「相手とお互いに興味を持って話し合う姿勢」は本当に必要なのか

田中泰延氏(以下、田中):はい、閑話休題と出てから本題というね。ここからは、この本の中で阿部さんが気になったことがあれば、「ここはどういうことなんですか?」みたいな話をしていただけたらうれしいです。

阿部広太郎氏(以下、阿部):でもまさに、今画面に出ている「相手はあなたに興味がない」。こここそが一番のスタート地点だなって思っていて。2人で話してる時って、どうしても「相手は自分の話を聞いてくれるだろう」ということだったり、「自分の心を打ち明けないといけないんじゃないか」とか「自分のことを話さないといけないんじゃないか」っていうことを、ある種思い込んでしまってる方も多いと思うんですよ。

それが全部違うわけじゃないですけど、それよりも2人で何を見てるか、どんな景色があるか、どんなものを食べてるかとかが大事ですよね。目の前にあることを一緒に語り合うことのほうが、どんどんお互いの思いもしなかったところに連れてってくれるんだよって。そこが一番最初に泰延さんと話したかったところです。相手はあなたに興味がないって思ったほうが、僕は気が楽になりました。

田中:楽になることがすごく大事かなと思っています。この本を書くにあたって、40冊以上の会話術の本を読んでみたんですよ。中には100万部突破とか、この『人は話し方が9割』みたいに70万部突破しているものとかあるけど、全部に「相手とお互いに興味を持って話し合う姿勢を大事にしましょう」って書いてあるんです。

でも、本当にそうか? って。例えば、僕と阿部さんはお互いに好意はあるわけ。つまり、会いたいなとか、飲みたいなとか、また会おうよって。でも、お互いのことを根掘り葉掘りは聞きたくないし、僕もあまりそんなことは言わない。

大切なのは「何を一緒に見てきたのか・話してきたのか」

阿部:そうなんですよ。本当に泰延さんと話している時を思い返してもそうなんですけど、お互いの近況的なこととか、「何してる? 最近どう?」って部分を聞き出そうとしないですよね。泰延さんと一緒に鳥貴族に行く時も、目の前にある頼みすぎてしまった大量の唐揚げを「これどうしようかね?」っていう、途方に暮れるその瞬間の空気感とか会話とかが、すごく愛おしいんですよね。

田中:なに、 俺の思い出は揚げ物の大量発注だけなの?

阿部:いや、違います(笑)。泰延さんは、引き出す・聞き出すことをされるんじゃなくて、目の前で何が起こっているのかを一緒に味わおうとしてくださっているんです。

田中:そして揚げ物も味わおうと(笑)。僕は阿部さんに今まで何十回も会ってるわけで、みんなの前で対談すんのももう5回目6回目なんだけど、いまだにどこに住んでるか知らないし。

なんかのノリで「阿部さんどこ住んでるんだっけ?」って言ったら、「もう10回ぐらい聞かれてますよ。どこそこです」って言われて、「あ~そうそうそう!」って。それもまた忘れてんだよね。どこに住んでいるのか、本当に知らないから。

阿部:大事なところは、お互いの血液型とか身長・体重とか、そういう個人的な情報じゃなくて、「何を一緒に見てきたのか・話してきたのか」だったんだなって。

会話することを、僕も冒頭で「共同作業」って言いましたけど。なにか一緒に作るという、その一番根本にあるのが会話だったんだなって。当たり前のことなんですけど、それを私たちはずっと子どもの頃からやってきたんだなって思ったんですよね。

深い関係性を築く「仕入れ」の重要性

田中:例えば、俺が阿部さんに「どこ住んでんの?」って言って「初台です」って答えたとするじゃん。ここ下北沢と初台は近いけど、でもそれ聞いて俺どうすんの? ってことなんだよね。今から行くのか? っていうね。

でも、俺が例えばケンタッキー州に行ったことがあって、阿部さんも20代の時にケンタッキー州に行ったことがあったら、ケンタッキー州の景色の話のほうが、「初台に住んでるんですか」っていうよりも、2人の間ではかなりいいじゃないですか。

