「部下が指示待ちばかりで自分から動いてくれない」「部下に仕事を任せられず、つい自分で抱え込んでしまう」こんな悩みを抱えるマネージャーは多いのではないでしょうか。今回は、『消耗せずに成果が出る「情報の捨て方」――「人間関係」のストレスが減る』著者で戦略コンサルタントの山本大平氏にインタビューし、チームの生産性を上げるマネジメント術をうかがいました。本記事では、無駄な会議をなくしてコスト削減する秘訣をお伝えします。
会議では「報告」と「連絡」は不要
——前回、部下が自律して成果を上げるためのマネジメントのコツについてお話しいただきました。一方で、山本さんは
『トヨタの会議は30分(すばる舎)』という書籍を執筆されていますが、会議運営のコツについても教えていただいてもいいですか?
山本大平氏(以下、山本):まず会議のスマート化についてお話しすると、前提として「やらなくていい会議」が多々あると思っています。例えば「報連相」のうち、「報連」と「相」との間でスパッと線引きできると思っています。

今の時代に報告と連絡は会議(わざわざ人を集める)は不要で、相談テイストのものだけ会議や打合せをすればいいと思いますね。
報告と連絡は、「クラウドドライブに報告内容と連絡内容をまとめて入れておきましたから見ておいてください。不明点がありましたら聞いてください」とSlackや掲示板に投げて終了でいいと思いますよ。
会議で話し合うべきは「報連相」の「相」の要素
山本:例えば、分かりやすく会議運営の良くない事例を挙げると、大手の保険会社でも、各支店ごとに毎週定例の成績報告会が行われていて、先週の営業成績を報告して「来週までにこの成績を達成します!」といった半ば根性論的な宣誓会議が、今でも残っていたりします。
「その会議に参加してる間に1件でもアポ獲りした方が成績が上がるのでは?」と思うのですが。昔はIT環境が整備されていなかったので成績確認会も要ったのかもしれませんが、今の時代にはさすがにその時間がもったいないですよね。
会議の定義は、「わざわざ時間調整までして一同が介して議論をする場」だと考えています。そんな貴重な場で、報告会や連絡会をしているのは、生産性以前の話です。自ずと大勢が営業しない時間を作ることになるのですから、成績が上がるはずもありません。
そう考えると、会議として開催すべきなのは、やはり「報連相」の「相」の要素があることのみに限定して良いと思います。問題解決策を決めたり、新しいアイデアを出し合ったりするために会議を設定する。逆に「なぜそう思うか?」や「リスクはなんだ?」という話をSlackでやるのも非効率ですからね。
つまり会話のラリーが発生することは「会議」を行う方が効率が良いです。ただ付け加えると、さきほどの保険会社の例とは逆に、何がなんでもSlackやチャットでコミュニケーションを取ろうとしている会社もここ最近で増えてきている印象もありますが。要はバランスが重要で、「報連」と「相」の間にスパッと線引きする、くらいのバランスが、分かりやすくて丁度良いと思います。
一人あたり年間750時間無駄にしていることも
山本:弊社に「会議の効率化」の相談があった際は、「まずは「報告会と連絡会」を止めてみてください」とアドバイスしているのですが、200社ぐらいに実践してもらった結果、1件もクレームがなくて「もっと早めにやっておけばよかった」とおっしゃる会社が多いですね。
平均して1日に4回の会議があるとしたら、実は必要だった会議はそのうち1回程度だったりする会社が多いようです。さらに会議時間のデフォルトが「1時間」の設定だった場合は、1日あたり3時間も無駄に使っていたということになりますよね。一方で、年間の平日がだいたい250日なので、その日数をさきほどの3時間と掛け算すると、年間で一人あたり750時間も無駄にしていたということになります。
ある会社が、平均して従業員1人当たりに7,000円/時のFeeを支払っている場合だと、年間で525万円を無駄に支払うことになります。それが100人規模の会社の場合は年間で約5億円を、1,000人規模だと50億円を超えてくる話になります。1万人だったら500億円が無駄遣いですから。あくまでこれらの額は会議時間のデフォルトを1時間で計算している場合です。
また、このデフォルト時間を「30分会議」に改善できると、1万人規模の会社なら、年間で1000億円の削減できます。もちろん単年でのコスト削減なので、これが持続できると、10年間で1兆円の原価低減を図れてしまう話です。なので「会議」は慎重に開催すべきですね。弊社の様な小さい会社では「頼むから要らん会議と要らん招集は止めてくれ」と従業員にお願いしています。
会社の実力は「会議の有り様」でわかる
——報告と連絡はテキストで共有するとのことですが、書き方のポイントはありますか?
山本:テキストの分量でしょうか。要は文字数を極力減らして短くまとめる。例えば報告資料ですと「結論と論拠」さえ示されていれば良いので。おそらくドキュメント1枚でまとめられます。そして論拠に関するグラフやデータは必要なものだけ添付しておく、それで十分ではないでしょうか。
——山本さんが会議の効率化に着目している理由は他にもありますか?
山本:はい、あります。あくまでコンサルとしての体験値ですが、これまで数多くのクライアントと関わらせて頂いて解ってきたことは、会議の数だけではなく、「会議時間が短い会社」は「業績」も良いということです。「会議時間の短さ」と「業績」に相関がある様に感じています。というのも、「会議」には「ビジネスの基礎スキルが全部詰まっている」と思います。

