北海道と九州で事業を展開する、DXのリーダーたちが登壇

友岡賢二氏(以下、友岡):はいみなさん、ぱっちり目を開けて、最後のセッションにがんばってお付き合いいただきたいと思っております。今日はうれしいことに、2人のすばらしいゲストをお迎えしております。まずパネラーのお一人目です。生活協同組合コープさっぽろCIO、長谷川秀樹さんです。一言お願いします。

長谷川秀樹氏(以下、長谷川):長谷川です。あとで軽く自己紹介しますけど、札幌と東京の……あれ、もう終わってもうた? じゃあ次、柳瀬さんから(笑)。

(一同笑)

友岡:いいんですか?

長谷川:もう大丈夫です、柳瀬さんいきますか。

友岡:あとでこってりやるということですね。最初にしゃべりすぎるとね。

長谷川:そうね、自己紹介スタイルがあるからね。

友岡:次は柳瀬隆志さんです、よろしくお願いします。

柳瀬隆志氏(以下、柳瀬):嘉穂無線ホールディングス株式会社、それから株式会社グッデイの社長をやっております、柳瀬と申します。本日はよろしくお願いいたします。

友岡:よろしくお願いします。

(会場拍手)

今日は柳瀬さんがどんな格好をするかなと思って、僕はスーツで来て良かったと思って(笑)。

長谷川:俺も今日、スーツ着てくる感じだった(笑)。

友岡:秀樹に合わせたら、本当にえらいことになってましたよ(笑)。

長谷川:やっぱさすが社長、ちゃいますね。スーツですわ。

柳瀬:いやいや、普通にスーツ着てきてしまいました……(笑)。

友岡:今日はみなさまからのご質問もどしどし受け付けております。時間ギリギリまでいきたいと思いますので、ぜひお付き合いください。最後にあふれたご質問は、僕のTwitterでお答えすることもできますので、ぜひご質問をよろしくお願いいたします。

東京と北海道を行き来する2拠点生活

友岡:それではまず自己紹介ですね。タイトルは「デジタル変革に挑戦し続けるリーダー達が語る 地方企業におけるDXの始め方とは?」。

長谷川:3人とも地方企業だもんね。まぁ東京以外は地方と呼ぶのはどうかとは思うけど。

友岡:「地方」ってどうなのというのはありますが、置いときましょう。長谷川さん、お願いします。

長谷川:僕は14年間外資系にいて、あと10年間は日本企業でした。メルカリというベンチャーを1年やって、今はプロフェッショナルCIO・CDOということで複数の会社を持っています。趣味興味のところでキャンプとかBBQとか、ハーレーに北海道で乗りまくると書いてあるんですけど、今は2拠点生活をしています。

2拠点生活の半分は東京、半分は北海道なんですけどね。基本は北海道で、自宅から30分でスキー場に行ける。夏は積丹のウニ食いまくると。あと宗谷岬からまっすぐの道を、みんなでバイクでブーンと走ったり。今は冬ですから、知床の流氷の上をウォーキングしたりもできます。寿司は寿司でそりゃそうだというところだと思います。

道東に行くと、グラスフェッドという牛の飼育方法があるんですけど、要するに穀物じゃなくて普通の草を食べて牛乳を出すんです。そうすると低温殺菌だから、ヨーグルトみたいに、蓋の裏にくっつくような牛乳ができまっせと。今はそんな所で人生の半分を暮らしながら働いてる感じです。

友岡:(北海道と東京を行き来する時に)何曜日から何曜日ってあるんですか?

長谷川:基本は水曜日の夜に北海道に行って、土曜日に東京に帰ってきます。水・木・金・土の半分みたいな感じですね。最近はスキーをしてるからぶち抜きで(北海道に)いるので、嫁がやや怒ってますけど。

友岡:(笑)。もう今日、嫁は見てない前提でしゃべってるから。

長谷川:嫁は完全に見てないですね。あと友岡さんにも柳瀬さんにも出てもらっているんですけど、Webメディアで『IT酒場放浪記』というのをやっていました。時代が時代なので、今はYouTubeでやってるんですよね。

YouTuberというほどじゃないんですけど、YouTubeで「IT酒場放浪記」というので検索していただくと出てきます。パナソニックのCIOや日清のCIOと、本音ベースでわーわーしゃべってるので、ご興味があればぜひ見ていただければと思います。よろしくお願いします。

九州の老舗のホームセンターがDX企業へ

友岡:よろしくお願いします。じゃあ次、柳瀬さんお願いします。

柳瀬:私は柳瀬と申します。『アンパンマン』の作者と同じ名前なんですけれども(笑)。1976年福岡生まれで、嘉穂無線という会社の三代目として生まれました。東京で就職して、三井物産の食料本部で冷凍食品・冷凍野菜を輸入していました。一番わかりやすい仕事で言うと、マクドナルドさんの冷凍ポテトをアメリカから輸入して卸していく仕事をしていました。

