伊藤羊一氏が語る、アントレプレナーシップの重要性

国山ハセン氏(以下、国山):それでは、第一部最後のゲストになります。ご講演いただくのは、伊藤羊一、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長です。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):みなさんこんにちは。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長の伊藤でございます。「僕らの大学はこんなことをやっているよ」と言っても、「何をどうやっているんだ?」みたいな感じになるので、そういう話はほぼしません。ただ1つだけみなさんとやりたいのが、宮坂さんがおっしゃった、「TOKYO STARTUP GATEWAY」です。去年はうちの学部で20人くらい応募しているんですよ。それで、今年は必修にしました。

(会場笑)

伊藤:それを出さないと単位にならないので、「No.1は譲らない」という感じでございます。今日(のテーマ)は「アントレプレナーシップをもって踏み出そう!」ということで、なぜアントレプレナーシップ(起業家精神)が必要なのか。先ほど今枝さんの話に出てきた「グルグル図」の7番「アントレプレナーシップ教育」を、なぜやっているのかという話をします。

最初に自己紹介です。私は伊藤羊一といいます。武蔵野大学でアントレプレナーシップ学部を立ち上げて、その学部長で、今4年目です。だから、まだ卒業生は出ていなくて、ここから卒業生が出てくるということです。

それをやりながら、なぜかLINEヤフーにも属しています。ヤフーは10年目くらいなのですが、宮坂さんに「ちょっとヤフーに来なよ」と言われて。宮坂さんは出て行ったのですが、僕はまだ残っている感じです。

あとは、『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』という本を書いています。ところが、僕は致命的に話が長いんですよ。だから、タイムキープがめちゃくめちゃ必要なので、ぜひよろしくお願いします。年代としては、宮坂さんと同世代の57歳です。なぜ(アントレプレナーシップが)必要かという前提の話をします。

1995年までは、日本もアメリカと同じくらいのペースで成長していた

伊藤:みなさんご存じのとおり、日本は「失われた30年」に苦しんでいます。「失われた10年」「失われた20年」と言われて30年経ち、いまだにここから復活する鍵を見つけられていないのが、今の日本です。

よく「失われた30年」ということで出てくるのが、「株式時価総額ランキングトップ10」です。比べる対象は、常に1989年、バブルが絶好調だった時です。1989年には10位中、7社が日本企業だったんですね。50社中だと32社ですよ。これが今は10位中0社で、かつ50社中、1社が時々出たり入ったりしているだけです。

株式時価総額だけじゃなくて、日本の国際競争力を見ても、昔は世界1位だったんですよ。それを懐かしんでいてもしょうがないのですが、今はどうですか? 毎年じわじわ落ちていて、今は35位です。こんな、ていたらくな状態にあるということですね。

その時に、いろいろな指標を見ていると、これは先ほどの宮坂さんの話にも近いのですが、スライドはGDPの40年間の推移です。1980年から2020年の推移を見てみると、ブルーのラインがアメリカです。アメリカは好きであり、嫌いな国なのですが、それでもすごいなと思うのは、一直線に成長しているところです。

2番目のオレンジのドットは中国です。中国は国策も相まって、2005年くらいから突然ブワーっと来ています。今は調整局面かもしれませんが、こんな感じです。

そして、次のラインが日本ですね。日本はこんな感じです。一番右端の2020年を見ていただくと、アメリカの4分の1であり、中国の3分の1です。国の大きさや人口を比べたら、こんな感じかなと思います。これでドイツに抜かれ、来年にはインドに抜かれ、世界5位のGDPの国になってしまうということですね。

でも、昔は違ったんです。(グラフを見ていただくと)1995年までは、成長しているんですよね。しかも、アメリカと同じくらいのペースで成長しているわけです。なんと1995年には、アメリカの70パーセントくらいのGDPを稼いでいたんですよ。ところが突然、別の国になったかのようになっているわけです。

アメリカと日本の差はどうやって生まれたのか?

