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『マイノリティデザイン』刊行記念連続トークイベント マイノリティデザイン・デイ1日目(全9記事)

家族は近くにいるからこそ、だんだん疲れてしんどくなる 誰かを愛することは、「一番心地よい距離」を見つけること

コピーライター/世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋氏が著作した『マイノリティ・デザイン』。本書の刊行を記念したイベント「マイノリティデザイン・デイ」では、著名人を招いたトークセッションが行われました。1日目となる今回は、作家・岸田奈美氏をゲストに迎え、自分の「弱み」を人に見せることで生まれる価値について語りました。

人生は「近くで見たら悲劇、遠くから見たら喜劇」

澤田智洋氏(以下、澤田):結局どんな人生でも、怒りとか悲しみってゼロではないから。怒りと悲しみって相対的じゃないから、それがけっこう大事だと思っていて。つまり、息子に障害があると言うと「私にはそんな悲しみがない」とか言われるんだけど。

だけど、「その人の人生で一番悲しかったことを大事にしませんか」という話をよくするんですよね。“もっと呪いを大事にする”じゃないけど、「呪いをないがしろにしてない?」あるいは「Twitterで乱暴に(呪いを)放ってない?」みたいな感じ。大切に自分の中で抱えて、出す時にはクリエイト・翻訳する。

岸田奈美氏(以下、岸田):確かに。前にマツコ・デラックスさんが「人はみんな見栄張って生きてんのよ」「もっとしんどいことも大変なこともあるし、弱みもあるんだけど、見えないのがかっこいいのよ」と言ってて。確かにそうだと思うんですよ。

一方で、弱みを見せることがかっこいいっていうのも絶対あるなと思ってて。『もうあかんわ日記』をnoteで書き始めたきっかけは、チャップリンが「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」と言っていて。

人の悲劇も近くで見たらめっちゃ悲しいですけど、メタ的にこの辺ぐらいから見たら、人の悲劇ほどおもしろいものはないと思っていて。ただでは転ばないというか、すべてを生きる活力に。

人はみんな、幸せになるために生きていると思うので、「悲劇が起こっても幸せのために燃料に変えよう」と思っている人こそ、私はこれから「かっこいい」と言われるべきだなってすごく思います。

自分の弱さが、誰かの強さを引き出すかもしれない

澤田:確かに。小学校とかでよく、「自分がいかにポンコツか」という講演をするんですよね。僕はめちゃくちゃポンコツというか、シャワーを浴びていて忘れちゃって、もう3回シャンプーつけちゃう。

岸田:まぁ、あるある。

澤田:お風呂から出た後で、「あれ、ぜんぜんコンディショナー効いてないな」と思ったら「つけてないや」ということとか、よくあるんですよね。みかんだと思って1袋全部食べたらデコポンだったとか、そういうことってよくあるんですけど。

そういうのも含めて、自分はスポーツがいかにできないかという、ポンコツプレゼンをするんですけど。そうすると先生から後で「子どもたちがめっちゃ勇気もらってましたよ」と。

岸田:確かに。

澤田:大人が来てかっこいい話や成功体験の話だけをすると、「僕たち、あんなに立派になれるかな」と不安になる。だけど、今日のポンコツなお兄ちゃんを見たら「僕たちと同じなんだな」「大人も僕たちと同じなんだなと思いました」みたいな。

岸田:いや、大事。澤田さんが本(『マイノリティデザイン』)の中でも、「自分の弱さは、誰かの強さを引き出すかもしれない」と書いてあって、その考え方むっちゃいいなって。

マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう(ライツ社)

弱さってマイナスだけど、マイナスを出すことで誰かも救われるし、自分も救われるかもしれないし。デコポンをみかん(だと思って)全部食べちゃうとか、シャンプー使いまくっちゃうのも、自分にとってはすごくポンコツだし、家にとっては打撃かもしれないけど、シャンプー会社やみかん農家からしたら最高じゃないですか。だって、むっちゃ使ってくれるから(笑)。

澤田:(笑)。

岸田:本当に。同じような弱みを持っている人は、それはうれしいやろうけど。

澤田:わかる。

「1日8回」同じことで褒めてくれた、認知症のおばあちゃん

澤田:おばあちゃん(の話題)が出たから認知症の話をすると、もちろん僕の近くにも認知症の方がいるから、辛いこともけっこういっぱいあるし。例えば男性だと、暴力的になる方もいらっしゃるから一概には言えないんだけど、僕の知り合いの介護士の女性の方は、介護の仕事が大好きで。

なんでかというと、靴を新調して職場の介護施設に赤い靴を履いていったら、おばあちゃんが朝「かわいい」って褒めてくれて。1時間後に会ったら、そのことを忘れて「かわいい」ってまた褒めてくれて、1日で8回くらい褒めてくれたらしいんですよね。

岸田:確かに。

澤田:それに対して、その介護をしてる友達は「認知症ってすごくすばらしい世界だと思う」と言っていて。「何回も感動してもらえるし、私もそれで何回も感動をもらった」という。「なるほど、そういう考え方もあるんだな」みたいな。

