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『マイノリティデザイン』刊行記念連続トークイベント マイノリティデザイン・デイ1日目(全9記事)

岸田奈美氏、『もうあかんわ日記』は泣きながら書いていた 自分を救うためにこそユーモアが必要な理由

コピーライター/世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋氏が著作した『マイノリティ・デザイン』。本書の刊行を記念したイベント「マイノリティデザイン・デイ」では、著名人を招いたトークセッションが行われました。1日目となる今回は、作家・岸田奈美氏をゲストに迎え、同氏がnoteを書き続ける理由が明かされました。

辛いことがあると、泣きながらnoteを書く

澤田智洋氏(以下、澤田):あとはやっぱり岸田さんは、すべてをユーモアコーティングするじゃないですか。

岸田奈美氏(以下、岸田):ユーモアコーティングがないとね。別に勝っても負けてもないんですけど、本当にただの負け犬みたいな(笑)。「笑われる人じゃなくて、笑わせる人になりたい」というのがずっとあって。

澤田さんは、ユーモアとチャーミングみたいなことをおっしゃってましたけど。ユーモア・かわいげ・爽やかさの3つの神器があれば、大抵のことってなんとかなってしまうというか。あとは自分の捉え方次第なので、大事にしていることですね。

澤田:それこそ、余裕がある状態じゃないとユーモアって生み出せないから。傍から見ると、岸田さんの置かれた状況は到底ユーモアを持てそうにないんだけれども。ユーモアにしてクリエイトするために、余裕を差し込む努力をしているように見えるんですけれども、その辺はどうなんですかね。

岸田:たぶん、ユーモアに変える余裕を持てるのは時間だと思うんですよ。どんなに絶望しても、明日の自分は今ほど泣いてないし。想像したら、明後日や1年後の自分はたぶん泣いてない。

それはたぶん、お父さんが亡くなった中2の時に、1年で涙が止まったというのがあるんですよ。大切な人の死ですら1年あれば乗り越えられるのを、その時に気づいたので。余裕を持つことも、時間だと思うんです。

時間が経てば経つほど余裕が生まれて、ユーモアを足せる。でも、物理的な時間だと思ってたら、意外とキズパワーパッドみたいに、若干その時間を早くできることがあって。辛いことがあると、今はもう泣きながら書いてます。

澤田:なるほど。

岸田:泣きながらうわーって書いて、ダンッてnoteとかに投稿した瞬間に、もう笑い話ですね。

澤田:さっきリハーサルで、『もうあかんわ日記』にすごみがあるという話をしたんですけど、リアルタイムで悲しみがユーモアに変換されていく……。これは表現が難しいな。「たくましさ」でもないな、なんなんだろう。

岸田:魂みたいなところがあって。でもそれは、自分を救うためであって。この田舎の町では、こうしないと誰も私の話を聞いてくれないし。おばあちゃんと話しても、1時間後には忘れてるし。弟も言葉が全部はわからないから、誰かに聞いて笑ってもらわないと一生かわいそうな自分でいちゃうと思った瞬間に、「これを書かないと救われない」と思っちゃったから書いてるけど。

でもそれは、1年間noteを書き続けてたことが当たり前になったからできることでしたね。息するように書けるようになったという。

悲劇も喜劇も、誰かに見せないと「劇」にならない

澤田:なるほどね。さっきチャップリンの話が出てきたけど、最近僕はあれが半分間違っていると思っていて。悲しみは近くで見ると悲劇で、遠くから見ると喜劇と言うけれども、誰かに見せないと劇にならないというか。

岸田:本当にそうですね。

澤田:結局、誰かに提示した途端に、悲劇にも喜劇にもなると思っているから。自分で抱えているうちは、それはただの悲しみとかネガティブ感情。劇じゃないよね。

岸田:わかる、わかる。

澤田:自分の人生を劇化することって超大事で。そのためには、見てくれる人や笑ってくれる人がどこにいるかを知っておくことって大事だなと思いますね。

岸田:わかります。ユーモアを本人に向けるってかなり難しいんですよ。

澤田:難しい。

岸田:ばあちゃんのボケを(本人に)イジったら、バチ切れしてくるから。

澤田:それはそうだ。

岸田:自分を救うためにはやらないといけない。ただ、大事にしているのはばあちゃんを傷つけないようにすること。どっかでばあちゃんがこれを知った時に、「なんか変なことを言うとるわ」ぐらいに一線を越えないようにするのは、ずっと自戒として持ってるんですけど。

だから、ユーモアは話す相手がいないと成立しないというのは本当にそのとおり。「岸田さんみたいにポジティブに捉えられないです」とよく言われるんですけど、ポジティブに話してるだけであって、ポジティブになんて捉えてないですよ。