2008年に(家業の)会社に入社したんですけど、メールも会社のWebサイトもない状況から、いろんなDX的なこともやってきました。最近は、『IT酒場放浪記』のライターもされている酒井(真弓)さんと一緒に、『なぜ九州のホームセンターが国内有数のDX企業になれたか』という本を書いて、2月に出しました。

今日は、長谷川さんにも(本を)お持ちいただいてて恐縮なんですけど(笑)、長谷川さんのコラムもあったりします。実際に事業会社の立場でDXをやった話は実はあんまりないのかなと思って、そういう話をご紹介しております。

親会社が嘉穂無線という会社で、その下にグッデイというホームセンター、それからイーケイジャパンという、電子工作キットを作っている会社があります。あと、我々がグッデイでやっているデータ分析の仕事をほかの会社でもやろうということで、カホエンタープライズというDXの会社もやっております。

グッデイはなかなか馴染みがない方も多いと思うんですが、北部九州と山口に一部店舗があり、今65店舗展開をしております。創業が1978年なので、ちょうど今週末で45年目に突入します。非常に古いというか、ホームセンターの黎明期からずっとやっている会社です。本日はよろしくお願いします。

友岡:最後に一言だけ。本日のモデレータの友岡と申します。CIO LoungeというNPO法人のメンバーをしています。CIOがいない会社はなかなか多いんですよね。そういったところに無償でコンサルティングのサポートサービスをしていますので、またホームページを見てください。今日はどうぞよろしくお願いします。ということで、自己紹介が終わりました。

地方でDXを推進していくためのバイブル

友岡:やっぱりこの本、みなさん買ってください。

柳瀬:恥ずかしい(笑)。そういうアレじゃないんですけど……。

友岡:本当に今日のテーマにドンピシャなんですよ。「地方でDXをどうやるの?」という時にこの本を読んだら、もう今日の話は聞かんでええというぐらいなんですけれども(笑)。

柳瀬:そんな(笑)。

友岡:たまたまこの本が出るタイミングで、お二人をお迎えしたのはすごいご縁です。この本には長谷川秀樹さんが登場するし、かつ原稿も書いておられるということですね。

長谷川:そうですね、ちょっとコラムを書かせてもらっています。

友岡:長谷川さんは『Slack』という本も出してますので、こちらもよろしくお願いします。お二人の出会いのエピソードは、2015年のAWSのイベントに長谷川さんが登壇されていて。それを見て、どちらかというと「このままじゃあかん」と。置いてかれる、がんばらなあかん(と思ったんです)。

もっと言うと「登壇者側にいかないと」というくだりがあって、まさに今、登壇者側にいるということも含めて、僕はすごく感動したんですよ。そのあたりで、まずはお二人の出会いはどういうところなんでしょうか。

柳瀬:最初はたぶん、福岡の太郎源というお魚屋さん(笑)。

友岡:やっぱり飲み屋ですか、酒場ですか(笑)。

長谷川:博多に太郎源っていう、めちゃくちゃうまい魚屋がありますねん。

友岡:太郎源の深掘りはやめてください(笑)。

(一同笑)

経営や業務にインパクトを与えられるデータ活用

長谷川:福岡で、2010年に「AIP クラウド3days」というイベントをして、そこでわーっと3日、ずっとクラウドの話をする時にご一緒させてもらったのが、たぶん最初ですね。

でも、次にお会いしたのは、AWSのパネルディスカッションだったと思います。僕、実は小売業の中でデータを使って結果を出している人の登壇を一度も見たことがなかったんです。BIがどうとか、なんじゃらデータサイエンスがどうのこうの言うて。

初めて本当にデータを見て、経営や業務にインパクトを与えることをしゃべってる人ということで、ものすごく強い印象があります。「また嘘でしょう?」とか「タグをいじくって遊んでるだけでしょう?」とか思ったら、本当に業務で(結果を出しているという)ね。「ほんまやん!」みたいな。

柳瀬:(笑)。

長谷川:解説していただいたので、すごく印象に残ってますね。

友岡:柳瀬さん、この出会いと印象から、長谷川秀樹をどんなふうに見ていましたか?

