小学生時代「天才」だった少年は、中学で下から2番目に

森本佑紀氏(以下、森本):改めましてみなさんこんにちは、「タンキュークエスト」というサービスを運営しております、森本佑紀と申します。今から8分ほどお時間をいただいていまして、私たちの取り組みについてお話しさせていただきます。

おそらくハイブリッドスクーリングという文脈において、具体的に事業として私が運営していることと、佐藤さんの方でシステム、もっと抽象的なお話と、松浦さんの方でおそらくこの楽天さんとの協働のプロセスについても少しお話があるかと思います。

具体的な事業として、私たちが運営してるものを1つご紹介したいと思います。そもそも私は一体誰なのかというお話をしたいのですが、大阪から来ました。大阪府松原市というところの出身で、Wikipediaからそこの説明を取ると、「市面積としては大阪府の中ではそれほど大きくなく人口数もそれほどではない、現在、市の財施はこれといった基幹産業もなく自主財源比率は大阪府下でも最低ランクである」。

平たくいうとなんの取り柄もない……ですね。そんな町に生まれました。そこから僕は2014年に起業して「タンキュークエスト」というサービスを始めるんですね。そもそもここに至るまで、なんでこんなサービスを始めたのかというところからお話しさせていただきます。

(スライドを指して)私が生まれた町はこういう団地がいっぱいありまして、代表的な人物としては、この間捕まった脱走犯がいます。地元の松原第七中学校というところの出身で、2つ下です。僕の思い出の場所、初めて彼女ができた公園。ここの公園は、通称シンナー公園といいます。

(会場笑)

そんな町で僕は中学に上がるんですが、中学は、親が「ちょっとまずいかな」とたぶん思ったんでしょうね、私立の中学に行きます。ただですね、この中学で1つ、すごく感じたことがあります。僕は小学校のときすごく勉強ができる、「すごい、天才じゃない!」くらいに言われていたんですけど、この中学にいくと下から2番でした。もう常に初めから終わりまで下から2番でした。

20年間少年ジャンプしか読んでいなかった僕が、経営の本を読むようになった理由

森本:そこで1つ感じたことがあります、こんなこと感じました。

「課金ゲームかよ!」

どういうことかといいますと、もう中学校1年生の段階で、お金持ちの家の人たちは一人ひとり家庭教師がついてます。そしてなんか医学部目指す専門の塾に行っています。なにそれ。

僕の家は普通の家だったので、そんな情報もなければ余裕もないので、「なんだこれ」と思って、勉強する気は一切なくなりました。「学ぶってつまんないことなんだろうな」と思いながら大学に行って、そこで大学の先生に出会って、ちょっと僕の学びの見方が変わりました。大学の先生は三品和広先生という方で、まだ現役で教えていらっしゃいます。

その先生が、1個目の授業の一言目で言ったことが衝撃的でした。「今から経営戦略の授業をします、ただ、経営に正解ってありません」という話をしました。「正解がないものを、この人はどうやって教えるの」と、受験社会しか知らなかった僕はものすごく衝撃でした。

この先生の話、なにを話されたか、無知な僕はなにも覚えていないです。ただ1つだけ感じたことがありました。それが、「とにかくおもしろい」。この人の授業は話してくれることが本当におもしろくて、僕はこのとき20歳だったんですけれど、20年間ほとんどジャンプしか読んだことのない僕が、難しい経営の本を手に取りました。

ここからいろんなことに興味を持って、「学ぶっておもしろいな」「自然っておもしろいんだ」とか、いろんなことに興味を持ちました。今までそんなに生きることにポジティブではなかったんですけれど、ここから「生きるって楽しいな」「チャレンジって楽しいな」。そう思うようになっていきました。

子どもたち一人ひとりの「何がやりたいか」に向き合う

森本:僕たちはそんな体験を基に「タンキュークエスト」というサービスを今やっています。どんなふうに運営しているかと申しますと、動画で僕たちがおもしろいと思った学びを届けます。そして週に1回、みんなで顔を合わせるオンラインイベントもやっています。

(スライドを指して)下に映っているのが、金ピカのハンマーを持っているのが僕です。子どもたちは、ウケていただいている方もいらっしゃるんですけれど、僕のことを基本的にはユーチューバーだと思っています。

(会場笑)

ユーチューバーだと思ってもらって、そんな僕たちが一人ひとりに呼びかけたり、オンラインで授業したり、そういうふうに運営しています。たぶん僕たちのサービスで非常に変わっているところは、ちょっと動画も見ていただきます。

(動画を流す)

これはなにかと申しますと、一人ひとりのチャレンジ、取り組みに関して僕たちがコメントをしています。動画を撮って、だいたい2日以内に必ず返します。このチャレンジは、教材と関係なくてもぜんぜん構わないんです。

