ソニックガーデンの代表・倉貫義人氏と仲山考材の仲山進也氏が、毎月さまざまなゲストを迎えて「雑な相談」をするポッドキャスト『ザッソウラジオ』。今回はフランス革命やトランプ政権誕生の歴史をベースに、経営とシステム開発の両方の分野で大切な「保守」の意味を改めて語り合いました。
ソニックガーデンの徒弟制度が生まれた経緯
倉貫義人氏(以下、倉貫):倉貫です。
仲山進也氏(以下、仲山):仲山です。
倉貫:ザッソウラジオは、倉貫と、「がくちょ」こと仲山さんで、僕たちの知り合いをゲストにお呼びして、雑な相談の「ザッソウ」をしながら、緩くおしゃべりしていくポッドキャストです。2025年2月のゲストは青木耕平さんです。引き続きよろしくお願いします。
青木耕平氏(以下、青木):よろしくお願いします。
倉貫:はい。準レギュラーの青木さんに来ていただいています。第1回はけっこう久しぶりだったので、ここ1年のアップデートをさせてもらって。青木さんがなんだかんだ「がくちょ」と僕の影響を受けてくれているという話でしたが、僕も青木さんからすごく影響を受けています。
第1回で言うと、弟子制度とかね。がくちょに「ユースの作り方、どうする?」と相談していて。
でも、そこからCDI(株式会社コーポレイトディレクション)の方(小川達大さん)に教えてもらった本『技を伝え、人を育てる 棟梁』(文藝春秋)を読んで、親方だ、弟子だって決めていって。でも弟子をどうマネジメントしていくか、僕らにはノウハウがなさすぎた中で、マネジメントはどうするか。評価……キャリブレーション(※)をどうやっていこうかと。
※クラシコムでは社員の給与などを決める人事制度において「評価」という言葉は使わず、「キャリブレーション(=調整)」と呼んでいます。
このあたりはクラシコムから輸入させてもらって。ソニックガーデンの徒弟制度の礎は、1回目のがくちょと青木さんの影響を受けて、うまく整えられたのを振り返りながら話しました。
その流れの中で、弟子を入れるとかも含めて、リモートワークも急に、やっているところとやっていないところがある(※ソニックガーデンの代名詞でもあったフルリモートを経て、若手社員を中心に各地のワークプレイスで働く選択肢が生まれています)。一貫性はあるけど変えてきているのが、僕にとっては保守という印象があるという話です。
青木さん的に、保守と革新みたいなことについて、どうしても話したい雰囲気で第1回が終わったので。たぶんリスナーさん、楽しみにしている気がするので(笑)。その話にいけたらなと思います。
「保守」という言葉の根本的な意味
青木:前回、倉貫さんが「保守って言葉にいい印象を持っていなかったんだよね」と。僕もある時期までまったく一緒で。保守というと、いろいろなことを押し付けられそうとか、何かを変えることに対して後ろ向き、権威主義と国家主義との結び付きみたいなイメージがあった。
だけど、ドラッカーの初期の著作や、エドマンド・バークなど保守の論客の本を読んだ時に(思ったことがあって)。真の保守は、過去からの経緯と、今存在している制度・文化・時の洗礼を受けているから、合理性と理性で判断すると、「本当に要るのか?」と思っても、一定の役割を果たしているはず。
だから「雑に扱ったら駄目だよね」「より良くしていくために、ちゃんと時間をかけて一歩ずつ進めていこうね」みたいな。「Aが駄目だからぶっ壊して、その上にBを建てましょう」じゃなくて、少しずつ換骨奪胎しながら時間をかけて、気がついたらぜんぜん違うものになる。そんなやり方のことを保守と言う。
革新とは、さっき言ったように、Aについて「これって理性で合理的に考えたら意味ないよね」「悪いよね」と。「じゃあ今壊して、俺が理性で考えた最強の何々をここにぶち込もう」というのが革新なんだな、と。
倉貫:そうですね。
青木:それを著作から理解した時に、「えっ、俺の考え方って保守なんだな」って気づいたんですよね。
倉貫:保守は、進んでないわけじゃないってことですね?
青木:そうなんですよ。その中ですごく印象的だったのが、「保守反動」という言葉。フランス革命の時なんかまさにそうだけど、1回革新に振って、王制を全部ぶっ壊して貴族も全員殺して、共和制の国を作りましたとなった後に、やっぱりいろいろ問題が出る。
そこで「元のほうが良かったじゃん」と、もう帝制に戻る感じの保守反動があって。「これも結局、革新の一種なんだ」って書き方だったの。つまり、今起こっているものをぶっ壊して、元に戻そうと。
倉貫:今を否定しちゃうからね。
青木:いわゆる原理主義や伝統に戻ろうとする保守反動は、決して真の保守主義とは言わないと説明されていて。漸進的な進化が保守なんだと知って、自分の中ではすごくしっくりきたんだけど。
僕もそうだったけど、倉貫さんみたいに、革新って言葉の中の保守主義を、自分の考えとして肯定できている人って、なんでこんなに少ないのかなと思った時に、軸が1本足りないんだなと。要するに、保守と革新の2軸みたいな感じの。上下なのか、左右でも……。
倉貫:どっちかしかないっていうことですね?