柳瀬:いやもう、すごいスター選手というか(笑)。仰ぎ見る感じでしたよね。僕らもITには興味はあったんですけど、何から手をつけていいのかぜんぜんわからない。いろんなツールを導入してもきりがないし、実際にそれを導入しても、費用対効果がどのくらい出るのかと考えるとなかなか。ただ、人時の削減をしていても、システム投資が回収できないよなと思っててですね。

どういうことをやればいいのかなと思った時に、たまたま、システム部長が「クラウド上にデータウェアハウスを作ってみました」と。それが何かに使えませんか、というところに気づいたのが、社内的な始まりですよね。ただ、自分たちだけだとなかなかアイデアが生まれないので、AWSのサミットに参加したり。

あと、当時はまだ参加者がすごく少なかったですけど、Google Cloudのイベントに参加しました。いろんなクラウドの事業者さんが考えていることとか、それを使っている人たちがどんなことを議論してるのかを……最初は本当に9割方わからなくて(笑)。

うちの会社とあんまり関係ない話で、1秒間に何万回もアクセスするのをどう捌くかという話をしていました。少しだけ僕らに関係しそうなところがあったので、本当にそれを見よう見まねでやっていったのが最初ですね。

東京と札幌のコロナ禍に対する反応の違い

友岡:今日はいくつかパネルディスカッションのポイントを用意しているので、ちょっとスライドを出していただけますか。コロナ禍でどんな変化があったか。地方での暮らしも含めてですが、流通は特にお客さまの変化を感じやすいところだと思うので、まず長谷川さんから感じるところを聞かせてください。

長谷川:僕が関わっているのは、柳瀬さんと違って食品なんですよね。やっぱり人が外食に行かなくなるので、食品スーパーの売上は伸びますし。あと、コープさっぽろは(売上が)約3,000億円ある中で、2,000億円がスーパーで、1,000億円は宅配事業なんですね。(コロナ禍では)宅配のほうがより伸びる。

だって、家にいるだけで食材が届いて、調理して食べられる。そういうところを含めて、食に関しては伸びました。まず企業からするとそんなふうに思っていますし、それがまだ続いている感じでもありますかね。

友岡:札幌や北海道について、独特だと感じるところはありますか? 東京とはこういうところが違うとか。

長谷川:みんながどこまでを東京と思っているかだけど、ずーっと左のほうはどないするか置いといて、たぶん東京都の面積の7~8割は東京というイメージだと思います。北海道でコロナ禍が始まった時、一番最初にみんなが思ったのは、「あれは俺たちのことじゃない。すすきののことである」というのから始まってるんですよ。

友岡:あぁ、なるほど。

長谷川:ほかの人は「札幌? 俺らは関係ない」。確かに(感染者数の)数字も札幌しか出ていなくて、ほかの旭川とかではぜんぜん出てなかった。それで、札幌の人は「あれはすすきののことや、俺たちのことじゃない」と。すすきのがほとんどで、札幌という枠で語られたら困る、という。そこは案外国土というか、道民性というものがあるのか、土地が広いせいかもしれないですけど、そんなにピリピリしていない。

東京とか、あるいは僕の実家の三重県からすると、ほかの県のナンバーの車が来ただけでも「なんじゃあいつ!」というような場所もあるかもしれないですけど。そこはけっこうふんわかした感じでしたね。

友岡:テレビの中の世界と実生活の中でのギャップがあったんですね。

長谷川:そうですね。だから「あれは都会の話やろ」と。「そんなに関係ありませんわ」みたいな。あと、地方は飲食業があると言っても、そんなに産業として栄えていないところもあって。案外、東京よりはインパクトが薄いかたちで時間が経っているイメージですかね。

スーパーが少ない地方都市では、デリバリーが不可欠になる

友岡:食品というと、やっぱりどうしても「買いに行く」イメージがあるんですよね。Amazonを始め、ネットビジネスは非常に増えているとはいえ、私の頭の中にも、食品は買いに行くものというところがあるんですけど。

消費者の行動は、このまま買いに行くものなのか、それとも届けてもらうものなのか。この辺の変化はあるんでしょうか。

長谷川:宅配にシフトしていくことは、僕らはだいたいわかっていました。食品スーパーで買って、家族でゴロゴロ(カートを押して)いって良かったなというところから、だいたい子どもが巣立っていく。1人で買い物に行くのもなんか寂しいしおもんないところもあって、宅配のほうにいってですね。

コープグループは相当やっているので、おばあちゃんがおじいちゃんのために2人分だけ(食事を)作るのも「なんか……」と思って、配食になっていくんですよ。配食というのは、お弁当をお宅に配るってことなんですけど。

「おばあちゃん、火曜と木曜は楽しよう。もう配食にしようや」ということで配食が増えていき、いつの間にかピタッと契約が止まる時がくるんですよ。亡くなったか、老人ホームに入られたかということで止まると。ちょっと言葉は悪いですが、僕らはグループ経営で葬儀屋さんも用意しています。道民のライフジャーニーは、だいたいそんな感じですね。

あとは行ったらわかるし、今日は地方の方が(このイベントを)ご覧になっているし。地方と言っても、名古屋に住んでいる人と、三重県の僕の実家の近くに住んでる人はだいぶイメージが違って。

