2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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佐々木俊尚氏(以下、佐々木):佐々木俊尚です。よろしくお願いします。兵庫県の西脇市生まれで、子どもの頃に大阪に住んでいたのでなじみが深いんです。考えてみると、コロナのおかげでぜんぜん出張がなくて、ひょっとしたら大阪に来るのも2年ぶりぐらいで、初夏の陽気で気持ちいい日に来られて良かったです。よろしくお願いいたします。
財前英司氏(以下、財前):ありがとうございます。じゃあ、関西は久々に来たホームという感じですね。
佐々木:そうですね(笑)。
財前:無理やりですけれども(笑)。じゃあ、今日はよろしくお願いします。最初に申し上げたように、本の内容を全部説明していると何時間あっても足りないんですが、まず最初に本書には、情報収集をするにあたって現代の知的生産に必須の「5つの大前提」が書かれています。これについて質問させていただきながら、お話できればと思っています。
ここは38ページから抜粋しているんですが、メディアを水平的な部分と垂直的な部分、中立的か偏見的の4種類に分けられています。網羅的だけど表面的なニュースや情報が、この「ホリゾンタル(水平)」と言われているような部分ですね。
みなさんにもなじみが深いニュースアプリとかは、ホリゾンタルと言われているような情報で、かつ中立的なものです。もう1つはバーティカル(垂直)と呼んでいる、いわゆる垂直的に情報を掘り下げていたり、より専門的・分析的かつ中立的なものがあります。恐らく、佐々木さんの書かれているTwitterやその他のメディアは、どちらかと言うとこちら(バーティカル)に位置するのかなと思います。
左側にある「偏見的」というところがけっこうキワモノで、ここが今、いろんな分断を生んでいたり、陰謀論とかいろんなことを言われてますが、そういったメディアもたくさんあります。
メディアと言ってもいろんな種類があるということを、まずは前提として書かれているんですね。詳しい内容を話し出すとキリがないと思うので、復習がてらみなさんも家に帰ってまた本書を見ていただければと思います。
財前:最初の質問として、偏ったメディアを見抜く方法を教えていただきたいと思います。「こういうことに気を付けなさいよ」というのは書籍にめちゃめちゃ具体的に書かれていますので、そこはまた読んでみてください。バイアスというのは偏見や思い込みのことで、どうしても我々にはバイアスがあると思うんですが、情報に接する時にそれをどう自覚したり、認知していけば良いのでしょうか。
佐々木:最初からめちゃくちゃ難しい質問ですね。
財前:すみません(笑)。
佐々木:バイアスとか偏見はどんなメディアにもあって、例えば産経新聞と朝日新聞を読んだらどっちにもバイアスがあるなというのは、だいたいみんなわかると思うんですよね。昔は、朝日を取っている人は朝日しか見ない、産経を取っている人は産経しか見ないので、自分の目に偏見がかかっていることに気付かなかったことが多いと思うんです。
今はインターネットのおかげで、ある程度横断的にいろんな新聞・雑誌の記事を見るようになったので、「同じ事象でもぜんぜん書いていることが違うな」ということが明らかに起きてくるわけなんですよ。そこで、どうやってその“曇り”を取り除くかがすごく重要。
こういう話でよく事例に挙げるのが、福島の原発事故なんですね。よく報道されていることで、福島県内の子どもに甲状腺がんが増えているという話がある。実はこれは、医療の人たちからは「過剰診断である」とけっこう批判されています。
要するに、誰でも甲状腺がんの細胞は持っていたりするんだけど、ほっといても発症しないケースが非常に多い。それをわざわざ見つけて「甲状腺がんだ」と診断することで、子どもの精神や身体に過剰な重荷を与えてしまいます。そもそも、原発事故があったからって過剰診断するのはやめたほうがいいという話を、医療系の人はよく言ってるんです。