阿部:そうなんですよね。泰延さんの本の中で鳥肌が立ったのが、「仕入れ」の話です。仕入れが響き合った時に、本当に旧知の友人、いやもっと深い親友のような関係になれるんじゃないかなって。まさにその「仕入れ」って言葉がものすごく自分の心の中に響いたんです。

僕も広告業界に入って、例えばそれは勉強というかたちなんですけど、『コピー年鑑』とかたくさん見たり聞いたり、あの人がこんな仕事をやってたんだなってたくさん吸収してる中で、だからこそ広告の話だったりとか誰々さんという書き手の人だったりの話ができるんですよね。

泰延さんと話して「なるほどな」って思ったり、「そうだよね」って思ったりという響き合いが起こったように、何を見聞きしてきたのかという「仕入れ」の大切さも書かれてましたね。

田中:好きなことを好きだと「笑える心がスキさ」、なんていう歌もありましたけど。やっぱり人と人が会った時に、「何々が俺は好きなんだよね」って言った時に、たまたまそれが30年前の映画でも「私もそれが好き」っていう人がいたら、すごく楽しいじゃないですか。「今どこ住んでんの?」「どこ住み」みたいなことよりも、ぜんぜんつながれると思うんですよ。

リモート環境で話しづらくなった「外部のこと」

阿部:本当そうですね。この「外部のこと」を話すっていうのが大事ですよね、今リモ-ト環境になっちゃって、外部のことを話しづらくなってるなと思うんですよ。

田中:共通のことがなかったりするからね。

阿部:だって、みなさんカフェにいらっしゃる方とか自宅にいらっしゃる方とか、それぞれが別の場所にいらっしゃって。オンラインでつながれるのは超効率的なんだけど、お互いに「ここいい景色だね」とか。景色について話すのは盛り上がんないかもしれないですけど、景気とか見てるものとか、共有できるものがちょっと少なくなっちゃってるなと思うんです。

意識して「自分の中で外の会話の引き出しを分かち合おう」とか「一緒に見よう」という気持ちがないと、やっぱり狭くなっちゃいますよね。

田中:誰かとカフェに行ってお茶を飲んでいて、パッとサングラスの人が通ったら、「あっ、マッカーサー」とかなんか一言言うことあるじゃない。それはその場で一緒に見てるから。ただ、そこからマッカーサーの話にいくんだよね。それが楽しいんです。今は阿部さんがおっしゃったように、別々の部屋でしゃべってるからさ。

阿部:それでバーチャル背景にしちゃうから、さらにやっぱり個人の、どんな状況にあるのかみたいなことがわからない。もちろんバーチャル背景で遊ぶのも会話になるんだけど。

田中:宇宙とかさ。

阿部:そう、宇宙とか。でも、なかなかそこから会話の広がりがないですもんね。

田中:一瞬はつかみがあるんだよね、「すごい、宇宙ですね」って。それで終わるよね。バーチャル背景だもん。

阿部:そうなんですよね、その一言で終わっちゃうんです。

雑談・余談がない文章は、「おにぎりの具だけ」と一緒

阿部:自分がリモート環境であっても、これまで見聞きしてきたものとか、それにまつわる余談とか雑談とか、外部のことを話す重要性がありますよね。「本題からちょっと逸れるかもしれないけど」って意識的に話すことが、案外おもしろいとこるに連れてってくれるんだなって思いますね。

田中:俺なんて、本題を話すのが恥ずかしいからさ、雑談、余談だけで生きてるから。例えばこの本のことでインタビューを受けた時も、「ここですごくしみること書いてあって、ちょっと読み上げていただいて」って……やめてくれ! そこは恥ずかしいからやめてくれ。そこを言われると恥ずかしいんですよ、俺は。