例えば北海道の鶴居村は、車で1時間行かないとスーパーがない。行くしかないんだけど、「行きますか?」ということなんですよ。だったら宅配で頼んだほうがええやん、ほぼタダで届けてくれるんやし、ということで。

やっぱり地方は地方でも、札幌は絶対スーパーにまで行けますけど、もっと広大な田舎のほうに行くと、買い物に行くこと自体がめんどくさい。札幌は増えていますけど、地方は人口が減っていくから、店も潰れていくんですよね。

そうすると、もっと遠くに行かなあかんってことになるので、やっぱりデリバリーをするか、あるいはいわゆる出前的なスーパーに行かないと、いろんな意味でちょっと成り立たないかたちになってますかね。

コロナ禍で需要が急増した、ホームセンターの商品

友岡:なるほど。柳瀬さんはビジネスで言うと、ホームセンターというかたちですが、コロナの時も、ホームセンターは開店していてよかったんですよね?

柳瀬:なんとかギリギリな感じでしたけどね(笑)。

友岡:九州を中心としたビジネスをされていて、コロナ禍でどのような変化を感じられますか?

柳瀬:やっぱり、最初の緊急事態宣言の時が一番危機感が強かったです。それはお客さまはそうだったと思いますし、ほぼみんな外出もしなかったと思うんですよね。その時に意外だったのが、4月8日に緊急事態宣言が出てすぐ、我々のところに感染防止用品を買いに来られる方がすごく増えたんですね。アクリルのパネルも、前はそんなにうちのお店で売れるものではなかったんですが、すごく売れ始めたり。

あとはレジにカーテンのようなものを下げているのが普通に見られると思うんですけど、あれも以前はぜんぜんやってなかったのに、急に需要が増えました。そういう道具が販売されている所は、実はホームセンターしかないので、最初の緊急事態宣言の時は、コロナ禍の対策グッズが売れました。

もう終わってしまった需要もあるんですが、未だに継続している需要で一番大きなのはペットですね。やっぱりペットを飼い始めた人がすごく増えているみたいです。ペットを一度飼い始めると、ずっと餌をあげなきゃいけないし、いろんな道具も買ってあげなきゃいけない。その需要が、この2年間ずっと増え続けているのが消費の変化かなと思います。

あとは園芸とか、家の中で楽しむものはすごく売れています。ただ、例えば収納用品やインテリア用品は、消耗品でもけっこう耐久性があるので、1回買ったらそんなに買い替えるものじゃないので。最初の年はボンと上がったんですが、今はコロナ前とほぼ変わらない感じです。

リモートワークやオンライン会議が浸透して効率アップ

友岡:この本の中にも、データをみんなで可視化して共有して、何が起こっているのかをすぐにつかむと書かれています。そうした変化はデータですぐに共有されてたんですか?

柳瀬:そうですね。売れる商品が週ごとに違うので、その変化はお店にいると断片的に見えてるんですよね。でも一部分しか見ていないので、どこが本当の情報でどれが無視していい情報で、どこにフォーカスしたらいいのかは、やっぱり数字を見てみないとわからない。

僕ら本部の人間もみんなリモートワークだったので、本部の人間はデータを見て、現場に「今こういうのが売れてるよ」という情報提供をやっていたという感じですね。

友岡:なるほど。お二人へのご質問なんですが、このコロナ禍を通じて、何かデジタル系で新しい試みを始めましたか?

長谷川:たぶんもともとと言うか、やっぱりリモートワークが一番(大きな変化)なので。僕らは、SlackとGoogle Meetの2つは相当浸透しましたかね。

柳瀬:そうでしょうね。僕らももうほとんど、Google Meetでしか会議しなくなっちゃいましたね。もともと私はお店回りをやっていたんですよ。1日3店舗、大分や熊本のお店を回っていたんですが、それもコロナ禍になってからオンラインになりました。でも、そのほうが効率がいいので(笑)、未だにオンラインで話を聞いているんですよね。

本部長や商品部長は、時間をゆっくり使って実際に3店舗の様子を見て、オンラインでみんなでその状況を話し合っているんですけど、結果的に効率はすごく良くなりましたね。

長谷川:あとは今まで日本は特に、百貨店に行って買い物してクレジットカードを渡したら、その人がどこかへぴゅーっと消えて帰ってくるやんね。何かをお渡しして、店員がお返しするのが丁寧な接客という、わけのわからん文化があったわけです。

少し前なら、セミセルフレジも「客にやらせやがって、こんにゃろめ」「今までお前がやっとったやんけ」と言う人もいるかもわからないですけど。あと会員カードも、レジの人がスキャンして返すというオペレーションじゃないとお客さまに失礼やと言っていたのが、スキャナーをつけといて自分でスキャンしろという。

今はむしろ非接触でいいよねということになっているので、「ピンチをチャンスに」じゃないけど、そっちはどんどん推し進めていく感じですかね。