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日本初の入門書の著者2人が解説する「エフェクチュエーション」 ー不確実性が高いプロジェクトのための思考法ー(全2記事)

2025.01.30

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知識なし・コネなしから「学校を作った」実践事例 不確実性が高いプロジェクトの思考法「エフェクチュエーション」とは

提供:サイボウズ株式会社

「エフェクチュエーション」は、不確実性が高い社会の中で新たな価値を生み出すための、起業家の思考プロセスを説明した理論です。「Cybozu Days 2024」で行われた本セッションでは、日本初の入門書を共同執筆した著者2人が、理論と事例を交えながらエフェクチュエーションについて解説します。後編となる当記事では、サイボウズ執行役員・中村龍太氏が、フリースクールの立ち上げを例に、どのように「手持ちの手段」や「許容可能な損失」を見極め、パートナーと協力しながら不確実性を乗り越えたのかについて解説します。

エフェクチュエーションは誰でもできるのか?

中村龍太氏(以下、中村):いやぁ、みなさんわかりました(笑)? すごい勢いで5つの原則をしゃべっていただいて、本当にありがとうございます。わからないところがありましたら、『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』をまた読んでいただけたらと思いますが。ちなみに本を読んだ方って、どれぐらいおられます?

(会場挙手)

おお、たくさんいらっしゃいます。ありがとうございます。これを通じてまた深めていただければと思うし、わからないところがあったら、これをきっかけに興味を持っていただければと思います。

こんな話をすると、よく「エフェクチュエーション(熟達した起業家の意思決定実験から発見された思考様式)って誰でもできるの?」という話になるんですよね。「うちの会社はエフェクチュエーションが難しくて、なかなかできないんですよ」とか。

コーゼーション(目標から逆算して達成のための手段を考えるアプローチ)が悪いわけではないんです。ただ、エフェクチュエーションがなかなかできないということについては、私はできると思っていて。

なぜならば私たちのチーム、ソーシャルデザインラボにも予測不可能なことはたくさんあるんですよ。災害支援なんて予測可能なものでもないので、この行動モデルを上手に使っています。

そんな時によく使うのが、こういうスライドです。みなさんに今回特別にご用意したエフェクチュエーションフォーマットを、これから1つずつ解説していきます。写真を撮る必要はないと思いますが。

この「手持ちの手段」というキーワードで使うフォーマット。


それから、そして次がここにあります、「許容可能な損失」で使うフォーマット。

それから「レモネード」で使うフォーマット。

そして先ほど言った、パートナーシップと書いてますけども、これはクレイジーキルトで使うフォーマットです。


最後に「飛行機のパイロット」のキーワードで全体を見る。このスライドを会社やみなさん自身が使いこなすことによって、エフェクチュエーションができますという結論を、冒頭にお話しします。

さて、サイボウズにとって不確実性の高い事例ということで、そのプロジェクトを通じてこのフォーマットを紹介していきたいと思います。

kintoneでフリースクールを運営するサイボウズ

中村:実はサイボウズは、ご存知かもしれないですけど、小学校を作ってるんです。知らないですよね(笑)。IT企業なのになぜサイボウズに学校がいるのか。小学生向けの学校で、吉祥寺(東京都武蔵野市)にございます。

2024年4月からスタートしておりますけども、すでに小学校の先生と、それから子どもたちも運用してます。今回この立ち上げをリードした人が、サイボウズの私のチームにいる前田小百合さんです。

前田さんは、私たちのチームの学校・教育関係の分野の人になりまして、3人の娘の母でPTA会長もやっています。まさに吉祥寺で学校を運営しておりますので(笑)、今日は本当はここに来たかったんですけど来られませんでした。

ちなみにこの学校が、サイボウズのkintoneとどう関係あるのかというと、サイボウズは「チームあふれる社会」にしたいということで、サイボウズらしいkintoneの使い方をしながら、チームワークを育みたいということです。

具体的には、子ども・先生・保護者・関係の学校が同じkintoneに入って、みんなで学ぶ。子どもを一緒に育てる。しかも親も育つという環境を作っていまして。毎日の授業で1コマ目が終わると、先生が「何をして、この子がどうだった」という感想を、一言二言、書きます。