どうしても本だから書かなくちゃいけないんだけど、それを書くのが恥ずかしいから、前後にどうでもいいことをいっぱい入れるんです。それが楽しいんじゃないかな。

阿部:文章を抜き出してしまうのは、おにぎりの具だけを取り出す感じですよね。

田中:そんな感じね(笑)。鮭の切り身がこんだけですよ、っていう。

阿部:おにぎりの、その、周りの余白のような文章もセットで完成するものだからっていうのはあります。

田中:そういえばコンビニで「具だくさんおにぎり」とか売っているけど、具だくさんだったことがないよね。なんだかんだいって俺、少ないなと思う。

阿部:その「具だくさん」っていう言葉が好きで、その言葉を食べているんでしょうね。

田中:なるほど! 実質具だくさんじゃないけど、「具だくさん」っていうパッケージを買っていて、もうその文字を食べてるんですね。

阿部:その文字を、気持ちを食べるんだろうなって。本当に「具だくさん」っていい響きですね。

田中:いい響き(笑)。わかるわ~。俺ね、20年間、4WDのRVの、オフロードの、「冒険に」みたいな車に乗ってるんやけど、舗装路以外1回も走ったことないからね(笑)。でも、その気分を買ってるのよね。「いざとなったら俺はこれで悪路を走破できる」という。ぜんぜんコンクリートの上しか走ったことない。

「つまんなかった」でもいいから、エゴサは1つ残らずに見る

阿部:『会って、話すこと。』の中で僕が魅力的だなと思ったのは、リモート環境下で編集者の今野さんと一緒に対話を重ねていく中で、オンラインで話すもどかしさを感じつつも、ラストにちょっと感動があるんですよね。これは読んでいただきたいんですけど、その「もどかしさ」も含めてこの1冊には入っているんです。

「会話がこうあるべきだよね」っていう理想だけが話されているわけではなくて、今の現状における、身にしみるもの。このリモート環境下だったり世の中の状況だったりも含めて、共感されている人がすごく多いと思います。

僕もやっぱりエゴサーチというか、泰延さんの本にどういう感想が広がってるのかなって検索しちゃうんですけど。そのハートウォーミングの部分がたくさんの人に伝わっていっているなって。ごめんなさい、強引に本の話に戻しちゃったんですけど。

田中:俺もいつもエゴサーチしますよ。

阿部:めっちゃされてますよね。

田中:「田中泰延 松坂桃李」で入れてるけど、今日1件あった。わかってる人はいるんだなと思って。1人でいいよ。俺が桃李ってことをわかってくれる人は。

(会場笑)

でもね、前の本からそうなんですけど、今野さんと「エゴサは1つ残らず見よう」って。だって読んでくれているから。もしボロクソに書かれていてもいいの。「つまんなかった」でもいいの。買って読んでなんか言うって、これはありがたいし、尊いじゃないですか。本当にありがとうございます。

著者から見た、SNSで本の感想を書いてくれることの尊さ

田中:ボロクソに書かれたのもあるの。Amazonでいきなり最初に「立ち読みしましたがつまんない本です」って書いてあって。そんで星2つで、「なんで星2つなん?」って思った(笑)。立ち読みしてつまんなかったら1つでいいと思うんだけど、俺その星2つに感動したもん。「立ち読みして最高につまんないけど、星は2つなんだ」って。本当にありがとうございます。

阿部:SNSで感想を書いてくださることはめちゃくちゃありがたいし、握手しに行きたくなるような気持ちにもなるし。時にはBADな感想もあるけど、でも本当にありがたいんですよ。日常の忙しい生活の中で関係してくれたことの尊さたるや。

田中:今野さんと前も話をしていたのは、1,500円の本てね、1,500円っていったらすごいいいランチ食えるやん。牛丼なんか4杯ぐらい食えるし。読み切るのに1時間か2時間か、人によっては3時間ぐらいかかるけど、その時間までくれて。

さらにSNSで書名を入れて、本の写真まで上げてくれて、こんなありがたいことはないです。そこまでしてくれるんなら、俺に金を振り込む1歩手前まできてると思って。もうどんどん振り込んでください。本当ありがたい。こっちが振り込みたいよ。

阿部:それは僕も感じました。本が出る時の「予約しました」とか、その後の「読みました」っていう言葉のありがたさ。ポカリスエットが体にしみわたっていくような、生きている実感がありますよね。

田中:ポカリ以上の、ちょっと塩辛いOS-1ぐらいのね。

阿部:経口補水液。

田中:ぐらいのね。まずいけど、あれぐらいしみるもんなんよね。

阿部:しみますね。

田中:塩味の。OS-1ですよ。ありがとうございます。いいなと思ったら、5冊10冊と同じものを買っていただいて。2冊買って目を平行にして見ると、だんだん立体に見えてきますからね。

