本企画、「キャリアをピボットした人の哲学」では、インタビュイーにこれまでの人生を折れ線グラフで振り返っていただき、その人の仕事観や人生観を深掘りしていきます。
今回は、『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』著者で、“統計のお姉さん”サトマイこと佐藤舞氏に、今までの人生を振り返っていただきました。本記事ではキャリアの迷いを解消する目標設定術についてお伝えします。
人生を変えた「目標設定」の仕方
——佐藤さんの著書
『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』の後半では、目標設定の仕方を解説されていました。起業して成果を上げられた背景には、この目標設定の仕方も関係しているのではないかと思うのですが、そのあたりをおうかがいできますか?
佐藤舞氏(以下、佐藤):はい。結論、この目標設定で人生が変わったと私は思っています。会社員を辞める1ヶ月ぐらい前から、1週間に1回、自分のやったことを書いて、その振り返りをして、次の週に何をやるかの計画を立てる「週報」を書き始めたんですよ。
2016年から2021年まで、週に1回目標の見直しを毎週休まず丸々5年間続けたんですが、これがあったから、なんとか軌道修正していけたかなと思っています。その週報でやることのエッセンスは、本書の目標設定のやり方をぜひ踏襲してほしいと思うんですけれども、この目標設定の大きな目的は、自分の取り扱い説明書を作ることです。
例えばさっき話したように、リサーチをしすぎたり人の意見を聞きすぎる人は自分の軸がなかったりするんです。それこそ過去の私も「自分の得意なことって自分ではわからないから、人に判断してもらったほうがいいよね」と思っていました。でも、それで実際やってみて、なんか違うなというのはわかりましたし。
人が言っている成功法則や「こういうふうにやったほうがいいよ」というのはもちろん参考にはすべきなんですけど、論文とかもそうですが、その成功法則はある特定の条件下で見られた法則であって、自分にもそれが丸々適応するとは限らないですよね。
なのでいろんな人の話を聞いたり、「こういうことをやったほうがいいよ」と言われてそのまま盲信してやってしまうと、もしかしたら自分に合っていないやり方をやってうまくいかないかもしれない。
だから「自分のトリセツ」があったら、人の話を聞いたり、誰か先生に学びにいく時も、自分のトリセツと先生の言っていることを照らし合わせながら戦略を練れるようになるんです。
週1で「目標の振り返り」をするメリット
——他の人の意見にむやみに惑わされなくなるんですね。
佐藤:そうです。今、YouTubeとかいろんなSNSやインフルエンサーの人が、自分の成功法則を語っていますよね。そのとおりだよねという場面もあるし、自分の場合はこっちのほうがおそらく勝てるなっとうところもあるんですよ。
なので、自分がどういう戦略を取ったらいいのかという自分のトリセツを作るという意味を込めて目標設定をして、週に1回PDCAを回していくと、自分の操縦の仕方がなんとなくわかってきます。
——佐藤さんの場合はどんな目標を立てられたんですか?
佐藤:長期・中期・短期で立てています。長期目標で言うと、めちゃくちゃ抽象的で、「死んだ時に自分はどういう状態だったら後悔しないのかな」と、死から逆算します。例えば私だったら、「人に影響を与えられるような表現物を残す」という、自分の死から逆算した「これがあったら自分の人生は満足だよね」というものを立てています。
ただその長期目標って、ある日突然降ってきたりするので、最初から立てる必要はないんです。思いついたら書いておく感じです。
中期目標で言うと、3年後とか5年後とか、人によっては10年後に、どういう状態になっていたいのかを書く。例えば「自分の好きな人と、いつでも好きな時にいろんな場所に旅行に行ける」とか「好きな人と仕事ができている状態」とか「やりたくないことはやっていない状態」とか、けっこうふわっとしていて大丈夫です。
短期目標は、だいたい今年1年の目標という感じです。それを長期・中期・短期でずっと書いておいて、毎週見つつ、「今週はこういうことをやりました。これをやった振り返りはこういうことです。こういう学びがありました。それを踏まえて来週こういうことをやります」というのを、週に1回書いていました。
振り返りを習慣化するコツ
——書いたことの振り返りはどのようにされていたんですか?
佐藤:私は毎週日曜日の朝起きてすぐ、時間は30分ぐらいでスケジュールに入れてしまっています。(振り返りは)週に1回やるのがポイントです。例えば毎日の振り返りだと、「今日こういうことが起きました。次はそこを改善してこういうふうに戦略をとってみます」という時に、1日のデータでは少なすぎるので、自分の判断が間違っている可能性が高いんですよね。
逆に月に1回の振り返りだと、1ヶ月前にあったことを忘れてしまいます。人って自分の記憶を捏造する癖があるので、例えばダイエットの目標を立てた時に「ここ1週間ぐらいはけっこう運動もしてたし、健康的な生活してたから、この1ヶ月ぐらい、私はずっと健康的な生活をしてた」って振り返っちゃうんです。
でも実は健康的な生活をしてたのは1週間だけで、その前の3週間はけっこう自堕落な生活を送ってたりするんですよ。そういうふうに自分の記憶の捏造をしないようにとか、データ量がそこそこあるかを踏まえて、週に1回が適切なタイミングですね。
あとは1人でやるのはけっこう淡々としていてなかなか続かなかったりするので、誰かと一緒にコミュニティに入って投稿するとか、コメントをもらうのもけっこうおすすめです。
「感情」と「結果」を切り離し、ロジカルに戦略を選べるように
——なるほど。それを続けて実感した良かったことはありますか?
