組織内で発生するさまざまな問題を「会社の害虫」として捉えた話題のビジネス書『組織をダメにするのは誰か?職場の問題解決入門』。 著者である岸良裕司氏が登壇したセミナーにて、“害虫”の生正体や生態についてコミカルに解説します。本記事では、 マルチタスク虫やPDCAのうちCAを重視する「CA虫」の引き起こす弊害について語っています。
1年前の失敗を後出しされ、査定が下がる理不尽
岸良裕司氏(以下、岸良):そして、「日本をダメにしたラスボス的な会社の害虫」がありまして、これは「セイカシュギ虫」です。アメとムチがあって、あぐらをかいているんですよ。
「結果がすべて」と言っているんですけど、年功序列の問題を退治する益虫として、1990年代に海外から持ち込まれた外来種なんです。欧米の成果主義を「先進的」と盲信する日本企業の人事部門で増殖し、今では日本中の職場にまん延している。手がアメとムチのような形状になっているのが特徴で、見つけるのは容易です。
「評価に対する不満、モチベーションの低下、個人主義の横行など、職場に大きなストレスを巻き起こし、現場を疲弊させる。特に人事評価の季節に大量に発生し、職場の風土を破壊的に悪化させる。成果主義のプレッシャーから、目標を低めに設定してしまうことで、人の成長の障害になる」。
どうですか、ろくな虫じゃないでしょう。インターネットやChatGPTで調べると、こういう説明が出てきます。みんなわかっているのに、まだやっているってびっくりしません?
私、暗い体験があるんです。(会社員時代の)4~5月の査定の時期に、上司から昨年の6月の失敗について指摘された。「そんな昔のこと覚えてないよ!」って思いません? さらに「あの時はこうすべきだった」と後出しで指摘されるんだけど、「その時に言ってよ」と思いませんか?
さらに、いい成果を出しているのに査定を下げられたこともある。当時の上司とウマが合わなかったんです。僕は上司の上司とか、稲盛(和夫)さんのところで評価されていたので、中間管理職が非常につらい思いをしたらしく、「嫉妬してんじゃないよ」と思ったんですけど、なぜか査定を下げられたんです。
そして査定は1年に1回しかないので、1年遅れたら、一生その遅れを引きずる。どうですか、これ? お先真っ暗じゃないですか。さらに衝撃ですけど、自分が偉くなって査定会議に(出るように)なったら、上司の力関係で、実は部下の評価が決まっていた。
「俺のがんばりはどこへいったんだ?」「あまりにも理不尽だ」と思いません? いつかリベンジしてやると、ずーっとしつこく「今に見ておれ」と思っていたんです。
私のキャッチフレーズは「人のせいにしても問題は解決しない」で、(2012年に雑誌『致知』でインタビューを受けた)当時から言っているんですけども、人のせいにしても問題は解決しないんです。みんなそう思うでしょう? 人のせいにしても、問題は解決しないんです。
変えられない過去を議論する成果主義から成長主義へ
岸良:悪いのは上司じゃない。制度だと思ったんです。じゃあどうすればいいか。「成果主義」が間違っていると。後出しジャンケンでケチをつけるダメ上司に対して権限を与えただけじゃないかと思った。

それよりも「成長主義」、自分の成長に対して貪欲になろうと。社畜にならない。自分の人生の目標は自分で決める。仕事の時間も、自分の成長のために使おう。両方、仕事の成果も出しますよと。
毎日チャレンジして、日々自分の成長を実感できるようにしたいし、失敗なんか怖くない、そこから成長できれば成功だと。だって、ちゃんと自分の目標を持って、さらに自分の成長の可能性に気づくと、将来が楽しみになる。仕事が楽しい。遊びも楽しい。実はバランスじゃないと。両方だと。
部下もグングン伸びて、充実感を味わってもらう。自社だけでなく世の中にも広めることで、「月曜日が楽しみな会社にしよう!」と。これをキャッチコピーでやっているんです。「ゴールドラットを地球上で、最も人の成長の可能性を拓く組織にする!」というのが私の会社に対するコミットメントなんです。これをみんな、うちのメンバーは知っているんです。
