CLOSE

新刊『組織をダメにするのは誰か?職場の問題解決入門』出版記念セミナー(全4記事)

最悪の場合、組織を死に至らせる“会社の害虫”とは 誤った意思決定や品質不祥事を招く要因

組織内で発生するさまざまな問題を「会社の害虫」として捉えた話題のビジネス書『組織をダメにするのは誰か?職場の問題解決入門』。 著者である岸良裕司氏が登壇したセミナーにて、“害虫”の生正体や生態についてコミカルに解説します。本記事では、イノベーションのストッパーとなる「カクニン虫」などの生態、害虫が新たな害虫を呼び込んでしまう仕組み、それぞれの対応策について語っています。

DXを煽るが変革は進まない……「DXアオリ虫」の生態


岸良裕司氏(以下、岸良):
さらに「DXアオリ虫」っていうのもいるんです。ITとかコンサル会社、企業のIT部門、新しいバズワードが好きな経営幹部とか、マスメディア、行政、政府など。とにかく「デジタル、デジタル」って鳴き声を連呼して、キラキラした羽が特徴で、腹が黒いんです。

発見は容易なんです。主な被害として、デジタル化は進んだけど、肝心のX(トランスフォーメーション)は進まない。デジタル化だけやっているとお金の無駄遣いが起こるんですね。

一部の業界では、このデジタル化を提供して利益の源泉としている(DXアオリ虫を)益虫として繁殖・販売することで、膨大な利益をもたらしている。今、IT業界がものすごく儲かっているのは、このへんがいっぱいいるんじゃないかと思います。

現実の物理空間だけでなく、インターネット、ネットやEメール、SNSなどのサイバー空間を通して、あらゆるところに忍び込むっていうのがちょっと恐ろしいところ。DXでやりたいのはデジタル化じゃないですよね。「変革=X」なんです。そのために「チェンジ・ザ・ルール」という方法があるんです。

これについて、サプライチェーンとか、いろんなITの方々が問題が何かを語っているので、ゴールドラット博士のビデオを見ていただきたいと思います。

(動画再生)



エリヤフ・ゴールドラット博士:現代数学の大きな分野であるカオス理論を調べてみると、SKU(在庫保管単位)ごとに消費量を予測することは、理論的に不可能だと気がつくでしょう。俗に「バタフライ効果」と呼ばれます。初期段階のごく小さな変化が、後に極めて大きな影響を与えることが多々あります。数学的に予測することなどできないのです。

例えば天気です。50年前はこう考えられていました。無数のセンサーと巨大なコンピューターがあれば、正確に天気を予測することができる。現在それは理論的に不可能だと知られています。明日の天気は予測できますが、1週間先は予測不可能なのです。

しかし、小売業はいまだそれを信じ続けている。より良い予測方法があると信じ続けている限り、本質を理解できないでしょう。業績を改善する唯一の方法は、より良い予測をすることではないのです。しかし、正確な予測への依存から脱却することは可能で、比較的容易にできるのです。

(動画終了)

組織を死に至らせる害虫とは

岸良:「カオス理論」「複雑系」という考え方があって。さまざまな要素が絡み合って、お互いに影響し合っている環境では、それぞれが影響し合うので、将来を予測できないと証明した理論なんです。

「AIによって、予測が当たるようになりますよ」と言われたら「カオス理論を知っていますか?」と聞いたほうがいいですね。「よそう」ってひらがなで読むと、「うそよ」と書いてあるんです(笑)。よくできてます。

ヨソウ虫が発生すると、需要予測が当たらないので、過剰在庫と欠品を引き起こし、会社の利益と売上を阻む。特に予測が外れたことによって、営業と生産の間に険悪な関係を引き起こす根本問題と言われています。

一部の組織では「ヨソウ」を「ヨソク」と書き換えているんですね……これは汚いのでちょっとやめておきたいと思うんですけど、予測しても、市場は常に変化する。そうすると、市場の変化に迅速に対応する方法が必要なんです。

さらに「モクテキワスレ虫」というのがいて、「シュダンスキ」という、いい匂いを出すんですね。これは僕、ほわっとしていて大好きなんですけど。

甘い匂いが発生する幻覚物質を分泌し、人の脳に作用して目的を忘れさせ、手段しか考えなくさせるんです。繰り返し発生した現場では、シュダンスキの甘い匂いがクセになって、常に新しい手段を注入しないと不安になる「手段中毒」を引き起こす可能性があります。

ものすごく危険なのに、お金と時間の無駄遣い以外の害は軽微だと言われています。こういうのは目的と手段をちゃんと明確にするために、「ODSC」(Objectives(目的)Deriverables(成果物)Success Criteria(成功基準)を指す、事業の初期段階に定義する考え方)という方法があるんです。

さらに「ゲンカ虫」もいます。経理とか経営企画部、経営幹部、工場の経営幹部などに多く見られます。これは人に幻覚を引き起こす化学物質「ハイフ」をあちこちにまき散らす毒虫で、特にExcelなどのスプレッドシートの数字を歪んで見せることによって、誤った意思決定を引き起こすんです。

