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『マイノリティデザイン』刊行記念連続トークイベント マイノリティデザイン・デイ1日目(全9記事)

同じ傷を持つ人が、“幸せの抜け駆け”をすることが許せない マイノリティの人々が抱える「永遠の課題」

コピーライター/世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋氏が著作した『マイノリティ・デザイン』。本書の刊行を記念したイベント「マイノリティデザイン・デイ」では、著名人を招いたトークセッションが行われました。1日目となる今回は、作家・岸田奈美氏をゲストに迎え、自分の弱さや傷をクリエイティビティとして発揮する方法を明かしました。

同じ傷を持つ者同士が、足を引っ張り合うこともある

岸田奈美氏(以下、岸田):あんまり表立っては言わないんですけど、たまに思うのがやっぱりマイノリティって……。

もちろん、同じ傷がある人の助けになるとか、障害のある人の勇気になることがほとんどだと思うんですけど。私の弟やお母さんのことを見たら、マイノリティじゃないですか。マイノリティの足を引っ張るのがマイノリティのこともあるな、というのはけっこう思います。

澤田智洋氏(以下、澤田):よくあります。

岸田:私は、それは呪術師かクリエイターかの違いだと思っていて。呪術師の方々も悪気があって呪術をしてるわけではなく、不幸からの抜け出し方を知らないんですよ。

だから私を見た時に、「お前の障害なんて軽いだろ」「そうやっておもしろおかしく書かれることがすごく迷惑」「自分は障害のある家族がいて、すごく不幸だし暴力も振るわれた。いろんなことを我慢して結婚とかもできなかったのに、あなたがそうやってポジティブに書くことで『障害のある家族ってこんなに楽なんだ』と思われることが辛い」という連絡とかがくるんですよ。

(Twitterの)フォロワーが増えてくると、リプライを追いきれないから、管理ツールを入れてるんですよ。悲しいことにブロック数とかもわかるんですけど、けっこう弟のことやお母さんのことをnoteを書いたり呟く度に、ブロックされてて。

本当はそんなのもう、別に私はまったく怒らないし傷つかないし、「そら、そういう人もいるだろうな」と思ってたんですけど。どういう人がブロックするのかなと思って見たら、病気や障害のある家族がいる方だったり。同じ障害のある人はもう仲間だと思ってるから、仲間が勝手に幸せになると辛いっていう人もいらっしゃって。

「あぁ、それもそれでやっぱり傷だよな」と思ったから。マイノリティの人がみんな同じマイノリティを応援してるかと言うと、そうじゃない現実もあるし。受け入れないといけないことだなと思った。

澤田:かなり永遠の課題ですよね。

岸田:そうですよね。本当にそう思う。

自分の感情を「増悪」にするか「贈与」にするか

澤田:僕の息子は先天的に全盲なんですけれども、先天性か後天性かで対立が生まれるというか。

岸田:それはめっちゃある。

澤田:「どっちのほうがしんどいから偉い」みたいな。

岸田:そうですよね。そうだと思います。

澤田:わかるんですけど。やっぱり、比べられる相手がちょっとだけコンディションがよいと、憎悪がめっちゃ発生しやすいから。だけどそれを岸田さんは贈与にしているわけじゃないですか。

岸田:まぁ、まぁ。

澤田:憎悪にするか贈与にするかが、呪術師とクリエイターの差だと思っていて。でもそれってやっぱり、誰にでもできるわけじゃない。だけど誰かがクリエイトしているのを見るのは、間違いなくヒントになるから。

岸田:そうですね。それ(クリエイト)を見た上で「贈与じゃない」となったら、自分のことをやればいいわけだし。

澤田:おっしゃるとおり。でも、呪いにかかって余裕がまったくゼロだとしたら、本当は学べるはずなのに、岸田さんのクリエイトを見ても全部弾き飛ばしちゃっているのがもったいない。けど、その気持ちもわかるというか。

岸田:本当に。そういう場合は、時間の問題なんですよね。見なくてもいいかもしれないですけど、いつかそういう自分を受け入れられる日があるかどうかという。「来たらいいな」と祈ることしかできないですけど。

「身近な人のため」以外の活動では、馬力が上がらない

澤田:でもなんだろうな。本当に、岸田さんは岸田さんのために活動すればいいと思います。

岸田:(笑)。本当に私は私のためにしか動いてないんで。他人のこと……一時期、「みんなのために」って思ってたんですけど。みんなのために、障害のある人のために、ダウン症の人のために、1人親家庭のためにってやると……。