佐藤:そうですね。自分の感情と結果と自分の存在価値を俯瞰して見られるようになったのがポイントです。
例えば週報の中で、「こういう仕事をやってこういう感情が湧きました。結果はこうでした」ということを書いていくんですけど。そこでネガティブな感情が湧いた時に、「自分はこの仕事が嫌なんだ」と思いがちなんですよ。
例えば、「こんなに不安になるってことは、このプレゼンという仕事は自分に向いていないんだ」と判断したりしてしまうんです。でもそれって、ただ慣れていないだけで、数を重ねたら別にプレゼンでそんなに緊張しなくなります。
あとはやっぱり結果ベースで見るのが大事です。プレゼンをした結果、人を説得させることができたのであれば、仮に自分がその仕事に対して不安の感情を抱いていたとしても、おそらくその仕事は向いている。そうやって自分の感情と結果と、自分自身の存在価値を分離して考えられるようになると、ロジカルに取るべき戦略を選べるようになりましたね。
自分の価値観がわかると、人から好かれるようになる
——自分にマッチした仕事を見つけるにあたって、すごく大事な考え方だと思います。最後に佐藤さんからお伝えしたいことはありますか?
佐藤:あとは大事なところで言うと、キャリアで不安になる人って、大海原で木の板の上にプカプカ浮いているイメージで。自分の行きたい方向性とか、次はどこの島を目指せばいいのかがわからない状態って、けっこう不安だったりするんですよね。
その時に大事になるのが、私が毎週の週報の中でやってたような、自分の価値観を日々明確にする訓練をすることです。価値観は自分の好みや好きという感情ではなくて、「自分が大切にしたい習慣的な行動」のことだと、本書の中では定義しています。
それが明確になると、例えば職種がいろいろ変わったとしても、価値観ってあんまり変わらないので、その軸でずっと楽しくやり続けることができます。
それから、その価値観に沿って生きていると、けっこう人からモテるようになりますね。「あの人は付き合いやすい」と思われたり、「あの人ってこういう人だよね」と周りからも認知されます。「あの人は何を考えているかわかんないよね」というよりも「あの人ってこういう人だよね」と思われたほうが、けっこう自分も楽だったりするんですよ。
なのでその自分の価値観、進みたい方向とか、「こういうことをやっていると、やりがいとか、人に役に立っている感じがするな」「エネルギーが湧いてくるな」というものを日々書き出したり、明確化する訓練はやっていったほうがいいかなと思います。
「思っていたのと違った」という違和感も言語化しておく
——佐藤さんの価値観はどんなところにあるんですか? 違う業界に行ったけど、価値観は変わっていないというところをもう少しおうかがいしてもいいですか?
佐藤:はい。価値観は1個じゃなくて、人によってはかなり複数あります。私の場合は7個ぐらいあるんですけど、例えばその中の1つで言うと、「自分の強みを発揮して人に貢献できる」っていうのがキャリア上の価値観で1つあります。
この漠然とした価値観を、「自分の強みを持って人に貢献できるってどういうことなのか」と、もうちょっと細分化していく感じなんですよね。
例えば私の場合は、論理的に人にわかりやすく説明できることに、やりがいとか他の人にはない強みを感じています。つまり自分の中での強みってどういう定義なのか、その言葉の定義がめちゃくちゃ細分化していく感じになりますね。
最初はふわっとしていていいんですけど、価値観を定義した後に、実際に自分で行動して振り返ることで、「自分の強みとか人に貢献できているって、つまりこういうことだよね」という、自分なりの定義がどんどん出てくるようになると思います。そうなると、もう自分の取り扱い説明書ができたということですよね。
その価値観自体はちょこっとだけ変わることもあるんですけど、長期的にはそこまでめちゃくちゃ変わるものでもないです。もちろんその仕事をやっていく中で環境要因っていろいろ変わるじゃないですか。一緒に仕事する人たちもプロジェクトも変わります。その中で、「自分の価値観だと思ってやってたんだけども、なんか違うな」っていうこともあるじゃないですか。
「楽しそうだな、この仕事は良さそうだって思ってやってみたけど、なんかイマイチだな」となったら、そのイマイチなことも言語化しておくといいと思います。
自分の経験から「一本軸」を見つけて展開していく
佐藤:そうすると、価値観も定めつつ、自分の「やらないことリスト」も同時にできてくるんですよ。基本的にはこの価値観に沿って歩いていくんだけども、いろいろ進んでいく中で周りから「例えばこっちの道もあるよ」と言われた時に、やらないことリストを振り返る。
「自分はそっちの道に行くと、おそらくやりがい感じられないからやりません」という判断ができるようになっていきます。そうするとジョブチェンジする時も、基本的にも価値観に沿っていくんだけど、やりたくないことがあったら、「ちょっと違うことをやってみようかな」と判断できるようになります。
あとは、私が今までキャリアをピボットしてきた中でも、うまくいくピボットとうまくいかないピボットがありました。先ほどお話ししたように、最初に起業しようと思った時はコピーライターでいこうと思ったんですけど、結局データ分析のほうがうまくいったんですよ。
今までやったことないことを新たに始めようという時は、自分の情熱はあるんですけど、なかなか成果が出なかったりするんですよね。それよりも今まで自分が継続的にやっていて、そこそこ人に評価されていたものを軸にして、それを基に新しいことをやったほうがうまくいくんです。
なので新規事業とか新商品開発をする時も、いろいろ手を出したくなっちゃうんですけど、自分の経験のリソースにないことを新たに始めるよりも、今までの自分の経験の中から一本軸を見つけて、そこから展開していくほうが絶対うまくいくと確信しています。
——佐藤さん、ありがとうございました。