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会社の体質、これまでどおりで大丈夫? 職場に新たな風を吹き込むための「ネガティブ・ケイパビリティ」入門(全5記事)

ムダな仕事がなくならない“マッチョな職場”を変えるには 近年の過度な「KPI主義」が組織に与えた影響

組織開発のプロ・沢渡あまね氏が上梓した『「すぐに」をやめる~ネガティブ・ケイパビリティの思考習慣~ 』。旧態依然の組織文化を見直し、職場に新たな風を吹き込むための「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念について解説。本記事では、書籍で使用されている図表などを使用しながら、職場の体質を変えていくためのヒントを探ります。

「ネガティブ・ケイパビリティ」を組織にインストールするには

沢渡あまね氏(以下、沢渡):あとのストーリーはぜひ本書を読んでいただくとして、ここから第2部。ネガティブ・ケイパビリティの呼吸をみなさん自身、あるいはみなさんの周りに小さく取り入れていくために、どんな考え方でどんな行動をしたらよいか。これを第2部でお伝えしています。

ネガティブ・ケイパビリティの呼吸をみなさんの組織にインストールするのに活用できる、図表やツールを第2部では網羅していますので、その一部をここでは駆け足で紹介したいと思います。

まず1つがこの絵ですね。例えば、年度末の部門の振り返りミーティングやチームの振り返りがあれば、その会議の場でこんな絵を出していただいてもいいと思うんです。いい組織やいい人たちとつながって、いいお客さんやいいお取引先と、いい成果をじっくりと出していける。

良い組織は、ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティの両輪をきちんと回しているイメージ図です。バスの車体をイメージしてください。「良い組織」というバスの車体があります。

そもそもバスって、途中から乗ってきて途中で降りる人もいれば、座っている人も立っている人もいるし、小さな生まれたばかりのお子さんもいれば、お年を召した方もいる。まさに、さまざまな人たちと安全、安心に同じ方向に向かっていく組織そのものだと思うんですね。

より良い状態で安全、安心にみなさんが乗り降りできて、ドライバーさんも安全、安心に運行していくためには、ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティの両輪が必要ですというイメージの絵です。

ムダな仕事がなくならない、組織がマッチョ体質……

沢渡:これだとちょっと抽象的すぎるのであれば、日々の業務で使ってほしいのが、みなさんもたぶんよくご存じの「緊急度×重要度」のマトリクスですね。みなさんの組織やチームの今やるべきことと、「これは問題だな」と思っているものを1回並べてみるのもいいと思います。

ポジティブ・ケイパビリティ優位で、目先のことしか優先しない、目先の成果を出した人だけが評価される組織というのは、第1領域に寄りすぎているんですね。

なんでもかんでも重要度が高い扱いをし、とにかく「すぐにやれ」。寝かせて今やらなくてもいいことまで第1領域にぶっ込んで、とにかくさばいた人だけが良しとされる。ムダな仕事がなかなかなくならない、あるいは残業(が多い)だとか、マッチョな体質が強化されてしまう。

人の育成しかり、何か新しいことにチャレンジしてみる、新規事業の検討のための実証実験をやるにしてもすぐの成果だけを求めようとする。

いずれもすぐにはきちんと成果が出ないかもしれないけれども、じっくりと温めて、「これはいけそう」「これは無理そうだね」というような問いを立てながらトライ・アンド・エラーして未来の稼ぎを創っていく領域です。

なおかつ、新規事業にしてもチャレンジにしても、今すぐやらなくても困らないんだけども、いつかやらないといつの間にか既存の製品やサービスが陳腐化して、競合過多になって、利益が出なくなった時にはもう手遅れな類の仕事。

今は事業運営の話をしましたが、みなさんの組織運営においても、例えば問題だと思っているプロセスを改善する業務改善もすぐに成果が出なかったり、改善の収穫を刈り取るまでに時間がかかるかもしれない。だけどこれをやらずにずっと放置すると、ある日気づいたら、すぐにやらなきゃヤバい第1領域に化けていたりするわけですね。

