デザインの「価値」とは何か?

長谷川恭久氏(以下、長谷川):私、長谷川恭久といいます。先ほどTwitterで絵を投下した人です。それだけ知っていれば十分な程度の人です。

こういったイベントを7回もしていただきました。そこでのお話をもとに、いくつか話すポイントがあるんじゃないかということで、みなさんのご意見をうかがいたいと思っております。

問題が、最近はやり言葉になってる、私としてはちょっとウザくなってきてるんですが「デザインの価値を上げる」というフレーズです。正直、意味がわかんないと思ってます。

デザインイノベーションとか、経営セミナーとか、国がああいう取り組みをしてること自体は素晴らしいと思ってるんです。とはいっても、なんというか「で?」っていうところがまったくわかんない。

夢だけ語っておいて、しかも何十年もデザインの価値というものを積み上げてきた欧米を指差して「お前らあと2年で同じことやれ」みたいな感じでそのフレーズを言ってるような気がしてる。そのあたりがなんか、ミスマッチじゃないかなとか思いつつ。

とはいってもたぶんこういうことって、みんな意見があると思うんですよね。「価値」って、これはいったい何を以て「価値」と言ってるのかな、ということをまずみなさんに聞きたい。

デザイナーは魔法使いだ

長谷川:僕の中ではZOZOさんのセッションが非常におもしろかったんです。ほかのセッションがどちらかというと「どう言語化していくか」「組織作っていくのか」を語ってる中で、ZOZOさん1人だけ「まぁ、ノリが良けりゃいいじゃん」みたいな感じだった。良い意味で言ってますよ、これは。

そこらへんを考えても、たぶん「デザインの価値」のニュアンスが、ほかの人とちょっと違うのかなと思うので、最初にお話しいただけますか。

田口貴士氏(以下、田口):はい。デザインの価値って、明確化は難しいと思うんですけど、僕の上司、ZOZOのデザインを統括してる部長はよく「デザイナーは魔法使いだ」と言うんです。

ダサいものが良く見えるし、良いものがもっと良く見える。その逆もしかりで、良いものを作ったのにダサく見えるし、ダサいものはもっとダサく見える。そういう力を持った職種は、なかなかないと思っています。

けっこう、デザインは後回しになりがちだって聞くんですけど、なんというか「もったいないな」って思いますね。RPGだったら魔法使いなしで戦うみたいなもんで、よくそれで勝てるな、という感じ(笑)。魔法使えるのにメンバーに入れないって、もったいなくない? って気がしてます。

長谷川:確かにゲームの世界では、おそらく「とりあえず魔法使いは入れとく」って感じの重要なポジションですよね。

田口:そうですね、重要です。

デザインが軽視されがちな世界でその価値をどうつけるか

長谷川:その一方で、今日も話してましたが、その「重要だよね」と言っている魔法使い、デザイナーというものに、わざわざ投資するモチベーションがなかなか起きない。「そもそも投資する意味があるの?」みたいな中で「デザインの価値」という言葉をどう受け止めたらいいのかなと思うわけです。

ZOZOさんとこの環境だと、今日の話でいうところの「トップダウン」と「ボトムアップ」でいうとトップダウンだと思うんですよね。そのトップの人たちに、デザイナーと呼ばれる人たちは、いて当たり前じゃないですか。

組織によっては、そういう環境ではない。「そもそもなんで要るの?」というようなところからスタートしてる。今日も、来ている方の質問の中にそういったニュアンスが感じられた部分もありましたよね。そういった文脈で、デザインの価値はどう定義するんですかね。ほかの誰か。誰でもいいよ。

(会場笑)

大竹雅登氏(以下、大竹):じゃ、いきます。クラシルの運営をしてます、delyの大竹です。僕らで「デザイン」の意味を狭義的に言うとしたら、僕が重視してるのはUIデザインのところですね。クラシルというサービスは、ドC向けというか、C向けサービスの1番極端なところにいると思ってるんですけど。

使う人にとって、使い方がわからなくなってしまうような事態を限りなくゼロにすることが、うちで使われてる「デザイン」って言葉の中で、一番のデザインの価値かなと思います。

「良いデザイン」の定義を考えよう

大竹:インターフェースってすごく奥が深くて、絶対に正しいものがあるわけでもないし、正しかったはずなのにトレンド次第で正しくなくなることもある。

クラシルはレシピ動画のサービスですけど、レシピ動画自体はほかの会社でも作れる。見る人も、ほかのところでも見てるけど、それでもクラシルを使うのは「なんとなくの使いやすさ」みたいなところなんですね。そこにインターフェースを良くする意味があると思ってます。

だから、デザインにはいろいろな意味があると思いますけど、僕は「インターフェースを良くする」ことが一番強いデザインの価値だと思っております。

長谷川:ほーう。その「良く」はなんですか? 「良く」の意味がわかんないんですけど、アプリオブザデイに出ることとかですか。

大竹:「良く」の定義ですか?

