CLOSE

「なぜ今、アントレなのか?」(全5記事)

2027年にスタートアップ投資10兆円を実現させるには 文部科学副大臣・今枝宗一郎氏が語る、日本がスタートアップ大国になるまでの道のり

中央大学で開催された「グローバル・アントレプレナーシップ・ キックオフ・シンポジウム」。文部科学副大臣の今枝宗一郎氏、東京都副知事の宮坂学氏、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長の伊藤羊一氏による、「 アントレ教育の未来」についてのセッションをお届けします。本記事では、2023年から開始したスタートアップ育成5か年計画の流れや今後の展望について、今枝宗一郎氏が語りました。

文部科学副大臣の今枝宗一郎氏が語る、スタートアップの現状

国山ハセン氏(以下、国山):第1部は「なぜ今、アントレなのか?」と題しまして、国や東京都のスタートアップ支援の狙い、そして今後の方向性、また大学におけるアントレプレナーシップ教育への期待と可能性について、スペシャルゲストの方々からご講演をいただきたいと思います。

まずはじめにご登壇いただきますのは、今枝宗一郎文部科学副大臣です。本日は所用のためオンラインでの登壇になります。今枝さん、よろしくお願いいたします。

今枝宗一郎氏(以下、今枝):みなさん、こんにちは。ただいまご紹介いただきました、衆議院議員で文部科学副大臣の今枝宗一郎です。今日はどうしてもそちらへ伺うことができず、オンラインになってしまったことを心からお詫び申し上げます。

中央大学さんがこのグローバルアントレプレナーシップのキックオフイベントを開催していただいたこと、心から感謝を申し上げたいと思います。さっそく「なぜ今、アントレなのか?」というテーマを中心にお話ししていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

まず、「お前誰やねん」とみなさん思っていると思いますので、少し自己紹介をさせていただきます。1984年、愛知県生まれの国会議員です。僕は実は、小学校時代に肝炎で3年間入院を繰り返して、学校にあまり行けませんでした。

実はここには書いてないんですが、僕が中学に上がって「週に1回注射を打ちに来ればいいよ」となった時に、僕の病院は小児科の先生が2人いたんですけど、2人ともいなくなってしまって。いわゆる医療崩壊に遭って、僕は医療難民になりました。

病気の時もつらかったですけれども、医者がいなくなって通う病院がなくなった時は、本当に夢も希望もない状況で、本当につらかったです。結果、遠くの病院で救ってもらったので、なんとか完治したんですが。この先進国の日本で医者がいなくなるなんてことがどうして起こるのかと、非常に問題意識を持ちました。

医者をやりながら、「日本一若い国会議員」に

今枝:当時1997年とか1998年だったと思うんですけれども、インターネットでいろいろ調べていったら、国で医者の数を抑制したり、社会保障費を抑えたりしていると知りまして。「これはなんとかしないといけない。国会議員になろう」と思ったわけであります。とはいっても社会保障の医療の問題から問題意識がスタートしているので。

まずは医者になって医療の現場(を知る)。医者になると医療だけじゃなく介護、福祉、保育、教育の現場まで全部行けるので、現場を経験した上で国会議員になろう、と思い、歩んでいたわけです。そして大学時代には「愛知万博で史上初めてNPOの事業をやった」と書いてありますけれども、事業を興したりNPOをやったり、いろいろしていました。

そういう中で、学生に地方に行ってもらって、実際に現場でインターンシップをしながら社会課題の解決方法を考えてもらうような地域創生のプラットフォームもやっておりました。また自分自身で事業もやっていたので、学生ベンチャー振興みたいなこともやっていました。

実際にやった2005年当時とかは、ちょっと学生ベンチャーが増えてよかったかなと思ってたんですけれども。残念ながら、2009年にリーマンショックが起き、学生ベンチャーは壊滅的になくなりまして、その後問題の状態がずっと続くわけであります。

そんなこんなで私は医学部を卒業し医者もやりながら、議員になることを目指していろいろ修行をしていました。そして2012年、28歳の時に、当時「日本一若い国会議員」として初当選をさせていただきました。

2023年からスタートした、スタートアップ育成5か年計画

今枝:スタートアップに関して言うと、実は今から約7年前、永田町ではスタートアップではなく「ベンチャー」という言葉で、ようやく通用する時代でした。社会的なインパクトを大きく与えて価値創造や課題解決、本当にスケールしていくスタートアップという話になってくると、「もう何の話かよくわからない」みたいな感じでありました。

