「部下が指示待ちばかりで自分から動いてくれない」「部下に仕事を任せられず、つい自分で抱え込んでしまう」こんな悩みを抱えるマネージャーは多いのではないでしょうか。今回は、『消耗せずに成果が出る「情報の捨て方」――「人間関係」のストレスが減る』著者で戦略コンサルタントの山本大平氏にインタビューし、チームの生産性を上げるマネジメント術をうかがいました。本記事では、自主性の低いメンバーを変える指導法をお伝えします。
マニュアルがないと動けない部下、過干渉にならざるを得ない上司
——今、働き方改革や人的資本経営の重要性が言われている一方で、メンバーが処理しきれなかったタスクを引き受けたり、メンバーのキャリア形成を考えるなど、管理職の負担が増大している問題があります。
山本さんはトヨタ、TBS、アクセンチュアを経験され、戦略コンサルタントとしてさまざまな業界を見てこられましたが、マネージャーを取り巻く環境はどのように変化してきていると思われますか?
山本大平氏(以下、山本):おっしゃる通りで、マイクロマネジメントで過干渉な対応をせざるを得ない状況が増えているのかな、というのが率直なところです。
これは世代間ギャップがあるからかもしれないですけど、「マニュアルがないからできない」とか「教えてもらってないからできない」という部下が多くなってきている印象です。そもそも国内で「教えてもらって当たり前」という感覚が増えていることで、管理職側がマイクロマネジメントを強いられている状況もあるような気がしています。
実際、経営コンサルタントとしてクライアントとの関わりでよく見かけるのは、例えば上司が「これやっといて」と振った時に「具体的にどうやればいいですか?」という部下のリアクション。管理職が部下に仕事の細かいやり方までを教えないといけない現場が増えてきているような気がしています。
昔であれば「いや、マニュアルなんかないよ。方法は自分で考えてやるんだよ」って言えたと思うんですけど、何かにつけて「不適切」「ハラスメント」と指摘される昨今の日本では、管理職側もそれらのことに過剰に過敏になってきている様にも伺えます。大抵の場合、考えれば「不適切ではない」と判別できる指示ですらも、指示を出す側も気にしすぎな部分が増えてきていると感じます。
多忙な上司ほど、「これやっといて」と指示するぐらいで、あとは自分でHow to doを考えてゲーム攻略するように仕事を前に進めてほしいというのがマネジメント側の意向ですよね。そうじゃないと、1個1個のタスクを1から10まで教えるのであれば、マネージャーが自分で全部やってしまったほうが早い、という話になってしまいます。
部下の指導は「口2耳8」のスタンスで
——コンサルタントとしてそういったご相談を受けた時は、どんなふうにお答えされているんですか。
山本:「メンバーを成長させることがマネジメントであって、ゲーム攻略の指示を的確に出すことではない」というのはお伝えしています。そこの考えを改めないとずっと沼にはまる不のスパイラルなので、「口2耳8」というスタンスを使ってみてください」と、管理職や経営層に話すケースが多いでしょうか。
「口」は部下に指示するという意味で、「耳」は部下の意見を引き出すという意味で、その割合を2対8にしましょうとアドバイスしています。マイクロマネジメントは、口9〜10ぐらいの割合のイメージです。はっきり言うと、マネジメントではなくて作業指示なんですよね。「口2」も指示というよりかは方向性を示す程度に留める、が本意です。
そして、この「口2」を仕事のどのフェーズで使うと効果的かというと、スケジュール化の段階です。仕事を任せる時に、まずは部下に仕事の進め方をスケージュール化させ紙1枚にまとめてもらう。
ここで「口2」を使い切ってもいいと考えています。うちの社員もそうなんですけど、コンサル業ではいろんな分厚い資料をクライアントに提示するときに、「いつまでに何をするか」っていうスケジュールも書かなきゃいけないんですよね。
さすがに長年この仕事をしていると、仮に100枚の資料を確認して欲しいと言われても、その中のスケジュール1枚だけを見れば「この社員は仕事ができるな」というのがわかるんです。
「スケジュール1枚」でできる社員かどうかがわかる
山本:分かりやすく言うと、経験値の低いコンサルタントのスケジュール表は、「ここからここで◯◯をします」というタスクの矢印が非常に少ないんです。一方で経験値を積んだコンサルタントのスケジュール表は、やらなきゃいけないことが細分化されて、矢印が多くしかも細かく書かれているという特徴があります。

そして2つ目の特徴は、成果を出せるコンサルタントのスケジュールには、どの矢印とどの矢印が関係(リンク)しているかまで細かく描かれています。細かく書くということが目的ではありませんが、経験値が無ければ「矢印も増やしようがなく、ゴール達成までの仕事のストーリーを解像度高く描けない」と言った方が伝わるでしょうか。
そして、「この人に任せられるかどうか」を見極める特徴は3つ目で、「もしこの矢印がうまくいかなかったら、どこの日程でリカバリーするのか」ということも書いています。いわゆる危機管理施策までスケジュール表に落とし込んであるのがポイントでしょうか。
このバックアップ策が書かれてない場合は、社員や部下に「この通り進めて予定どおり進まない状況はあり得ると思う?」と聞くんです。そうすると、必然的に「あり得ます」と答えるので「どこでどんなアクシデントがあって、どこでどうやってリカバーするの?」と聞いて、再度スケジュールを書き直させてみます。
そうやって正解までを言わずに抜け目を指摘し自分で考えさせ成長を促しています。あくまで弊社内のやり方ですけど。とにかく、PDCAの「P」のフェーズだけは社員や部下としっかりコミュニケーションのラリーをして、「D」以降は口を出さすに見守るんです。そんな感じが適度な「口2」だと思っています。