私が一番力を発揮するのって、顔も名前もわかって、どういうことを考えてるかだいたい想像がついて、どういうことを喜ぶかもわかる、「この人を喜ばせたい」って思った瞬間に、クリエイティビティがパンッてすごい破裂するんですよ。

なんだけど、みんなを救いたい、日本を救いたい、障害者を救いたいってなった瞬間に、急に対象が見えなくなるんですよ。「……誰?」みたいな(笑)。「車椅子の人でも、いけ好かないなと思って喧嘩した人いるしな……」と思っちゃうんですよ(笑)。

そうなると、急に馬力が下がっちゃうので。私が楽しめば、私と同じような人も一緒に楽しんでくれる。結果的にそれに乗っかってくれる人もハッピーになる状況が、一番私にとっての理想です。

澤田:それでいいと思う。「私のために」という第一人称の仕事か、「あなたのために」という第二人称まででいいと思うんですよ。それがあなたたち・社会という第三人称になっちゃうと、もうわけがわからなくなっちゃうし。

岸田:本当にそうですね。

「ブッダですら、すべての人は救えない」という逸話

澤田:ブッダの逸話で、ブッダも全員は救えないという説があって。例えば砂浜って砂がいっぱいあるじゃないですか。ブッダは手が2本しかないから、物理的に両手の上でしか砂をすくえない(救えない)。

これはもう1個逸話があって、手の甲を上にするともっとすくえないじゃないですか。ブッダでさえ、手を上にした状態ですくうぐらいしか全体から救えないという逸話があって。2500年続いてる仏教が、砂浜の中から手の上に乗ってる砂しか救えないんだとしたら、僕ら衆生の悟ってない人って、1粒ぐらい救えればいいんじゃないかと思っている。

その1粒は、自分でもいいし家族でもいいし。だから岸田さんは、ある意味お母さんをすごく救ってるじゃないですか。僕は岸田さんのアウトプットした言葉しか読んでないから、認識は間違ってるかもしれないけど。

岸田:いえいえ。

澤田:「奈美ちゃんに救われた」みたいな言葉がいっぱいあるじゃないですか。だから、岸田さんはお母さんを救った時点で、ある種もうブッダなんですよ。

岸田:ありがとうございます。うれしい。

澤田:ある種の上がりというか、あとはもう人生ボーナスだから。だからもう「みんなのために」とかまったく考えなくていいんじゃないかなというのは、ここで強調しておきたいですね。

岸田:「救われた」って言われたらすごくうれしいから「ありがとう」って言うんですけど、「救う」という言葉はあまり使わないんですよ。

澤田:わかる、わかる。

「わかってほしい」と「私の何がわかるのか」のジレンマ

岸田:勝手に私のことを見て救われる人がいたらうれしいなとは思うけど、私が救おうとするなんて、なんておこがましいんだってすごく思っちゃうんですよね。何に困ってるかなんて、本当にわからないし。障害者や病気の人って、すごく複雑で。「わかってほしい」というジレンマと……。

澤田:「私の何がわかるのか」ですよね。

岸田:「んなこと言ったって、私のことなんかわかんないだろ」というジレンマを抱えてるから、めちゃくちゃややこしいんですよ。

結局この人はこの人自身に救われることでしか乗り越えられないから、なにもできないんですよ。なので、そんなつもりなかったけど結果的に救われた人がいたというのが、一番うれしいかもしれないですね。

澤田:そうだよ。だって、救おうと思って救える人って超少ないからね。ナイチンゲールとかガンジーレベルじゃないと、戦略的に救えないから。

岸田:戦略的(笑)。戦略的に救うのもどうなんだろう。

自分宛てに書く企画書「自分御中」

澤田:(笑)。イギリス軍がめちゃくちゃインドを支配して、経済的にもいろんな制裁を加えている時に、ガンジーは断食を決行して。

岸田:あぁ、そうだ。そうだ。

澤田:「お前らが(争いを)やめなければ、俺は死ぬ」と言ったら、みんなが「おぉ〜」となって。それは戦略的にインドを救おうとしているからだよね。

でもそれは、一部の人にしかできないから。他者を救うのはおこがましいんだけれども、自分を救うことはできると思うんですよ。結果が伴うかはさておき、姿勢は作れるし。その姿勢をまずは保つことが超大事だと思っていて。

岸田:私にはないなぁ、それは。

澤田:僕の場合は「自分 御中」という、自分に企画書を書いてるんですけど。明確に自分を救うんだという、たぎる思いがそこにあるというか。「自分が自分を救わなくて、誰か救うの」という感じだから。

岸田:やっぱり、救われるのを他人に任せちゃだめですね。

澤田:そう思う。

マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう(ライツ社)

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