阿部:(笑)。1冊の本を大事に大事に届けていきましょう。

「おもしろい会話」のベースは「知識」にある

田中:今野さんとも言っていたんだけど、この本の中で「おもしろい会話」のベースは「知識」にあるよって。なんにも知らなかったら話を転がしていけないからねって言ってるんだけど。

これは別に知識をひけらかそうとか、物知りだから偉いってことじゃなくて、たまたま知ったことでもいいんですよ。先週たまたま読んだ本でもいいし、たまたま知った新聞記事でもいいけど、ちょっと「知っていること」を混ぜると、転がしていった時に相手も知っていることを出してくれるじゃないですか。

だから僕と阿部さんも常にくだらないこと言ってんだけど、それが昭和の古いことでも、ちょっと知ってることが返ってくると楽しいんですよね。

阿部:そうですよね。お互いに引き出し合う感じというか、見聞きしてきたことが相手を刺激して、そしてお互いに刺激し合うことで「さっきまではこんな話になると思ってなかったんだよね」「今なんの話をしてたっけ?」ってなる。この時って、意外に僕は幸せなんじゃないかなって思いますね。

「なんの話だったっけ?」ってなれることが、チャリンコで隣町まで来られたような、一緒に遠くまで来られた感覚があるんですよね。最近リモートだとそういう話をしてなかったなって思いますもんね。

田中:リモートで、「今これなんの話してたんですっけ?」って1回もないわ。

阿部:ないですね。ないですね。時間がひと区切り、1時間とか30分で区切られてて。「ちょっと伸びててすいません」みたいな会話すら起こりますもんね。

田中:「ちょっと話が逸れますが」はないもんね。

会話は「相手への敬意」があればなんとかなる

田中:これ、「知識」って書いてるから反発する人もひょっとしたらいるかなって思ってたんだけど、「記憶」でもいいんですよ。子どもの頃に観た、テレビのちょっとした番組のことでも、お互いに「こんなあってんけど」「知ってんねんけど」っていうぐらいのことで十分おもしろい。

目の前にあるものだけを話すとか、相手のことだけの話をしなければ、会話はけっこう楽しく続くんです。Twitterとかでも、この本の感想で「私は話下手で」とか書いてくれてはる人がいっぱいいるんですよ。そういう人には、「もっとどうでもいいよ、会話って」って言いたい。

阿部:ある種1つの“こうじゃなきゃいけない会話本”が、書店さんですごくヒットしている。それで、「こういう成功法則があるんだ」っていうところに縛られちゃうというか、「本当はこうしなくちゃいけない」みたいに思ってしまうかもしれないけど、そうじゃない。もっともっとお互いが誠実に、敬意を持って接することさえあれば、なんとかなりますよね。

田中:基本、相手に敬意がないとうまくいかないですよね。「会いたかったです」って、もうそれが敬意じゃないですか。

異常に距離感を詰められると、相手は逃げるしかなくなる

阿部:そうですね。泰延さんのこの本でお互いの距離感の話をしていらっしゃいますけど。距離の詰め方がちょっとおかしい人がたまにいらっしゃって、そういうのが一番よくなかったりするよっていう話、本当にそうだなと思いました。

田中:グイグイ寄ってくる人いるよね。そんなん聞かんでええやろっていうことを聞いてくる人。

阿部:それは日常の会話の中でもそうだし、SNSとかメッセンジャーとかいろんなやりとりとかでもそうですよね。距離の詰め方がエグい人は、やっぱり引いちゃいますよね。

田中:引く、引く。逃げるしかないもんね。「なんでそれ聞いてくんの? 俺、答えなくちゃいけない?」って思いますよね。

で、いま、本棚から本がパタっと落ちましたね。ラップ現象? ポルターガイスト?

阿部:そういう不思議なことがあるんですよ。

田中:落ちた本が何か? っていうのも大事なことですよね。

阿部:えっ? 星の本? 流れ星のように落ちたってことで。