昔のアニメにあったまっとうなエロ
山田玲司氏(以下、山田):まず最初に一発目の問題は、滅びた昭和エロ漫画の系譜でこれはどう? 「『俺の空』はどこへ?」問題というのがあって。
大井昌和氏(以下、大井):ああ。
乙君氏(以下、乙君):本宮(ひろ志)先生ですか? こちら。
大井:そうですね。
山田:だから一方で「エロくないルパンとトミノ」という問題があって。実は。
大井:でも、富野はやっぱ原作のほうはエロい……いや、小説書くとエロい。
山田:そうそう、そうなの。
大井:アニメにすると……。
山田:ただ、変態が入っていないっていうか。
大井:そうですね。まっとうにエロい。
山田:ルパンもそうなんだけど、アダルトの深夜放送に出てくる、深夜の番組にテレビでやってたようなまっとうな大人の夜の営み、そして夜の街、夜の女たち(笑)。みたいな、そういうノリのエロがアニメのコンテンツのなかに入ってたんだよね。
大井:そうですね。そもそもルパンというのは、そうやって子供向けアニメだったところに、「大人が楽しめるものを作る」って大塚先生が始めたという。だから、むしろ大塚さんとかは、ルパン三世2回目の宮崎駿回とか、あの人嫌いなんですよね。子供向けすぎるみたいな。
山田:ああ。もともとのルパンね。誰だっけ? あの有名な人。最初のクビになったあの人でしょう。
大井:そう。あの人です(笑)。
山田:あの人はザッツダンディの人で。
大井:おじいちゃんになってもかっこいい。
山田:そうめっちゃかっこよくて。でも、数字がよくなくて喧嘩して、製作途中で帰っちゃったというね。
大井:そうそう。
山田:名前が出てこない。つらいなあ。
乙君:(コメントにて)「大隅さん」?
山田:あ、そっか! そうそうそう。大隅(正秋)さん、みたいな、ああいう人がいなくなったなという。だから『俺の空』はもう、ご存じ本宮先生の青年誌出世作というか。
大井:そうですね。
山田:それまでは少年誌で。
大井:ジャンプでずっとがんばってて。
山田:やってたんだけど、ここでなんと大財閥の息子が、金をいくら使ってでもいいから嫁を探してこいっていって放浪するというね。
大井:そうです。
全部直球という男らしさ
乙君:すごいですよね。あの設定も。
山田:男の夢を全部。
大井:しかも、最初にヤル女の相手が保健室の先生ですよ。
乙君:そうなんですか。
山田:どんどん夢を叶えていくお話。
大井:「俺に女を教えてください」って言って。
乙君:えっ、直球で?
大井:そう。
乙君:(笑)。
大井:直球で言うんです。
山田:全部直球だから。
乙君:へ~。
山田:かっこいいんだよ。
大井:男らしさってこういうことだからね。
山田:そう。だから、あなたの大好きな『蒼天航路』の曹操ですよ。
大井:そうそう(笑)。
山田:だから、曹操ですよ。
乙君:そんな……曹操は違う、曹操は違う!(笑)。
山田:曹操が嫁探ししてる感じですよ。これ。
大井:芻氏をさらう時そんな感じじゃないですか?
山田:あ、そんな感じじゃん。
乙君:芻氏さらう時はそうですけど……。
山田:馬に乗ったら、もう合体じゃないですか?(笑)。
乙君:まあまあ。
山田:もう馬上で……。
大井:そう、(コメントにて)「アモーレ」ですよ。「アモーレ」ひと言であいつは芻氏をさらっていく。
山田:そう「アモーレ」ですから。「なんだこれ?」(笑)。
(一同笑)
『島耕作』でロマンの質が変わってしまった
山田:みたいな、そういう豪傑なエロみたいなものがあったんだよね、かつて。それで、これはモーニングに行って島耕になっちゃうんだよね。
大井:うん。そうそう。島耕は、今度、女を利用して出世する奴というくだらないやつになるわけですよね。
山田:そう、そこでちょっとロマンの質が変わってしまうというか。
大井:安田財閥のあいつはちゃんと自分の嫁を探すためにいろんな女と寝てたはずなのに、島耕はてめえが出世するために。
山田:利用するという。
乙君:ああ、なるほど。手段になっちゃってるんだね。
山田:で、基本的に「ラッキー」で終わるという。
(一同笑)
大井:そうそう(笑)。ラッキーで終わるんですよ。あいつ。
山田:あいつラッキーマンなんだよ。
乙君:ラッキーマン!?(笑)。
山田:なかに入ってるのはガモウひろし先生ですからね。とんでもラッキーマンなんですよ。
(一同笑)
乙君:新説出た。これが重大発表かな?(笑)。
山田:こうやってアドリブで適当なこと言ってるから、あとで後悔するんだよ。
(一同笑)
本当に(笑)。まあいいや。そんな感じなんですよ。
大井:「『俺の空』の感じを誰がどこに忘れてきたのか?」って話ですよね。
山田:そうそう。ただ一方で問題はね、こっちは滅びたのに、昭和エロで残ってるのがやっぱり『ふたりエッチ』と弓月光先生が……。
大井:えっ、『ふたりエッチ』も昭和に始まったんですか?