子どもたちが日々なにを感じて、自分でどんな取り組みをしたくなったのか。「したくなったんだけど」という相談を受ければ、どういうふうにして実現していこうか。そんなことをサポートします。スタッフみんなで子どもたちのやりたいこと、チャレンジしたいことの力になる。そんなふうに、子どもたち一人ひとりと個別ラインを持っています。

僕たちがやりたいことは、もちろんなにかを身につける、スキルを身につける、そういうことも大事だと思っています。ただ、一番の武器は、その子がなにに興味を持ってなにを紡ぎ出したいのか。そういうことを一緒に見つけていくことだと思っています。

学校では学べない子どもたちが羽ばたける場所

森本:1つ、結果じゃないですけれども、出たことがあります。(スライドを指して)一例はこのひよこちゃん、これうずらなんですよ。うずらの卵を見て「お母さん、これって生まれるのかな」そこから始まりました。

どんな托卵器を使って、どういうふうに育てたらいいか。実は2回失敗しました。でも生まれた途端に、こんなふうに実は顔だけ毛の生え方が違うんです。それを不思議だなと思って一生懸命スケッチに書きました。そうしたら、この子は滋賀の子なんですけれど、それが滋賀県の自由研究大賞みたいな賞を取りました。

別に(賞を)取ったからすごいというわけではないんですけれど、その子なりに気になったこと、それは僕たちが「やってみようよ」と言ったことじゃなくて、なにかインスピレーションの湧いたことでチャレンジしてくれた。そういうものを、僕たちがサポートしたいなと思っています。

そしてもう1つ、やっぱり僕たちのユーザーさんは、学校で学べないんです。それにはいろんな理由あります。例えば聴覚が敏感で集団授業自体が難しい。あるいは人に暴力を振るわれた経験があって、集団の場所に行きたくない。そういうお子さんがご自宅という安心安全な場所で、心済むまで熱中してなにかをする。

(スライドを指して)このお子さんも小学校三年生なんですけれど、僕たちが将棋というテーマを学んだときに、「将棋の駒ってなんで文字でずっと書いてるんだ」とこの子は思いました。すごくデザインが好きなお子さんなので、アイロンビーズを趣味にしています。これをよく見ていただきたいんですけれど、実はこの将棋の駒、ルールがわからなくてもできるんです。

この女の子が考えたんですけれど、実は動き方を書いているんですね。この灰色の部分が実は動き方なんです。一個一個動き方を覚えるのが面倒くさいので、直感的にできるようにこの子がデザインし直しました。これをブログの記事にすると、2万いいねくらいつきました。

この子は本当にデザインが好きで、家でいろんな物を作ってくれて、実はうちにある「tanQ」の会社のロゴもこの子が作ってくれたんです。だから、自分たちが自分たちらしさを発揮したときにイノベーションが起こるんじゃないかな、そしてそんな人生ってすごく楽しいんじゃないかな、と僕たちは思っています。

子どもたちが興味を持って社会と交わるときのネットワークになりたい

森本:今、まあ本当に少しずつなんですけれど、いろんな国でやっていただいています。通信は場所を超えられるので、ぜんぜん国とか関係ないです。なので再来月、こういうイベントに呼んでいただいたんですけれど、タイに行きます。タイに呼んでいただいて、今お声掛けいただいているのですと、スペインとか、アメリカとか、そういうところにも呼んでいただいています。

今、学びといえば場所、あるいは評価、あるいはお家の家庭の事情とか、いろいろなことがあると思うんですけれども、僕たちは例えば「評価されるものしか学ぶべきではない」そんなことはない。「良い教育を受けるには高いお金が必要だ」そうなんだけれど、ちょっとなんとかしたい。そんな気持ちを持って僕たちは事業に取り組んでいます。

最終的な目標でいうと、僕の地元の団地の子たちが喜々としてtanQをやっている、そして宇宙についていろんな人と語り合う、そして社会と交わっていく、そういうふうなビジョンを描いています。

最後に、僕がすごくインスピレーションを受けたイヴァン・イリイチさんの言葉を。「生徒に教育内容を効果的に注入するための新しい学校形態を模索している現在の傾向は、むしろ逆のものを模索するように逆転しなければならない」

「つまり、個々人にとって、人生の各瞬間を、学習し、知識・技能・経験を分かち合い、世話し合う瞬間に変える可能性を高めるような教育のネットワークをこそ求めるべきなのである」。僕たちは子どもたちが自分で興味を持って社会と交わるときのネットワークになりたいと思っています。

僕のプレゼンは以上です、ありがとうございました。

(会場拍手)