リモートワークで親御さんがkintoneを見たら、子どもが今何をしているかが瞬時にわかる。授業参観的なことが毎日ここで行われていまして。みんなで関わる情報共有による、新しい学校の仕組みが今作られようとしています。

それで、先ほどのフォーマットを使って、前田さんがその時に行ったことを説明をしたいと思います。まずは、「あなたの手持ちの手段を棚卸してみましょう」。これは動画はないので、写真を撮ってもらえばいいと思うんですけど(笑)。ここで言う4つの手持ちの手段が書かれてますね。

全部しゃべると時間がなくなるので、彼女の場合は一番大きいのは「不登校の子どもを抱える保護者」。つまり前田さん自身の子どもが不登校だったというところなんですよ。

「自分の子どものため」という内的動機付け

中村:これはものすごいパワーでして、彼女の「どうにかして子どもの学ぶ場所や居場所を作りたい」という話に、私が相談に乗ったりしてました。これがすごい内的動機づけになって、サイボウズが何か言わずとも、彼女はいろいろな行動をしていました。これは本当にエフェクチュエーションをするために、大切な要素だと私は思ってます。

そしてこの手持ちの手段で、具体的な行動を起こすために何ができるのかというパターンですね。スライドでは黄色い線で、前田さんが最初に考えた行動のアイデアが書かれております。

「自分がフリースクールを作るのであれば、どこに作るか」。前田さんは杉並区にお住まいです。やはり自分の子どものためなので、どうしてもということで近くで探してます。

このスライドは吉田先生からもらったものですけど、これをみなさんが使う時のポイントは、なんでも発想してよいわけではありません。一番下に書いているように「あなた自身にとって『実行する意味があるもの』にしてください」ということですね。なんでも書けばいいってものでもなく、そういうフィルターをかけて書くといいと言われてます。

この手持ちの手段を実行できるアイデアを発想したあとに何をするかといいますと、次の手段があるんですけども……。実はこれ、やったのがいつだったかといいますと、2023年5月頃です。

だからそんなに昔ではなく、でもそこそこ時間が経っている状態です。エフェクチュエーションがどう回っていくかの参考になればと思っています。

これが僕の好きなスライドなんですよ。

「許容可能な損失で手持ちの手段を棚卸してみよう」という話です。先ほど先生のスライドで、あれなんて言うんでしたっけ、バランスをとる。

吉田満梨氏(以下、吉田):秤の絵の。

中村:それを示しています。彼女が書いた時には、フリースクールを開設するにあたって、杉並区あたりで探してました。

ここでいうと「失敗した場合に失うものは何だろう」という話と、「挑戦しなかった場合に失うものは何だろう」とあります。日本人のみなさんは、失敗した時に失うものをけっこう書けます。しかしながら、挑戦しなかった時に失うものは何だろうということについては、けっこうすっ飛ばすケースがあるので。右側に書くことが大切だと思います。

損失が許容不可能なら、小さくする方法はないか?

中村:彼女の場合は「自分の子どもを通わせる学びの場の機会がなくなる」などですね。ここに「子どもの学び場を立ち上げる経験を得る機会も失う」と書かれています。これが秤の右側の部分です。

それで、秤の左側は、不動産に関してまったく知見もなくて。不動産のWebサイトで用途に「フリースクール」なんて入れてもぜんぜん反応がないわけですよ(笑)。「飲食店」って入れたら飲食店のものが出てるんですけど。そういうものも出ない状況の中で、本当に疲れている様子を僕も見てました。

この時に彼女の判断は、挑戦しなかった場合に失うものよりも、この不安感が大きくて。秤の左側が下にドーンと落ちているので「許容不可能です」というのが秤の絵です。

だけど、どうしたらいいかという時に出てくるのは、スライドに薄く書いてある「もし失敗で起きる損失が許容可能でない場合は、損失を小さくする方法はないですか」と自分に問うわけです。

それで彼女が考えたのが、「まあ自分で探さなくていいよね」という話になります。結果的に、サイボウズのメンバーにいろいろな話をしていると、ここに書いてますように、他部署の人から銀行のSDGs関係の人を紹介してもらいました。