なので先輩たちや同僚とスタートアップを推進する国会議員の会を作らせていただいて、僕は事務局長として今もやってるんですけれども。はじめは「J-Startup」という、「日本のイケてるスタートアップを国が認定して、めちゃめちゃ応援しよう」みたいなところで7年ぐらい前にスタートをしました。

6年ぐらい前から、スタートアップエコシステム拠点形成ということで、要は地域の「面」でいろいろな活動を支援していこうということを始めたわけです。その間になんとか日本のスタートアップもぐっと伸びてきて、3年くらいで投資額は3~4倍ほどになりました。

それまではずっと2,000億円ぐらいがスタートアップに投資される額だったんですが、2017〜2018年ぐらいから一気に3~4倍になり、2021年には8,000億円までになったわけです。

そういう中で新しい資本主義が出てきまして、そこで何を中身にしていくかという議論の中で、スタートアップをど真ん中に入れることができました。国は2023年からスタートアップ育成5か年計画をスタートさせているというところであります。ですので今年、2024年はまさにその2年目にあたる年です。

正確に言うと2022年が(スタートアップ創出)元年で、2023年から5か年計画がスタートしたんですが、まず2022年の元年は先ほど言ったエコシステム。「(スタートアップの創業から成功までが)うまく回っていくようにしよう」と考えたわけであります。

日本でスタートアップを興していくために

今枝:ざっくり言うと、スタートアップを始めた人が成功するのに大型調達をして、次のスタートアップにも投資をしていき、新たなスタートアップも興していく。

シリアルアントレプレナーと言われる、何個も起業する流れを作っていこうというのが、まさにスタートアップ元年の大きなテーマでありました。一方、スタートアップ5か年計画の2年目の大きな柱は、ディープテック。そしてグローバルにも進めていこうじゃないかという話がどんどんと出てきたわけであります。

具体的な政策で言うと、まずスタートアップ元年の1年目は、日本版QSBS(スタートアップへの投資で、最大20億円までの売却益が非課税となる制度)というスタートアップに関する税の制度(ができました)。

例えばスタートアップでガンっと上場できましたと。そこで「次のスタートアップを興すためにお金を使おう」とか「若いスタートアップ起業家にエンジェル投資をしよう」と思っても、実は税金でガツンと取られてしまうので、やっていけないという問題が日本にはありました。

アメリカにはQSBSという税金を免除する制度があって、それを使って次の起業や次の事業者支援・エンジェル投資につなげられたんですが。そのQSBSの1.5倍のレベルで、日本版QSBSをやることを決めて、スタートしたのがまさにその年であります。

そして去年、グローバルスタートアップキャンパスという、アメリカで言うスタンフォードのような、グローバルへの発信基地となる大きなキャンパスを恵比寿と渋谷の間に作っていこうという動きがスタートしています。

ディープテックスタートアップの支援

今枝:またディープテック(社会課題を解決して、生活や社会に大きなインパクトを与える科学的な発見や革新的な技術)という意味では、理学部や工学部、医学部でされた研究結果。いろいろな社会問題を解決する大きなビジネスになるものを進めていく。

そのための開発や研究は、実は普通にITで起業するよりもかなり大変です。やはり政府からしっかり資金が下りてこないと、なかなか研究も続けられないし開発も続けられない。

そのために日本版SBIR(中小企業技術革新制度)で、本当の意味で国からの支援が潤沢に出るかたちに変えました。これは「全省庁で進めよう」とやってたんですけれども、我々文部科学省だけは、とにかく先行して一番良いSBIRにしようと。

国からの補助金って、普通は後払いなんですね。つまりその間のつなぎの資金を従業員にどうやって払っていくのか、学生がスタートアップを立ち上げても、自分の暮らしをどうしていくのか。後払いだと借金しないといけないですよね。

スタートアップが借金をしようとすると利率がすごく高くなるので、その利率だけでめちゃめちゃつらい、みたいな話になってしまう。なので(補助金を)前払いするような制度も、初めて作らせていただきました。

