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作家・ジャーナリスト 佐々木俊尚氏が実践している「情報収集」の最新ノウハウを習得し、 知力を鍛える実践講座(全4記事)

音声メディアの役割は、「情報を伝えること」ではない 文字のほうが認識しやすい言葉を、あえて「音」で伝える意味

スタートアップカフェ大阪が、話題のビジネス書の著者をゲストを迎え、「著書」から学ぶイベントを開催しました。ビジネスシーンで役立つ「情報収集力」「思考力」「発想力」「編集力」について、著者の持つ多角的な視点やユニークな解釈から学びます。記念すべき第1回講座のゲスト講師は、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏。佐々木氏の最新著書、『現代病「集中できない」を知力に変える読む力 最新スキル大全集』から、最新ノウハウを知り「本物の思考力」と「新しい発想力」をつけるために必要な情報収集力を学びます。本記事では、過渡期を迎えた音声メディア・映像メディアの未来を予想しています。

AIが発達した未来で、最終的に残るのは「人間性」

財前英司氏(以下、財前):そうしましたら、次の質問に行きたいと思います。先ほども併せて説明いただいたんですが、本書(『現代病「集中できない」を知力に変える読む力 最新スキル大全集』)には具体的なスキルが満載で、パソコンやメディア、ITツールの使い方など、めちゃめちゃ具体的に書かれているんですよね。それらを駆使して、追求していくのが、先ほどの「合理性の追求」になると思うんです。

AIが発達していくと、AIに仕事が置き換えられた時の話にもつながってくると思うんですが、合理性を追求していくと、最終的に残るのはその人の人間性や、その人にしかやれないことになり、それが価値になってきます。この最終的に残るものとさっきの「概念」や「世界観」とか、自分の中にあるものとの相関関係ってあったりするんですか?

佐々木俊尚氏(以下、佐々木):なかなか難しい質問ですね。

財前:難しい質問ばっかりしていますね(笑)。

佐々木:クラウドのサービスはすごく大事にしています。フリーランスで仕事をしていると、請求書を起こすとか、ありとあらゆる雑務を全部自分でやらなきゃいけないんですよ。昔は、それを全部1人の人間がやっていたら大変だったんですよね。

それこそ1970年代ぐらいまでだったら、フリーのジャーナリストは電話番まで必要だった。携帯電話どころか留守番電話さえなかったので、家で電話番してくれる秘書を雇って、その人に電話を受けてもらって、帰ってきたらその人から連絡を受けるとか。昭和の時代はそうだったんですよね。

ところが今は、クラウドでありとあらゆることができる。請求書も起こしてくれるので、ほとんど雑務がなくなって非常に楽になった。「どんどんクラウドが進化して、あらゆるものがクラウドになるといいよね」と、この前Twitterで書いたら、いわゆるクソリプが送られてきて。「佐々木はそうやって、自分もクラウドに上げればいいんだよ。ははは」と。

財前:それは確かにクソリプですね(笑)。

佐々木:そうはならないですね。結局、人間性だけが残る。

100年後には「原始時代」のような生活が待っている?

佐々木:テクノロジーがすごく進化していくと、テクノロジー自体はどんどん可視化されなくなってくる、という考えを私は持っていて。例えば、みなさんスマホを使っていますよね。でも、スマホってすごく過渡期の電子機器だと思うんですよ。

財前:そうなんですね。

佐々木:たぶん、100年後の人が21世紀の日本の写真を見たら、「お母さん。なんでこの時代の人はみんな御札みたいなのを見てるの?」と言うに違いない。つまり、スマホがもっと小型化されて目に見えなくなるとか、あるいは最近だとAmazon Echoみたいなスマートスピーカーがありますよね。今は円筒形で置いてあるんだけど、あれって別にここにある必要はなくて、壁に埋め込まれてもいいわけでしょ。

そしたら我々は、壁に向かって「アレクサ、明日の天気は?」と聞くと、どこからともなく「明日は大阪は晴れです」と答えてくれる。見えなくていいんです。Appleが来年くらいに出すと言われていますが、次の段階ではARと言われる透過型の眼鏡のデバイスに進化して、小型化されていく。

眼鏡越しに実世界も見えるんだけど、同時にGoogleの画面が見えるとか。そういうものにどんどん進化して、最終的にはコンタクトレンズになり、ひょっとしたら人工レンズに埋め込まれるみたいなね。それは「人間へのインプラント」と言われるんですが、埋め込み型の技術に変わってくるだろうと言われている。