それをポジティブに捉えられるようになったら、本当におかしなことになる。もしくは全部ポジティブに捉えちゃうような、明石家さんまさんみたいな人だと思うんですよ。

自分の人生を見てくれる“お客さん”の存在

澤田:自分の人生を見てくれる人がいるのが、力になると思っていて。例えば有名な話で、どこかのピアノ教室が教室にカメラを設置して、その映像をピアノ教室の建物の外にリアルタイムで投影する。

教室で弾いてるんだけれども、ピアノ教室の外側で通行人が見てるかもしれないと思うと子どもがピアノをめっちゃがんばる、みたいな。

岸田:あぁ、確かに。私もそのタイプかもしれない。

澤田:今って監視社会だから、それを良くないと見る人だっていっぱいいるわけじゃないですか。でも、良いも悪いもなくフラットに自分の人生を見てくれる存在がいることは、1つ生きることにつながるというか。あなたの人生や振る舞いを見てくれる“お客さん”の存在はすごく大事で。(SNSの)フォロワーが1人いれば、その人かもしれないし。

岸田:確かに。伝えたり見せるためには、絵もあるし漫画もあるし映像もいっぱいあると思うんですけど、やっぱり最初のオールアクセスは言葉だと思うんですよ。

澤田:そう。

岸田:なので私にとって、言葉を書くというのはすごく自分を救う手段というか、書かずにはいられないところがあるので。言葉を定義するとか新しい言葉を生み出すというのは、すごく共感しました。自分の今の気持ちを示してくれる言葉がこの世にない、ということがたくさんあったので。

「絶望を希望に変える言葉ドリル」を解いてみたい

澤田:僕、岸田さんのドリルを解いてみたいって今思ったんですけど。「絶望を希望に変える言葉ドリル」みたいなものを岸田さんが作ったとして、岸田さんにこういうことがありましたと。これをどうやって希望に変えるか、みたいなレクチャーがあって。

答えとして、実はこういうポイントがあって、岸田さんがそれをnoteでどう表現したか。希望に翻訳したようなドリルがあったら解きたいなって(笑)。

岸田:私、けっこう“マジカルバナナ4回後”ぐらいの飛び方をするので(笑)。普通は読んでて「は?」ってなるかもしれない。でもすごくおもしろい。さすがの発想ですね。

澤田:それやりたいなぁ。

岸田:おもしろいな。「お母さんがすごく謝りました」の答えで、「赤べこのように」とか。

澤田:確かに連想ゲームだと4回飛んでるけど、言語化できそうな気配もしますね。

岸田:(笑)。すごくありがたい。

澤田:岸田さんと話してると、どんどんいろんなことが思いついちゃう。思いついちゃうというか、感じるんですけど。岸田さんがすごくいいなって思ったのが、社会人になってしんどかった自分に対して言葉でメッセージを発信した話って、ある種過去の自分に会いに行ってるじゃないですか。

人こそが“タイムマシン”である

澤田:さっき言ってくれた、「どんな辛いことも1年後は笑ってられるんだったら、その1年後の自分を今に手繰り寄せよう」というのは、未来の自分が今ここに来ているわけじゃないですか。

過去の自分に届けに行ったり、未来の自分を今に手繰り寄せたりというのは、岸田奈美という“タイムマシン”だなと思って。

岸田:ありがとうございます。ドラえもん好きなのでうれしいです(笑)。

澤田:(笑)。

岸田:ドラえもんになりたいんで。

澤田:人こそがタイムマシンだと思ったんですよね。たぶん戦国時代に行くことは難しいけど、過去の自分に会いに行ったり未来の自分を今に連れて来たり。自分軸で時空を越えるタイムマシンの移動は、もしかしたらすべての人にできるかもしれなくて。

岸田:できる、できる。

澤田:そこができてるのが、岸田奈美のすばらしさなんだなと思ったんですよね。

人それぞれの違う見方も、すべてが事実

岸田:なるほど。うろ覚えのことも多いから、うそはついてないけど自分で補完をむっちゃしてるんですよ。

澤田:いいんですよ。

岸田:都合のいい(補完)。だからいつか、もしかしたら「いや、こんなふうに言ってなかったよ」「思ってないよ」という人が出てくるかもしれないですけど、人の数だけ物語はあったほうがいいと思っているので。「じゃあ、あなたが思うようにちょっと書いてみてください」とか、どこですれ違いが起きたのかを聞くのが楽しみですね。

澤田:そうですね。黒澤明監督が映画にした、芥川龍之介の『羅生門』という小説があって。山で起きたある殺人事件に対して、証言者が5〜6人出てきて、なぜか死者も証言するというようなチャーミングな映画なんだけれども、みんな言ってることが違うというか。

岸田:そうですね。見方によって違う。

澤田:その映画を見るとおもしろいのが、見方によって違うシーンを全部毎回描くの。映像化しているから、なるほどなと。人によって、事実ってこんなに変わるんだみたいな。

岸田:すごくわかるな。

澤田:ということはすべて事実じゃん、みたいな。

マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう(ライツ社)

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