CLOSE

【手放すTALK LIVE#046】 出版記念イベント 『大きなシステムと小さなファンタジー』 一つ一つのいのちが大切にされる社会へ(全4記事)

ブラック企業の次に来る「透明企業」の問題点 良い人ばかりの均質化された組織で失われつつあるもの

『大きなシステムと小さなファンタジー』の刊行を記念して開催された本イベント。著者で、クルミドコーヒー/胡桃堂喫茶店店主の影山知明氏がゲストに登壇し、社会や組織にある大きなシステムの中で、「どうすれば一つ一つのいのちが大切にされるのか」について語り合いました。本記事では、均質化する組織の問題点や、ガチャガチャした「野生の王国」的な組織の価値についてお話しします。

ホワイトで良い人ばかりの「ザ・良い会社」に抱く違和感

乾真人氏(以下、乾):次はこれがおもしろいなと思ったんですが、ブラック企業の次に来る「透明企業」。これがディストピアなのかユートピアなのかというお話ですね。「労働時間が短く、給料もそれなりに良く、休暇制度なども待遇も充実していて、ハラスメントのハの字もない、良い人たちであふれ、コンプライアンス意識の高い職場」。

「ザ・良い会社」ですよね。どの会社も、こういう会社を目指していると思うんですね。それを透明企業と呼んで、本当にそれでいいのかという投げかけをされているのがおもしろいなと思ったんですけど。影山さんの思いもぜひ聞かせていただきたいなと思いました。

影山知明氏(以下、影山):そうですね。本文中にもちょっと書いたんですけど、これは実話に基づいていて、こういう会社で勤めている仲間がいましてね。「とても良い会社だ」「こういう環境のおかげで2人の子どもを育てながら仕事も続けられているし、そのことにはとっても感謝している」と。「だけど、なんだか透明になっていく気がする」と、その方が言ったんですね。

「あぁ」と思って。不満はないけど、みんながある種の同質性を帯びていくというか、みんな同じようにいい人になっていくって、それが本当の我々の持っている命の形なのかみたいなことも、同時にちょっと思っちゃうというか。いや、本当は、人柄が悪い人がいっぱいいるわけでしょう?

乾:はいはい。

影山:それが、どこかで強制されていっている感覚もある。だからそれに対しての、あえてちょっと思考実験として対極があるとして、もうみんなが好き放題、自分の命の形を発現させた組織とか会社があるとしたら、「それってどうなるんだろうか?」ということを片側で想像して、意外におもしろいかもって思っちゃったんですよね。

乾:なるほど。

「ホワイト企業大賞」で点数が高くなりやすい組織

影山:それを、この本の中では「野生の王国」と呼んだんです。透明企業になんとなく向かっていくけど、そこを突き詰めた先に、人間が人間じゃなくなっていくような感覚がどこかで生まれるということが、近い将来に起こる気がしているんです。

乾:そうですよね。いい人しかいないって不自然ですよね。

武井浩三氏(以下、武井):これも共感しかなくて。僕はホワイト企業大賞の委員なんですが、昨日、その表彰式があったんです。ホワイト企業大賞は、ティール組織で言うところのレッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールってありますけど。

ホワイト企業大賞が立ち上がったのが11年前なんですけど、当時はこのグリーン組織をいい会社として定義して、それの社内アンケート……サーベイみたいなものも作って測っていくみたいなことから始まったんです。それで僕は第3回で大賞をいただいたんですけど。

その時にやはり、(賞を)立ち上げた天外伺朗さんとか、当時の委員の方々が、前提が違いすぎるということで、当時やっていたダイヤモンドメディアという会社をどう評価するかでめっちゃ揉めたらしいんですよね。

なぜならば、グリーン組織はアンケートの点がめちゃくちゃ高くなるんですね。だけど、ダイヤモンドメディアみたいな自律分散化した組織だと、忖度しなくなるので点数が下がるんですよ。

社内アンケートに「答えてください」と言われるんですけど、答えることを強制できない会社で、メンバーに「良かったら答えて」と言うから回答率が悪いんですよ。でもグリーン組織は、回答率がほぼ100パーセントいくんですよ。「うちの会社、良い会社だよね」という、ああいう感じ。でもダイヤモンドメディアはまさに野生で、個性が濃すぎた。

でもそれを丸めるんじゃなくて、ガチャガチャなままやっているというか。だから、「生きている!」という感じ(笑)。

乾:そうですよね。ガチャガチャしていないと、おもしろくないですもんね。

透明企業を目指す組織が注意したいこと

武井:でも、こうやってそれぞれが個性のままガチャガチャやっていると、丸まるというよりはやはり磨かれてくるというか。人間としての深みというか、輝きが増すというか、癖があるまま、輝きを増していくみたいな感じでした。

だから、ダイヤモンドメディアという社名は、ダイヤモンドは磨かれる前から価値があるんですよね。でもダイヤはダイヤでしか磨けないというところから名前を取っています。だからね、もう本当に共感しかない(笑)。

乾:でも、透明企業を目指したくなっちゃうから。

影山:そう。普通に増えていくんじゃないですかね?