そうすると、たぶん最後は原始時代みたいな生活になっていく。洗いざらしのリネンの服か何かを着て、一見すると野原で暮らしているんだけど、見えないところのバックエンドで高度なテクノロジーが猛烈に動いている、という世界になってくるであろう。

自動化が進んでも、「コミュニケーション」の需要はなくならない

佐々木:そんな世界で、いったい何の仕事が残っているのかと考えるんですね。間違いなく、Excelのセルに数字を埋める仕事はなくなっていると思うんですよ。そんなものは自動化されるのは間違いない。

たぶん、残る仕事の1つはコミュニケーションですよね。よく「AIやロボットが進化すると、どういう仕事が残りますか?」という話になって、その中の1つに、ホスピタリティやコミュニケーションがある。

例えば介護施設では、ロボットがおばあちゃんをお風呂に入れるようになる。力仕事だから。でも、ロボットがお風呂に入れられるとしても、おばあちゃんの手を握って「大丈夫だよ。お婆ちゃん」と擦ってあげられる、人間の介護士さんの仕事はなくならないです。

ファーストフードに行くと、最近はどんどん自動化されていますよね。牛丼の松屋とかに行くと、ご飯をよそうかき氷機みたいのがあって、下に器を置くと上からご飯がドドッと落ちてくる。あれを見るとちょっと食欲をなくすんですが、ああいうふうになっていく。

財前:なるほど(笑)。

佐々木:でも、ファーストフードがどんどん自動化するからと言って、近所にある個人経営のカフェの、いつも挨拶する感じのいいスタッフの存在が不要になるかというと、ならないですよね。そういうものは人間が求めるようになってくる。だから最後はやっぱり、コミュニケーションがすごく大事だよねという話です。

AIが見つけた「傾向」をもとに、人間が「物語」を作る

佐々木:もう1個は、今のAIは機械学習や深層学習と言われているアプローチで、これを超えるものは今のところ出てきていないんですよね。だからAIのことをあまり詳しくない人が、さも「スーパーヒューマンになる」「人間を超える知性だ」とか言っているんだけど、そんなことは、よっぽど新しいブレイクスルーな技術が出てこない限りあり得なくて。

じゃあ、今の深層学習のAIができることは何なのかというと、一番強烈な能力は、人間が見つけることができないような特徴や傾向を発見してくれる能力なんですよ。

1つ例を上げると、有名な話があって。これは日立製作所のAIのチームがやったんだけど、あるホームセンターで1週間くらい実験をして、ホームセンターのお客さんとスタッフ全員に、どこの位置に移動したかがわかるデバイスを身に着けてもらった。

レジで支払われた金額とかを合わせて、どういう場所にスタッフがいた時に売上が上がっていたのか、顧客単価が増えてたかを調べてみたら、特定の場所のポイントをAIが答え出したんです。「この場所にスタッフがいた時に、顧客単価が上がっています」という結果を出した。

でも、それを聞いて店の人がみんな驚いたのが、その場所の意味がわからない。レジの前や人気商品の前、あるいは店の玄関とかわかりやすい場所ならいいんだけど、別になんてことのない商品棚のコーナーの角を指し示してきて、「そんなことあり得ないだろう」と。じゃあ、実際にじゃあスタッフをそこに1週間立たせてみたら、なんと顧客単価が15パーセント増えた。

これは何を言っているかというと、AIの見つけてくる答えって我々には理解できないし、我々には絶対に見つけられないような新しい特徴を発見してくれるんです。だから今後は、我々はその力を最大限に活かすようになる。

ただ、AIが見つけてくれるのは特徴や傾向でしかないんですよ。なんのロジックもない特徴や傾向だけで生きて行くわけにはいかないので、我々にとって生きて行くための、何らかの物語が必要なんです。

AIが支えてくれる社会になっても、自分の中に「物語」を持ち続ける

佐々木:例えば今の世界で言うと、プーチンのユーラシア主義のおかしな物語と、リベラリズムに基づいた自由と平和と人権という西側の国際秩序がぶつかり合っているわけです。それは、物語と物語がぶつかり合っているんですよね。我々自身の中にどういう物語を持って、その物語にどう沿って生きていくのが幸せなのか、そういう内在的な物語がすごく必要である。