伊藤:これは、Windows95が出た年です。つまり、「インターネット元年をもって、日本オワタ」みたいな状態です。インターネットは自分たちの妄想を自由にかたちにできるツールなのに、それが出てきた瞬間、「日本オワタ」ってどういうことなの? ということなんですよね。

わかりやすく言えば、先ほどGAFAMの話が出てきましたが、アメリカではこんな会社が生まれてきたわけですよ。これが、日本は生まれなかったということですね。

なぜ日本はこういう会社が生まれないのかという話です。これは、先ほど宮坂さんがお話しされたとおりですね。個人が妄想に従って、「これを作るぞ!」「ハーバード中の女の子と知り合いになるぞ!」「俺ん家、ウォルマートから遠いんだけど、届けてほしい!」と言って作ったのが、これらの会社じゃないですか。それができたのがアメリカです。

日本もそういうのはあったと思うんですよ。でも、会社で「部長、世界中の人と情報交換ができたらうれしいと思うんですけど」と言っても、「(社員数の)140人でできるわけねぇだろ! どうせ無理だ! 却下!」みたいな感じで言われていた。非常に極端に言えば、そういうことなのかなと思います。

僕は1995年前後を、「タテの社会」「ヨコの社会」と呼んでいます。要するに、ヒエラルキーに基づいて「モノづくり」をしていた時から、フラットに自分の思いに従って、「サービスづくり」もするようになった時代への変化なんじゃないかなと思うわけです。「What」から「Why」ですよ。つまり、大量生産(量)から意味(質)が大事になっているということです。

昔は「改善」が求められていたわけですね。今はまったく新しいもの、「創造と変革」が求められていますし、それができる時代になってきています。要するに、いろんな世の中の潮流は変わってきているんですよ。アメリカはもともとそういう国だったから、変えようと思わなくてもできたわけです。

「改善」することはめちゃめちゃ得意な日本

伊藤:でも日本もだいぶ変わってきています。二部で大企業の方々がパネルディスカッションをするのですが、大企業もだいぶ変わってきていますよ。だけど、やっぱりじわじわという感じなんですよね。

フォードという会社が、「T型フォード」の自動車を作ったのは、1907年です。その時のシルエットを見てみてください。今の車とそんなにかたちが変わらないんですよ。つまり、改善をやってきたのが1995年以前です。そういうことにおいては、集団でやってきた日本はめちゃめちゃ強い。たぶん世界で一番強いんですよ。そういうところから、「自由に何かをやれ」となると、突然弱くなるんですね。

教育やマネジメントもこんな状態です。「教えて育てる」「上意下達」、そしてメンバーは同じ顔をしていればよかった。「正解」を「早く正確に」求めることが必要とされたわけです。これがダメなんじゃなくて、その時は必要だったわけです。

ところがフラットな社会になると、「対話と議論の場づくり」「フラットに一人ひとり」が重要になってきます。1on1が流行ってきているのは、一人ひとりが何を考えているかが重要になってきているということですよね。

加えて、一人ひとりに意見を聞いてみて、みんな同じ意見だったら意味がないじゃないですか。「みんな違ってみんないい」というダイバーシティが重要になってきています。この「みんな違う」という「想い」は、「自分の想いこそが大事」ということですよね。

これ(対話と議論の場づくり)を昨今の流行りの言葉で、「ダイアログファシリテーション」(といいます)。それと「1on1」や「ダイバーシティ」は全部、必然性があるわけですよ。そして大事なのは、この「アントレプレナーシップ」ですよね。「自分の想いに従ってやっていく」ことが、他の諸々も含めて、絶対に必要だということです。

日本のアントレプレナーシップのレベルは137ヶ国中26位

伊藤:これは、僕が今いろいろなところで講演していることの要点で、「僕のすべてはここ」みたいな感じですよね。アントレプレナーシップが大事で、僕らは「これを育てなきゃね」「会社に入るか。社会を創るか。」ということで、学部を作りました。4年目にまで来たので、世界を変える仲間がようやく1学年60人になって、240人になってきたということですね。

