製造業のDX推進において、企業はどんなことにつまづき、どう改善していくのか。「Cybozu Days 2024」では、製薬業界大手のロート製薬株式会社が登壇。前編では、同社のIT/AI推進室・柴田久也氏と上野新改鮮隊 隊長・辻森俊作氏が、独自の業務改善の取り組みである「改鮮活動」について語りました。
ロート製薬がkintoneで成し遂げた業務改革
中井晴香氏(以下、中井):みなさん、こんにちは。みなさん一度は聞いたことがあると思います、ロート製薬さんのCMソングで入場いたしました。よろしくお願いいたします。
(会場拍手)
まずはじめに、登壇者の自己紹介をさせてください。私が本日モデレーターを務める、サイボウズ営業の中井と申します。現在エンタープライズ営業部に所属しており、製造業のお客さまを中心に営業活動を行っております。

その中で「工場でのkintone活用のイメージが湧かない」「IT部門の方がどう工場現場を巻き込んでいいかわからない」という声を多く耳にしますので、本セッションではそのあたりをお二人におうかがいしていきたいと思っております。では柴田さんも、自己紹介をお願いします。
柴田久也氏(以下、柴田):みなさん、こんにちは。ロート製薬IT/AI推進室の柴田と申します。現在の業務内容はkintoneをはじめとするノーコード・ローコードツールを用いて市民開発を推進すること、あとはAIの利活用推進も同時に行っております。本日はよろしくお願いします。
中井:辻森さんも自己紹介お願いします。
辻森俊作氏(以下、辻森):みなさん、こんにちは。ロート製薬の辻森と申します。私は1998年に入社してから20年以上、主に工場で製造にずっと携わってきました。そして現在は改善活動の推進部門として、ロート製薬の全社に改善活動を広げております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
創業125周年をきっかけにCIなどを刷新
中井:ではこの3人でお話ししていきたいと思います。知っている方も多いと思うんですけども、まずロート製薬さんの会社紹介をしていただいてもよろしいでしょうか。
柴田:ロート製薬は大阪に本社を構えております。実は2024年で創業125周年を迎えました。そのタイミングでコーポレートロゴやコーポレートアイデンティティ(CI)を刷新しています。

従業員規模で言いますと、国内単体で1,700人ほどですね。グローバル・連結含めますと7,000人強ぐらいの規模感になっています。
少し触れたとおり、125周年でロゴを変えました。実はこのRが人を表しているんですけども、人の心を、ハートを動かす熱い仕事をしていこうと。社員もハートを熱く働いていこうといった想いが込められたコーポレートスローガンです。
代表的な商品のブランドを一部載せています。製薬会社ではあるんですけども、売上の7割ほどはスキンケア商品になっています。真ん中に「肌ラボ」がありますね。極潤はすごくヒーローアイテム的な化粧水です。

今日は寒いですけど乾燥する時期になってくると「メンソレータム」。リップクリームや外用薬などがみなさんの鞄の中やポケットの中など、お家に1つでもあるとうれしいなと思っています。
これらの商品を生産している工場が三重県伊賀市の上野にありまして、そのテクノセンターの紹介を辻森さん、お願いできますか。
辻森:画像にあるとおり、広大な敷地の中にいくつか建物が建っております。これが上野テクノセンターとなっております。研究棟と言われるオフィス棟、そして主に目薬を製造しているアイケア棟、我々はA棟と呼んでいます。

全国の物流拠点である中央物流センターがあり、その隣には日焼け止めや化粧水などを製造しているB棟があります。そしてさくらんぼハウスと呼ばれる託児所も併設しております。2年前に医薬品製造棟としてC棟が稼働し出しました。
ABC棟合わせて去年の実績で言いますと、約1億6,000万本の製品を作って、みなさまのお手元にお届けすることができました。
中井:ありがとうございます。
ロート製薬「改鮮隊」の信条とは?
中井:それでは次に辻森さんが所属されている「改鮮隊」という組織についても教えてください。
辻森:みなさん、「改善」はご存知ですよね。内容もそうなんですけども、読んで字のごとく「改めて善くする」と書いて「改善」と呼んでいます。この改善の手法やノウハウを、私たちは世界のトヨタのOBの方から学びました。

いざ、この改善活動をロート製薬で展開していくにあたり、毎日新鮮な気持ちで、世界のトヨタに少しでも近づこうという意味を込めて、ロートでは改善のことを「改鮮」と呼んでおります。そして私の所属する改鮮隊が、この改鮮活動を推進する部門となっています。
この改鮮活動が始まった経緯なんですけども、2005年に大きな薬事法の改正がありました。内容は販売業と製造業に分離できるということです。すなわちロートの製品を自社工場で製造しなくてもよくて、他社に頼んでも製造できます。