長谷川:そう。そのへんに関しては後で聞くわ。たぶん「良い」というところの話で言うと、クラウドワークスさんが1番わかりやすいような気がします。

今日のセッションを聞いてる限りだと「金に転換すること」を「デザインの価値」と定義してるように聞こえたんですけど、この認識は間違ってるかしらね。どういうふうに考えます?

上田和真氏(以下、上田):LTでも話したんですけど、数字的な価値だけだとは、あんまり考えてはいないです。

でも、やっぱり自分の体験ベースで考えると、デザイナーって「ユーザーがどういうニーズを抱えているか」、今のdelyさんのお話でいうと「どういうUIが最適なのか」を理解して、それを実際にプロダクトとしてデリバリーしていくことができると思うんです。

その結果、数字も付いてくる。そこが結果論として、お金というところではあります。

「デザイン」と「投資」はどう結びつくか

長谷川:そうか、なるほど。これはオプトさんのほうにも聞きたいとこで、というかもう誰でも言ってほしいんだけど。今日「投資」って言葉が利いてたのね。投資って言われたら、2つ考えなくちゃいけないところがある。

まず、そもそもROEとして、どういった利益を得られるかを想像させるところ。要は投資してもらうための、なにか説得力みたいなものがあること。もう1つ、投資をした結果、具体的にこういうふうになりましたというものを見せること。この2つがセットで、ようやく「デザインに投資した」って意味が深まると思うんですが。

今やってるブランド、つまりビジネスサイドに向けて、クリエイティブがどう貢献できるかというところでやっていらっしゃるみたいですが、それをどう、投資として説得することができたんですかね。

乱暴なたとえだと、例えば「見た目を良くしましょう」と言っても、ビジネスサイドとしては「別に今のままでも良いじゃん」って、言おうと思えば言えますよね。それに対して、どういった効果があるかとか説明しても、ある意味バクチじゃないですか。投資なんてなんでもそうですけど。

デザイナーであれば、良いことが起こるだろうとなんとなく直感することはあると思います。でも、そこに対して、ビジネスサイドは、どういったリターンが得られるのかという想像をたぶん、浮かべられないと思うんです。ここらへんがわかりにくいときもある。それをどういうふうに説明されたのかなと。

デザインの力を体感させることで価値づけていく

竹田:やっぱり「投資のコストがそんなにかからないところから入っていった」ことがあると思います。

長谷川:あぁー、それはいいかも。

竹田:例えば、役員クラスのスライドとかは、僕の労働時間さえあれば作れてしまうんです。それによっていつもと違うプレゼン資料ができあがり、それを使ってプレゼンしたら反応がいつもと違った。表層部分の、いわゆるビジュアルデザインを変えただけですけど「いつもと反応が違う」ことで価値を体感していただけたかと思ってます。

長谷川:なるほどね。

竹田:そういうことの積み重ねです。

長谷川:はいはい。ある意味具体的な効果として表現するのは難しいけど、体感することで、お互いがなにかしら理解し合えてる状態が生まれるってことですね。

竹田:そうですね。その積み重ねの結果、具体的な数字に、例えば「50人の組織を作りたいです」「採用費でいくら、人件費でいくら必要です」と持っていく感じです。

長谷川:なるほどね。今日のスライドとか見てると、たぶんここに来てる人にとっては、あらゆることをいろいろ一気にやったようなイメージがあったと思うんです。「これ全部稼働時間の外でやるんスか?」みたいな。「働き方改革!」みたいな感じがしたと思う(笑)。

(会場笑)

その「スライドからのスタート」は、デザイナーの人も非常に楽だよね。

竹田:そうですね。

デザイナーの採用はスキルより会社のノリに合うかどうか

長谷川:なるほどね。今日、ZOZOさんのところの採用の仕方とかは非常にアリだな、と思ったんです。僕もどちらかというとスキルより、この会社の文化に合うかどうかによって判断したほうが良いと思ってる派です。ああいうやり方(注: 過去には「100円ショップで販売しているものでスケートボードを作る」などの課題があった)はおもしろいなと思いました。

今日、時間の都合上で紹介できなかった募集方法とか、試したことはなにかありますか?

田口:デザイナーの募集方法ですか? 社内公募以外だと、中途採用と、新卒ですね。新卒は毎年入れてるくらいなんですけど、それも別にクリエイティブ職で募集してるわけじゃなくて、会社が好きで入ってきた人の中から「やりたい」って人を選抜して、入れていく。

新卒はその会社しか知らないので、その会社のカルチャーを1から身に付けていって、のちのち会社のカルチャーを作る重要なポジションになるような、そういう新卒採用を大事にしてます。

あとは中途採用も、ポートフォリオは一応見ますけど、基本はトークです。なんなら「ちょっと飲みに行こうか」みたいなこともやったりしました。本当に人重視で選んでるという気がします。

長谷川:なるほど。それは1つ、企業理念だとか企業文化とかとすごく密接に関わってくるかもしれない。ある意味そこが、雇用の仕方にも関係してくるのかもしれないね。

もしかするとオプトさんにしても、今はそうではないのかもしれませんけど、今みたいにブランド力とかを強めたりとか、組織に働きかけていくことによって、組織の雇用の仕方も変わってくる可能性はありますね。