青木:そう。よく左派、右派みたいなの(分け方が)ありますけど、革新と保守という左右の数直線に縦の軸がもう1本あって、それがリベラリズムとコミュニタリアニズム。よく、革新とリベラルが密結合して(いると)みんな思っているから。
倉貫:そうですね。
「リベラリズム」と「革新」は別の概念である
青木:リベラルというと、左派だって感覚があるじゃないですか。
倉貫:ありますね。
青木:だけど実は、リベラリズムと革新は別概念。やり方の問題が保守と革新で。
倉貫:なるほど、なるほど。
青木:大事にするものの違いが、リベラリズムかコミュニタリアニズムなので、まずこの概念を4象限に分けられると思う。だから例えば、上はリベラリズム、下はコミュニタリアニズム、左は革新、右は保守の4象限に分けるといった時に。
リベラリズムって端的に言うと、個人の自由と平等な権利を大事にする考え方。コミュニタリアニズムは、要はネオリベ(ネオリベラリズム)みたいなのが出てきて、個人主義の行きすぎに対して警鐘を鳴らし、地域の共同体や家族を大事にしたほうがいいという考え方ですよね。
大事にするものって、実はこの2つだけじゃなくて。もっと以前には、例えば国が王さまのために存在しているという、権威主義や国家主義。国が一番重要で個人なんてそうでもないという考え方があった。現代において、これを堂々と提唱している人ってあんまりいないじゃん。
倉貫:いないですね。
青木:実際は権威主義の国でも、別にそうは言っていない。
倉貫:個人が認識されるようになってからはもう、個の社会になっていますね。
青木:そうそう。だから現実の思想の中では、共同体主義なのか個人主義なのかということになっているんだと思うんですけど。まず保守・革新で言えば、漸進的に変化するものなんだけど、僕はリベラリストではあるんですよ。
倉貫:そうですね。
青木:コミュニタリアンじゃないんですよね。地域をすごく大事にするために、個人の自由を抑制しよう、会社の飲み会にみんな出ないと駄目だよ。家族は、毎月集まってちゃんとご飯を食べようとか。
そういうことがすごく大事というよりは、個人個人がお互いに、自分の自由と平等を尊重し合って、個人として充実を追求する社会のほうに共感があるタイプなので。保守のリベラリストなわけですよ。
倉貫:なるほど。
青木:これがいろいろな人から見た時の、僕の立場のわかりづらさを生んでいるなと思っていて。革新のリベラリストと保守のコミュニタリアンは、すごくわかりやすいと思うんですよ。
倉貫:わかりやすいですね。
共同体重視と革新主義者は両立する
青木:だけど、僕が保守のリベラリストだとして、その逆側にあるコミュニタリアンの革新、つまり共同体重視の革新主義者の代表的なもので言うと、たぶんナチなのよ。要するに、国家という共同体。あれは国家主義だったんだと思いますけど。
倉貫:まぁ、そうですね。
青木:共同体を重視するけど、既存の王制をぶっ壊して、ナチ政権をドンと立てて、国の仕組みも全部変える。すごく革新的なやり方なので。
だからここも勘違いされやすくて、「トランプ政権とは何ぞや?」と考えてみると、「偉大なアメリカを取り戻す」みたいな感じがあると。なんとなく、コミュニタリアンっぽいじゃん。
倉貫:そうですね。
青木:(アメリカ合衆国の)南部のラストベルトの、「アメリカの価値観をもう一度」という、すごくコミュニタリアンっぽい……。でもイーロン・マスクって、コミュニタリアンっぽくない。もうネオリベの代表みたいなもんじゃないですか。
倉貫:そうですね。
青木:だから、「この人たちがなぜ同じ箱の中に入っているんだろう?」って思うと、たぶん、現状に対する不満を革新的な手法で変えたいってことだけで一致していると思うんだよね。
倉貫:なるほど。
青木:まさにこれって、コミュニタリアンとリベラルが革新だけ、つまりぶっ壊すことだけで握った怖い政権だなと(笑)。
倉貫:そうですよね。トランプさんが再当選したのも、国民がそれを求めているところもありますからね。
青木:だから怖いなと思って。
「革新から保守」ではなく「革新から革新」
青木:じゃあ、その前の民主党政権ってどうだったかなって思うと。バイデンさんが大統領になった時の予備選って、民主党の中でも特に左派のサンダースさんが大人気で。あわや予備選当選かって感じだった時に、最終的には民主党はバイデンで調整がついたと思うんだけど。
つまりその時点で、民主党の中でも左派の人たちの意見を取り入れないと、まとまらなかったのがバイデン政権だと思っていて。つまり、実は革新の中でも、民主党政権もかなり強い革新勢力で政権運営していた。
今回の政権交代は、みんな「革新から保守に」って言い方をしているんだけど、現実には「革新から革新に」なんだよね。こうなっちゃうと、たぶんもう止まらないというか。要は民主党の革新主義が、今回の逆の革新主義を生んだ感じなんだよ、きっと。要するにぶっ壊された人たちがいるから、不満が非常に大きくなる。
だから、保守主義的リベラルかコミュニタリアンかというのは、「それぞれの価値観、どっちが正しい?」(という問いの正解)はないと思うけど。その実現の仕方においては、革新的に物事を変えてしまうことの怖さって、もうちょっと世の中的に共有されていい気がする。
倉貫:そうですね。でも、みんな変化はしたほうが良いって思うじゃないですか?
