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スタートアップ・ファイナンスの今後(全2記事)

CA藤田晋氏のすごさは、経営者と投資家との二面性にある--2014年のスタートアップ・ファイナンスを振り返る

ベンチャーキャピタル、ベンチャー経営者、資本市場のアナリスト、上場企業経営者の4人がスタートアップのファイナンスについて語ったセッション。スマートニュースをはじめとした、2014年のファイナンスで象徴的だった企業について振り返りました。(IVS 2014 Fallより)

スマートニュースとメルカリが象徴的だった

青柳直樹氏(以下、青柳):IVS 2014 Fall in KYOTO「スタートアップファイナンスの今後」ということで、今回はこの4人で対談を進めたいと思います。じゃあアンリさんから。

佐俣アンリ氏(以下、佐俣):ANRIというベンチャーキャピタルを運営している佐俣アンリと申します。よろしくお願いします。

小泉文明氏(以下、小泉):メルカリ取締役の小泉でございます。よろしくお願いします。

武田純人氏(以下、武田):UBS証券でインターネット業界のアナリストをしています武田と申します。よろしくお願いします。

青柳:グリーの青柳です。よろしくお願いします。

青柳:非常に普段から仲良くさせていただいているこの4名なんですが、それぞれベンチャーキャピタル、ベンチャー経営者、資本市場のアナリスト、上場企業経営者の立場で、いろいろなアングルからスタートアップファイナンスが語れるなということで非常に楽しみにしております。よろしくお願いします。

まずはアイスブレークということで、2014年を振り返って今後のスタートアップファイナンスの話につなげていきたいなと思っています。

まずみなさんにお伺いしたいのが、この2014年のファイナンスで記憶に残っている、この1年を代表する案件だったなあというものがあれば、その案件と理由を教えていただきたいと思います。じゃあ、アンリさんから。

佐俣:はい。自社の投資先の話もしたいんですけど、まずパッと思いつくのが、メルカリさんとスマートニュースさんのファイナンスがすごいフレッシュだったなと。

青柳:どの辺がそう思いますか?

佐俣:シンプルに、明らかにバリュエーションが100億を大幅に超えているようなファイナンスが動いているということ。国内に出し手がいて、受け手がちゃんと受けて、調達してからどうやらさらに成長しているらしい。というのが明確に出てきたのが、僕がベンチャー投資の仕事に関わってまだ3~4年なので、僕の中では初めてですね。僕がスタートアップと関わっているのは2008年ぐらいからなので、僕の中でこれはもう衝撃的な話だった。

青柳:まさにスマートニュースやメルカリがやってきた大型のファイナンスが実現し始めたのは、2014年、ひとつ新しいステージに行ったのかなと思います。ですが、アンリさんみたいにシード投資をされていたり、規模として100億のファンドというわけではない中だと、結構辛い時代じゃないかとも思いますが。

こういう時代における投資ファンドANRIとしての投資戦略・成長戦略みたいなものはどんな風にお考えになっていたんですか?

佐俣:もう、出資者総会みたいになってますね……。

一同:(笑)。

ANRIの投資先は「シードステージ」

佐俣:逆に僕は今年に関しては明確に「シードステージしかやらない」と。僕が今年2号ファンドを立ち上げて、そこではいわゆるミドル・シリーズAのファンドをやろうと思っていたんですけど、それを全部やめて、全部どシードに振ったという。

ミドルのファンド同士の中では体力の見せ合いみたいなのが始まってるんですよね。「俺15億出せるよ」とか「10億行けるよ」とか。あとは事業会社さんも出てきているので、ここで勝負したら絶対に負けだっていうことで。

青柳:いつごろそのニオイを感じたんですか? 「これ、俺ちょっとシード行こう」って。

佐俣:(ヤフー)小澤さんと(サイバーエージェント)藤田さんのベンチャー投資が今年の夏ぐらいから緩くなってきてるのがもう明確に見えたんですね。

で、投資判断が一番厳しい人たちの動きが遅くなってきたあたりで、逆にそれなのに総資本投入額が増えているっていうギャップが見えてきた時に「あっ、これはもう僕がやるゲームじゃない」っていうのが明確に見えたので、今年の後半からは特に一切ミドルはやらないと。

一切って、もともとやらないんですけど、正直ミドルをやるって言って出資者を集めたファンドなので、出資者の方に「すいません、ミドルはもうやめます、むしろさらにシードに行きます」と(説明して)、創業前に出資を決めるというのを増やしてますね。

青柳:なるほど。「藤田ファンド」の動きというのが1つ投資判断に強く影響していたというのは非常におもしろい話ですね。

なぜ特に藤田ファンドにご注目されてるのか聞いてみたいのですが。

佐俣:僕が単純に藤田さんの大ファンっていうのがまずあるんですけど。藤田さんってお話を伺っていると、やっぱりトレンドの波を読んで、おそらくフラットに、ベンチャーに投資をするのか、それとも自社にリソースを振り分けるのかっていうのを常に天秤にかけられてるんですよね。

専業投資家ではなくて、経営者と投資家の性格を両方持っておられるので、その中でどっちがいいかっていうのをフラットに踏んでいて。

本当に上場・未上場に関係なく、全てにおいてお金の投下先として何がいいかっていうのを常に見られているんですが、その視点を持たれている方って意外と少ないと思うんですよね。

青柳:藤田さんが天才的な嗅覚を持ってこの夏ぐらいで見極めたというところに対して、小泉さんや武田さんはこのマーケットの今をどうご覧になっていますか?