過去は変えられますか? 未来は変えられる? じゃあみなさんの時間はどっちに使えばいい? 過去じゃないでしょう? 成果主義って過去ですよ。ケチをつけているんですよ。変えられない過去を議論する「成果主義」よりも、変えられる未来に集中する「成長主義」のほうがいいじゃないかということに気がついた。
この成果主義をやっつける特効薬があるんです。何かと言うと、「タラララッタラー♪ 成長主義~」。ちょっとどこかで聞いたことがありますね(笑)。これを詳しく知りたい人もいっぱいいると思うんです。
マルチタスクの弊害
岸良:ここからは、特効例と事例をご紹介したいと思うんですけど、実はここからが有料でございます(笑)。書籍『組織をダメにするのは誰か? 職場の問題解決入門』に事例などが全部書いてありますので、ぜひ読んでいただきたいと思います。
実はみなさん、こんなことないですか? ここでちょっとビデオを見ていただきたいと思います。

(動画再生)
女性:どんな症状かと言うと、車を洗わなくちゃと思って、ガレージに行こうとしたら、台所のテーブルの上に郵便物が積み重なっているわけ。請求書か捨ててもいいものかに分けて、捨ててもよいものをゴミ箱に捨てようとしたら、ゴミ箱がいっぱいでね。
でも、たぶん支払いを先にしたほうがいいと思ったので、バッグから小切手帳を出すとね、もう1枚しか小切手が残ってなくて。(新しい小切手を取りに)書斎の机へ行くと、そこに前に飲んでいたコーラの瓶があって、ちょうど小切手帳を出そうとした時、コーラが生ぬるいのに気づいて、冷蔵庫に入れとかなきゃと思った。
それで台所に戻ったら、カウンターにある花に水をやらなきゃいけないのに気づいたの。だからいったんコーラを置いたら、今朝ずっと探していた眼鏡があったわけ。それを机のほうに持っていったほうがいいと思ったんだけど、でもまずはお花に水をやらなくちゃ。
そうしたら、テーブルの上にテレビのリモコンがあるじゃない。今晩これを探し回ることになりそうだと思って、居間に戻しておこうと思ったの。でも、まずは水やりよね。お花に水を入れ始めたら、少し水を床にこぼしちゃったの。だから、リモコンをそこに置いて床を拭いたのよ。
それから玄関のほうに行ったんだけど、何をしようとしてたんだか思い出せなくて、気がつけばもう夕方になってる。車は洗ってないし、支払いもしてないし、生ぬるいコーラがカウンターの上にある。
お花の水はまだだし、小切手帳には小切手1枚しか入ってないし、リモコンも眼鏡もどこにあるかわからない。車の鍵をどうしたかもわからない。「なんで今日は何もできなかったのかしら」と思うのだけど、でもわからない。今日一日忙しかったのに。本当に疲れちゃったわ。
(動画終了)
岸良:このように一生懸命に仕事をしたのに、「今日何をやったんだっけ?」と思ったことはありません? この動画の中のおばさん(と同じ)状態になっている可能性があるってことなんですけど、こういうところに必ずマルチタスク虫っていう害虫がいるんですね。

会社、職場へのダメージは最悪です。生息地は、あれもこれも最優先する上司、目が回るほど忙しい現場でよく見かけられます。
主な被害として、仕事の生産性の劇的低下、仕事の質の劇的低下。手直し・手戻りなど、無駄な仕事の増加。社員満足度の低下、そして退職者の増加、メンタル問題多発などと最悪です。お気をつけいただきたいと思います。
これをどうするかというと、今やらないことを決めるという、「Not To Do」という方法があります。これについても、(詳細は)本にきちんと書いてありますので、ご覧いただきたいと思います。
マツダの元会長が語るPDCAの極意
岸良:さらに(自動車メーカー)マツダの金井誠太元会長がダメ上司の典型を語っておられる語っている動画があります。
(動画再生)