ゆえに、特にこの第2領域が重要です。重要度が高いけれども緊急度が低いものにきちんと時間をかけて取り組んだり、「こういうところも評価しなきゃいけないよね。第2領域の評価基準を設けなきゃいけないよね」という議論をしてほしくて。

みなさんの仕事やタスク、第1領域だけに塗り固められていませんか? 第2領域に向き合うための時間、余白を取れていますか? 実は第4領域のものは捨ててしまっていいのでは? 第1領域を楽にするためにも、このマトリクスを活用してネガティブ・ケイパビリティの呼吸を小さくインストールしていってください。

近年の過度な「KPI主義」が助長してきた行動

沢渡:こんな図も添えています。縦軸が、短期と中長期。横軸が、成果と変化。「ポジティブ・ケイパビリティお化け」みたいな、すぐに成果を出す、すぐに行動した人だけが正義という組織は第Ⅰ領域にまみれすぎですね。

さらにこれは大企業においてもそうなんですが、「四半期単位で何らかの成果を出しなさい。それを月次、週次にブレイクダウンして、毎日何かをやっていなければいけない」みたいな空気も、やはり良くないですね。

その意味では、第Ⅱ領域の「短期的な変化」。成果ではなくて、ちょっとやってみて「こういう変化、こういう収穫が生まれました」ということを、想定外の収穫も含めてきちんと評価していく、かつ発信していく。

特にトップの人などが、「これはすぐには成果が出ないかもしれないけれども、こんな変化が生まれたから大事」と(評価することも重要です)。

さらに新規事業創造や改善など、バックオフィス業務もそうかもしれないですが、日々の成果が見えにくい仕事に取り組んでいる方は、「このプロセスや仕事は見えにくいけれども重要」、「この仕事の積み重ねが未来の成果につながりそう」など手応えを自ら発信していく。そのようなコミュニケーションも大事ですね。

私たちの顧問先でも、特にここで言う第Ⅱ領域、第Ⅳ領域の変化を評価する評価制度の構築や、部門長による「変化が大事」というメッセージを始めて、ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティの両輪を回し始めた企業もあります。そのような組織が増えてほしいと思います。

成果も大事だが、変化を言語化する。変化の積み重ねが中長期の未来の稼ぎ方や未来のビジネスモデル、未来の人と雇用の仕方、さまざまな未来の成果を生む。成果主義だけではなくて変化主義もということで、こんな表を作りました。傳さん、これはいかがですか?

傳智之氏(以下、傳):いいですね。成果主義じゃなくて変化主義というのは、今までになかった言葉かなと思うんですが、そうなんですよね。成果につながるまでのプロセスをちゃんと評価してあげないと、得られるはずの成果もどこかで死んじゃうことになるので、まさにそうです。

沢渡:そうですね。最近ニュースを見ていても、「日本の成果主義は失敗だった」みたいな記事を見かけることがあるんですが、これは別に成果主義が失敗なのではなくて、変化やプロセスを軽視しすぎたのが失敗だったと僕は思います。

傳:そうですね。

沢渡:もちろん成果を評価する文化も大事。

「ダイバーシティ」の7つの観点

沢渡:さらには、「ダイバーシティ 7つの観点」も本書で紹介しています。私はダイバーシティ&インクルージョンの企業講演で最近よくお話しするのですが、ダイバーシティ&インクルージョンって人事が言うと説教くさいじゃないですか(笑)。それは、現場の人たちと対話していてもうすうす、いや明確に感じています。

私も民間企業のサラリーマン、管理職をやっていた頃、「なんか人事が説教くさいな」と思っていました。よって、人事があまり触れないダイバーシティの話を(私は)しています。ここで特に強調したいのは3番目と4番目ですね。「経験・体験」の多様性と、「インプット」の多様性。