確かに「振り返るとあの時がピークだったよね」っていうのは、よくある話じゃないですか。資金調達する側の小泉さんからすると「良い環境で集めておきたい」というところもあるし、IPO後のマーケットと未上場のマーケットとは、ちょっと需要と供給のバランスも違って、結構プライシングがずれてきていると思うんですけど。

そこら辺は、藤田さんのご判断もそうだし、客観的にお2人の立場からマーケットの今のサイクルやトレンドをどういう風にご覧になっていますか?

赤字上場というチャレンジ

武田:アンリさんのお答えと若干かぶってしまうんですけれど、やっぱりこの1年、シンボリックなことが、僕が見ている上場市場やIPO市場でもいくつか起こってきているなと思うんですよね。

例えばIPOの市場では、まだ終わってないですけれど、この12月のクラウドワークスの上場やgumiの上場などです。これらはとても興味深いことだと思っています。

直近決算期赤字での上場、バリュエーションが極めて高い形での上場というケースが市場に増えてきました。長期間にわたる非常に大きな成長ストーリーを提示する形での市場デビュー、また、日本のベンチャー企業として時価総額1000億円っていうスケールでの市場デビューといったものが出始めてきています。

これは半年前にIVSで同じファイナンスのセッションをやらせていただいた時と、本当にちょっと空気感が変わってきたなというところなんですよ。

一方で青柳さんからご指摘があったように、未上場市場のバリュエーションがかなりインフレしてきているというのも、僕ら上場市場の側としても当然ながら感じていて。

そういう意味では、未上場市場と上場市場との間のブリッジが本当にできるのかというところに関してはとても注目をしている状態ですね。

青柳:具体的に2社についておっしゃっていただいたように「赤字上場」というのと「極めて高いバリュエーション」というチャレンジがあるわけですけど、武田さんとしては2社についてどう踏み込んでいくのか、どう思われているかっていうのをちょっと聞いてみたいんですけど……。

武田:難しいですね。個別の銘柄に具体的に落としこむお話はできないので、どうしても一般論になっちゃうんですけど……。

(一同笑)

武田:やっぱりすごく思うのが、上場すると未上場の時代とステークホルダーの種類も数も劇的に変わるんですよね。みなさんは事業家でもあり企業投資の専門家でもいらっしゃるから、よくご存知だと思うんですが。

赤字の間やバリュエーションが天文学的に高い間というのは、事業会社と外部のステークホルダーとが経営についてのベクトルを揃えていくことがとても大事になってくるわけです。

事業会社としては、そこをきちんと理解してもらえるか、がとても重要です。とはいえ、未上場の間であれば、ステークホルダー数自体がそもそもまだ限定的ですから、粘り強く個別のネゴシエーションを続けることで到達点や時間軸などについての共通の理解を形成することは比較的容易だと思うんです。

一方、上場すると、さっきのセッションでも某登壇者が「四半期決算が経営の自由度を下げてしまう」ということをお話しされていたりしていましたが、やっぱり当然のことながら株主をはじめとしてステークホルダーの数は爆発的に増えるし、業績のチェックポイントなどもまたそれまでとは変わってくるし、場合によってはステークホルダー毎に内容も時間軸も全然別様にチェックしたりするようになるわけですよね。

その中で、どうしてもコミュニケーションの齟齬が起こりやすくなってくる。そこら辺がこれから先の未上場市場と上場市場の関係性においてどうなるのか、注目しています。青柳さんのご質問にちゃんとお答えできていないかもしれないですけど……。

スタートアップファイナンスの今後という意味で、こういうシンボリックな銘柄が上場市場とこれから実際にどういう関係を構築してゆくのかっていうところが、来年2015年を考える上で大事なところかなと思っています。

青柳:こういうシンボリックな案件の今後が、まさに来年以降のIPO市場・未上場の資金調達市場を左右するような影響を持ってくるだろうということですね。

日本のスマホアプリはUSに進出できるのか

小泉:今アンリが言ってくれたように、やっぱりスマートニュースなりメルカリってシンボリックだったと思うんですよね。自分のことを言うのもあれですけど。

やっぱりスマートフォンネイティブでサービスを作っていて、短期間でインストール数が増加し、結構スティッキネスなデータになってきているというところで、来年・再来年でこの大型調達のお金をどこに張るのかっていうのをみんなすごい見てると思ってます。

