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限られた時間で成果を上げるドイツ式仕事術(全2記事)

日本の職場にありがちな「指示待ち部下が多い」問題 ドイツのマネージャーに学ぶ、自律型組織のヒント

「仕事が終わらず残業してばかり」「がんばっているのに成果が上がらない」こんな悩みを持つ人も多いのではないでしょうか。今回は、『ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密』著者でドイツ式ライフスタイルコーチの西村栄基氏にインタビューしました。本記事では、残業せずに結果を出すドイツ人の習慣や日本人との働き方の違いに迫ります。

ドイツと日本、マネジメントの仕方の違い

——前回、残業せずに成果を上げるドイツ式のタスク管理やスケジュールの工夫をお話しいただきました。ここからはマネージャーの働き方についてもおうかがいできればと思います。ドイツと日本では、マネジメントの仕方にどんな違いがあると思われますか? 西村さんが日本からドイツに行かれて感じた点を、おうかがいしたいです。

西村栄基氏(以下、西村):ドイツのマネージャーは「マネジメントの専門職」という位置づけがほとんどだと思います。対して日本の場合は「プレイングマネージャー」と言われるように、自分もタスクをするし、かつ部下の管理もするスタイルがけっこう多いのかなと思います。

そういった意味で、ドイツのマネージャーはマネジメントのプロフェッショナルなんですね。なので、1on1などで部下がどういう働き方をしているかや、どういうタスクに向いているか(を見ています)。

あとは仕事の受け渡しの時に問題が起きないように、常にチーム全体を見ています。そういうマネジメントを徹底しているところが1つあると思います。

一方、個々の仕事に対して細かく指示を出すかというとそうではなくて、それぞれのメンバーがプロフェッショナルであるという意識も徹底しているので、ある程度メンバーの自主性に任せています。

日本の職場にありがちな「指示待ち部下が多い」問題

西村:最近は「自律分散型組織」という言い方がありますけど、それぞれが自律して働きながら、組織として、トータルでアウトプットできる状態。そこがスムーズに回るような、潤滑油的な役割をしているのがドイツのマネージャーのイメージです。

一方、日本の職場では「指示待ち部下が多いんです」という悩みをよく聞きます。それはまさに指示されたことはやるけれども、指示されないことはやらないということですね。

上司は仕方なく細かい指示をして、指示されたほうはそれだけをやるとなると、部下は「自分で考えて何かをやろう」というマインドになりません。すると上司の負担もどんどん増えていくサイクルになるので、(日本とドイツでは)そこの違いがすごくあると思いますね。

——日本でもその部分で悩まれているマネージャーの方は多いと思いますが、どうやって解消していったらいいのでしょうか。

西村:そんなに簡単にはできないと思うんですけれども、結局ドイツでの働き方を見ていると、「私はこの仕事のプロフェッショナルです。なのでここはきっちり仕事をします」と、それぞれが自分の仕事に誇りを持ってやっているんですね。ある意味、ドイツ人はそういう勤勉さはすごくあるんです。

なので、日本でもそれぞれのメンバーが自分の仕事に対して誇りを持ってできるようなモチベーションアップができると、自然に指示待ち部下がいなくなって、自主的に働いていく人が増えてくるんじゃないかなという望みがありますね。

仕事は「タスキを渡す」イメージで

——先ほど、ドイツではジョブ型の働き方がされており、ジョブディスクリプションに書かれていない仕事を頼まれたら「それは私の仕事ではありません」ときっちり断るとおっしゃっていました。日本でこれをやったら、誰もやりたがらない仕事が生まれて、なかなか回らないような気がしてしまいますが、うまくいく秘訣があるのでしょうか?

西村:そうですね、やはりそこはマネジメントの仕組みで押さえるということです。どんな仕事でも1人で完結するものはなく、関係者がいるはずですよね。どんなタスクにもインプットとアウトプットがあって、自分のやることをやって次の人に渡すという「タスキを渡す」ようなイメージです。

駅伝ではそれぞれの区間を走る人が決まっていて、タスキを渡すところはある程度オーバーラップして渡しますけど、渡すほうと渡されるほうのギャップがあると、その間でタスキが落ちてしまいますよね。

だから、そこを拾い上げることやそのギャップをなるべく埋めようと仕組み化するのがマネジメントの仕事です。そういう役割分担がしっかりしているところが(日本とは)違うと思いますね。

“話し合いの場”でドイツのマネージャーがやっていること

——そのために、マネージャーは具体的にどんなことをされているのでしょうか。

西村:1つは、月1回程度の1on1で一人ひとりと面談すること。その中でそれぞれのメンバーが今の仕事に対してどういう課題を感じているかや、どういうことをやりたいか(を聞きます)。その人がどういう特性を持っていて、「ここをもっと伸ばしてあげたらいいのでは」というのを見極めるところからスタートできるんじゃないかなと思いますね。

あとは会議を減らすとは言いましたけれども、必要に応じてグループで話し合いをします。話し合いで一番日本と違うと思うのは、マネージャーがオープンに話せる雰囲気作りをすごくしていることです。

よくあるパターンだと、たくさん発言する人や強烈なキャラクターの人が、その会議の場を支配してしまう(笑)。要するに発言の割合が偏ってしまうところがあると思うんですけど、みんなが話せるような雰囲気作りをするとか。

あと権威勾配って言いますけど、「上司の前だからちょっと遠慮して言えない」みたいなことがなくなるような雰囲気作りをする。会議の場だけではなくふだんの仕事でも、そういうフラットな関係性を築いていくことです。

