組織内で発生するさまざまな問題を「会社の害虫」として捉えた話題のビジネス書『組織をダメにするのは誰か?職場の問題解決入門』。 著者である岸良裕司氏が登壇したセミナーで、“害虫”の生正体や生態についてコミカルに解説します。本記事では、失敗を恐れる人材が生み出される仕組みや、成果主義が招くさまざまな弊害を語りました。
良い子の呪いが減点主義者を生み出す
岸良裕司氏(以下、岸良):さらに、「ヨイコノノロイ虫」というのがあって。子どもの頃から成績優秀で、人がうらやむような良い学校を出た新社会人に寄生して。
実は子どもの頃から寄生していて、それで会社に侵入する。胸に教科書の突起があって、正解探しのクセがあります。これについてはビデオがありますので、見ていただきたいと思います。
(動画再生)

ナレーター:にゃんとくんは小学生時代、成績優秀、クラスの模範児童で、超よい子でした。お父さん、お母さん、先生たち、周りのみんなの期待に応えるのが、にゃんとくんの喜びだったのです。それから中学校、高校、大学でも成績優秀で、超よい子のまま大人になりました。
でも、社会人になって、にゃんとくんの状況はまったく変わってしまいました。学生時代と違って、社会人になると教科書がありません。正解もありません。教科書も正解もない世界で、どうやってよい子でいればいいか、わからなくなってしまったのです。
なんとかするために、いろいろな本を読んで勉強したり、学校に行ったりしました。でも、勉強したことをやろうとしても、実際の仕事ではうまくいかないのです。「ちゃんと習ったとおりに、なぜうまくいかないんだろう?」。イライラはたまるばかり。
どんどんやる気もなくなり、仕事にも行きたくなくなってしまいました。「よい子になるために一生懸命やってきたのに」。どうやってもうまくいかない、「よい子の呪い」にかかってしまったようです。よい子の呪いを解くには、どうしたらいいのでしょうか?
(動画終了)
岸良:なかなかいいビデオでしょう? 「シッパイコワイ虫」は、減点主義の評価をしている職場に大量に発生するんですね。これは人の成長を阻害する「ゲンテンシュギ」という毒物を人に刺すんです。

シッパイコワイ虫に刺されると、人は減点主義を恐れるあまり、自己防衛本能が暴走し、新しいチャレンジを避けるようになって、その結果、成長を止めてしまう。社内で大量発生すると、会社全体の成長を止めてしまうことになりかねないので注意が必要です。
失敗は、実は成長の機会に変えることができるんです。失敗しようと思って失敗したわけじゃないと。だから、思い込みをやめようと言ってやるような、「ミステリー分析」という方法があるんです。
セイカシュギ虫があらゆる害虫を呼び込む

さらに、「イタバサミ虫」もいます。「働き方改革」「ワークライフバランス」と言っているけど、これもどっちが優先じゃなくて、両方やらなくちゃいけないのに「どっちが優先?」と言ったら、モヤモヤしちゃうわけですよ。こういうのも、対立を両立に変える「クラウド」という方法があります。
また変えられない過去から変えられる未来に集中する「成長主義」という考え方があるんですが、実は「成果主義」がラスボスであるということを言っています。その因果関係を示してみたいと思います。
成果主義がはびこると、セイカシュギ虫が出現する。すると、評価に対する不満が出るわけ。よい子でいなくちゃいけないから、「どういうふうにやったら評価されるんだ」と、よい子の呪いが出てくるわけですね。それで、減点が怖くなります。

モチベーションが低下していくと、心配になるカクニン虫が上からやってくる。さらに、「なぜ?」「なぜなんだ?」というパワハラ上司みたいなのが出てきて、メンタルヘルス(不調)になって、仕事とプライベートの板挟みになって、社員の離職になる。
さらに、チームワークが低下して、個人主義が横行する。そうすると、組織の壁が生まれ、モチベーションが低下する。そうすると、「こうすべきだ」と(主張するために)勉強するやつがいて、さらにゲンカ虫が「なんとかしよう」と言って、安くしようとする。

さらに、ザイコフヤシ虫が出てきて、業績が低迷すると、キキカンアオリ虫が出てくるんです。そうすると、「なんとかしろ」と言って、DXアオリ虫が「このDXだったらうまくいきますよ~」とか言っちゃうと、実はテイコウ虫が出てきて。
でも手段が大好きなので、モクテキワスレ虫が出てきて、シュダンスキが出てきて、「これはなんとかしなきゃ」って、予測モジュールとか入れちゃったりして、ヨソウ虫が出てきて、さらにカネクイ虫になってしまう。まるまる太ります。
すると、どうでしょう。仕事が山ほど増える割には結果が出ない。そして、現場だけにしわ寄せが来るようになり、もう少しサバを読んで、「人が足りない」とか「予算が足りない」と言って、どんどん増えてくる。
どうですか、これ? マルチタスク虫がバタバタしている状態になっていくんじゃないでしょうか。実はセイカシュギ虫は、あらゆる会社の害虫の大繁殖を招いてしまったんではないかと。失われた20年、30年というのは、これが繁殖した歴史じゃないだろうか?
「人的資本主義」の真の意味とは
さて、唯一出てくる益虫がいます。変えられる未来に集中する「セイチョウシュギ虫」なんですけど、これを見てください。アメとムチがすっかり取れていると。やる気満々。「セ」という文字が太くなっているんですね。「成長主義だ!」とやっているわけです。