ということで、ロートの工場として生き残っていくためには、現場力の強化をしていかないと生き残れないので、どのように現場力を強化するのか。
QCD(品質・コスト・納期)でほかの工場に負けていたら、仕事を取られます。「じゃあ、そのQCDを上げていくにはどうすればいいのか?」「問題発見して解決していかないとダメですよね」「その問題解決ができる人を育てないとダメですよね」ということで始まったのが、この改鮮活動となっております。
またロートの社員の行動規範に「7つの宣誓」があって、この赤線の部分なんですけど「まず人がいて、輝いてこそ企業が生きる」。この輝く人を育てる部分に関しても、行動規範に改鮮活動は役立っているのかなと私は感じています。
改鮮活動を実際にどうやって進めているのか。「気づき」「5S」「テーマ」という3本柱を軸に人材育成を進めております。
中井:ありがとうございます。
「気づき」活動の内容と導入背景
中井:ここからは実際に工場でのkintone活用事例をご紹介いただきたいと思います。実は私、今年2回も上野テクノセンターを訪問させていただきまして、本当にkintoneが工場内で使われているかをこの目で確認してきました。

今日はその時に撮った写真もたくさんございますので、写真つきで事例紹介をしていきたいと思っております。
まず、さまざまな業務でkintoneを利用されてらっしゃったと思いますが、先ほど改鮮隊の活動の中でもお話しされていた「気づき」でkintoneを活用いただいていたと思うんですけども、そもそも「気づき」はどんな活動になりますでしょうか。
辻森:「気づき」自体が問題を気軽に提案できるという非常に重要なツールとなっておりまして、これは改鮮活動を進めている部門で働くメンバー全員がなんでも気づいたことを書いてくださいというものになっています。
ただ「なんでもいいから書いてください」と言うんですけど、やはり毎日似たような職場で似たような作業をしていると、それがだんだん当たり前になってきて、なかなか無駄や「これ違うよ」に気づけない。
でも、問題がないと改善のスタートラインにも立てないので、すなわち職場の宝、これに気づける人を育てる。
でも、なかなか当たり前になって気づけないよねという部分で、最低でも月に1件はなにか気づくために、2005年に始まってから20年間ずっと「月1人1件出してください」というかたちでやっています。
kintone導入前なんですけども、この「気づき」を各チームで紙やExcelやTeamsで、多数の(ツールを使った)進め方をしてくれてたんですけども。これを私たち改鮮隊が月に何件出ているか、対策がどれぐらい進んでるかを集計します。

いろいろなところを見に行って数を拾ってきて、それをまた独自のExcelに入力するなど、月に2時間かけてやっていました。最後に紙なんですが、提出されたものを残しておくスペースもないので、紙に関してはせっかくみんなが出してくれた「気づき」を廃棄しておりました。
中井:集計も大変そうですが、紙だと工場内や工場間の「気づき」共有も難しそうですよね。
辻森:そうですね。
得られた「気づき」を選抜して投票
中井:kintoneは今どんなふうに運用されていますか?
辻森:画像のようにkintoneに移行してからは、タブレットやノートパソコンからいつでもどこでも、気づいた時に入力してもらえるようになりました。
柴田:これは実際の「気づき」のフォームなんですけど、トヨクモさんのFormBridgeを使って構築をしています。もともとExcelのフォーマットがありましたので、大枠はそれを見た目は踏襲するかたちで再現をしています。

どのラインで、どこで気づいたのか。そういう必要事項を書いていただいて、「気づき」に対してどう対応していくのかが必ずセットになってきますので、対策も入れます。それを「いつまでにやります」と入力をしていただきます。
内容によっては、個人あるいは所属部門で完結しない「気づき」、大幅な工事が必要なものなども含まれます。なので間接部門に修理を依頼します。その時はkintoneに貯まったレコードの中でプロセス管理を使って、どんどんステップを回していきます。
しかるべき管理者が中身を見て「じゃあこれは修理や対応をしよう」と、どんどんワークフローを回していっています。

あとは「気づき」のレコード一覧ですね。これもシンプルですけど、どんな「気づき」があって、どんな対応がされたか、それがもう対策済みなのか。これもkViewerを使って表現しています。

どうしても工場メンバー1人にkintoneの1アカウントを付与できていませんので、こういうプラグインを活用させていただいております。
そして、集計ですね。辻森も毎月2時間以上かける話をしていましたけども、対象期間や所属部署を画面下部で設定することによって、数表形式で自動的にダッシュボード化されます。メシウスさんのkrewDashboardを使っています。

