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「なぜ今、アントレなのか?」(全5記事)

GAFAMを除くと、日米の成長に大きな差はない 東京都副知事の宮坂学氏が語る、「挑戦する会社」を生み出すことの価値

中央大学で開催された「グローバル・アントレプレナーシップ・ キックオフ・シンポジウム」。文部科学副大臣の今枝宗一郎氏、東京都副知事の宮坂学氏、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長の伊藤羊一氏による、「 アントレ教育の未来」についてのセッションをお届けします。本記事では、米国との比較で見た、日本の経済成長が停滞する背景について、東京都副知事の宮坂学氏が語りました。

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アントレプレナーは会社を興す人だけではない

国山ハセン氏(以下、国山):では、続いてご講演いただくのは、宮坂学東京都副知事です。どうぞよろしくお願いいたします。みなさん大きな拍手でお迎えください。

(会場拍手)

宮坂学氏(以下、宮坂):みなさん、こんにちは。今、副大臣のほうから「面で」という話がありましたけど、その重要な面の1つを担っている東京都で、今どういうことをしているのか、お話ししたいと思います。

最初に東京都がどういうことを考えているか、基本的な考え方をお話ししたいと思います。冒頭に先生のほうから、「会社を興す人だけがアントレプレナーじゃないんだ」ってお話をされましたが、本当にそのとおりだと僕も思います。

もうちょっと平たく言うと、「挑戦する人」って我々は呼んでいます。別に会社を作る人を増やしたいわけじゃないんですよ。挑戦する人がたくさん生まれて、そして挑戦したいという人が世界からこの街に集まってきて。そして挑戦する人の足を引っ張るんじゃなく、応援する街にしたいなって、僕らは今思っています。

これは最初に東京都でスタートアップ戦略を作る時に、みんなでワイワイ言いながら「こんなことをやろうか」って作った言葉なんですよね。

芸術や社会活動家、探検やスポーツや学問の世界とか、本当にいろんな領域で挑戦する人がいますよね。すごく大きな挑戦をする人もいれば、とても小さな身の回りの挑戦をする人もいると思うんですよね。東京都はすごく大きな街で、人がいっぱいいます。でも今から少子高齢化で人口が減るかもしれなくて、大変だと言われていますよね。

私は、人が減ることが一番恐ろしいわけじゃなく、挑戦する人が減ることがもっと恐ろしいと思うんですよ。

GAFAMを除くと、日米の成長に大きな差はない

宮坂:都会ってどういう街か。僕は実はすごく田舎の出身なんですけど、昔東京にすごく憧れてたんですよね。それはなぜかというと、演劇やアートやエンタメとか、東京にはたくさんの魅力がある……当時ビジネスに興味なかったんですけど(笑)。

とにかく都会には、挑戦する人がいっぱいいると思ってたんですよ。実際僕の田舎にはあんまりそういう人はいなかったんですよね。逆に挑戦する人がちょっと浮いちゃうような感じがあって(笑)。都会に出ていけば挑戦する人がいっぱいいて、いっぱい刺激をもらえて「俺もやれるかな」なんて思って、僕は都会に出たクチなんですよね。

なので東京都をどんな街にしたいかっていうと、いろんな構想があるんですけど、1つは挑戦する人がたくさん生まれる街にしていきたいと思っています。その中で、ビジネスの世界で挑戦をする人が、いわゆるアントレプレナーと言われるんです。

会社を興す人もアントレプレナーと言われますけど、大きな組織で何かを変えようとする人も、すごく大事なアントレプレナーです。ここにたくさんいらっしゃる学生さん一人ひとりも、アントレプレナーシップの小さな光を持っていると思うので、それをぜひ大事にしてほしいと思います。

今日はその中でも、起業しよう、新しい会社に参加しようという意味での、ビジネス領域の挑戦者の話に集中して、ビジネスに寄せて話したいと思います。

なぜやるのか? 「失われた30年で、日本はぜんぜん伸びていない」とよく言われます。スライドのチャートは、日本全体の時価総額とアメリカの時価総額の差です。

(チャートの)下に黒と青のグラフがありますよね。これは日本とアメリカです。「アメリカは伸びているんじゃないの?」とみなさん思いますよね。GAFAMと呼ばれるような、過去30年から50年以内にできた、新しい会社の時価総額を足すと、このような差になってしまうんです。それを除くと、日本とアメリカはあまり変わらないんですよね。

挑戦する会社をたくさん生み出した国は伸びたし、あまり生み出さなかった国や、戦後に生まれた大きな会社のまま来てしまった会社は伸びなかったと。比較的シンプルな話なんですよね。