2024年のテーマは、アントレプレナーシップ教育の推進

そしていよいよ2年目となる今年は、まさにアントレプレナーシップ教育をしっかりと進めていく準備をしていこう、というのが大きなテーマであります。

そこで具体的にやっていこうとしているのが、我々のプロジェクトチームで作らせていただいた、アントレ教育の抜本強化プロジェクトであります。実は今、アントレプレナーシップ教育を受けられる場所が高校から、小学校まで(あります)。アメリカでは、小学校高学年になればレモネードを売って、お金の大事さや自分で事業をやる大変さ、おもしろさを体験するんですけれども。

そういったアントレ教育は、(日本では)どんなに大きく見積もっても、せいぜい10万人が受けているだけであります。それを1,000万人まで、なんとか受講者を増やしていこうと。1,000万人というと、小学校高学年以降のほぼ全員みたいになってくるので、来年度以降そういう子たちにしっかり受けてもらおうと、今準備をしているところであります。

アントレ教育ができる人材を増やしていく

今枝:またそれを教える先生の数もなかなか少ないので、一気に増やしていこうと。これも我々の文部科学省のアントレプレナーシップ・起業家教育の推進大使みたいな人が、10人ぐらいしかいなかったんですけれども。今準備をして、来年度からはこれを一気に1,000人までスケールさせていこうじゃないかと、その準備を徹底して進めているところであります。

なかなか1つの学校でそれをやってもらうのも難しいので、さっき言った「面」で支援をしていこうと。この日本地図を9ヶ所に分けて、北は北海道、南は九州・沖縄まで、その地域の大学にプラットフォームを作っていただいて、教育プログラムを推進していこうと。

そういったアントレ教育ができる人たちを融通し合おうとか。また実際にスタートアップ・ベンチャーを興していく時のさまざまなサポート体制、特にディープテックスタートアップ(の支援を行っていく)。

本当に研究シーズからスタートして、世界で大きく跳ねていくものにしていこうとすると、研究(者)はいいんだけども。問題はそれをファンディングするCFOや、組織をうまく作っていくCOO、ビジネスモデルを作っていく人がなかなかいなかったりするので。

COOとしてオーガナイゼーション・組織を運営したり、ファンディング(資金調達)をやったりする人たちをCXOと言いますけれども。このCXOバンクを作って、全国でプラットフォーム化させて、人材とマッチングさせていく。企業人材、研究シーズとマッチングさせていこうとしています。

2027年にスタートアップ投資額10兆円を目指して

今枝:そして、先ほど言った文部科学省で進めるスタートアップの推進策は、創業から研究開発、投資、そして成長・上場、M&A、出口まで、一貫して支援をしていこうとしています。最後に、たぶん中央大学にもたくさんのさまざまな知財が埋まっていると思いますが、日本では残念ながらこの知財の83パーセントぐらいが死蔵されている。

つまり、すばらしい特許とかを持ってるんですけど、使われずに眠っているという問題があります。だからこれを民間に出していく。もちろん起業していくことや、どこかに買わせるのもそうですし、それでファンディングしていくと、大学としてスタートアップや起業やアントレ教育の原資がしっかりとできてくる。そんなスタートアップの支援の動きを、文部科学省としても司令塔を作ってどんどんと進めているところです。

さっき言ったスタートアップ5か年の2年目として、今年は非常に重要な年でありますから、そういった準備をして一気にスタートアップやアントレプレナーシップ教育を広げながら、日本をスタートアップ大国にしていこうと。

そして2027年には、アメリカと同じような規模のスタートアップ投資額である10兆円を実現していこうとしています。これは文部科学省だけでできるわけではありません。私はスタートアップ議員連盟の事務局長でもありますから、こういった提言を議員としてやらせていただいて。

どういうふうに投資額が10兆円になるのかという計画も、自分の数学の知識を用いながら、作らせていただいています。そのために必要な施策を9項目にまとめたりもしています。今、国としてもスタートアップ(支援)を本気でやっています。学生や大学に関係するみなさまにおいても、ぜひ一緒に歩んでいただくことをお願い申し上げます。ありがとうございました。

(会場拍手)

国山:今枝さん、ありがとうございました。スタートアップ5か年計画のお話や、点ではなく地域の「面」で強化していくというお話、大変興味深く聞かせていただきました。のちほどまた詳しくうかがわせてください。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 好きなことで起業、赤字を膨らませても引くに引けない理由 倒産リスクが一気に高まる、起業でありがちな失敗 

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!