メンバーが自ら動き出し、経営効率もアップ
山本:また、「P」の時点でスケジュールがある程度固まったら「わかった。これでいいと思うならやってみて」と伝えます。そしてその際に「もし、想定できなかった予定不調和なことが起きて、まずい状況になったらすぐ報告するように」という置き台詞だけを残して、あとはもうリリースしちゃいます。
そうやって、担当者が責任感を負わなきゃいけない状況にしてしまいます。そういったコミュニケーションの積み重ねがあって初めて、企業が地に足をつけて成長していきます。何かを言わずとも自力で仕事を攻略してくれる人材が増えた方が経営効率も良いですから。
そもそもマネージャーや経営者が「あれどうなってるの?」といちいち確認すること自体が不健全な気がします。マイクロマネジメントに慣れてしまった担当者からしたら「上司が世話を焼いてくれるから言われた通りにしよう」というモードになってしまいます。
その延長に「教えてもらって当たり前」な文化が組織内で浸透してしまう。それで生産性の無い会社になってしまうことが、経営者としても経営コンサルとしても一番怖いことだと思っています。
とにかく「口2」をうまく使いながら自分で考えさせるように育てていくと、時間と忍耐は必要ですが、どんなタスクが来ても担当者は自分で考えて問題解決ができるようになっていきます。
そして会社としても経営効率が良くなってきます。もちろん個人差はありますが、1年もそのコミュニケーションラリーを貫けば、ほとんどの場合は、そのうち何も言わなくても担当者が勝手に成果を上げてきてくれるようになります。
上司が口を出すのはタスクの「着手前」まで
——マネージャーが答えを教えすぎないようにすれば、部下は自分で考えて動けるようになるということですか?
山本:そうなんです。人間ってそもそも自分で考えられるはずなんですよ。ただし注意点が一つあって、管理職側が「口0」になってしまうと、会社として取り返しのつかない結果を招く確率も上がるので、「口2」のコミュニケーションで「着手前」にスケジュールを見える化させる。そうやってリスクヘッジも同時に図っておくのがオススメです。「口0」ではなく「口2」がポイントです。
その上で、仕事の実行フェーズ(PDCAの「D」のフェーズ)に入ったら、クライアントの管理者には「絶対に口は出さないでくださいね」と言っています。「部下が失敗してしまうと分かっても、あなたは絶対に口を出してはダメです」と伝えています。
言ってしまえばマネジメントの一つのゴールは「部下を育てること」ですから。そしてそのためには「恥をかかせること」も必要なんです。私もそうでしたけど、恥をかかないと人間は反省しない生き物だと思います。
脳から変な汗が出るぐらい「やってしまった…」となるように「わざと転ばせてしまってください」というアドバイスをしています。恥をかくことで、担当者に仕事を「自分ごと化」してもらうことが出来ます。
そして、そういったシチュエーションを手早く設定したければ、例えば、部下に会議に参加させるんじゃなくて、ファシリテーターをいきなりやらせればいいんです。
いきなり会議のファシリテーターを任せてしまえばいい
——新人であってもいきなりファシリテーターを任せてしまうんですか?
山本:そうです。結局自分ごと化しないと汗をかきようがないんですね。例えば、日本では会議で何も発言しなくても咎められないじゃないですか。でも経営側から言うと、その人のその時間のバリュー(成果)はゼロなんですよね。
会議は意見をぶつけて、新しいアイデアを創出したり絞ったりしていく場なので、わざわざ集められたのに何も発言しないってことは、その時間、その人は何も仕事していないってことと同義です。
でも、さっきの「マニュアル待ち現象」の話とまったく一緒で、「何かを発言してくれって言われてないし…」と平然と思ってしまう人も意外と増えている気はします。じゃあどうしたら自分ごと化できるのかというと、その場合は、ファシリテーターをやらせるのが最適解です。会議の司会者は発言ゼロにはならないですから。
また会議の生産性もファシリテーターの力量にかかってきます。そうなると担当者もセーフティエリアで仕事に参加するのではなく、自ずとリングの中央で戦うはめになります。そうやって「自分ごと化せざるを得ない状況」をマネージャー側が作り出してしまうんです。
そして「30分の会議時間で終わるように、自分で考えて仕切ってください。誰を呼ぶべきかも自分で考えてみてください」と言って部下にやらせてみる。「◯◯について解決策までを考えるための会議」という会議のゴールまでは口2で振るぐらいはしても良いと思いますけど、そのあとはもう任せてしまいます。
そうすると、自分ごと化の経験値が少ない部下はおそらく失敗します。参加者から「なんでいちいち集められたんだよ!」「なんだよこの会議!」って態度をとられたりするんですが、ファシリテーターをしていたら逃げようがないんですよね。
私も最初はろくに会議回しが出来ませんでした。いきなり会議のファシリを任されてうまく回せるケースってほとんどないんです。でも、そんな悲惨な経験をすると、とにかく恥ずかしいから、誰かが叱る必要もないくらい自分で反省できるんです。私もかつてそうでしたし今でもそうですが、「恥」だけは裏切らずに必ず人を成長させてくれます。
伸びている会社は会議時間も短い
——マネージャーの立場からしたら、具体的な指示をせずに部下に任せるのはすごく怖いのではないでしょうか。
山本:それはすごくいい質問で、「怖い」と思います。そして任せるのが怖いがゆえにマイクロマネジメントしてもらってきた人も多いはずです。でもその負のループを続けていたらその会社の未来は暗いものになりませんか?