乾:そうですよね。まぁ、ブラック(企業)よりは良いっていう感じですけど。

影山:そう、(ブラック企業)よりはもうもちろん圧倒的に良いわけですからね。

乾:でも、本当に僕たちがありたい姿が透明なのかどうかは、考える視点として持っておく必要があるのかなとすごく感じたので、共感しました。

武井:150年前とかに奴隷制度が終わりましたけど、それが終わる時に待遇が良かった奴隷は奴隷制度が終わることに反対したらしいですよね。そのほうが楽だからっていう(理由で)。

乾:なるほど。そういう生き方もあるということですね。ちょっと飛ばしますね。これはちょっと触れておきたい。「おでん理論」。「場とは何か?」といったところから、おでん理論を使って、おでんをたとえに場のことをお話しいただいているんですけど……。いや、長くなるなと思って、ここはちょっと読んでいただきたいと思います。


(会場笑)

「反応を示す」ことで、その人の存在を受け止める

乾:この次にいきます。204ページに、「受ける」ということをテーマに、「反応を示すことは、その人が生きていることを祝福するようなことだ」と書かれてあるんです。

これはコミュニケーションをどう取っていくかみたいなテーマのお話かなと思うんですけど。僕はこの、反応を示すというスタンスは(『モモ』の)モモが聞くことをしっかりしていくということだと思うんです。

この、「反応を示す」という表現が大事なんじゃないかなと、すごく思っています。よく人と人とのコミュニケーションとか関係性を大切にしていくということになると、しっかり人の話を聞きましょうとか、しっかり伝えましょうとか、話す、聞くみたいなことがクローズアップされると思うんですけど。

何も言わないんだけども、そばにいることで、その人のことを受け止めている感覚というか、いてくれている感覚を感じられることはあると思うんです。

だから、それでその人の存在を感じられるということが、反応を示すことなんじゃないかなと思います。さっきの透明企業(の話)ともつながってくるんですけど、いい会社であるためにはしっかり伝えてしっかり聞かなければならないみたいな文脈があるところで、この表現がすごくいいなと思っています。僕の思いも乗せて(拾ってみました)。

影山:拾ってくださったんですね、ありがとうございます。前の『ゆっくり、いそげ』でも1つ拾っているエピソードで、ふだん僕らが生きていて、なんとなく人といっぱい関わっているようには思うんです。満員電車の中で人には触れている、あるいは、コンビニで買い物をする。職場に行けば同僚もいる。

だけど、1人として自分の存在を受け止めてくれている人はいないという言い方もできる。特に満員電車なんかもう、そこに人がいると思った瞬間にあの環境でいたたまれなくなっちゃうと思うんですよね。

コンビニだって別に、店員さんはやるべきことを右から左に流しているだけで、別にその人の存在を見ているわけじゃない。都会で生きていると、自分という存在そのものが透明になっていく感覚を味わうことはあると思っています。

共感や傾聴をしようと思わなくていい

影山:そういう人が帰り道に、ほかの家で飼っている犬に吠えられた。それがすごくうれしかったと(おっしゃっていた)。(自分に反応を示してくれるのは)犬だけだと。でも、なんか笑えないエピソードとして、「あぁ、確かに」と思って。だから反応を示すのは、必ずしも「そうだよね」とか、共感するとか、好意的な、前向きなリアクションを返すことでなくたっていいと思うんですよ。

乾:犬に吠えられるでも。

影山:吠えられるとか、「ふざけんなよ」とか、「お前、それ、ぜんぜん違うよ」とか、「馬鹿だな」というのでもなんでもいいと思うんですよ。でも、なにか示してもらえることが、もう自分の存在を認めてくれたというなによりの証左だから。それを好意的に共感しましょうとか、傾聴しましょうとかいうことではなく、反応を示そうという言い方をしたほうがいいなという思いなんです。

乾:ありがとうございます。もう本当に共感しかないです(笑)。ある方が、「話し合いをしましょうという表現に対して、応じ合いましょうという表現が、これから大切なんじゃないか」と言われていました。まさに今のお話と同じですごく大切なことなんじゃないかなと思ったので、挙げさせていただきました。

武井:僕はAFRIKA ROSEでバラを扱っていて、うちにもバラが月に2回ぐらい来るんですね。みなさんも聞いたことがあると思うけど、切り花に毎日声をかけてあげると長持ちするというんですよ。

これ、マジです。声をかけなくても、意識を向けてあげるだけで持ちが違うんですよ。これは、やはりなにかあるんでしょうね。量子力学とかでも意識した時になんだかんだ、みたいな話があるので。僕は子どもが3人いて、わちゃわちゃしていてすごく面倒くさい時も、一瞬でもいいから意識を当ててあげるみたいなイメージを最近していますね。

本当に民主的な組織とは

乾:またちょっと、次にいっていいですか? 「誰も、他の誰かをコントロールする権限はない」。それが本当の民主的な組織なんじゃないかということが224ページに書かれてあるんですけど。ちょっとDXOのことについて、影山さんにご意見をいただきたいんですけど。