ちなみに僕らはアントレプレナーシップを、「高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を創造していくマインド」と定義しています。これは学長や宮坂さんがお話しされたこととまったく同じです。

見ていただくとわかるように、起業家だろうが、大企業の人だろうが、行政の人だろうが、なんならアカデミアの人たちは、これをずっとやっているわけですよ。「絶対に成功させる!」と言って、研究して、実験して、「失敗した。でもまだやるぜ!」という感じでやられています。これは、生きとし生けるものみんなが必要な精神じゃないかなと思っています。

アントレプレナーシップ教育で得られるスキル/マインドはこれですよ。今の世の中を生きていると、どんな仕事をやっていても、めっちゃ大事な能力じゃないですか。単なる知識ではなくて、こんなことが今求められているということですね。

ところが、日本のていたらくは、アントレプレナーシップレベルで言うと、調査137ヶ国中、26位なんですよ。この26位は、国際競争力の35位とリンクしているということだと思います。

「これはやっぱり、やらんといかんのじゃないの?」と思って、僕はやっています。武蔵野大学が潤えばいいとか、ぜんぜん思っていないので、中央大学にも、高校にも、中学にも行って、ひたすら語っているということです。

「意識高い系じゃん」と言うのは意味がない

伊藤:これは、先ほどまさに宮坂さんが言っていたことです。宮坂さんは元ボスなので、考えていることはだいたい同じなのですが、まさにこれです。大学でやっていることを細かく言ってもしょうがないので、みなさんにできる要点を3つお話しします。

夢を考えるだけじゃなくて、「夢を語ろう!」ということです。だから、「STARTUP GATEWAY」の400字も、自分で考えるだけじゃなくて、みんなで語りながらやると。自分で考えて盛り上がっても、翌日になったら、「俺、何をあんなに盛り上がっていたんだっけ?」と、しらけちゃうんですよ。でもみんなで語ると続くんです。

それから、環境を作ることが大事ですね。これは、僕の学部が世界に1つだけ誇れるところなのですが、人の夢を笑わない場所だと、学生たちが喜んでいるんですよ。つまり、「どうせ無理とか言わない」ということですよ。「いいじゃん」「人の夢を応援しよう!」ということです。これで夢がどんどん膨らんでいきます。

夢を語ったら、「お前、意識高い系じゃん」と言うのって、意味がないんですよ。だから、「人の夢を応援しよう!」と。「いいじゃん、できるかもしれないし、できないかもしれないし、わからないよね」ということです。

そしてもう1つは、「行動しよう!」ということですね。この3つは、僕が思う感覚ではありません。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学生が、目の色をどんどん変えて成長しているんですけど、そのエッセンスを言うとこの3つです。

要するに、夢を考えるだけじゃなくて、みんなでワチャワチャ語る。だから、1年生全員が寮なんですよ。寮で夜な夜な、明け方4時とかまで語っているわけです。僕らとしては、本当はもうちょっと寝てほしいんだけど、語っているし、翌日になると「俺やるっす!」と言っているわけですよ。

「未来は予測するものでなく創るもの」

それから、何よりも「行動する」と(いうことです)。行動すると、だいたい失敗するわけですね。失敗すると、うまくいかないとわかるから、改善するべきところが見えるんですよ。だから「行動しよう!」ということです。

最後に、あとでも話したいと思うのですが、Alan Kayという「パソコンの父」みたいな人が「The best way to predict the future is to Invent it.」と言っています。そのまま訳すと「未来を予測する最良の方法は発明することだ」となりますが、要は「未来は予測するものでなく創るもの」だということです。

学生のみなさんも、できるんですよ。「どうせ無理」と言っているのは、自分で壁を作っているんですよ。だから「いやいや、創ろうぜ」と思って、やっていきましょうということです。「アントレプレナーシップをもって踏み出して、未来を創っていこう!」というお話をさせていただきました。どうもありがとうございました。

(会場拍手)