないと、葬儀がこなせなかった時代だったんですね。ですから、大工仕事もやる。それから伐採をしなくちゃいけないとか植木のようなこともやる。そんなこともよくあったんです。

そういうことを考えると、やっぱり自宅でのオーダーメイドの葬儀ということになりますと、決まった場所ではないわけですので、そういうスタッフの方をこれから雇い入れて、そういう技能を持たせる。その教育・育成がやっぱり課題になってくるかなと。

ニーズはあると思うんです。ですから、カヤックの社長さんも言われてましたけれども、そのプロデュースですね。ハード的な部分でのプロデュースもそうですね。ソフトの部分のプロデュースもそうだと思います。そのへんを成功させられるかどうかがキーポイントになるのではないかなと感じました。質問ではないんですけれど、そのあたりをどう考えておられるかお伺いできますか?

土屋:ありがとうございました。人材育成とか、そういうことですよね。このへんに関して2社はどのようにお考えになっているか、お聞かせいただければと思います。

柳澤:まさにおっしゃるとおりでして。先ほどの(在宅介護の割合が)1~2割というのが増えればまた別ですけど、ある程度規模は見えているので。そのなかで、広げていくというときは、やはりある程度経験のある方と、その思いに共感するパートナーと提携して増やしていくことが次のステップかなと思いますね。

あと、風習が違ったりもするんですね。それぞれの提携した自宅葬専門の方々と一緒に、お互いにノウハウを共有しながら、仕組み化できる部分とダメな部分をしっかり分けて作り上げていくというメンバーを募集しているのが今の段階です。

ある程度業界の出身の方とかと一緒に組んで、新人をゼロから育てるっていうことを考えています。

土屋:経験のある葬儀社と提携するとか、そういった経験のある方たちと一緒にやるとか。いわゆる鎌倉自宅葬儀社の「鎌倉」の部分が、例えば福島とか、千葉とか、郡山とかに変わるのもぜんぜん、これからやっていこうと。

柳澤:はい。

専門性よりもホスピタリティ

馬場:あと技能の面というのも、僕が13年前に業界にいた頃に職人肌の方たちがやっていたことって、白い布を全部貼ってシャンデリアを作ったりとか。本当にすごい技能を持った方々がいるんですけど、僕、実はそれできないんですよ。幕張りって。

あと、僕たちが提案しているのは、昔ながらの自宅葬というわけじゃなくて、本当に六畳一間にお棺と、花の装飾をして、お線香をあげられるという程度のもの。花も、鎌倉ってお花屋さんとかアーティストの方が多いんですね。出張料理人の方もいたりして。その方たちにお手伝いいただいて、1つのユニークな葬儀を作り上げていこうというかたちです。

確かに自宅葬はすごくやりがいはあって、手間がかかって。そこの技能の面でのマニュアル作りとか、そういったところは今直面している課題です。

僕はもともと埼玉のほうでやってたんですけど、こういったかたちで「自宅葬はそういうことなんですよ」って啓蒙活動して、それに賛同していただいている方に全国から発注いただいて。「じゃあ、こういうのがいいんじゃないか」というブレストで意見を出し合って話し合う文化があるので。

それを全国の葬儀屋さんに投げかけて、「じゃあ、こういうふうにしたらいいんじゃないか」ということをできたらいいなと思っています。

土屋:堀下さんは、人材育成とかそういった、まあ事業拡大みたいなことになると思うんですけど、そのへんのテーマに関して。

堀下剛司氏(以下、堀下):お葬式よりはおそらく自由度が高いので、ある程度専門性を持っていない方でもできるとは思います。どっちかというと、ホスピタリティがすごく強いとか(が求められる)。

すごいたくさんのことを当日の施行までにやらなきゃいけないんですね。「これがやりたい」「あれがやりたい」ということをかたちにしていくので、複数のタスクをこの日までにぴったり終わらせるためのプロジェクト管理ができるとか、そっちのほうがもしかしたら求められるかもしれないですね。

清水:ウェディングプランナーとかね。

堀下:近いかもしれないですね。

そういうかたちなので、職人の昔のしきたりというよりは、その方の思いをかたちにしてあげるためのホスピタリティと、そのためのプロジェクト管理みたいなほうが強いかもしれません。

土屋:そうですよね。さっきの安曇野みたいなね、「何時に電車に乗って」みたいなことまでやらないといけないですもんね。

清水:いわゆる葬儀は終わっているので、むしろパーティプロデュース的なところがあって。火葬は伴わないので、我々の場合はそのへんは難易度はそんなに高くないということですよね。

ですから、逆にいうと「事業としてそんな儲かるか?」という。ただ、我々は非常に関係性が強まりますので、「仏壇ないですね」「お墓どこにしましょうか」という話になるんですよね。というところで、事業としては……。

土屋:事業としては成立してると(笑)。

清水:はい、そういうようなことになっていくだろうと考えています。

土屋:逆に、今のお話だと、葬儀社さんが(葬儀を)やられたあとに「こういうのもありますよ」とご紹介いただくというケースとか。自宅葬儀のほうは、今やっているものと並行して「こういうメニュー、こういうかたちもありますよ」というふうに提携していくというか。そんなかたちで広げていくということなんですかね。

ということで、お時間が来たようでございます。ありがとうございました。以上をもちまして「“偲び足りない”が生み出した葬儀」を終了させていただきます。

それでは今日はありがとうございました。改めまして、4人のパネラーの方に拍手をお願いします。

(会場拍手)

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