そういったマネージャーがたくさん出てくると、会社としてはマネージャークラスさえも「全員が言われたことしかできない集団」になっていくんですよね。そしていつしかCXOや経営陣まで「言われたことしかできない」状態になってきます。
マイクロマネジメント文化の最終形態はそうなるはずです。こんな会社は伸びようがないので、会社の業績を高めたければ、各自が知恵を出せる体質になる様な仕組み化を図るしかないということです。これまで数多くの会社を経営コンサルタントとして関わらせて頂きましたが、やはり伸びている会社は会議時間も短いですね。
それから、部下を育てられない管理職によくある傾向は「心配性」の方が非常に多いことです。もちろんリスク管理は必要ですが、失敗しないように「1から10まで」全部を説明してしまう管理職が多すぎる。
もっと言うと、一方的に説明する傾向が強くて「なぜそう思うのですか?」「それってどういうことですか?」とか、会話のラリーをしようとしていない、丁寧に言うと「相手に考えさせるラリーに持ち込めていない」ということです。要はマネージャーがここで云うマニュアル化してしまっているような気がします。
部下から質問があっても、あえて答えない
——「作業フェーズになったら口を出さない」とおっしゃっていましたが、部下からその都度質問があった場合は答えてもいいのでしょうか?
山本:いえ。さきほど説明したように、口2でアドバイスを出すのは事前のスケジュールのところ、つまりPDCAの「P」の時点だけにした方が良いと思います。作業着手してからは我慢してゼロにすべきです。部下から何かを聞かれても「君に任せてるから◯◯さんでやってみて」と伝えればいいのではないでしょうか。
部下が訊いてきたことに答えた瞬間に、「あなたが言ったからやりました」という論法の余地すら作ってはいけません。部下に「自分ごと」の本意、つまり責任感を味わってもらう。そして本当の責任は部下の知らないところで上位者が取る(リカバーする)。それが本当の意味での人材育成に繋がるのではないでしょうか。
実際、私もアクセンチュア時代にマネージャーをやっていましたが、「口2」ができていなかったなと思います。訊かれたことに正解を答えようとしていた時期もあったと思います。一見優しく面倒見がいいように思えますが、それは「優しさ」ではないと気付きました。
もっと早く「自分で考えるように仕向ける」コミュニケーションが出来ていれば、もっと部下の成長も早かっただろうし、チームや組織としての総合力もアップできたのではないかと反省しています。
なので、本来のマネージャーとして必要なマネジメントスキルの一つは、作業着手前に「スケジュール」で握って、やり方を尋ねられても「正解までは答えない」ということです。マイクロマネジメントが組織で当たり前化すると、会社は「言われたことしかやらない(できない)組織」になってしまいますが、それでは永遠に、世の中に対してインパクトのある成果は出せない。
個人も組織も、自力で困難を解決して初めてライバルと差がつくわけですよね。周りと同じことをやっていたら差がつく理屈が無いので、中長期で見たときに、自分で自走できる人間を増やしたほうが経営的にも正しいあり方だと思うんです。
タスクを部下に任せる・任せないの線引き
——部下に仕事を任せる時と自分で引き受ける時の線引きは、どんなふうに考えたらいいのでしょうか?
山本:リスクの大きさでの判断でしょうか。リスクが大きい事象に対しては、マネージャーの方もどっぷり入るべきです。そのプロジェクトがコケちゃって、万が一、会社の信用までが下がるようなことがあってはさすがに本末転倒ですから。
でもそんなケースってほんの一部で、100の仕事があったら1〜2ぐらいの割合ではないでしょうか。経営者になってはっきり分かってきたことは、「誰かに任せてコケても、あとでリカバーできる」という仕事がほとんどなので。それよりも「強い個の集団をどう作るのか」を常に考えるようになりましたね。その方が業績が伸びますから。
ここまで「どうすれば企業が伸びるのかといった具体的なマネジメント手法」について話してきましたが、その答えはきっとビジネス書に書いてある様なフレームワーク作りではなく、さきほど述べたような「泥臭い日常のやり取り」にヒントがあるような気がしています。