岸田:確かに。

澤田:だから、弱さは誰かの強さを引き出すなにかでもあるし。短期記憶がとどめられないんだったら、逆にいうと何回でも人を褒めることにつながるかもしれない。それもさっきの“水”と一緒で、環境が変わるとそれが弱さじゃなくなることもよくありますよね。

「愛する」とは、お互いが心地よい距離を探すこと

岸田:確かに。「強さを愛する」とか「弱さを愛する」とか、いろいろあると思うんですけど。さっきの認知症の話で、私にも(認知症の祖母が)「これあったかくてええわ、ありがとうね」と何度もお礼を言ってくれたりするんですよね。やっぱり家族って近くにいるから疲れていって、だんだんそれも受け入れなくなっていくんですよ。

最近何回も言ってるんですけど、その時に気づいたのが、愛するってことはめちゃくちゃ愛を注ぐことじゃなくて、相手も自分も今、一番居心地よくいられる距離を探すことだから。認知症のおばあちゃんを見てくれる人や喜んでくれる人がいるなら、家族が責任を持たなきゃいけないんじゃなくて、そういう社会のなにかに放流してもいいと思うんですよ。

澤田:ぜんぜんいいと思う。

岸田:障害のある子が生まれたら、家族が絶対面倒を見なきゃいけないとか。でもうちの弟やおばあちゃんって、本当にずっと家族と一緒にいたらしんどいけど、外に行くとユニークなんですよね。

そういう人と出会ったことがない人からすると、「めっちゃおもしろい」みたいな(笑)。私の読者さんとか、おばあちゃんのことをすごく好きなんですけど。

澤田:さっき、才能をスライドするという話があったじゃないですか。関係性をスライドすることも、重要な話だと思っていて。

どうしても「家族だとあかんわ」ということでも、自分の家族を他人に提示したら、患者さんや(施設の)利用者さんになったりするわけじゃないですか。そこでいい関係性が生まれるんだったら、僕はどんどん関係性はスライドしていいと思っているんですよね。

だから別に、家族で全部を抱える必要はまったくもってないし。社会っていろんな人がいるから、スライドしていったらめっちゃハマる環境や人が必ずいるから。

自分の居場所を見つけやすくなる方法は?

岸田:本当にそうですね。でも、その環境を探すことって、簡単にはいかないとは思っています。もちろん急に会社を辞めたりはできないから、空いた時間とかになっていくんですけど。澤田さんを見ていて思うのは、いろんな引用がめちゃくちゃうまいんですよね。

例えばこのマイノリティデザインも、演出がすごくよくて。岡本太郎さんの『自分の中に毒を持て』という本から来ていて。

「みんな身体障害者だ」「それはどんなかたちでも、みんな絶望的なかたちでひん曲がってる」「それを見つめて乗り越えた時に、寄り添って生きていくことが人生だ」みたいな。すげーいい言葉があるんですけど。

澤田さんと打ち合わせしてたら、「宇多田ヒカルさんの『Laughter in the Dark』って言葉と今の岸田さん一緒ですよね」とか。「たった1人のために作られたものだから、喜ばれるし熱狂できる。例えばそういう作品って、『不思議の国のアリス』『くまのプーさん』とかもあるんですけど」とか。異常に(澤田氏の)データベースがでけーなと思ったんですよ。

澤田:本当ですか。

岸田:そう。やっぱりデータベースがでかければでかいほど、居場所を見つけることがうまくなっていくと思うんです。「あー、こういう世界あるんだ」「こういう人いるんだ」「なんでこんなにうまいんやろな」と思ってたら、3ヶ月で200人の障害のある人とか家族に会ったって書いてあって。私と同じでじっとしてられないタイプかって思いました(笑)。

自分の「データベース」を起動させる方法

澤田:回遊魚タイプなんでね。それは障害者だけじゃなくて、その家族や障害者を雇用している経営者、障害者スポーツ団体の健常者のメンバーも含めて200人なんですけど。やっぱり、人ひとりの情報量ってすごくないですか。

改めてその時に思ったんですよね。僕は障害者の育て方がわからないから、障害のある人に「目が見えない息子が生まれちゃって。どうしたらいいと思いますか」「彼はどこで彼女を見つけるべきですか」みたいな、錯乱してたのでとんちんかんな質問をしたんですけど。

みんなすごくデータベースを持っていて。「でも、それって初めて話しました」ということをいっぱい言われたんですよね。つまり人って、問いがあればデータベースがめちゃくちゃ起動するというか。データ同士がウィーンと接続して、検索にかかりやすくなるということなんだと思います。

そう考えた時に、僕もデータベースがあるんじゃないかと思った時期があって。息子が生まれた時、当時僕は32歳だったので「けっこうな年数を生きてるな」みたいな。ぼーっと生きてはいるけれども、いろんな本や漫画を読んでるし、いろんな悲しみも経験してきたし。そう思ったら、データベースがすごく起動するようになったんですよね。

岸田:すごい。

澤田:自分に“鉱脈”があると思ったら。

岸田:それもやっぱり、自分の中にある初期衝動というか、若干執念じみたモチベーションがあるといいですよね。

澤田:そうですね。

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