そこのROIが合うか合わないかで次の投資家の財布が、考え方がだいぶ変わってくるかなと思ってまして。

青柳:なるほど。ご自分に(プレッシャーを)乗っけましたね(笑)。

小泉:そう。すごいプレッシャーだと思っていて、しかも2社とも「US行きます」みたいな。そこは実は誰も明確な解を持ってないのに対して、ROIどうなるんだ、みたいなところは、すごい僕らとしてはチャレンジだと思っています。

青柳:ゲームの会社については、各社が2011年頃から北米市場に挑戦して、一定の挫折と成功を経験しているので評価しやすい、ROIも見えるようになってきたと思います。

その一方で、例えばニュースアプリとかフリマアプリがUSの市場に行くっていうのがどういうROIなのか、正直よくわからないなぁという方も多いと思うので、その辺どういう風にご覧になっているのかというのをお願いします。

小泉:ニュースアプリについてはよくわからない部分があるんですけども。まず僕らのフィールドで言うと、日本で言うとまずインストールがあって、そこからDAUのようなリテンションのデータがあって、そこから出品数があって、出品からのコンバージョンレートがあってだいたい利益が出てくるっていうような、わかりやすいカリキュレーションだと思っていて、それが日本だとこのぐらいのデータが出てます、と。

で、アメリカでユーザーインタビューをすると、結構同じようなユーザーのマインドなんですよね。要は、コンセプトとしては難しくないので、結構普段からクレイグスリスト(USの老舗掲示板サービス)とかで簡単に物々交換やってるような人たちが「でもそんなに使い勝手良くないよね」と思っていて、スマートフォンでイノベーションが起こることをすごく期待している。今実際2~3ヵ月やってるんですけれども、出品数も1日数千件あるんですよ。

一同:おぉ~。

小泉:結構普通に購買もされていて、でもいろんなデータを見ると日本の初期とあんまり変わらないんですよ。ということは、ある意味インストールを、これが一番最初に重要な指標なので、取っていこうっていうところで、今回の24億は全部インストールを獲得するプロモーションに使っていこうという感じですね。

青柳:どれぐらい時間が経つと、成否というものが見えてくるんですか?

小泉:日本のメルカリもまだ1年ちょっとで日本でさえわからないところがあるので、アメリカも正直わかってないところがありますね。ただ僕らも出品数が先行指標なので、それを取って行って、プラットフォームとしての完成度をどこまで上げられるか、それを短距離で走りたいなと思っていますね。

青柳:なるほど。さらに小泉さんにお伺いしたいんですけれども、先ほどの武田さんのお話だと、IPOマーケットはまさに今クラウドワークスさんやgumiさんも出てきて、未上場マーケットもスマートニュースさんやメルカリさんが出てきて盛り上がってきて。

たぶん、未上場企業に投資をされる人たちほど、市場トレンドを意識しておかないと高いところで投資してしまう可能性が高いですよね。

確かに半年か1年ぐらいのタイムラグがあって、それをブリッジできるかっていうところで思ったんですけど、仮に武田さんがおっしゃるように「ちょっと未上場マーケット加熱してきたよね」ということだとして。

メルカリにとって、2015年にもしかしてリーマンショックみたいなことが起きてしまった時、みたいないろんなシナリオがあるじゃないですか。今後のメルカリのファイナンス戦略と出口戦略みたいなものは、どんな風にお考えですか。

ミニマムで50億調達したい

小泉:ファイナンスの戦略で言うと、まずアメリカのPDCAを回しているタイミングなんですね。ある程度このデータが出てきたら、もう1回ファイナンスっていう可能性は全然あるかなと思っていて。

CFOという名刺自体は持っていないんですけど、そこを管掌している役員としてはそのオプションはずっと持ち続けたいなと思っています。

青柳:次はいくら集めるんですか?

(一同笑)

小泉:それは出てきたデータでまた判断します。

青柳:希望としては?

小泉:今回24億だから、ミニマムでも倍以上は……。

青柳:50億、ミニマムで調達したいと。

小泉:それはやっぱりありますよね。ファイナンスって手間が掛かるので、やるのであれば1回できちんとまとまったお金は欲しいなと。アメリカの場合、それでも足りないかもしれないと。今回の24億も、ある程度来年クラッシュする可能性もあるなと思っていて、何があっても保険で使える部分というところを確保しています。

青柳:確かにメルカリさんは見ていても、広告宣伝費をドカンと使われていて、そこをPDCAの核に使われているんですけれども、比較的固定費という意味では結構ライトにやられてますよね。

小泉:かなりライトですね。

青柳:ただあらゆるシナリオを見据えてっていうことなんですよね。武田さんどうですか?

武田:僕は、今の青柳さんの小泉さんへの質問を、そのまま青柳さんに聞いてみたいなと……。

佐俣:いいですね!

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