実は、ここに書かれている概念や世界観は、まさにその「物語」なんですよね。僕は今ここに来て、いろんなことを考えている。「自分のベースになる世界観って何なのか?」ということを、常に考える。その世界観を自分の中に培っていくこと自体は、自分自身の幸せ、希望、あるいは平穏な日常を支える軸につながっていくんですよね。

だからやっぱり、AIやロボットが支えてくれる社会になっていっても、自分の中に物語を持つことは大事です。物語をちゃんと持つためには、そういう世界観を培っていくことがとても大事であるという話です。

財前:ありがとうございます。日立の実験の話は、僕も何かで見たことがありました。確か全く売上とは関係のない管理部門の女性のところに営業マンをはじめ、色々な人がめっちゃ集まってたんですよね。

佐々木:そうですね。普通は売上が上がったことを「製品が良かった」とか「営業マンが良かった」という結果に持っていきがちなんだけど、デバイスを使って人の動きを調べたら、実はそのチームにはコアになる中年の女性がいた。昔で言う給湯室によくいる人ですね。

その人が人間関係のコアになっていて、みんなと会ってみんなとやり取りしているからチームの人間関係が円滑になって、実は売上が上がっていた。今までだったら、そういう人の価値を測る指標がなかったんだけど、AIによって測れるようになったのは、実にヒューマンでいい話じゃないかということですよね。

財前:そうですね。昔の保健室の先生みたいな感じですかね。

佐々木:そうですね。そうだと思います。

「ストーリー」と「ナラティブ」の違い

財前:品質の追求だけではなく、物語を持つというのが1つのキーワードとしてあるし、最近は商品とかサービスとかでも「ストーリーが大事」だと言われていますよね。

佐々木:そうですね。

財前:水1つ取っても、どこの水もおいしくなってきている。だから最近、まずいラーメン屋さんってないもんですね。

佐々木:ないですよね。

財前:どこのラーメン屋さんで食べても、だいたいおいしいですよね。

佐々木:日本は、ですけどね(笑)。

財前:あぁ(笑)。そうですね。

佐々木:マーケティングの用語では、ストーリーじゃなくて「ナラティブ」と言います。ナラティブとストーリーは違うと言われていて、例えばハリウッド映画やディズニーとかもいわゆる物語なんだけど、自分には関係ない物語。自分が関係ないところでお姫様や英雄が出てきているのがストーリーである。

ナラティブというのは、自分ごと化された物語。要するに、作った物語に消費者も参加できる感じがする。参加の窓口を広げていて、参加した気持ちになれる物語を作るのが大事だというのは、マーケティングでは言われていますよね。 財前:確かにナラティブですね。

佐々木:ナラティブです。

財前:ナラティブという言葉、みなさんも覚えておいていただけたらなと思います。ありがとうございます。次に行きます。

英語と日本語から見る、1文字あたりの情報量の違い

財前:今回は『読む力』ということで、あえてこの内容については言及されていないと思うんですけれども。私も佐々木さんのVoicyを聞かせていただいていますが、音声メディアや映像メディアについては、情報ツールとしてどのように考えていますか? 

佐々木:僕も去年の9月からVoicyをやっているんですが、7ヶ月くらい毎日やっていて、フォロワーは1万2,000人くらい。すごいですよ、フォロワーは1万2,000人なんだけど、毎回聞いてくれる人が5,000人ぐらいいるんですよね。すごくリーチ率が高いというか、フォローしてくれる人の半分近くが聞いてくれています。

Voicyをやっている他の人の話を聞くと、やっぱり再生回数はそのぐらいの数字になるらしくて、聞いている側としゃべっている側がすごく近いメディアですよね。やってみて思ったのは、情報量は少ないです。これは日本語の特性もあって、まず日本語には漢字が入ってきたせいで、しゃべる言葉には同義語が非常に多いです。

ひらがな言葉は同義語が少ないんだけど、漢字の言葉は同義語が多いでしょ。だから、文字で読んだほうが認識しやすい。耳に入るとちょっとわかりにくいんですよね。なおかつ、日本語は中国と同じで表意文字ですよね。要するに、1文字に込められている情報量が多い。これはアルファベットとぜんぜん違う。