ただ、甲状腺がんの発見が増えているのは事実なんですよね。そうすると、甲状腺がんが増えているという事実をどう報じるかによって、バイアスのかかり方はぜんぜん違ってくるわけなんですよね。
「増えていて危険だ」と報じるのか、「増えているけど、これは過剰診断の可能性があるのでもう少し様子を見たほうがいいよ」と書くのかによって、まったく違う見方が出てくる。そういうのがメディアの偏見の問題なんですね。
佐々木:最近はよく「フェイクニュースだ」とか言われて、偽の話が出回っているんだけど、わかりやすい偽の話ばっかりじゃなくて。一見事実は事実なんだけど、それをどう見るかによってぜんぜん見え方が変わってくることのほうが、実は深刻な問題なんですよね。
嘘だったら、嘘だってすぐにばれるじゃないですか。でも甲状腺がんの話は嘘ではないので、本当のところ何なのかが見えにくいという、非常に難しい問題があるわけです。財前さんがおっしゃったように、自分の中には必ずバイアスがある。思い込み、ですよね。これをどうするかはけっこう難しくて。
僕がずっと言っているのは、20世紀とかの前世紀。前世紀と言うと、恐竜の(存在していた)時代のように見えますが、21世紀から見れば20世紀はすでに前世紀である。あるいは、昭和時代みたいなもの。その時代に作られた戦後の日本人の価値観があって、我々はそれに囚われているケースが多いんですよね。
わかりやすい例を1個挙げると、ラジオとかのニュース番組で「物価が上がりました。これは庶民の生活を直撃。大変だ」ということを言うんだけど、21世紀的な新しい理解で言うと、物価が上がらないと会社が儲からないので、その会社が儲からないと給料は上がらない。
逆に言うと、物価が上がるというのは、それを売っている会社で働く人の給料が上がることである。つまり、金や経済を回すためにはお金が回らなきゃダメで、そのためには物価が上がらなきゃいけないというのが、今の経済学の主たる理解になってきている。
それこそもう半世紀前ですが、石油ショックの頃の1970年代の頃の常識で「物価が上がる=悪だ」というふうに思い込んでしまっている。だから、頭の中で思い込んでしまっているさまざまなことを一回取り払って、常にゼロベースで考える努力をしなきゃいけないということなんです。
佐々木:例えば「公務員は給料をもらい過ぎだ」とか、確かにそういう時代もありました。でも、今はそんなに給料をもらっていないし、そもそも日本は公務員を減らし過ぎて、他の国よりもぜんぜん少ないんです。
厚生労働省なんかは有名だけど、ブラック労働みたいなことをさせられていて、「公務員は大変だよね」という話になっている。なのにいまだに「公務員は優遇されていて、親方日の丸で楽をしてる」と思いこんでいる人がいっぱいいるわけです。
我々の思い込み、あるいは「紋切り型」という言葉を使ったほうがいいかもしれないけど、紋切り型にだまされてないか、それをいまだに引きずっていないかを常に問い直して、ゼロベースでものを考えることが大切です。
何かを批判する時に、自分の中には批判の根拠になる何かがあるわけですよね。まずは、根拠になるものが本当に正しいかどうかを問い直すところから、偏見を取り除くことが始まるんじゃないのかなと思いますね。
財前:ありがとうございます。最近だと「アンラーン」という言われ方をしますね。「学習棄却」という呼ばれかたとをすることもあります。要はアンラーンとは、今まで学んだことや培ってきたものを棄却する、つまり一度捨てることですね。
佐々木:そうですね。
財前:「わかっちゃいるけど、人間にはそれがなかなかできないのでは?」ということがあります。いわゆるサンクコスト(埋没費用)のお話も、この本の中に書かれていますね。
サンクコストというのは、「これだけ費用をつぎ込んじゃったから、もったいなくて今さらやめられない」という心理のこと。そういうサンクコストについても書かれていますが、なかなかアンラーンはできないですね。