米国では、過去50年以内にできた会社で働く人が多い

宮坂:アントレプレナーが作った会社は、我々の生活には身近な存在になっています。例えばコロナの時に、モデルナのワクチンを打った方がけっこういらっしゃったと思うんです。これは最近生まれたスタートアップで、アントレプレナーが生んだ会社なんですよ。

それから、能登の震災の時には「スターリンク」という、衛星でつながるインターネットをたくさん持ち込みました。これもSpaceXという、最近生まれたスタートアップのものです。

コロナの時には、飲食店の方に協力いただいて、お店をオープンするのを控えてもらいました。その中で生まれたUberEeatsや出前館などの食料の宅配も、アントレプレナーがつくったサービスなんですよね。

決して一部の領域をやっているわけではなく、世の中の根元、災害のような非常時に、アントレプレナーの起こした会社が大活躍しているんです。

そんな中で、「例えば日本とアメリカで、こういう違いがありますよ」ということを、参考までにご紹介したいと思います。

今から就職する方もいると思いますが、僕は大企業に就職することはぜんぜん否定しません。それは選択肢の1つです。都庁も大企業なので、ぜひ来てほしいんですけど(笑)。「公務員になりたい」という人がいれば大歓迎です。

一方でアメリカのランキングを見ると、過去50年以内にできた会社に、みんな今就職しているんですよ。どちらかというと、日本は過去50年以上経った会社に入る人が多いんですよね。僕はどちらに入れとは言いませんが、「そういう選択肢がありますよ」とみなさんに伝えたいんです。

たぶん、みなさんのお父さん、お母さんも(そうだと思いますが)、 50年以上前にできた会社で働いている人が比較的多いという情報は、入ってこないと思います。新しい会社はたくさんありますから、そういうところも、ぜひ選択肢の1つにしてほしいなと思います。

東京都が掲げる「3つの10倍」

宮坂:東京都はどんなことを考えているかというと、3つの10倍(10×10×10)を目標にしています。「起業する人の数を10倍にしよう」「起業した会社が世界に羽ばたいて大きくなることを10倍にしよう」「行政は起業した会社からもっと調達しよう」と。GDPだと3割です。行政ですので、今、「行政がスタートアップからもっと買おう」と考えています。

そのために、大きなテーマを2つ掲げています。1つは、「TIB」と「SusHi Tech Tokyo」です。ぜひみなさん、今日はこれを覚えておいてほしいと思います。

まず「TIB」は、「Tokyo Innovation Base」の略です。場所は有楽町駅の目の前にあって、みなさんのような学生のために作った施設でもあるので、ぜひ来てほしいと思います。誰でも自由に来られます。「何か挑戦したいな」という人が集まって、ワイワイ言いながら新しい事業や取り組みをしようという、取り組みの拠点にしています。

こういう感じで、若い人もたくさん集まっていて、いろんなイベントをしょっちゅうやっています。「TIB JAM」という企画をやっていますが、若い人を中心に集まってもらっています。「Generation Z」など若い世代の人は、社会課題を感じている人が多いと最近よく言いますよね。「世の中ってなぜこうなんだろう?」と思うなら、ぜひ来てほしいんですよ。

ここに来て、同じように思っている人と話し合って、「なぜこうなんだろう?」じゃなくて、「こうやったら解決できるんじゃないのかな」と考えるのが、アントレプレナーシップの第一歩だと思うんですよね。もし気になった小さな課題があれば、ここに来て仲間を見つけて言葉にしていくことを、ぜひやってもらえればと思います。

世界中のスタートアップが集まる「SusHi Tech Tokyo」

宮坂:そして、もう少し本格的なものは、八王子駅の近くで開催する予定の「JAM Camp」です。これは1泊2日で、新しいビジネスのアイデアをみんなで考えて仕上げていく、泊まり込みの合宿です。

1人で考えるよりも、仲間と考えたほうが絶対にいいと思います。仮に起業しなかったとしても、そういったことを考えた体験は、とてもいい経験になると思います。心の中に何かモヤモヤしたものを持っている人は、この場をぜひ使ってもらえたらと思います。

「TIB」を使って起業したい、社会課題を解決したい人が集まって、何か事を起こす場所を(提供して)、1年を通じて活動しています。その集大成として、毎年5月に「SusHi Tech Tokyo」というイベントを開催しています。