実はこれ、新しいことじゃないんです。今「人的資本主義」が大事だと言われていて、経済産業省も人材の価値を最大限に引き出すんだと言っている。(経産省のサイトにも)「人的資本主義とは、人材を『資本』として捉え、その価値を最大限引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です」と書いてあります。
だけど、人的資本主義の今の実態はどうでしょう? 現実には「株主に対してどう開示するか?」ということばっかりを経営課題にしてスキルマップが入っているんだけど、「どう開示するか?」という問いはあっているんでしょうか?
中長期的企業価値向上につなげるということは、「(人を)『資本』として捉え、その価値を最大限引き出す」と言っているんだけど、本当は「どう人を成長させるか?」という問いのほうが優れているんじゃないだろうか。
経営の神様の松下幸之助は、「物をつくる前にまず人をつくる」と言っていて、「『松下電器は何をつくるところか』と尋ねられたら、『松下電器は人をつくるところです。併せて電気機器もつくっております』。こうお答えしなさい」という。
これこそが、まさに戦後荒廃した日本を、世界のトップレベルの競争力の国にしました。先達たちは、とんでもない戦後の奇跡を起こしたのに、(現代の経営者たちは)何をやっているのって思いませんか?

我々はインドのTATAさんなどで桁外れの数字を出しているんです。利益率が30パーセントとかね。オムロンさんも、千寿製薬さんも、ボーイングさんも、マツダさんもこういうふうに(大きく数字が)上がっていますね。
人材育成とは、答えを教えることではない
これは何をしているかというと、人を育てているんです。『ザ・ゴール』の日本版では翻訳されてないんですが、英語の序文の中には「『ザ・ゴール』は、科学と教育の本である」、科学的な考え方で人を育てる本である」と言い切っているんです。
アレックス(作中に登場する、機械メーカーの工場長で工場の業務改善に悩んでいる人物)に、ジョナ先生(作中に登場する、大学の物理学者で恩師)がいろいろな質問をします。
答えを教えるんじゃなくて、自分で見つけることを促すことで人を育成させている。それを因果関係で示すということを『ザ・ゴール』のストーリーの中でずっとやっています。
みなさんマネジメントって勉強したことありますか? 本を読んでマネジメントがうまくなった人はいる? 稲盛さんの本を一生懸命読みましょうか? それだけじゃ、うまくいかないと思うんですよ。
「あれは稲盛さんだからできる」っていう結論になっちゃう。でも、そこにはちゃんと理由がある。再現性のある論理がわかれば、きちんと予想して結果を出せる。我々はこれをベースにして仕事をしているんですね。
この本(『組織をダメにするのは誰か? 職場の問題解決入門』)の特徴なんですが、会社の害虫のプロフィールと、職場で引き起こす問題があって、さらに害虫の口癖(が出てきます)。「『あれもこれも最優先で』と、無茶振りしてくる上司問題」と書いてある。さらに、害虫がよくいる職場、そして害虫の特徴が書いてある。
本文の構成は、あるある問題から、一般的な解決策が、本当は深刻なダメージを起こしていることを示しています。そして解決策、リアル事例、そして「会社の常識はここが間違っていないかい?」という(問い)。スマホの動画で学ぶリアル解決があって、事例と論文も書いてあります。
軽く書いてあるようで、実はかなり本格的な本になっています。これを書いている時に編集の方が「この本、岸良さんのふだんの本よりもちょっと尖ってますね」って言われたんだけど、元々ネットで連載していたので、かなり尖った文章になったんです。
笑って問題解決するために生まれた「害虫」キャラ
この本で紹介した全体最適の問題解決方法はすべてリアルソリューションです。応用問題をいかに解くかをわかりやすく書いて、もっと詳しく学びたい人のために、全体最適のマネジメント理論TOC(エリヤフ・M・ゴールドラット博士が提唱した制約条件の理論)の実践法がわかるようにしています。
ここでちょっと、今回のクロスメディア・パブリッシングで編集・広報をされているフルカワさんをご紹介したいんですが。何か言いたいことはありますか?
フルカワ:まさか(自分が)出るとは思っていませんでした(笑)。
岸良:かわいいですね、これ(フルカワさんが着ている、害虫プリントTシャツ)。みんなでこのTシャツを着ているんですね。
フルカワ:そうです。
岸良:(会社の害虫に関する)事例を報告してくれたら、これ(Tシャツ)をプレゼントしますので、ぜひ言っていただければと思います。さて、やはりかなりトゲがあります。痛痒〜い感じの、なかなかいい出来になっています。なんか大切にしたいなと思うんですけど。