アルファベットは、1つの文字に込められた情報量はすごく少ない。Twitterは140文字で、日本人はめちゃくちゃみんな使っていたんだけど、当初アメリカではTwitterはまったく流行らなかった。アルファベット140字では文字量が少な過ぎたんですね。今、英語圏ではツイートの文字数上限が280文字になっているんです。

音声とは、情報を伝えるものではなく「信頼関係を培うもの」

佐々木:日本語は140文字で十分なのが、英語はその倍ぐらい必要であるということを考えると、1ページの中に込められている情報量はすごく多いです。そのぶん日本語は、聞くと読むよりも時間がかかる。たぶん、音で聞くのと読んで耳に入れるのは、英語だと同じくらいなんですよね。

でも、日本語だと読むほうが圧倒的に情報量をたくさん圧縮して読み取ることができるので、単に情報を仕入れるという意味では、あまり音声は向いていないなということは、すぐに気付いたんですね。

財前:なるほど。

佐々木:たまにABEMA Primeやラジオにも出ているんですが、こういった番組ではけっこう早口でしゃべるし、こういうトークでも普通にしゃべるんですが、Voicyでは0.75倍くらいでしゃべります。逆に、情報量を減らしているんですよ。なるべくゆっくりしゃべるようにしている。

なぜかというと、結局は音声って情報を伝えるものじゃなくて、信頼関係を培うもの、信頼を伝えるものなんじゃないかと思います。耳で入ってくる人間の生の声は、機械の音声とか活字で読むものと比べて安心感がありますよね。そうすると、そこにはすごく信頼ができてくるなと思う。 

音声メディアに求められる役割

佐々木:昔、古代ギリシャの哲学者のアリストテレスが『弁論術』という本を書いていて、その中で、人を説得するには「ロゴス」「パトス」「エトス」の3つの要素があると書いています。ロゴスというのは、今の英語でいうとロジックです。パトスというのはパッション、つまり論理と感情。

よくあるんですが、感情だけで言うとどんどん盛り上がるけど、一方で言っていることがでたらめだったりする陰謀論にハマりやすい。かといって、論理だけで伝わるかというと、人は感情を揺さぶられないとなかなか言うことを聞きません。なので、論理だけじゃ伝わらないよねと。

じゃあ、論理と感情という相反するものをどうまとめればいいのかというと、最後のエトスが出てきます。エトスというのは、今の日本語でいうと日常的な信頼関係です。お互いに信頼関係を培っている中で説明されれば、意外と相手に伝わるのではないのか? というのが、アリストテレスの考えです。

このエトスがすごく大事だなと思っていて。特に今は、世論がパッションとロジックの間で分裂してしまってなかなか伝わりにくいし、議論もしにくい状況になっています。

だったらその前に、まずは信頼関係をきちんと培っていくことを考えたほうがいいんじゃないか? 音声メディアというのはそういう役割を持ち得るんじゃないのかな? と考えているんです。ですから、ひょっとしたら動画もそういう方向に僕は行くんじゃないかなと思っています。

過渡期を迎えた「動画メディア」のこれから

佐々木:日本だけではなく世界中がそうですが、今の日本のYouTubeはいわゆるヒカキンさん的な文化があまりにも広まってしまって、割に似たような早口のトーンになってる。

あれはあれでおもしろいからいいんだけど、一方で、もう少しじっくりと語ってお互いの信頼関係を培っていく、動画という生々しいボディランゲージができるメディアの特性を活かしたものが、もっと出てくる可能性はあるんじゃないかなという期待は少ししています。

今はまだ、過渡期だと思います。結局、テレビや映画という動画で作られた文化は巨大なものがあって、未だにYouTubeはそこから逃れきれていないわけです。テレビなどの文化から逃れきった先に、もう一回ゼロベースで「インターネットをベースにした動画文化とは何なのか?」を作り上げることは、今後あり得るのかなと思います。これは単なる期待ですが、そういったことも考えたりしています。

財前:ありがとうございます。「音声は信頼を伝えるもの」というのが、至言だなと思いました。実際にもう1年、しかも毎日Voicyで配信をされていますもんね。

佐々木:そうですね。

財前:いつも「どこから配信しているのかな?」と、けっこう気になったりしています(笑)。時にはちょっと聞こえづらいけど、もしかして山のほうに行っているんじゃないかな? とか思っています。

佐々木:たまに山の中でやっている時がありますよ(笑)。

財前:やっぱり(笑)。

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