「『SusHi Tech Tokyo』って何だ?」と思う人がいるかもしれません。「Sustainable High City Tech Tokyo」の頭文字を取ったものが「SusHi Tech Tokyo」です。簡単に言うと、持続可能な東京をテクノロジーを使って作っていこうじゃないかというイベントです。日本だけでなく、世界中から本当にいろんな分野のスタートアップが集まって、アイデアや技術を発表する場になっています。

今年は国内外から430以上のスタートアップが集まって、参加者も4万人を超えました。台湾や香港、フランスなど、こういった世界のスタートアップ、「エコシステム」と呼ばれている人たちがブースを作っています。

参加すると、こういう人たちに自由に話を聞いたりできます。日本のブースもありますので、ここに来れば、世界だけでなく「日本のスタートアップにはこんなものがあるんだ」と知る機会になります。

特徴的なのが、未来の都市を話し合うイベントなので、大学生を中心にイベントを組み立てているんですよ。ちなみに僕は今、56歳なのですが、「56歳の人が、未来の都市の話をしてもしょうがないだろう」ということです。未来を作るのは若い人ですから、どんな展示をするのか、どんなセッションをするのかを大学生が企画して、それを我々大人が実現する。こういう構造を取っているんですよね。

事業計画は必要なし、たった400字で自分の夢を語るイベント

宮坂:この「ITAMAE」という名前は、僕らじゃなくて学生が作ってくれたんです。「Innovative Technology Academic MAEstro」を略して「ITAMAE」というそうです。「SusHi Tech」というイベントに「ITAMAE」というチームがいて、若い世代を中心に「未来の町を考えるには、こういうセッションをすべきじゃないの?」と議論して、我々が実現する。そういったコーナーもやっています。

これは非常に大人気で、今年は「ITAMAE」が企画したイベントに1,000人以上が参加したんですよね。学生のボランティアもたくさん参加してくれました。もしみなさん、来年参加を希望されるのであれば、ぜひボランティアをしてもらえるといいかなと思います。

来年は2025年5月8日から5月9日に開催します。日程は決まっていますが、中身は今から詰めていきます。「ITAMAE」を来年どうするかも今からですが、やることは決まりましたので、みなさんぜひ、スケジュールを押さえてもらえるとありがたいです。この「TIB」と「SusHi Tech Tokyo」のサイクルを回していこうと考えています。

もう1つみなさんにお伝えしたいのは、「TOKYO STARTUP GATEWAY」というイベントなんですよね。「東京都で事業を始めませんか?」という支援や企画をたくさんしていますが、参加の仕方が一番簡単なイベントです。

たった400字で、「自分はこういうことをしたい」「こんなふうに世界を変えたい」「こんなふうに社会を変えたい」と(自分の夢を語るんです)。レポートよりも短い、たった400字で自分の夢を語ってくれればいいので、事業計画を書く必要はまったくないんですよ。

事業計画はあとで作ればいいわけです。アントレプレナーシップで一番大事なことは、夢なんですよね。昔、キング牧師が「I have a dream」と言いましたが、「I have a 事業計画」とは絶対に言わないわけです。誰もついてこないですよね(笑)。みなさん、大事なことは「I have a dream」で400字だけ言ってくれたらいいです。それがない人は、今から探しましょう。まだ若いわけですからね。

「行動する知性」を持つ

宮坂:「私にはこんな夢がある」「いつの日かこんなことをしたい」とか「こんなふうに街を変えたい」とか。身近でもいいんですよ。「隣の公園をもっとよくしたい」という小さなアントレプレナーシップでもかまわないので、ぜひこの400字の中に、みなさんの夢を詰め込んで、応募してほしいと思います。

そして、いいお知らせと残念なお知らせがあるのですが、去年は最多の2,963名が応募して、なんと6割が大学生、高校生でした。残念なお知らせは、中央大学からたった14名しか来ていないことです。これは非常にもったいないなと思いました。

「行動する知性」ですよね。ぜひみなさん、行動しましょうよ。この中で半分が応募すると、No.1の大学になります。来年の今頃、僕がもしここに呼んでもらったら、「いいお知らせがあります。なんと、中央大学の学生が圧倒的に来ていますよ」と言えるように、私も主催者の1人として待っていますので、ぜひ夢をかたちに(しましょう)。

特に大学生、高校生、そして女性はどんどん応募してほしいと思いますので、よろしくお願いします。「挑戦者が生まれ、世界から集まり、挑戦者を応援する東京へ」ということで、以上で私のお話とさせてもらいます。それでは、「TOKYO STARTUP GATEWAY」でお待ちしています。ありがとうございました。

(会場拍手)

国山:宮坂さん、大変貴重なお話の数々、ありがとうございました。

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