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『マイノリティデザイン』刊行記念連続トークイベント マイノリティデザイン・デイ1日目(全9記事)

仕事に違和感があるけれど、転職する勇気がない時どうする? 心に“火事”を起こす、人それぞれのトリガーの見つけ方

コピーライター/世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋氏が著作した『マイノリティ・デザイン』。本書の刊行を記念したイベント「マイノリティデザイン・デイ」では、著名人を招いたトークセッションが行われました。1日目となる今回は、作家・岸田奈美氏をゲストに迎え、視聴者から寄せられた質問に答えました。

仕事に違和感があるけれど、転職する勇気もない

澤田智洋氏(以下、澤田):(視聴者からの質問で)「自分の仕事に徐々に違和感が出てきた。でも仕事は変えられない。転職する勇気もない。起業する勇気もない」。わかるなぁ、これいい質問ですね。岸田さんはどう答えます? 「おすすめの第一歩があれば教えてください」と。

岸田奈美氏(以下、岸田):かといって変えられない、転職する勇気もない。たぶん、(状況を)変えられなくて転職も起業する勇気もないっていうのは、ご本人の問題なんです。物理的には変えられるし、転職もできるんですよ。

でもそれができないってことは、この方の中に心の壁があるので。壁ギリギリの、越えなくてもギリギリできることは、なにかあると思うんですよ。例えば、「はい」「はい」と言っていた仕事を1個だけやめてみるとか(笑)。……なんか今、声聞こえた。

澤田:声が聞こえた? 

岸田:聞こえた。誰? 

澤田:え、これが岸田さんのお父さん? 

岸田:そんなわけないじゃないですか(笑)。

逆に「これならできる」という壁を知りたいですね。暗闇だとしんどいな。「ここまでは自分でできるんだな」「ここまではできないんだな」とかがないと、なんにもできない気分になっちゃうのが、私は心配だなと思う。

澤田:確かに。なるほど、いい回答ですね。

岸田:まずはなんなんだろうな。

蓋をしていた「弱さ」にフォーカスを当てた

澤田:僕の場合は、身近な人の弱さを知ったら、もう動き出さざるを得なかったんです。運動が苦手っていう自分の弱さもそうだけど、やっぱり弱さって蓋をして見ないことにするじゃないですか。なかったことにされちゃうというか。でも過去に味わってきた傷って、なくなってるわけじゃないから。

岸田:確かに。

澤田:僕の場合は身近にいた弱さにぜんぜんフォーカスが当たってなかったんだけど、それこそインスタを始めて世界を見る目が変わるように、”弱スタグラム”というのがあったとして。

岸田:弱スタグラム(笑)。

澤田:弱スタグラムという、日々の弱さを投稿するSNSがあるような感覚で生き始めたんですね。そしたら、「実は僕の友人がこれに悩んでたんだ」とか、「僕がこれで悩んでたんだ」というのが、鮮明に見えるようになって。

仕事は仕事でやりつつも、仕事が終わった夜にちょっとそれ(弱さ)に向き合ってみようとか。「週末ちょっとやってみよう」というところから始めましたね。ゆるスポーツは、週末から始めてるんで。そのトリガーは人それぞれですが。

岸田:それぞれですね。

澤田:トリガーが必ずある。

岸田:ギリギリ死なない経験をするとかね。健康診断に行くとか。やっぱり(心に)火事を起こす。奥の手だからよくないけどね。ちょっと追い詰められた時に、「やろうぜ」ってなるからさ(笑)。どうしても変わりたかったら、それ(心に火事を起こす)をやったらいいかもしれない。

澤田:そうなんですよね。今、基本的には平均寿命が長くて、人生って長いっちゃ長いじゃないですか。基本的に人生は、後半にいけばいくほどピンチが増えるじゃないですか。だから今はもしかしたら、質問をくれた方にそこまで深刻なピンチや弱さはないかもしれないけど、人生後半にいくと否が応にも出てくるから。

その時に必要があれば、起業や転職をすればいいんじゃないかなって思います。今じゃなくていいんじゃない。

岸田:まだ勇気が出ないのは、どっかで変化に対してストレスを感じてるところがあると思うんですよ。無理にそれを変えるのも、またストレスな気もするしなと。

50〜60代になって活躍する人・しない人の違い

澤田:DMMの亀山(敬司)会長という方がいらっしゃって。

岸田:引き出しがすごいですね。

澤田:3日前にお話しさせていただいた時に、亀山さんってもうビジネスの世界が長いから、それこそいろんな人を見ているわけですよね。

岸田:確かに。

澤田:亀山さんが言うには、例えば50~60代で今もすごく仕事で活躍してる人って、20~30代の時に、一見するとちょっとのんびりに見えたり、他の人はガツガツやってる中でマイペースにやっていたりとか。他の人がいろんな交流イベントにいって人脈を増やす中で、すごく誠実に仕事をしてきた人だという話をしていて。

結局人生って、もちろん短距離走のこともあるんだけれども、基本的には長距離走だから。短距離だと思って生きたほうがいい場合もあるんだけれども、長距離だと思って走ったほうがいいケースもあると思っていて。

岸田:そうですね。

澤田:亀山さんの話はまさにそうだなと。20~30代で結果を出そうと思って焦った人たちは、どんどん脱落していくという話をしていたので。だから別に、今すぐ転職や起業を考えないで、もうちょっと長距離走で働くことに向き合ってもいいんじゃない? 競技を変えてもいいんじゃないかな? とは思いますけどね。

岸田:確かに。本当にそのとおりだと思います。

岸田氏の弟が、“宇宙から地球に持ってきた”もの

澤田:というわけで、時間がちょっと押しているので最後に。今日、どうでしたか?