山田:いや、昭和で始まってるかどうかわからないんですけど、でもあれノリとしては、本妻とヤリまくるという変態行為を延々と続けるという。
大井:そうですね。
山田:(ヤング)アニマルの2大柱。『ふたりエッチ』と『ベルセルク』でしょう?
大井:『ベルセルク』ですけど、もうアンケートはぶっちぎりで毎回『ふたりエッチ』です。
乙君:えっ、『(3月の)ライオン』じゃなくって?
大井:ぜんぜん。
乙君:ぜんぜん(笑)。
(一同笑)
乙君:ダンディーすぎる(笑)。
山田:ぜんぜ~ん。ぜんぜ~ん。
『ふたりエッチ』はエロ界のサザエさん
大井:すごいおもしろい漫画ですけど、やっぱり雑誌のアンケートって、単行本の売上とかと今時はそんなにリンクしてなくて。
雑誌のアンケートというのは、もう僕、グラジャンで描いてますけど、1位は毎回弓月先生だし、僕アニマルで描いてた時もずっと1位は『ふたりエッチ』です。
山田:やっぱり強いんだよ。この保守政党が。共和党ですよ。
乙君:共和党?
山田:地盤が固いんですよ。
乙君:エロ共和党なんですか?
山田:エロの共和党。
大井:逆にそこがしっかりしてるから、ほかが変なことできたりする、みたいなことです。
乙君:えっ、でも『ふたりエッチ』って、要はセックスの教科書的な感じじゃないですか。
大井:そうですね。あの円グラフ作って統計のようなデータを入れたというのが『ふたりエッチ』、新しかったわけですよね。
乙君:でも弓月先生のあの……。
山田:『甘い生活』と。
乙君:あれ、セックスはあるんですか?
山田:あるある。
大井:セックスもあるし、あれは今度「女の下着をかっこいいの作らなきゃいけない」という名目があって、堂々と女に触れるっていう夢の漫画ですよね。
山田:これすごいの。大ベテランだよ。
大井:60歳ぐらいです。
山田:たぶん60いくつじゃないかな。
大井:そうです。ダンディーな方です。
山田:しかも、なにも変わらないで、ずーっと続けてるのすごくない?
乙君:まあ確かに。
山田:だからエロ界のサザエさん。
大井:エロ界のサザエさん(笑)。
『ふたりエッチ』が続いているのはみんなが変態ではないという証明
乙君:なんか、「子供はいつできるんだろう?」とかさ。
山田:そう。だから、それがないの。
大井:いや『ふたりエッチ』は、最近ついに妊娠したというのがニュースになってます。
乙君:えー!
山田:マジで? 知らなかった。
大井:最新号に。
乙君:すごい!
大井:結婚生活20何年目、漫画のなかでは半年ぐらいですけど。
(一同笑)
乙君:そっか。ずっと新婚みたいですもんね(笑)。
山田:新婚半年のまま続いてるの? あれ。
大井:そう。
山田:すっげー。スラムダンクみたい。
大井:ついに妊娠したと。
乙君:へ~。
大井:大ニュースですよ(笑)。
乙君:大ニュースですね。それ。
大井:いや、僕、この漫画で先に妊娠させようと思ったんですよ。「先やられた」みたいな。
(一同笑)
大井:あいつらがもうずっと新婚やってる間に、こっちは先に妊娠させちゃえと思ったんですけど。
山田:新婚をやってるうちに(笑)。
乙君:へ~、そうなんだ。
山田:だから日本って、けっこう堅い人たちがやっぱりいるんだよ。普通の人たちが。みんなが変態ではないっていうのを証明してると思うよ。この2作品が続いているというのは。
大井:ものすごい保守ですからね。
山田:だから、普通の人ちゃんといるよっていう。だから、滅びなくて大丈夫かなというものあるんだけど。
大井:そうですね。こういうやるから村生ミオとか、不倫漫画とか描けるわけですよね。
山田:あ、そうそう。村生ミオ先生もわりと健全な不倫というか。
大井:それは確かに(笑)。
乙君:健全な?
山田:健全……。
大井:渡辺淳一的な。
山田:そうそう。渡辺淳一的な。だからさ、あとでサガノヘルマー問題も言いますけど、だから本物の変態がいるんだよ。人間のなかには。
大井:ガチやばい奴がいる。
山田:それで本当にあるんだよ。際みたいなのが。で、その際は誰かって話は、あとでしますけど。