佐々木:そうですね。
佐々木:例えば、ウクライナ侵攻でワイドショーとかのコメンテーターが「ウクライナは降伏しろ」と言っていて、それも安全保障の専門家からすごく批判されているんです。もちろん、戦争はいけないですよ。でも「戦争はやめればそれでいいんだ」という固定観念だけが染み付いちゃっているから、そうなるんです。
でも実際には、ヨーロッパやアメリカのリベラリズムの根幹には「戦争をやめさせるためには、時には戦うことが必要だ」という考えがあるわけです。「侵略に対して戦うことさえ良くない」という日本の考え方は、今の国際情勢の中では異常なんですね。
それもやっぱり、「自分たちが侵略戦争を起こさなければ、世の中は平和になるんだ」という、20世紀的な戦後の日本の価値観です。逆に(言えば)自分たちが侵略される危険性について、一度も考えてこなかったことを引きずっているわけです。
まさにそれはサンクコスト。サンクというのは「沈む」という意味で、形容動詞ですよね。「沈んでしまったコスト」というのは、要するに使っちゃったお金はもう元に戻らない(ということです)。
例えば、ダムを半分ぐらい作ったところで「ダムの建設を中止にしましょう」と言ったら、「いや。今まで2,000億円も使ったのにもったいないじゃん」という話になるんだけど、使っちゃった2,000億円は戻ってこないので、ゼロベースで考えたほうがいいんです。それが、我々の頭の中のさまざまな出来事にも当てはまる。
佐々木:よくある事例で、陰謀論にはまる人が逃れられなくなっちゃうのは、「これだけお金をかけていろんな陰謀論の本を読んで、YouTubeの動画も山ほど見て、時間をかけてはまってきたのに、今さら全否定されたら、これまでやってきた何年かの努力はいったい何なんだ?」という気持ちになっちゃうから、意地になって陰謀論から離れなくなってしまう。
そこはゼロベースで考えて、今までは今まででこれからはこれからなので、新しく学ぶことのほうがおもしろいよね、というか。もちろん、学んできたことは蓄積として大事なんだけど、時にはそれを捨て去ることも大事です。サイエンスと言われる、いわゆる自然科学の世界ではそれが常識です。
よくあるのが、またこれも20世紀的な考え方で、「科学は万能じゃない」ということをみんな言いたがるんです。だけど科学の本質は、「科学は万能だ」と科学を神様扱いすることじゃなくて、今まで作られた理論であっても検証されれば容易にひっくり返してもいいし、常に検証し続けて否定していく考え方がサイエンスの真理なわけです。
だから科学はぜんぜん万能じゃないんです。例えば、ニュートンの物理学がアインシュタインによって乗り越えられたりとか、そういうことが起きるわけですね。もちろん、今までやってきた努力を無駄にするわけじゃないんだけど、古いものを乗り越えてどんどん新しい考えを身に付けていくことに人間の喜びを感じたほうが、建設的だし間違えにくいんじゃないかなと思いますね。
財前:ありがとうございます。いきなりすごく本質的なお話になっちゃいました(笑)。まずは自分自身にも偏見があると認識することが大事かなと感じました。
財前:次のスライドに移りまして、大前提の「アウトライン→視点→全体像」という順番の流れを作るところですね。「『読むこと』の大きな目的は『多様な視点』を獲得すること」とあります。
アウトラインというのは、いわゆる「いつ、どこで、誰が、何を、どのように」という5W1Hで把握すること。そして、その対象の情報のアウトラインを使って、かつ1つの情報ソースだけじゃなくて複数で見ることによって、背景や構図を理解する。1個だけの視点だとやっぱり偏っちゃうので、たくさん視点を獲得して全体像を把握することがまず大事だよと、佐々木さんは書かれています。
そもそも、全体像を知るためにはどれくらいの情報源にあたればいいのか。例えば佐々木さんの場合、「ここを1個見たらだいたいわかる」「2個ぐらい見たらもう把握した」とか、どれぐらいあたればいいんですかね?