岸田:楽しかったです。いろいろ話そうと思ってメモってたこともあったんですけど(笑)。「才能のスライド」という考え方が本(『マイノリティデザイン』)に書いてあって、やっぱり自分がやってきたことは間違ってなかったなって、すごく褒められた気分になったし。

マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう(ライツ社)

私は福祉のことをやっていて、それを今作家にスライドしてる。文章がうまい作家っていくらでもいるけれど、福祉のことをこれだけやって、家族にも障害があって、それをユーモアに変えた作家はなかなかいないので、たくさんの人に読んでもらえて。

しかも本じゃなくてネットでとなると、それもまた、本でやってたことをネットにスライドさせたり。「じゃあ、弟はなんなんだろうな」って思ったら、たぶん弟はそもそも、宇宙で生かしてた才能を地球に持ってきちゃった人なんですよ。

澤田:おぉ〜、おもしろい。

岸田:みんな言うわけですよ、「しゃべり方がわかんない」「弟とコミュニケーション取るのが難しくて」とか。最近私、弟のことを「障害者」と言うのもちょっと違和感があって。

澤田:わかります。

岸田:いまだに言葉なんかに頼ってる、私含む全世界の地球人にとって都合の悪いことを、障害って言ってるから。障害者っていう言い方が弟に失礼だなってちょっと思っちゃったんですよ。

とはいえ、その言葉は法律で決まってるので使うんですけど。だから弟は、別に言葉なんかに頼らなくても、人をちゃんと見て、見よう見まねで真似をしたり。喜んだり悲しんだりできる能力を持ってて、それを地球に持ってきてくれた人。

だからあれだけ愛されるし、家でほっとするんだろうなって。だってそれはたぶん、宇宙や動物界では当たり前なんですよ。自然界では言葉を使わないっていうのは(当たり前)。

言葉もすごく大事だけど、その大事さを言葉に頼ってる地球人のために持ってきてくれた人なんじゃないかなって思うと、見えることがすごく変わってきたので。「才能のスライド」は、この本の中で私が一番うれしかった言葉です。

澤田:ありがとうございます。岸田さんは見事にスライドさせてるし、おそらくこれからもスライドし続けるんだろうなと思っています。でも、意外とまだまだスライドしてない人が多いし、しちゃいけないんじゃないかと思ってる方も多いけれども。

でも思い切ってしてみると、一時的に敵は増えるけど、長い目で見たら味方も増えるし。さっきの話じゃないけど、人生は長いから。別に会社を辞めなくてもスライドもできるし、僕は辞めてないわけだから、いろんなスライドのさせ方がありますもんね。

自分の傷や痛みに向き合う「自分回帰」

澤田:僕が今日岸田さんと話していて一番印象的だったフレーズは、やっぱり『もうあかんわ日記』を泣きながら書いてるというところだったんですね。

岸田:いや、本当に泣いてますよ(笑)。

澤田:「若干乾いたかな」ぐらいで、ようやく筆を執るのかなと思ってたから。

岸田:ぜんぜん、ぜんぜん。

澤田:結局僕は、「スーパーマンはいない」という話だと思っています。もちろん岸田さんも1人の格闘する人間で、でも岸田さんがスーパーマンじゃないって思えたほうが、安心したというか。

岸田:ありがとうございます。

澤田:あんなにすげえ文章で、すべての悲劇を瞬時にユーモアに変えて提示できるって、「スーパーマンすぎてやべえ」と思ってたけど。「あ、泣きながらなんだ」と思ったら、ちょっとほっとしたというかね。

他人のことはすごく見えちゃうけど、それぞれのがんばり方や工夫の仕方をしてるだけで、結局みんなスーパーマンに見える人間だから。また人間の可能性に戻るけど、悲しみを笑い飛ばすことも含めて、それって一人ひとりができることなんだろうなと思います。

だからやっぱりもう1回自分に立ち返って、自分を信じて自分の心に火をつけて、自分の傷や痛みと向き合って。「自分回帰」みたいなことがすごく大事なんじゃないかなと今日思いました。

岸田:すごくうれしいです。ありがとうございます。

澤田:これからもいろいろ、作品やクリエイトされるものを楽しみにしているし、またぜひ対談させてください。

岸田:マイノリティデザイン、続くんですよね? 

澤田:続きます。今も毎日マイノリティデザインをしてます。

岸田:毎日マイノリティデザインをしています(笑)。連続で聞かれる方もたくさんいると思うんですけど。

澤田:あ、そうです。ごめんなさい。(イベントを)4日間やりますんで。

岸田:なるほどね、澤田さんの状態じゃないですよ(笑)。企画の話。

澤田:ごめんなさい、最後にイベントの告知に持ってってくれたんですね。「マイノリティデザイン・デイ」、あと3日間やります。こんな感じでまったく台本がない状態でやっていきます。台本があると台本以上にならないから、ないほうがいいなと思っています。

今日……“おばあチャンス”は0回。

岸田:おばあちゃん今日0。調子いいですね。

澤田:0回だった。本当に今日は長丁場で、100分ぐらいになっちゃいましたけど。

岸田:確かにそうだ。

澤田:どこを食べても栄養になるような話を、本当にありがとうございます。ぜひ引き続き会話させてください。

岸田:こちらこそありがとうございます。

澤田:というわけでみなさん、岸田奈美さんでした。

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