社内だけではなくて、外の人から気づきや学びを得る機会があったり、組織の中だけではなくて外にも頼れる知識の引き出しがあると強いですよね。

解決策のバリエーションが増えます。また、何度も繰り返しますが「内向き×モーレツ」は、モラル崩壊、コンプライアンス崩壊、ガバナンス崩壊のリスク。

外の視点や外の切り口を得るために)例えば複業や兼業をしてみる。A社では経営者や役員として、B社ではメンバーとして働くのもありでしょう。

これはまさに経験や体験の多様性を(自分に)内在する行為です。そうすると自分たちの常識が世の中の常識ではなくなる。もしかしたら、「自分たちの常識に世の中の人はドン引きしている……」みたいなことがわかるわけですね。

経験・体験を多様にしていく。一人ひとりがさまざまな体験をすることにより、1つの物事に固執しない。さらには疑うことができる。まさにクリティカルシンキングです。批判的に自分たちのやり方を見直すことができる。これは組織と自分自身双方の健全性を保つ上でも大事です。

経験や体験、インプットの多様性が重要

沢渡:さまざまな経験や体験を日々の仕事に活かす、あるいはイノベーションを起こすのであれば、「私はこういう人とつながっていますが、よろしければ引き合わせましょうか?」「すばらしいインプットを持っているね」みたいなつながりや相互リスペクトが命。これらは「社会関係資本」と表現されたりもします。

それが組織の成果にも変化にもつながっていくとなると、まさに自分たちが価値創造していく力も高まっていくわけです。ネガティブをポジティブに変えていく、あるいはポジティブをよりポジティブに変えていくという意味でも、経験や体験の多様性、インプットの多様性が非常に大事という話をしています。

私も今、プロティアン・キャリア協会のアンバサダーをやっています。キャリア自律に取り組んでいる日本最大の団体で、法政大学の田中研之輔先生、(通称)タナケン先生と有山徹さんが2人で共同代表でリードされています。

タナケン先生と有山さんにもご協力いただいて、プロティアン・キャリア協会、さらには静岡県焼津市のサンロフトというIT企業ほかと共創で、「体験は組織の資産であり個人のキャリア資産である。それをきちんと可視化していこう」なる世論の形成と仕組み作り、データベースや関連のサービスを作る取り組みを2024年から始めています。

すでに民間企業2社が手を挙げてくれ、実証実験も開始しています。「多様な体験? それが成果につながるの?」のような野暮な問いをなくしていくために、「それは組織にとってもキャリアにとっても有益な資産になり、人的資本経営の一環である」なる合意形成を加速し、経営のキーワード、経営の関心事と紐づけて立体的に社会実装していきたいと思います。

人事、経営企画の方で体験資産経営の話を聞いてみたい、取り組みたい方は、お声掛けいただければと思います。

私たちも体験資産経営の取り組みを発信しながら、経験・体験の多様性、インプットの多様性(を広げていきたいと思っています)。回り道になるかもしれないけどさまざまな体験をしたり、複業・兼業者などと一緒に仕事をすることは、自社にはない体験資産をもたらしてくれることにつながるのです。

多様な人リスペクトしながら、目先の成果をとにかく素早く出せる同質性の高い集団になるのではなく、真のダイバーシティ、多様性を武器に様々な人たちと共創できるようになっていく。

さらに組織もそこで働く人たちもリスペクトされて、健全に成長していく、健全に着実に成果を出していく、変化を出していくというような世論形成と組織作りを進めています。傳さん、いかがですか? 編集者の立場だと、インプットや体験が枯渇すると詰むと思うんですが(笑)?

傳:そうですね。インプット、イコール知っている著者の方のバリエーションだったりとかもあると思いますね。沢渡さんは今回の本が17作目ということで、リピート率がめちゃめちゃ高いんですけれども。

でも、いろんな方とお付き合いしている中で、もちろん自分がやろうとしていることでも相対的に見られるというか。違う観点を教えていただくというところでは、やはりいろんな方と付き合うのがすごく大事な仕事かなと思っています。

沢渡:ありがとうございます。

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