佐々木:さすがに2個じゃわからないと思います。
財前:さすがにわからないですか(笑)。
佐々木:僕の今までの経験から言うと、3〜5個ぐらいですね。今ご説明いただいたように、1つの物事について頭の中で立体をイメージするんです。地球儀みたいにね。
地球の真ん中のコアに出来事があって、アメリカ大陸から見たり、日本からも見たり、ヨーロッパからも見たり、南極から見たり、その出来事を地球の表面の至るところから見るイメージをするのが大事なんですね。
でも、じゃあ情報がたくさん出てきちゃったらどうするかという話なんだけど、実はそれって視点、つまりものの見え方なので、実はそんなにたくさんはあり得ないです。じゃあなんで情報がたくさん出てきちゃうのかと言うと、視点が増えてるんじゃなくて、マニアックな情報が増えちゃうんですよね。
「オタク」という言葉がもはや適切かどうかわからないけど、マニアックな情報オタクみたいになっちゃって、枝葉末節にこだわる人っていっぱいいるじゃないですか。そこに行ってはいけない。
佐々木:例えば、ウクライナ侵攻で最近すごく話題になっているのが安全保障の分野でいうと、「なんでウクライナ軍はあんなに強くて、ロシアはあんなに弱いのか」という話なわけですよね。ロシア軍はものすごく強い軍であると思っていたのに、意外にも弱小のウクライナ軍が強硬に抵抗したら、あっという間に首都のキエフから撤退してしまって「ぜんぜん弱かったよね」と。
その時に、実はウクライナ側がここ5年ぐらいですごく軍隊を強くしていたことを分析している人もいれば、ロシアはチェチェンに特殊部隊を送り込んで惑わすような“非正規な戦争”はたくさんしているんだけど、軍隊と軍隊が衝突するような正規戦争は、ここ半世紀ぐらいぜんぜんやってなかったといういくつかの見方がある。
それを頭の中で組み立てる。「なるほど、ウクライナ軍はこうだったのか」「ロシア軍はこうだったのか」「ロシアを歴史的に見ると、そもそもロシアの他国への侵略の仕方はどうだったのか」「なんでロシアはあんなに他の国を侵略しに行くんだろうか」とか、いくつかの視点があるわけです。
そこまではいいんだけど、ここでやっちゃいけないのは、ロシア軍の戦車に異様に詳しくなることとかね(笑)。別に詳しくてもいいんだけど、それは完全にマニアの世界。ミリタリーオタクだったり、軍事マニアだったら戦車を詳しく調べてもいいんだけど。
戦車一個一個を「この戦車はちょっとね。やっぱりウクライナのジャベリンミサイルには勝てない」ということを言い出すと、どんどんマニアックな方向に入り込んでしまって、物事をどう見るかという視点の確保にはつながらなくなってしまう。まとめると、あんまりマニアックな方向に行かないで、あくまでも視点を大事にするということ。
佐々木:「誰から見たらどう見えるのか」という、ものの見方はいくつかある。さっき(情報収集に必要なソースは)3~5個と言いましたが、ウクライナ侵攻だったらウクライナ軍からの見え方、ロシア軍からの見え方、あるいはロシアの歴史的な時間軸の過去からの見え方とか。
いろんな人から見たらどうなるかという視点を確保することが大事なのであって、情報量を増やすことが大事じゃないということは、考えておいたほうがいいかなと思います。
財前:なるほど、ありがとうございます。僕は歴史が好きですが、歴史好きはだいたい幕末好きが多いと思うんです。ただ、どうしても薩長側からの話が多い。
佐々木:そうですね(笑)。
財前:実は会津側から見ると、ぜんぜん違った捉え方ができることってありますね。
佐々木:ありますね。歴史好きな人がよく陥る落とし穴は、英雄物語にはまり込んでしまうこと。勝海舟がどうした、坂本龍馬がどうしたとか。でも歴史学者に言わせると、坂本龍馬って大して何もしていないというね。ただやっぱり、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読んだ人にとっては、「やっぱり坂本龍馬は格好いい」という話になっちゃう。
でも歴史というのは、結局は力学なんですよね。例えば、1860年代に黒船がやってきました。その時に、アメリカやヨーロッパはまさに近代化の道のりを歩き始めた帝国主義の最初の時代で、それに日本という国がなんとか独立を保ったままやっていかなきゃいけないという、国際情勢があったりとか。
その中で江戸幕府が200年以上続いて、実はもう幕末になると、新田開発をしても足りなくなるくらい食糧が追いつかなくなって、山の木も全部切っちゃった。東海道五十三次の昔の絵を見ると、背景の山が全部裸になっていますよね。あれは木を切り過ぎたんですね。
当時は石油もガスも日本にはないから、燃料はすべて炭だったので、木を切り過ぎてエネルギー危機になっていた。そういう、経済的にやばい状況にあったという話とかね。あるいは薩摩とか、今で言う山口県・鹿児島県あたりがなんであんなに力が強くなったのかという、地政学的な背景があったりとか。そういう力学によって、幕末の戦争、内戦が起きて明治維新が起きるんだよねっていうことを学ぶのがおもしろいかなと思います。
どうしても、歴史好きの人は「あそこで龍馬が果たした役割は……」「勝海舟の無血開城が……」という方向に行ってしまう。それはそれで趣味としてはおもしろいんだけど、歴史を学ぶこととはちょっと違っちゃうと思うんですね。
財前:そうですね。ありがとうございます。今おっしゃっていただいたように、こだわることで本質を見誤るところがあるんですね。
佐々木:そうですね。
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