ある人に(書籍を)見てもらって、「うちの会社で思い当たるやつについて、付箋を貼ってくれ」と言ったら、「全ページにあります」と言われてですね(笑)。そのくらい「笑えません」と言われましたけど。
次はそれ(その状況)が良くなる可能性があるんです。実はTOCって、営業には営業のTOC、生産には生産のTOC、プロジェクトにはプロジェクトのTOC、イノベーションはイノベーションのTOC、ファイナンス&メジャーメントに合うTOC、そしてサプライチェーンのTOC。さらに、問題解決のためのTOCというのが全部あるんですね。
この書籍には、この全知識体系をぶち込んでいます。超お得なんです。実践をどうやるかが書いてあって、誤った方法論でダメになった現場を直そうということになっているんですね。
こんな人にお薦めです。20の思い込みの(中で)1つでも思い当たるフシがあれば大丈夫です。さらに、上司が会社の害虫に取り憑かれている。プロジェクト、会社、組織に害虫がまん延している。または、自分が会社の害虫に取り憑かれているかもしれない。
TOCのソリューションは学んだけど、応用問題がうまく解けないという人。応用問題の解き方が大事なんです。人のせいにもせず、自分のせいにもせず、問題を解決したいという人。
僕自身、害虫のキャラを使った理由は、上司や組織、自分を責めるんじゃなくて、エレガントに問題解決したいと思ったからです。要するに、笑いながら問題解決したいという狙いで書きました。
「和」があわせ持つ複数の意味とは
最後にゴールドラット博士のメッセージビデオを見てください。
(動画再生)
エリヤフ・ゴールドラット:みなさん、財務的パフォーマンスだけでは不十分で、大切なのは社内のハーモニーです。もし社内にハーモニーがあれば、財務パフォーマンスは上がります。社内にハーモニーがなければ、収益性は失われます。
社内のハーモニー、顧客とのハーモニー、サプライヤーとのハーモニー。西洋でこれらのことを話す時は自然に大声になります。誰も信じてくれないからです。
ハーモニーは日本の文化の一部だと信じたいのですが、困ったことに実際に日本の会社を見てみると、ハーモニーが不十分なのです。会社にとって公式な仕組みは、最も重要なものではない。会社を会社足らしめるという意味で、非公式システムがより強力です。
友情、人間関係、ハーモニーにより、会社は大きくもなり、小さくもなるのです。コンピューター・システムや公式な仕組みなどより、人間関係やモチベーションがキーです。
利益へのインパクトだけではありません。ハーモニーの視点から見たインパクトが重要なのです。
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岸良:ゴールドラット博士が、生前一番好んで使った言葉というのが「和」です。ハーモニーが一番大事だと。日本の現場では「和」という言葉をすごく使うんですね。これは、僕が書道で書いた(文字です)。前を見て、何か人が動いていて、組織の中に無限大の和が生まれるみたいなイメージで、書いたんですが。
漢字のハーモニー(和)とは調和であり、そしてピースフル(平和的)であり、足し算、ジャパニーズだって説明したら、ゴールドラット博士が気に入っちゃって、「リスペクト! ワォ(和)」とか言って。海外でもみんなに言うようになっちゃったぐらい誰もが理解する言葉になりました。
(書籍を読んで)成果が出たらみなさんに連絡していただきたいんですけども。組織をダメにする「会社の害虫」20選と益虫「セイチョウシュギ虫」。これですね、シールなんです。このシールは楽しくて、「お前はキキカンアオリ虫だ」とか言うと、このシールを貼るわけです。どう、これ?

「お前はこうだと貼られちゃったら、どう思う? でも、当然はがすのも可能ということで。「あ、間違えた」とか。「あ、お前だ、お前だ」と言って、こうやって貼ると。
実は今日、ある会社でやったんですけど、役員、社長もみんなでシールを貼り合って「これはおもしれー」と喜んでいました。いい感じの変化を与えてくれるって、僕は思っているんですけど。
この害虫のキャラクターをWebページで公開して、ダウンロードを自由にして使ってもらおうかなと。そうすると、みなさんがPowerPointで、「こういう害虫がいる」と、トゲのあるカンバセーションを楽しめるんじゃないかなと。
この『組織をダメにするのは誰か?』という書籍についてなんですけども、(帯は)「チームと職場を腐らせる『会社の害虫』の正体と対処法」。こんなにいっぱい虫がいるということですね。
20年以上、本を書いてきて「こんなにおもしろい本が書けるのか」と思うぐらいよく書けたので、ぜひお読みいただければと思います。またエレガントに職場の問題を解決する方法として、会社の害虫をかわいがっていただければと思います。今日はどうもありがとうございました。