あと右上ですね。気づいたままで終わっていないか、しっかり対策できているかという対策率もメーターで表示したりしています。
このような「気づき」が毎月1人1件以上貯まるわけですけども、チーム・ユニットで週1回、主だった代表的な「気づき」を選抜しています。選抜をして、社員の通路にサイネージ表示をしているんですね。

このサイネージ表示を見かけた社員が、社員証で投票できるようになっているんですよ。「これいいな」「うちの部署、うちの工程でも使えそう」ということをやっているんですよね。これもずっとやっているんですもんね。
辻森:はい、これも続けています。
2時間の集計時間がkintoneで5分に短縮
柴田:ちなみに帳票化されているこれもプラグインですね。RepotoneUというサービスを使って帳票化をしています。
そして「改鮮ミーティング」なる会議体もありまして、中身によっては工場長も参加して気づきの進捗を確認したり、例えばトラブルにつながりそうな気づきが上がっていたらここで共有されたりします。そういったことが月1回以上実施されていますね。

気づきをkintone化したことによって、ざっと挙げるとこれぐらいメリットがあると思いますけど、辻森さんどうですか?
辻森:そうですね。2時間かけて集計していた部分が、kintoneになったことで5分でできるようになりました。
柴田:あともし私が「気づき」を(提出)するユーザーの立場だったとすると、デバイスや時間・場所の制限がなくなったのも非常に大きいと思います。
前までは作業エリアからオフィスエリアに移動しなくちゃいけなかったんですよね。やはりペンや紙は製造ラインに持ち込めないので、そういう制限がなくなったのが非常に良いのかなと思っています。
辻森:また全国にこの活動を推進していくにあたって、例えば大阪工場で出た「気づき」を上野工場ですぐ見られたり、福岡の営業所で出た「気づき」が札幌の営業所ですぐ見られたり。こういう部分がすごく良いなと感じています。これからの全社展開に向けて推進できたらいいなと思っています。
中井:ありがとうございます。実際現場のみなさまからすると、紙でやっている業務がいきなりフォーム、タブレットやスマホを使ってやっていくとなると、抵抗がある方も多いのかなと思いまして。
実際現場のみなさまにインタビューをしてきたので、インタビュー動画を見ていただこうと思います。それでは動画、よろしくお願いいたします。
ロート製薬社員からの好評の声
(動画再生)
女性1:紙だったら一発書きというか、書き直す時もぐちゃぐちゃだったり、書き直す手間もあります。やはりパソコンだったら打ちやすいし、入力しやすいです。
女性2:入力もどこでも入れられることもあるし、集計も担当の方がやってくれているんですけど、すごく楽になったと思います。集計してくれて、1ヶ月に何件あっても全部集計してくれるので、これになってすごく助かっています。
女性3:だいぶ前が確か紙で、その前にパソコンのExcelがあって、Excelにマルバツ入れていました。1回1回工場に来なくていいのが楽です。
女性4:今までこういったシステムって、あまりよくわかっていないところもあったんですけど、「こんなんできるんや」と柴田さんを通じて知ることができました。なのでこれに味をしめて1回1回、何かことあるごとに柴田さんにご相談しています。
(動画終了)
数々の非効率をkintoneで「改鮮」
中井:kintoneを入れて楽になったという声をいただいて、私も非常に安心しました。動画で先に出してしまったんですけども、このあと残り2つ、柴田さんから活用事例もご紹介します。
柴田:たくさんある中で2つだけ紹介するんですけども、アルバイトさんのシフトを申告してもらうアプリです。集まったシフトを基に、配置担当が配置を当てています。
これは従来Excelでやっていたんですね。縦にアルバイトさんが並んでいて、常時20名前後、30名弱ぐらいいるんですけども、こういうことをやっていたんですね。

共有PCで共有のExcelを編集すると、そもそもPCが空いていなかったり、誰かがファイルを開いていると申告できないデメリットがありました。
あとは冒頭で辻森に広大なテクノセンターの紹介をしてもらいましたけども、この作業をするためにオフィスまで移動しなくちゃいけないんですね。
一番遠い棟で、たぶん往復3キロぐらいあるんですけど、その移動時間・距離をかけてパソコンが空いていなかったり、編集できなかったりして、もうたまったもんじゃないという状況でした。
これをkViewer、FormBridgeを使って構築をしています。左側がその月のカレンダーになっていて、ダミーデータで今日は11月7日のところに「未」とついているんですね。

自分がシフトを入力できる日付をタップしてもらうと、FormBridgeに遷移をして、マル出勤、バツ欠勤などをアルバイトさんが入力をします。これは私用のデバイスを使ってやっています。
これがkintoneの中に実際レコードが貯まった画面ですね。見た目がExcelとそんなに変わらない、krewSheetというプラグインを使ってやっていますので、移行のストレスがあまりなかったということは、ロート側のメンバーからの声としていただいています。