たけちゃんが自然経営というものを作って、ほかの誰かをコントロールすることはない組織をどうやって作っていくかと。意志決定をどうするかといった時に、意志決定をする人が動いていく、流動する力の流動性と表現されているんですけど。

その力の流動性を組織の中で担保するためのフレームみたいな、ティール組織で言うと助言プロセスというフレームで表現されているものを、僕たちが「RINGOプロセス」という名前にアップデートしたんですね。こういうやり方で意志決定をするとうまく回っていくんじゃないかというものを作ったんですけど。それを聞いていただいて、ご意見を聞きたいなと思っています。

仕組みとしては簡単なんですけど、「私はこういうことがやりたいです」という意志を持った人が周りの関係者に意見を聞いて、最終的に意志を出した人が意志決定する。ただそれだけのことなんですけど。

それが、仮にその会社の社長という立場にある方が反対の意見を出したとしても、意志を出した人の意志決定が優先されるという、こういうルールの上に意志決定をしていくんですね。

それにRINGOプロセスという名前をつけたんですけど、このRINGOプロセスをやっていく時に、まず僕たちは意志なのか意見なのかを整理しています。

「私がこうしたい」というのが意志で、その意志に対して周りの人が意見を言っていく。「こうしたほうがもっといいんじゃないか?」というのが意見。この、意志と意見を整理しながら、みんなでコミュニケーションしていきましょうということなんです。

時間が限られた中で意志決定できるメリット

乾:もう1つが、受け入れると受け止めるの違いなんですけど。意見をもらった時に、全部の意見を受け入れるのではなくて、しっかり受け止めて、先ほどの「反応する」ということをした上で、「私はその意見はわかったけれども、違う道を選びたい」というような意志決定ができる。

その上で、物事の対話を進めていくと、先ほどあったような、誰かが誰かを動かすことをしなくても、組織としての意志が育まれて、1つの方向に向かっていくというフレームです。話し合いだけをずっと続けているとなかなか物事が決まらないとか、決めるのに時間がかかることがあると思うんですけど。

この仕組みを使うと、企業活動で時間が限られた中で意志決定をしていくこともできるんじゃないかなと思っています。この仕組みを導入していくためにDXOを作っているイメージなんです。ちょっとこれを聞いて、どんなふうに感じられたか。ぜひ感想を聞かせていただきたいというのが僕の願いとしてあります。

意思が最初にあるのではなく、関わりの中から引き出される

影山:本当にそうですよね。これは『DXO』全体を通じて受けた印象でもあるんですけど、なんとなく自律した個人を想定しすぎている印象があって、実際はそうでもないところがいっぱいあると思うんです。

僕も17年、カフェをやってきていろんなスタッフと一緒に仕事をしてきましたけど、意志が最初にあるわけじゃないことっていっぱいある。そうじゃなくて、やはり関わりの中から意志が引き出されてくることってありますよね。だから、むしろそういうプロセスこそ設計できるといいということは1つ思います。

今の説明の中で語られていないだけだと思うんですけど、当初の誰かの意志があって、それに対して意見を言う人がいる構図というよりは、だんだん集団の意志になっていく過程がありますよね?

その過程で、その最初に発案されたアイデアそのものも変化していくことも含めて、そこに相当時間をかけるということですね。

本の中でも書かせていただいたんですけど、僕らもそういうやり取りを毎回必ずやるので、話し合いをしている時間の長さという点では、しょっちゅうそんなことをやっている組織だとは思うけれど。

でも、そういうのを繰り返しやっていくうちに、そういうものもどんどん収斂していくというか、どんどん上達していくこともあるとは思いました。

(会場笑)

モヤモヤや違和感を拾って組織の意思をつくる

乾:ありがとうございます。本当におっしゃっていただいたとおりですね。今のはRINGOプロセスという意志決定のところだけを切り出したような説明だったんですけど。

意志が生まれていない状態でも、なんとなくモヤモヤするとか違和感があるみたいなことを出せる雑談できる場所を作っていて、そこから自然発生的なコミュニケーションが生まれて、意志に育っていって、それからさっきのRINGOプロセスを使っていくという流れになっています。

「組織の中で全員が自律していないといけない」とはまったく思っていなくて、自律したい気持ちが湧いてきた人がこの仕組みを使えばいいという。でも、その仕組みがあるから自分が思ったことを、いつでも実行できる組織としての体制があるということが大切だなと考えています。

これはずっとやっていくと、本当に練習のようなもので、RINGOプロセスを使わなくてもみんなでなんとなく話をしていると、組織の意志が決まっていくという(流れが)生まれてくるので、ぜひここは僕の願いとしてみなさんに知っていただきたかった(笑)。

影山:いや、本当に大事なところですよね。

乾:聞いていただいてありがとうございます。これが本の中にもあったんですけど、消極的な賛成を生んでいくプロセスだなと思っていて。積極的な賛成ばかりが生まれる組織ではないし、消極的な賛成でもすべてが同意しているわけじゃないけれども、みんなと一緒にいられる組織を大切にしたい。

本にもそんなことがいっぱい書かれていたので、ここをぜひ聞いていただきたいなと思っていました。いったんここまでとさせていただきます。影山さん、ありがとうございました。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!