その時に「銀行の人だから、サイボウズの学校の場所ってどうですかね……」と思っていたりする。左側の失うもの、自分のつらさの黄色い線ですね。

彼女は、「この人は何を言ってるんだろう」と思われる自分と、「挑戦しなかった場合に失うものは何だろう」を秤にかけたら、当然これは「まあ別に嫌われてもいいんじゃない」と思う中で、許容可能なことで発言をしたということでございます。

僕なんかは、エフェクチュエーションをやる時は瞬時にこれをやっているのでわかりやすいんですけど。みなさん慣れてない方がこれをやると、きれいに整理されるかなと思っています。これはどうですかね、何か一言。あまり僕だけしゃべっててもね。

吉田:いえいえ。先ほどの「手中の鳥」の話でも、なかなか自分は資源がない、強みがないと思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、そうではないということがすごくよくわかる。レモンのようなネガティブなものかもしれないんですけど、そのユニークな思いを梃子にされているのも、すごくおもしろかったです。

中村:おもしろいですよね。こういう感情、不安感みたいなものって、けっこうあると思うんですよね。これを言語化するのは大事だと思います。ありがとうございます。

パートナーシップ=おねだり=アスキング

中村:次のスライドにいきます。今度は許容可能な損失で、私の言葉で言うと「おねだりをしにいく」と言うんですけど。「パートナーシップ」ってかっこいいんですけど、僕の場合は結局「おねだりをする」。

アカデミックな領域では「アスキング」と言ってるんです。どれを使っていただいてもいいんですけど、彼女が行ったいくつかのアスキングですね。

ここに書いてあるように、場所だけじゃなくて、やはり教員を探さないと国語・算数・理科・社会は(勉強することが)できないという話がありまして、2つのアプローチが書かれています。

一つひとつやるとまた時間がないので、2番目です。「設立のために協働したコンサルが塾の先生を知っていそうだ」。そのコンサルに何を期待するかというと、「塾で活動している元小学校の先生の、塾以外の時間のリソースが欲しい」。

そして、右側の黄色いところですね。「サイボウズでスクールを立ち上げたいのですが、塾をしていない時間に先生として働いてもらえますか」。アスキングなので、口語で書くことが大切です。

僕はよくメンバーに「箇条書きではなく、しゃべる言葉で書いてください」と言うんですけど。その人に何を伝えたいかというのがあります。

結果的に何が起きたかといいますと、ここにあるように、実際にアプローチをしました。獲得した状況について前田さんにコメントを書いてもらったわけですけども、ここでおもしろいのは「塾として」っていうキーワードがポイントです。

黄色いところだけいきますと、塾って午前中から午後3時ぐらいまでは空いているので、塾の先生と話をしに行ったんですけど、「この場所も使わせてもらえませんか?」と。

先ほどの“Slack”じゃないですけど、空いてる余剰資源を彼女が見つけて、一緒にコミットメント、つまりアスキングをしていたということです。

最後にこの全体感を表すところです。これは、前田さんと1回スライドを作ったんですが、吉田さんや、私のサイボウズのチームのスズキさんという人からフィードバックをもらいまして、スライドを変えてます。

アイデアとしては「サイボウズとして学び場を学習塾と一緒に作る」ということではあるんですけど、「自分の中に存在していることと、会社によって増幅されるものを分けて書いてください」と。一緒になっていたんですよ。

このスライドのすごさは、先生が書いた新しいスライドに匹敵していて。自分のやりたい内発的なアイデアを、どうやってサイボウズで拡張するのかというポイントが、ここに書かれているものになります。

予期せぬ事態で「手持ちの手段」が増える

中村:代表的なのは「プロセスの中で予期せぬ事態を積極的に活用できたか」というところです。サイボウズで行われたFC今治の高校。サイボウズの社長は今治出身でございまして、FC今治を応援しています。その時にFC今治が学校を作るということで、設立のためのイベントをしました。

その時に、まさにプラスのレモネードかもしれないんですが、先ほどの私の知り合いのコンサルに、前田さんがたまたま会うということが起きました。その情報をもらいながら、左側に書いてある「サイボウズがFC今治の学校を作るお手伝いをしている中からリソースを使いたい」という話が舞い込んで、手持ちの手段が増えたという状況です。