「この会議の場では何を言っても大丈夫ですよ」「自分の意見を素直に言っても大丈夫ですよ」という心理的安全性の高い雰囲気作りがふだんからされているところが、違うのかなと思います。

そもそも、ドイツの場合はマネージャーが専門職だという話をしましたが、マネジメントをするに値する能力や人格を持ち合わせている人しかマネージャー職にはならないんですね。

たまたまなったとして、うまくマネジメントできていないと自然淘汰されるというか(笑)。職場からいなくなったり、違う職種になる体制ができています。なので、機能している組織には基本、良いマネージャーしかいないんです。

トラブル発生時のマネージャーの動き方

——ドイツではマネージャーは専門職であるとのことですが、マネージャーにはどんなスキルが必要とされていますか?

西村:ちょっと一般化するのは難しいですけれども、やはりマネジメントは人と接してなんぼなので、一般的に言うとコミュニケーション能力であったりとか。もう少し細かく言うと、例えばチームの中でのトラブルを収める力。

あとは広い視野を持って全体像を眺めて、うまくチームとしてトータルのアウトプットを出せるようなことを常に考えている人。

ミッション・ビジョンといった話ですと、チームとして何を目指すべきか。目標は何か、ゴールは何かという、少し上位の抽象的な概念の目標を設定できる人がマネージャー候補として選ばれます。

あとマネージャーになる段階や、なったあとも教育制度があります。外部の会社に委託することが多いんですけど、マネージャーの専門性をより高めるような教育も継続して受けています。

——マネージャーになるにはチームの中でのトラブルを収める力も必要とのことですが、ドイツの職場ではどんなふうにトラブルに対応されているのでしょうか?

西村:トラブルが起きた時には、まずは事実関係を整理することを重視します。リーダーの役割としては、いきなり「この責任者は誰だ」とはせず、「まずは現状を把握しましょう」と言って、原因を突き止める。

リーダーシップのとり方は平時と緊急時で使い分ける

西村:一方で、火を消すために「今できることは何か」に集中する必要があります。メンバーに対して「君はこれをやってください」とその時だけは細かく指示を出して、強いリーダーシップを発揮するんです。

なのでふだんはメンバーの自主性に任せていても、いざトラブルがあって緊急対応しなきゃいけない時には、強いリーダーシップを発揮するという使い分けができていると思いますね。

——なるほど。ここまでマネージャー目線でのお話をうかがってきましたが、日本でドイツ式の働き方を取り入れる時に、企業側が意識したほうがいい点はありますか?

西村:最近日本でも話題になっていますが、これから個性を活かした時代になってくると思います。それぞれの強みを活かせるような役割分担であったり評価制度は、日本企業も取り入れられるかなと思います。

ジョブ型にするとわかりやすくそれぞれの専門を規定できるんですけど。そこまでいかなくても、画一的に役割を分散するのではなく、メンバーそれぞれの個性を活かしながら組織としてアウトプットを出せるような評価制度や組織作りが浸透すると、だいぶ効率が上がってくるんじゃないかなと思いますね。

「仕事中心」ではないドイツ人のキャリア観

——今「人生100年時代」と言われている中で、ドイツ人がキャリアを考える上で大事にされているポイントはありますか?

西村:実はドイツ人の生き方という意味では、どこまでいっても仕事中心ではないんですよね。人生をトータルで見て、仕事とプライベートのバランスを取りながら働くところが1つポイントになると思います。

かつては日本ではキャリアプランと言うと、どんどん会社の中で出世してキャリアアップしていくイメージがありましたよね。ドイツの場合はあまりそういう意識はなくて、「自分らしく生きるために、仕事はどういう位置づけか」と考えるので、みんなが必ずしも出世を望んでいるわけではありません。

また、日本人が考えるキャリアの定義よりもすごく広い範囲で、「それぞれの人生のステージに合わせて、どういう働き方が適切か」といった、人生全般で見た上でのキャリアを考えていると思います。

例えば独身の時、結婚したあと、子どもを持ったあと、子どもの成長に合わせてどんな仕事をするべきか、どれぐらいの収入があるべきか、そのためにはどんな経験をすべきかを考えます。場合によっては転職や、同じ会社でも職種を変えながら、臨機応変にキャリア設計をしていると思います。

「仕事の効率化」は自分の人生を充実させるためにある

——最後に西村さんからお伝えしたいことはありますか?

西村:インタビューを受けると、最後によく「日本のビジネスパーソンに対してのメッセージはありますか」という質問を受けます。

その時にお話しするのが、やはり働き方の部分ですね。私の本も『ドイツ人のすごい働き方』という働き方のテーマではあるんですけれども、働き方を見直すことによって、ご自身の人生全般を考え直す機会にしていただきたいなと思います。

なぜかというと、そもそもこの本で本当にお伝えしたかったメッセージは、やらなければいけないタスク・仕事を効率化することによって生み出された時間を、もっとご自身の人生を充実させるために使っていただきたいということなんですね。

それは趣味や家族との時間を増やすことや、ご自身が成長するための学びの時間に使うこともあると思うんですけど、あくまでも目的としては「人生を充実させるために仕事の効率を上げましょう」ということです。

仕事を中心にした人生ではなくて、人生のために仕事があると考えるきっかけにしていただければ、というのがお伝えしたいメッセージです。

——西村さん、ありがとうございました。

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