例えば、会議の時間が長いということは、ファシリテーションのスキルが低かったり、権限委譲できるスキルセットが現場になかったり、まとめて短く伝える力が無かったりと、仕事を進める上で必要となる論理的思考やコミュニケーション力が欠如している場合が多いです。それらはすべて「仕事のベーススキル」で会議を短く行うには、参加者全員がそれらのスキルを持ち合わせておかないと成立しません。
例えばタスクごとの権限委譲が曖昧であれば、会議の場で「持ち帰ります」という残念なフレーズが多く飛び交う会議になり何も決定しません。呼ぶ側も誰を呼んでいいのか分からない、そんな状況になってしまいます。
そして、話をまとめて話す力がない人たちが集まって会議をしても、絶対に30分で終わらないですよね。そのうち論点すら歪みだし、「あれっ、今日って何の会議だったっけ?」みたいなオチになってしまいます。わりとよくある日常ではないでしょうか。
そう考えると、「会議は会社の鏡」なので、弊社が経営コンサルとして関わらせていただく場合には、会計資料の確認と併せて真っ先にその会社の会議の様子を確認するようにしています。3つ〜4つの会議に参加させていただければ、その会社の未来は見えます。数値では見え切れない会社の実力は「会議の有り様」でほぼ分かってしまうんです。
逆に言うと、会議が「開催数」「開催時間」の両方の観点で効率化できるようになってくると、ビジネス力が高くなるのでその組織はうまく回り出します。
管理職が意識したい職場の人間関係の法則
——また、新著
『消耗せずに成果が出る「情報の捨て方」(三笠書房)』では、不要な人間関係は手放していいとおっしゃっていますが、管理職は職場でどんなことを意識したらよいでしょうか?
山本:「ダンバー数」という言葉をご存知でしょうか?イギリスの進化人類学者であるロビン・ダンパー教授が提唱した数値なのですが、人間が安定的に関われる人数はだいたい150人程度だそうです。精密なことは私も分かりませんが、ここで言いたいことは、何百人といった大勢の人間とは関われないということです。
SNSで多くの人と「友達」になれる時代ですが、ダンパー数の150という数値と親族やプライベートで関わる人数を加味すると仕事でしっかりと関われる人数って50人くらいがいい線かもしれません。少なくても私の場合は職場だと30人を超えるとかなりしんどいです。
そういった人間の性質のようなことは経営者の立場でも、あるいは経営コンサルタントとしての立場でも、意識しながら仕事をするようにしています。コミュニケーションが雑になって誰かに失礼だったり不快な思いをさせたりしないためにも。
そして、もう一つ意識していることは、ふだんから信頼関係を結べている人間同士であっても、まったく話が通じないときもよくあるという前提でコミュニケーションを取るようにしていますね。分かりやすくは「この人だから」と期待しないように気を付けています。
“言うことを聞かない部下”の本心
山本:「マズローの欲求5段階説」によると、人間がすんなり行動できる場合は、低次の欲求が満たされている場合です。図で示した様な「生理的欲求」→「安全の欲求」→「社会的欲求」が順番に満たされているときだけです。

例えば、僕がTBSでドラマ部の仕事をしていたときは、夜中の2時頃まで緑山スタジオで働くことも多くありました。そのときは自ら好んで仕事をしていましたし、今はそんな働き方は逆に会社に認めてもらえないと思いますが。
でも朝6時には起きて次の撮影準備に入らないといけない。その状態はマズローのピラミッド図で言うと「寝たい」という「生理的欲求」が満たされていないという段階にいます。
そんな状況で、例えば信頼している別の上司から「生産性を上げるためにオンライン会議を効率化できる仕組みを考えてくれ!」と1on1で言われたとしても「はい、わかりました!」とは動くことは出来なかったです。だって、そんなことよりも寝たいから(笑)。
つまり、この場合動ける人は社会的欲求までが満たされている「状態」あるいは「人」だけで、下位の欲求が満たされていない人は動けないということです。例えば「仲間として受け入れてほしい」という欲求が叶っていなかったり、給料に満足していなかったりする人に対して、「もっとこうしてほしい」と言っても動けないし、ときには反感を買うだけです。
1on1で部下の「コンディション」を確認する
山本:だから1on1の場で話す時は、「その人がどの水準の欲求を満たしているのかを見極める」ことを目的にするといいと思っています。LINEやメールだけではその人の本当のコンディションなんてわからないから、1on1を使って「コンディション確認」をするのはアリだと思っています。
同じ一人の人間でもデイリーに状態は変わりますから。プライベートで婚約破棄になったとか、ペットがあの世に行ってしまった、といったことってあり得るので、そんな不幸の次の日に「仕事に身を入れろ!」と注意するのは生物学的に無理があるような気がします。むしろそういう「変化を見逃さず把握する」のが上司の役割の一つではないでしょうか。人間はAIと違いますからね(笑)。
なので、メンバーが今どの欲求段階にいるのかを見極めるために1on1をやって、具体的なコミュニケーションとして「最近どう?」から入ってもいいと思うんですよ。だって「昨日まで飼っていた犬が死んだ」ってかなり不幸なことですけど、この情報は雑談以外でわかりようがないじゃないですか?
マネージャーやリーダー層には、そうした見極めをする「観察力」も必要なのだと思いますね。髪の分け目を左から右寄りに変えた、とかそういったレベルで観察できるリーダーの下なら安心して働けそうですね。
——山本さん、ありがとうございました。