金井誠太氏(以下、金井):PDCAについてちょっと語ります。これはみなさんご承知の言葉だと思いますが、「Plan・Do」と「Check・Action(Act)」をちょっと分けて考えてみます。
この図はCheck・Actionを重視するマネージャー。最初、部下に仕事を丸投げ。そして、納期が迫った時に「どれ。どこまでできたかな」とチェックをする。多くの場合、結果が期待外れのことが多いから、残された短い期間で、自分が先頭に立ってリカバリーする。
だいたい、実務に長けた人が出世してマネージャーになる例が多いんですが、そういう人がここで陣頭指揮を取り大幅に挽回します。これで、このマネージャー本人は自己満足をします。「やっぱりこの職場には俺がいないとダメだ」と。この図は、それでもちょっと納期遅れと目標未達があったと、ちょっと皮肉ってみるんですが。
一方、PとD=Plan・Doを重視するマネージャーもいます。これは初めにしっかり部下と話し合って作業計画を練る。そして、日々小まめに進捗を見る。必要なら微修正をする。こういうことをやっていると、実はその後、ことさらイベントじみたCheckかActionは不要になってきます。
私は、本当に有能なマネージャーはこのタイプだと思っていますが、こういうマネージャーは社内ではなかなか目立ちにくいです。「問題が起きた」と言っては騒いで、陣頭指揮をしているマネージャーのほうが目立つんです。一見、有能そうに見えるんです。ですから、経営者のみなさんは騙されてはなりません。
CA重視マネージャーが多い理由
金井:これはチェックシートです。「あなたはどちらのタイプか?」。PDCのCheckのタイミングになった時に、こういう質問(スライド内「CA重視マネジメント」参照)を部下に投げかけていった覚えのある方は、立派なCA重視マネジメントをされていると思います。言うまでもありませんが、ここにある質問はすべて、最初に明確にしておくべきことです。
なぜCA重視マネージャーがそんなに多いのかというと、育ち方もあるんですが、やはり「最初は何も考えずにやっておけ」というのはものすごく楽なんですね。後から部下のやった結果を見てケチをつけるのも楽だし、しかも自分の優越感をそこで発揮できるんです。これが気持ちがいいんですよ。
でも本当に気持ちが良いのは、チームがトータルで一番効率良く仕事ができるようにすること。ここにぜひ気がついていただきたいと思います。いつも忙しくしている職場って、たいていCA重視のマネージャーがやっていることが多いのが実感です。
(動画終了)
岸良:この動画、「上司に見せたい」という方がめちゃくちゃ多いんです。金井さんが自ら役員会で講演することがあるんですけど、これをやった瞬間に、役員の方がだんだん下を見ちゃうらしいんです(笑)。「変えられない過去よりも、変えられる未来に集中したほうがいいんじゃないだろうか」ということなんですね。
これは、会社の害虫としてシーエー(CA)虫と呼んでいるものです。上司という圧倒的に優位な立場にあぐらをかき、部下にダメ出し・叱責するのが特徴です。

主な被害としては、納期遅れ、予算超過、会社の収益の悪化、そして顧客満足度やモチベーションの劇的低下になる。大量に発生すると風通しの悪い職場という風土病を引き起こし、治療に長期を要することがあるので、お気をつけいただきたいと思うんです。
これね、(CA虫の)胸に「(叱責の)シ」って書いてあるんです。「今になってなんで」と。これも実は簡単で、変えられる未来に集中する「3つの質問」というシンプルな処方箋があるんですね。
さらに、「もっと! もっと! もっと!」と言う「カネクイ虫」がいるんです。これはみなさんも関心事だと思うんですけど、政府とか、政治家とか、国会とか、行政とか、自治体などに多く見られる。最近、民間企業にも官僚的な予算超過をしている組織が多く発見されていますので、お気をつけいただきたいと思います。