メリットとしては、私用デバイスで申告が可能なので極端な話、家からでも申告ができるし、決まったシフトも確認できると。
あとは期限管理と書いていますけど、例えば「翌週のシフトは前週の水曜日までに入力してね」といった入力の期限設定をしています。前のExcelはそれができなかったので、シフト申告期限を超えて入力や変更されるようなことがありました。
やはり配置担当もてんやわんやといったことがあったんですけども、それもkintone側で制限をかけていると。なので「最適な配置に役立っています」という声をいただいています。
来客対応に関するさまざまなデメリットを解消
柴田:もう1つは、我々は製造業なので工場を持っています。製造業の方はたぶん工場にお客さまをお招きする時、どういったお客さまが何名、いつ、どういうエリアに入室するか。たぶんアテンドする営業の方や担当者が工場側に共有すると思うんですね。それもExcelでやっていました。左側のフォーマットですね。

我々は社員の食堂をお客さまにもお使いいただけるようにしていますので、配膳をお願いしている外部の会社さまにお客さまだと証明するための食事券(Excel)を作っているんですけど、これもExcelが集まって担当者が食事券に転記していたんですね。
「株式会社」「(株)」などと書くので、表記が揺れますよね。あとは服のサイズや、衛生服を着てもらって工場に入ってもらう必要があります。服のサイズも手書きですし、靴のサイズですね。「28」「28.0」と書く人だったり、手書きがゆえにやはり揺れてしまうんですよね。
そういったデメリットがあったんですけども、これもkintoneでWeb化しています。同じくFormBridgeを使ってやっているんですけど、これも特にテクニカルなことはしていません。

お客さまの情報を書いて、どのエリアに入室していただくか。入室される方の情報を書いていただいて、食堂を使うのか使わないのかを書いていただきます。
これがkintoneアプリに貯まって、工場側の担当者は食材の仕入れや席を予約したり、お客さまに着ていただく服を準備したり、そういったことをkintoneのデータで確認していました。

こんなメリットを挙げました。食事券の発行も同じくRepotoneUというプラグインで自動でやっていますし、あとは来訪日の1週間前にリマインダーを出したり、3日前にリマインダーを出したりしています。
どうしても工場見学は立て続けになるので、担当者も(やらなければならない準備が)抜けてしまうんですけど、そういう通知の機能も便利で役立っていることも、声としては上がっています。
中井:ありがとうございます。実際の画面を見ることができて、非常に活用イメージが湧きました。先ほど動画の中で現場の方に対しては「kintoneに変わってどうでしたか?」をインタビューさせていただきました。
改鮮活動の「鮮度」が上がった
中井:実際、辻森さんの上長の方はどんなふうに思われているかを疑問に思いました。今日は辻森さんに内緒で、勝手にインタビューをしてきてしまいました(笑)。そちらのインタビュー動画をみなさんにも見ていただきたいと思います。では動画お願いいたします。
(動画開始)
小口香氏:今までは紙だからその場に見に行かないと見れないじゃないですか。でもkintoneはいろいろな部門、離れた人の「気づき」が見えるので「こういう気づきが上がっているんや」など、横展開も広がりやすくなりました。

そういった1人の「気づき」がみんなの「気づき」にもなりました。1つの良いこととしては、横展開が加速しましたかね。
今まではそこに行かないと気づけないので、気づくのが遅くなったり、気づいてももう1つの工場に共有するのも遅くなってしまうから、すっごくもったいないことをしていたんですけど。
今だったらすぐに「あれ? こっちの工場でこういうのが上がってるよ」「見て見て」などの共有もできるし、そういうスピードがすごく速くなったと思っています。(改鮮活動の)「鮮度」が上がったんです(笑)。
隊長、がんばっていますか? 私は本当は今日はとても行きたかったんですけど、遠いところから、気持ちは一緒です。見守っています。いつも誰よりも熱い思いで、この改鮮活動をやることに意味があると信じて、みなさんへの理解(を促進する)活動、苦労もしてくれていると思います。
でも、その心底の熱いものは絶対みなさんに伝わると思うので、今日もその熱い思いを幕張のみなさんに届けてほしいと思います。きっともう届いていると思います。改鮮活動を広めて、そしてkintoneを使ってこんなに我々の仕事が改鮮できたことを、熱く伝えてください。がんばってください!
(動画終了)
中井:辻森さんにはサプライズとなりましたが、動画を見ていかがでしょうか。
辻森:こんなの知らんかったです(笑)。
中井:そうですよね(笑)。総長からもkintoneの評価と熱い思いをいただきました。