どのようにデザイン組織を作っていったか

長谷川:じゃあ「良いUI」のこと聞きたいけど、ちょっといじめちゃうからやめとくわ。

(会場笑)

今日のテーマの「デザインの組織を作っていく」というところで、すごくざっくりいうと2種類のパターンがあったと思うんです。

トップダウンから始めましたという人たちと、ボトムアップからという人がいますよね。みなさんわかりますよね、どっちもメリットとデメリットがあるわけです。今日はあえて「トップダウンからやってみました」とかいろいろ話してはもらいましたけど、それは結果的なところで、実際は両方でやってると思うんです。そうしないと絶対できないよね(笑)。

じゃあ、デリーさんいきます? もうさっきの「良いUI」は聞かないから(笑)。自分たちはどういうふうに、デザイン組織というものを作っていったのか。どちらかというとトップダウンだよね。

大竹:そうですね。

長谷川:それをボトムアップ的に浸透させていくというか、根を強くしていくような活動だったり、結果そうなったかもしれない施策はあります?

大竹:ボトムアップ的なものはあんまりやってないですね。

長谷川:なるほどね。

大竹:ずっとコミットして「こうだと思うんだけど」ってやっていった感じ。ディスカッションはしますけど。もちろんデザイナーが納得してないと絶対良いものにならない、ゴリ押しでやっても別に、みたいになると思うので、そこに対して深く議論することは、重要かなと思います。

小さな積み重ねでトップを変えた

長谷川:それが「うまく伝わったな」って思う瞬間ってあります? 「うまくいかなかった」でもいいかもしれませんけど。

大竹:うまくいかなかったときは単純に、その場で、雰囲気でわかりますね(笑)。

うまくいったときは……僕ずっとデザインで、作る作業とかで入ったわけじゃないんですけど、こうこうこうで、ってディスカッションして実際にデザインしてもらって、ユーザーインタビューした後に「改善があった」とその人が言ったら、それは「うまくいったな」と思うんです。そこで判断してます。

長谷川:なるほどね。ボトムアップからのクラウドワークスさんはどうでしょう? 活動を続けてく中で、トップの誰かが「変わったな」と感じたような瞬間ってありますか。

上田:正直、明確に転換点みたいなものがあった感覚はそんなにないです。本当に小さいところからですね。例えば、僕が登壇をしました、その取り組みが社内にフィードバックされました、それが経営陣だったりマネージャー陣に伝わる、というようなことを積み重ねまくった。

弊社の場合でいうと、発表でも触れたんですけど、組織マネージャーがネックだったんです。実はこの会場にも来ているんですが。

長谷川:じゃあ手振ってもらいましょうか。どこにいます?

(会場挙手)

あぁーいました。

上田:よかった(笑)。そういうポジションの方が、常に、経営陣であったりマネジメントメンバーとの対話を継続的にやっていたので、けっこう粘り強くやり続けたところです。

コミュニケーションツールで現場の雰囲気を上層部と共有する

長谷川:セッション内で紹介してくださった、ボトムアップでいろいろやってたことは「ただがんばる」ってケースだったのか(笑)、フェーズごとに逐一、ちゃんと上の人にも見えるようなアプローチをしたとか、そういうことはあるんですか? それとも上の人が察してくれた?

上田:1つあるのは、実は弊社の場合、経営陣やマネージャーとすごく距離があるような環境ではないんです。例えば、社内でSlackっていうチャットツールを使っているんですけど、そのチャット内に普通に経営陣とかマネージャーも入ってる。

そこでチームの活動が可視化されているので、チームがどういう成果を上げたとかの情報は、けっこうリアルタイムで入ってくるんです。だから明示的なプレゼンテーションがなくても、現場の雰囲気とか、こういう成果が上がったんだよってポイントは、たぶんだいたい伝わってる。

長谷川:なるほど。そういった、可視化するためのコミュニケーションツールがちゃんと組織の中にインストールされてると、確かにやりやすいところはありますね。

上田:そうですね。あると思います。

長谷川:オプトさんのところはボトムアップで活動を始めて、今日聞いていた感じだと、もうトップの人たちもなんとなく理解してるんじゃないか、というふうに思ったんですが、もう「この調子でやっていけばいいかな」って感じですか?

竹田哲也氏(以下、竹田):「ビジョンを変える」という話が、1番最初に起こったんですけど。うちの社長が元テレビマンで、クリエイティブな現場の理解に関して、若いときに一定の経験を積んでるんですね。

長谷川:それはプラスですね。

竹田:だからどっちかというと、僕と社長がタッグ組んでほかの役員を説得していくようなスタンスでした。

長谷川:なるほどね。ある意味その社長がそういうふうな人であって、なにを好んできて、どういった生き方をしてきたか、っていうところの理解で、今回みたいなアプローチを取ったってことはあるかもしれない。

それはある意味デザイナーっぽいというか、素晴らしいですね。