『呪術廻戦』みたいな話なんですけど、「7つの誘惑」と言われる甘い匂いを放つ呪術を使って予算を食い物にして、際限なく増えるのが最大の特徴。
「もっと多くのお金を」「もっと多くのテクノロジーを」「もっと多くの組織変更を」「もっと多くの研修とコミュニケーションを」「もっと多くのデータを」「もっと多くの説明責任と(責任の)明確化を」「もっと多くの戦略的計画を」。
これみんなやっていません? これが予算とか全部を無駄にするレシピになる。無駄な仕事が際限なく増えて、最悪の場合は、組織を機能不全に陥らせる最恐の害虫です。
盲目ながら米ユタ州の行政改革をリードした経営者の実例
岸良:この「組織をダメにする7つの誘惑」を撃退するプログラムについては、実際に開発したクリステン・コックス(※目が不自由でありながら、米国のユタ州で行政改革をリードしたアメリカ人の経営者)に語ってもらいます。

(動画再生)
クリステン・コックス氏:こんにちは。クリステン・コックスと申します。ソルトレイクシティにあるユタ州の議事堂からみなさんにごあいさつしています。そして日本のみなさん、おはようございます。
私が行政に関わり始めて何十年にもなります。ブッシュ元大統領の任期中は、ワシントンD.C.で働いていました。3人の州知事の下で、さまざまな機関の責任を担ってきました。また、一時は私自身が行政の給付金を受けていたこともあります。
私は全盲ですが、目が見えなくなり始めていた頃、行政からの給付金を受けていました。そこでの経験は、あまり好ましいものではありませんでした。でも、行政のさまざまな視点から見て、何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのかを学んできました。
ここユタ州では、「TOC(Theory of Constraints)」を、例えば道路工事から刑務所の建設、社会福祉などのさまざまな行政分野に取り入れ、大きな成果を出しています。行政のすべての場面において、同じリソースであっても大きく改善することは可能なのです。見るべきところがわかれば、隠れたキャパシティが見つかるからです。
私たちの『行政をダメにする7つの誘惑』という本で、ブレイクスルーを起こすためには「新しい解決策」を探し求めるのではなく、課題への「新しい理解」が必要だと説明しています。
私たちの推定では、ほとんどの課題には解決する価値がなく、取るに足らないノイズが多いと感じています。私たちは課題を複雑に捉え、精緻な解決策に目が行きがちです。しかし本来課題とは、正しい見つけ方さえわかれば、多くの場合シンプルです。そして、本当に解決すべき課題さえ見つかれば、飛躍的成果が得られます。
この話は寓話ですが、人がいかに「7つの誘惑」を適用しがちかについて書かれています。私たちが飛びつきがちな解決策の多くは、本当の意味での課題の解決にはなりません。それについて、いくつか身近な事例を紹介しています。
もし行政のみなさんが、「無視すべきノイズ」と「本当に集中すべき課題」の見分けがつくように訓練できれば、今あるリソースでより多くを実行できることを約束します。最終的に求めていることはみな同じです。
みなさんにウィン・ウィン・ウィンをもたらしたいのです。日本では「三方良し」と呼ばれていると思います。納税者のウィン、顧客のウィン、そして職員のウィンです。そして、何をやめるべきかがわかれば、何ができるかを見つけられるようになります。
ユタ州ではすべての機関において、25パーセント以上の改善が起きました。ですが、まだまだ活動は始まったばかりです。ありがとうございました。
(動画終了)
岸良:彼女は目が見えないのにユタ州の財務長官をして、非常にすばらしい成果を出して、全米の行政改革アワード (Governing Magazine's Public Officials of the Year 2016を獲られた方なんですけど、『7つの誘惑』を、ぜひ日本の行政や政治の方に学んでいただきたいなと思いませんか?