結果的に3rdschoolさんという塾と一緒に学校を作っていくことになりました。この時に、またサイボウズに「許容可能な損失なのか」と経営会議にかけるという情報もありまして。右側に書いてありますように、計算しますと、児童が集まるまでだいたい数百万円のマイナスで済みそうだと。

だけど、これはソーシャルデザインラボのビジョンを達成するための、非常に大切なプロジェクトなんですと言って、助言もいろいろもらいながら経営会議を通して、今に至ります。

ということで、事例をお話ししました。みなさんもこのスライドをお使いになって、エフェクチュエーションをぜひ楽しんでもらいたいと思います。最後に、エフェクチュエーションは誰にでもできるのか、という話にもう1回、戻りに戻りまして(笑)。

今の事例も含めて、無茶ぶりですが、吉田さんから、この不確実性が高いプロジェクトの思考方法をまとめてもらえませんでしょうか(笑)。

個人の想いが、唯一無二の「サイボウズの楽校」に

吉田:(笑)。ありがとうございます。今の事例はすごくわかりやすかったと思います。個人でどうエフェクチュエーションが実践できるのかもよくわかりましたし。

だけど「コーゼーションが重視されている組織の中でやるのは難しいでしょ」と思われてる方も、おそらく多いと思うんですが。

サイボウズのユニークさはあるとして、あるいは上司が中村さんだったことを割り引いても(組織でコーゼーションを実践することは、一見難しそうです)。ただ、パートナー側にとっても、あるいはアントレプレナー自身にとっても意味がある活動を、お互いの間で模索できれば(個人対個人だけでなく、個人対組織のクレイジーキルトも可能ではないかと思います)。

「チームワークで社会に貢献する」という(組織の)目的と、前田さんの活動がうまく合った時に、サイボウズがパートナーになって、個人で始めたエフェクチュエーションが組織として回っていく。そうすると、さらに大きなリソースや許容可能な損失で動けるようになっていくことの、すばらしい事例だったと思っております。

中村:そうですね。このスライドでいくと「新たな企画、新たな製品」というキーワードで、この「サイボウズの楽校」をどうとらえるかですけど。

みなさんから見ると「フリースクール」で終わってしまうかもしれません。ただ、私が近くで前田さんを見てますと、小学校の生徒が集まって、子どもと一緒に唯一無二の「サイボウズの楽校」が作られようとしています。

学校って、たぶんそういうものだと思ってます。公立の学校も子どもの内容が変われば、その教室の雰囲気も変わることがありますけど。エフェクチュエーションが学校の中で具体的に取り入れられると、もっとおもしろい教室や学校ができると思って。

今日は教育絡みの人たちも来ておりますが、これをうまく使えればと思っております。あと10秒ぐらいなんですけど、言い残したことはありますか?

コーゼーションとエフェクチュエーションの「両利き経営」へ

吉田:(笑)。今日の話を聞いて「新しいことを知った」で終わらせずに、ぜひ何ができるかを考えて、ふだんの生活の中でも行動して、一歩踏み出していただけたらすごくうれしいです。

中村:あと僕から1つ言うことは、サイボウズ自身はコーゼーションをあまり使ってなくて、エフェクチュエーションで回しています。kintoneというユニークな製品も、そこから生まれてきてるものと思います。

ただ、一言だけ言うと、サイボウズは予測可能な状態になってきていて、コーゼーションも上手に使えるようになってきています。

それもサイボウズの良いところです。昔のkintoneがどうなるかわからない状態から、まさにAIや、今日発表したものが予測可能なものになってきている。コーゼーションを使って邁進しているサイボウズも見え隠れします。

この両利き経営、コーゼーションとエフェクチュエーションをうまく、みなさんの活動や暮らし、働き方で使っていただければと思います。吉田さん、今日はどうもありがとうございました。

吉田:こちらこそ、ありがとうございました。

中村:この場を使いまして御礼申し上げます。みなさんもありがとうございました。

吉田:みなさま、ありがとうございました。

(会場拍手)

中村:時間どおり終わりましたね。ちなみに本を買われてない方は、ここのQRコードから、よろしくお願いします。じゃあこれ、終わりでいいのかな。下に吉田先生がいますので、僕でもいいんですけど、ごあいさつしたい方はぜひ。では失礼します、ありがとうございました。


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