そうは言っても難しい、デジタル改革の実際問題

八子知礼氏(以下、八子):ここまで、いい感じに時間を超過していますね(笑)。

斉藤徹氏(以下、斉藤):そうですね。質問はどうしましょうか?

八子:質問は受けちゃっていいんですかね?

司会者:はい。

八子:もしオーディエンスの方でご質問がある方がいらっしゃればいただければと思います。はい、どうぞ。

質問者1:八子さんに質問で、「そうは言ってもこれは難しいよね」と思ったお話はありますか?

斉藤:現場では難しいもの。「実際問題、ここはなかなか難しいよね」というところ。

八子:自分で決めてもらうのはけっこう重要だという話が、最後のまとめにも出てきましたけども、「自分で決めてくれない人」はいて、対話を繰り返していてもなかなか進まないんです。それは僕のやり方が悪いのかもしれないですけど、やっぱりその場でぐるぐる回っちゃっている人がいて、なかなかその状態から前に出てこないわけですよ。

そうなってくると、さっきも斉藤さんが持っている時間は有限であるとおっしゃられましたけど、こちら側からすると、あるところまでは待てるんですけど、あるところ以上は待てないんです。

「自分で決めてくれない人」にどこまで投下するか

八子:そうなってくると、その人を生かしたいと思っているギバーの人が、その人から引き出したいと思って対話を繰り返すんだけども、時間切れなのかエネルギー切れなのか、ギバーの方が折れてしまうんですね。

ここに僕はけっこうな悩みを抱えていますね。決めてくれない、もしくは自発性が出てこない人に対して、どこまで自分の情熱とエネルギーと時間を投下していいのか。非常に悩ましい問題ですね。

質問者1:そこは主体性を持って、選択してギブしているという前提ですよね。もしその相手がクライアントだったら、自社内の関係性を構築するより難しいんですか?

八子:僕個人はどちらかと言うと、最近本当に業務委託のメンバーも含めて自社の社員と従業員が大好きで、「どうしたらもっともっと」と思ってしまうんです。愛が深すぎるのか、ちょっとくどくなっちゃうんです。

お客さん先でももちろんそうなんですが、「みんなで社会構造を変革しましょう」と掲げている中においては、簡単じゃないんだなと痛感していますね。これは経営者になったからこそです。

質問者1:わかりました。ありがとうございます。

八子:とんでもないです。

シェアド・リーダーにおける「リーダーになる人」の見極め

八子:他に……。はい、どうぞ。

質問者2:「適材適所のシェアド・リーダー」って、それができれば本当にいいなと思うんです。ただ、例えばいろいろなプロジェクトがあって、フェーズが変わるタイミングであれば、「このフェーズであればこういうリーダーに変えたほうがいい」とか、いろいろあると思うんです。

その時に違う方がリーダーになってくれたほうが、チームとしてそれぞれの気持ちもわかってうまく進めるようになると思うし、その結果、自発的な人が増えればといいと思うんですけど、それを進めていかないとなかなか次のかたちが出てこないと思うんです。そういう時に、リーダーが変わるタイミングとか、どういう人を置くべきなのかとか、それはどう考えればいいんですかね。

斉藤:リーダーって言ってもレベルがありますよね。本当に何かタスクをリードするという意味のリーダーと、例えば会議でファシリテーションするレベルのリーダーがあるじゃないですか。後者のようなライトなリーダーは、できればわりと短いサイクルでいろんな人が担当したほうがいいと思いますね。

ただ、例えば新人とかだと、タスクをリードするリーダーを担うのは難しすぎて、パニックゾーンに入っちゃいますよね。その人にとって重すぎる役割は任せない方がいいです。一人ひとりの担える難易度やスキルを見極めてあげて、できるだけローレベルのリーダー的な役割は、比較的、短いサイクルで循環をする。

プロジェクトとかタスクとか、本格的なリーダーシップが必要なものに関しては専門能力が必要になってくるので、この場合は循環で役割を回せばいいということにはならないですよね。これはクリエイティブな判断だと思います。

質問者2:ありがとうございました。

リーダーが折れるのか、それとも人が変わるのを待つのか

八子:次の方どうぞ。

質問者3:ありがとうございます。徹さんに質問なんですけれども、1番最初に質問された方に対する八子さんの回答にすごく共感するところがありました。リーダーが折れるのか、それとも人が変わるのを待つのか。さっきの八子さんの答えに対する斉藤さんの答えが欲しいです。

斉藤:わかりました。

八子:うれしい。

斉藤:八子さんの気持ちは僕も痛いほどわかって、だいたい社長になるような人はけっこう情熱にあふれていて、何か伝えたい、行使したいという気持ちが強いんですよね。要はちょっとおせっかいなんですよね。

八子:親切の押し売りをしますからね。

斉藤:親切の押し売りかもですね(笑)。コミュニケーションのメソッド (ゴードン・メソッド) に「問題所有の原則」というものがあります。「人の問題」を取り上げちゃいけないということです。その人の問題は、その人が解決するのが、その人の成長にとって一番いいことで、他者は、その問題を取り上げて解決するのではなく、その人に寄り添って、その人の心の中にある答えを引き出せるように支援してあげることです。