最悪の場合、組織を死に至らせるほど恐れられている。このゲンカ虫、「ハイフします」って赤い毒を持ってるんですね。Excelシートが黒字なのに、これがあると赤字に見えるんですよ。

「お前のところは赤字だ!」と言うんだけど、本当は黒字であることがけっこう多いんです。こういうゲンカ虫に気をつけていただくことが大事ですね。これは「スループット会計」という、ゴールドラット博士が発明した管理会計で解決できます。我々はやる前から、「結果、このくらいの業績を上げます」と言うんですね。

さまざまな害虫に対する対応策

あともう1つ「ザイコフヤシ虫」。これはちょっと太っていますね。「ザ」って書いてあるもので、「もっと安いところで!」と。より安いコストを求めて、海外生産を展開している会社に忍び込むと言われていて、メタボ体型が特徴です。

財務諸表の棚卸在庫で、100日とか200日とか。200日在庫があるっていうことは、今作ったものが200日でどこかに売れるんですよ。これでは厳しいに決まっています。

発見は容易で在庫日数でわかります。昨今はサプライチェーン分断リスクがあるので、「より在庫を持とう」とやってしまうと、さらに増殖が見込まれるんです。海外生産によって、計算上はコストダウンができるために、長年益虫として勘違いされてきたんです。

同じものがずっと売れる時代は、確かにコストダウンしても売れたんです。だけど今はもうコンビニなんて、2週間で売れなければ廃棄ですよ。そういう時代で、リードタイムで1週間とか2週間、3週間とかね。海外だって4週間かかっちゃう。

これ、致命的だと思いません? その間の資金も出ちゃうし、資金繰りを悪くして、経営危機に陥れる恐ろしい害虫であることが、最近わかってきたんです。作れば売れる世代の経営幹部の目には、いまだに益虫として見えることが多いので、めちゃくちゃ気をつけなくちゃいけないです。

恐ろしいのは、ゲンカ虫と共生することも多くて、このバッドコンビネーションにお気をつけいただきたいと思うんです。この場合には『ザ・ゴールに書いてある、TOCの基本である「DBR(Drum Buffer Rope:仕事の流れの中でボトルネックとなる工程に注目し、スループットを最大化する生産スケジュール手法」)をやるといいんですね。

さらに、これは「ナゼナゼ虫」です。「なぜだ? なぜだ? なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」。5回は、実は機械に対してだったらいいんです。ところがいったん工場を出て、人に向かって「なぜだ?」と言ったらどうですか?

機械は感情を持ってないけど、人間だと感情を持っているわけですね。その人たちが「なぜだ?」「なぜだ?」と言われたら、責められた感じがするでしょう? 人間って自己防衛本能があるから、自分を守ろうとしてつい言い訳するんです。言い訳すると、「言い訳するな!」と言われるんです。

「なぜ?」を5回も人に向けるのは、けんかを売っているのと一緒です。だから、まったく意味がない。感情がない機械にはいいんです。でも人間に向けてつい言いたくなるんです。「なぜ?」って。これでメンタルを追い込むんですよ。パワハラになりますのでお気をつけいただきたいと思います。人のせいにしないようにするには「思考プロセス」という方法があります。

社会問題につながりかねない害虫のおそろしさ



「念のためにサバを読んでおこう」という「サバよみ虫」もいます。中経出版で出させていただいた本(『最短で達成する 全体最適のプロジェクトマネジメント』)が、いまだに20年間ロングセラーなのは、この害虫のおかげです。実は英語では「Safety Bug」っていうんですよ。海外ではめちゃウケているんですけども。

人は責任感があるから「念のためサバを読んでおこう」と思っちゃう。それを栄養源にして急速に活動するんですね。「納期を守れ!」と言われたら、ついサバを読みたくなりません?

そこで主な被害として、納期遅れとか予算超過があるんです。そしてその後にシーエー虫が出てきてチェックしたり、マルチタスク虫が大量発生する。これはみんなでつくる「Buffer Management」しか解決方法がありません。

さらに「キキカンアオリ虫」というのが出てくるんですね。「危機感を持て!」と。これで危機感を持てますか? 大号令を飛ばす経営トップの周囲に生息しているんですけど、業績が低迷すると、組織の上部から急速に増殖し、会社中が騒がしくなるので発見は容易です。

「キキカンヲモテ!」という鳴き声を出して、同時にムチのように変異した手足で周囲の尻を叩く。現場に変革を迫る一方、最も変わらなければならない経営幹部が変わらないのでは業績は好転しません。

ただ「危機感を持て」と言っている本人がぜんぜん結果を出せないので、だいたいの場合は株主に淘汰されます。ということで、これは最弱な虫ですね。これは本当は、「変えることのマイナスを減らし、プラスを創る変化の四象限」をやれば、ぜんぜん変わります。