青木:思うね。
倉貫:変化を前向きに捉えていきたい時に、「凝り固まって」「既得権益を守って」みたいなものに対しては、言葉として保守か革新かっていったら、革新しか選べない。
青木:そうだよね。
倉貫:日本語の問題なのかもしれないですけど。その変え方が、前に進める変え方と……保守は「同じ道を前に進む」って感じだと思うんですけど、革新は「別の道を進もう」ということになるから。
青木:そうだよね。
倉貫:ベクトルが変わってしまうので。行く先がしっかりしていれば、たぶん道は変わらないんだけど、みんなもうわからないところがあるんでしょうね。この道、先に行ってもたぶん(希望が)ないなって。これ、今日のもう1個のテーマが「希望」になりそうな気がするけど。
青木:3回目、希望になりそう(笑)。
倉貫:この道の先に希望があると思っていたら、保守していけるんですよ。
青木:いやぁ、本当にそうだな。
「保守性」とは、変えないことではない
倉貫:アメリカと日本もそうかもしれないけど。「この先、なんか希望がないな……」と思った時に、道を変えたいと思っちゃうんですね。そうすると、もう革新を選ぶしかないと、つい「もうリセットしちゃいたい」感じになる。
僕が保守という言葉を前向きに捉えられるようになったのは、青木さんの影響もあって。「なるほど、保守とはそういうものか」って自分の中でアップデートしたのと、よくよく考えたら、僕はプログラマーなので「保守性を大事に」ってめっちゃ言うんですよ。
青木:それ、めっちゃ言っているよね(笑)。
倉貫:めっちゃ言っているんですよ。「保守性って、保守じゃん」って思って。
青木:確かに。
倉貫:でも保守性って言う時に、「保守性とは変えないことではなくて、後々変えやすくするために、保守性を高くしておこう」と言っているんですね。だからソフトウェアの品質の保守性とは、見通しの良いプログラムやコードを書く、後から変更しやすいデータモデルにする。全部の保守性を高くする。
「保守性を高くしたら何が起きるの?」。いざとなった時に「この機能を追加しよう」「このバグが見つかったから直そう」って時に、すぐ直せる。すぐ直すためには保守性が大事だった。僕、めちゃくちゃ「保守」という言葉を使っていたのに、あらためて「保守って大事じゃん」と思う(笑)。
いろいろな現場でシステムを見ていると、(多くの場合は)リプレイスしたがる。リプレイスって革新なんです。そうではなく、うまくいくのは今あるところを少しずつ、1個1個変えていく。最終的にはテセウスの船じゃないけど、全部が変わっちゃうことはあるかもしれない。でも、一気に変えないのは保守だったなと。
青木:確かに。「保守」「革新」って言うから誤解が生まれるけど、物事を良くするアプローチが、エンハンス(既存のシステムや機器の機能を拡張すること)かリプレイス(古いシステムや機器を新しいものと交換すること)かという感じで考えていけば。
倉貫:そうですね。
青木:やはり本当に僕と倉貫さん、エンハンスで物事を変えていこうとするし。
倉貫:エンハンスしていきますね。
青木:保守性を高めておくと、エンハンスがしやすいから「もう駄目だ」「リプレイスしかない」って絶望をしにくいんだよね。エンハンスでやれる希望があるのは、本当にそうだなと思ったし。
Podcastはこちらから「青木耕平さんとザッソウ第2回 保守と革新、権威と権力」