「やる気のない人」には、必ず原因や理由がある

斉藤:「学習性無力感」という言葉がありますけど、やる気のない人、やる気がないように見える人、指示待ちに見える人には、必ずなんらかの原因や理由があってそうなっているんですよ。

例えば、子どもの時はみんな、いろんなことに手当り次第チャレンジします。みんな、やる気があるんです。でも学校や会社の中で教師や上司から押さえつけられ、提案してもどうせ報われないみたいな経験を繰り返すことで、無力感を感じるようになるわけです。そして指示待ちになっていくわけですよね。

そんな人には、できるだけ傾聴してあげて、その人の思いをわかってあげることです。その人も、本質的なところでは、やっぱりチームのメンバーである以上、何か貢献したいと思っているんじゃないかなと思いますね。

だから傾聴してあげる。話せば理解してもらえる。いろいろ一緒に考えてくれるということを経験することで、前向きに気持ちが戻ってくる。僕たち経営者は「伝えたい」「解決したい」という思いが強いんだけれども、むしろその人の中にある問題や課題を傾聴してあげて、寄り添ってあげるようなスタイルでいくことです。

その上で、未来に向けた質問、「じゃあ、例えばこういうことを目指してみたら?」とか、環境をいろいろ提供してあげたり、少しずつその人のやる気を目覚めさせてあげるといいのかなと思いますね。

本来の自分を取り戻してもらうための「傾聴」と「対話」

斉藤:学習院大学で「チームdot」というすごくやる気に満ちたチームができたんです。メンバーは何十人といますが、その子たちが最初に入ってきた頃は、本当に成績が悪かったり、あんまりやる気がないような子が多かったんです。

でもdotに入ってきて、対話を通じて「自分はこのままでいいんだ」と自信を取り戻して、自分の強みやおもしろいと感じることで、いろいろ新しいアイデアを考えてみようとか前向きになり。仲間とそういうことをやっているうちに、本来の自分を取り戻してくるんですよね。カルチャーを作りながら、傾聴によってちょっと自信のない人たちも受け入れてあげる努力をする。それが大切だと思います。

八子:そうですね。

ただ、「じゃあいつまで」という時間の問題があるから、対話に限りなく時間をかけられるわけではない。そのあたりの限界を見極めてお話することが大切だと思います。

「この組織はこういうカルチャーでやっていきたいし、ぜひその一員になってほしいと思っているんだ。でも、もしそれが難しいなと感じるのであれば、指示された業務をそのままやるような仕事をしたほうがいいかもしれない。できれば、この組織でチャレンジしてほしいけども、そこは自分で決めてもらえるといいかな」と。それも自己決定してもらうことになるのが大切だと思います。

八子:そうすると自分で決めて、自分で仕事を作っていく感じになるんですね。

過去のトラウマに紐づく思考から脱却するための「仕組み」

八子:あと「経験のシェアをする」とおっしゃっていたじゃないですか。傾聴するというのは、過去のその人のトラウマや、もしくはネガティブな経験を解きほぐしてあげて、周りのメンバーが理解することです。そうすると例えば、どう支援すればいいのかわかったり、もしくはその人の思考プロセスがわかったり、「ああ、過去のあれとまた紐づいちゃってるな。ちょっとそこから脱却しよう」と気づける部分があったりする。

どこかで自分の内面をシェアする場、ないしは仕組みを提供しないと、いつまで経ってもそこから出られないじゃないですか。それを組織で作ってあげるのが良いのか、それともコミュニティで作ってあげるのか良いのか、そのあたりが判断が分かれるところなのかもしれないですけどね。

斉藤:作りやすいほうでいいと思いますけどね。抵抗の少ない、イノベーターが多いところから始めていくのが基本だと思います。

八子:そうですね。

斉藤:人間って「わかってほしい」という気持ちがとても強いじゃないですか。自分のことをわかってくれる人のために貢献したいという気持ちが、誰しもすごく強い。

それでも傾聴はとっても大切だと思うんですよね。その人の表面で出ている言葉そのものじゃなくて、どういう気持ちから、どういう背景からその言葉が出ているんだと想像して、できるだけ想像してあげて、わかってあげて。

それを言葉にしてあげたりする。「そういうことだったんだね」と自分が理解したことを本人にもわかるように伝える。そうすると、相手も「ああ、この人にはわかってもらえている」という安心感が出てくるんですよね。

相手に興味を持つことは、人に対する「愛」である

八子:そうですね。ここにもちょうど「相手に興味を持つということだ」と書いてありますが。

斉藤:本当にそうだと思いますね。相手に興味を持つことは大切です。

八子:相手に興味を持つ。思いやりの話ですからね。

斉藤:そうですね。

八子:相手に興味を持つことは、広い意味で人に対する「愛」なんじゃないですか?

斉藤:そうだと思いますよ。広い意味の愛が大切だと思いますよ。

司会者:本当にまだまだお話をうかがいたいところなんですが、ここでお時間となりましたので終了とさせていただきます。では本当にありがとうございました。

八子:積もる話はまた後で。ありがとうございました。

斉藤:どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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