これは「テイコウ虫」で「Yes, But……」と言うんですけど、「変える」という言葉に反応する。「Yes, But……」「そのとおりですけど、だがしかし」と言うんです。特にDXなんかをやると、「Yes, But……」という言葉がよく出てきます。

ただ抵抗しているとは言われるんですけど、そんなことはない。この方々は「抵抗勢力」というレッテルを勝手に貼られているだけで、「こういうところは懸念があります」と言っているだけだから、それを味方につければいいんです。

これについては、抵抗勢力を味方にする「Negative Branch」という方法があります。これを知っていれば、(相手を)抵抗勢力と言わず、「いいじゃないですか! それ、聞かせて」と言って、頼もしい味方にできます。

最近も、名門企業で品質の不祥事がありましたよね。品質不正で揺れる会社の不祥事で見つけられるのは、風通しの悪い部分です。納期のプレッシャーがきつくて、そのしわ寄せが全部現場に行っちゃうと、どうなります? しわ寄せが来て、(虫の顔に)しわが出ていますよね。



そうすると、納期を守らなくちゃいけないということで、「シ」って、視神経を麻痺させる毒ガスを出すんです。そうすると目が見えなくなるんですよ。納期以外見えなくなって、品質はちょっとだけ忘れちゃうんです。

それで時として社会問題になりかねない品質不祥事を起こして、非常に問題になる。これは、プレッシャーをかけることではまったく解決しないんです。問題を未然に解決するフルキット(Fullkit)という方法が、本当に特効薬になります。瞬く間に治るんですね。

イノベーションを止める「カクニン虫」

さらに「カクニン虫」。「コストは?」「市場規模は?」「競合は?」と言って、イノベーションを台無しにする、雲の上の人なんですね。偉い人が来てこれを言うんです。

高いところが好きだけど、そこから落ちるのを極端に恐れるあまり、たくさんの確認を繰り返す習性があるんですね。この虫がまん延すると、職場は商品作りよりも書類作りに追われ、イノベーションや開発が止まってしまう。逆効果になっているんですね。

時に「リスクを恐れるな!」「チャレンジしろ!」なんて言うんだけど、シーエー虫が組織の高いところに上がった時に、このカクニン虫に変異するんじゃないかと。

全部後出しジャンケンで、イノベーションの流れをわざわざ止めることしかない。失敗させないようにしているんだけど、成功させるように仮説を加速することができないんですね。

イノベーションを評価する人って、言ってみればブレーキは付いているんです。だけど、加速するアクセルが付いてないんです。ブレーキは付いているけど、アクセルが付いていない車って、不良品でしょう。なのに、イノベーションではそういうことばっかり起こるようになっていますね。

そして「ソシキノカベ虫」。これは本当にすごいんです。だって、組織の壁なんて誰も見たことがないのに、あたかもあるようにするんです。組織と組織の間に入り込んで、せっせと組織の壁を作る習性がある。人に部分最適の行動を引き起こすんです。一部では「タテワリ虫」とか言われることがあるんです。

組織連携を阻み、部分最適の組織風土病を引き起こす原因と言われている。組織の能力を極端に低下させて、放置すると組織間の軋轢さえ引き起こし、最悪の場合、経営危機を招く危険な虫と言われている。

特に生産と販売の間に、分厚い壁ができるのがよく知られていますね。製販一体会議をやっているところは、必ずソシキノカベ虫がいると言われています。だって、できていないから書いてあるんだもん。できていれば要らないよね? これも全体最適のマネジメント理論TOCで、あっという間に解決します。

頭でっかちな「ベキ虫」への処方箋


さらに「~すべきです」という「べき虫」が会社の経営企画室とかコンサル会社とかアカデミアにたくさんいるんですね。頭でっかちで胸に分厚い書物の突起があるんです。新しいキラキラした経営手法が紹介されると、周囲に群がっていく習性がある。

「ベキ虫」がはびこると、3文字の英単語が並んだ手法をやたら口にするようになって、分析や提言が書かれた分厚い資料が職場にあふれるようになる。ただし、自分で実践する経験はなくて、実は実践して成果を出すのは苦手。特に問題の外側に自分を置きたがる習性があって、時には「評論家」と揶揄される。

ただキャリア志向は強いんです。居心地が悪くなると、すぐジョブホッピングする。「ベキ、ベキ」と言っていて、うまくいかないからホッピングするんだけど、採用する側って、結果を出している人が欲しいんじゃないですか?

だからキャリア志向と言いながら、自分のキャリアが得られないという悲しいことがあるんですね。「知る」ことと「やれる」ことって、どっちが難しいか? 「やれる」ことのほうがはるかに難しいです。これをやるには呪文があって、「OKY」。日曜大工じゃないですよ。「O(お前が)K(来て)Y(やってみろ)」と。

「べき」じゃなくて、実際にお前がやってみろと言ったら、この人たちは頭が良くて、会社を良くしたいと学んでいるので、それをチャンスとしてやれる人と、こうやって逃げたい人がいるんですね。このチャンスでやれる人になると、本当は益虫に変わっていくわけです。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!