「仕事が終わらず残業してばかり」「がんばっているのに成果が上がらない」こんな悩みを持つ人も多いのではないでしょうか。今回は、『ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密』著者でドイツ式ライフスタイルコーチの西村栄基氏にインタビューしました。本記事では、残業せずに結果を出すドイツ人の習慣や日本人との働き方の違いに迫ります。
勤勉なイメージのドイツ人だが、日本人とはまったく違う
——日本人とドイツ人は「勤勉」「真面目」といった似た気質を持つイメージがありますが、西村さんがドイツで働き始めてギャップを感じた部分はありますか?
西村栄基氏(以下、西村):はい。私はドイツに住むことになって、合わせると17年になるのですが、「日本人とドイツ人は似ている」というイメージはぜんぜん違うと思っています。「ドイツ人も勤勉でしょ?」と言われると、「うーん、確かに勤勉と言われると勤勉だけど、日本人とドイツ人の勤勉さって違うなぁ」と感じています。
日本人の場合は「滅私奉公」という言葉があるように、自己犠牲をして尽くすみたいな勤勉さがあって、要するに働きすぎてしまうんですね。それに対してドイツ人の場合は、与えられたタスクを定められた時間内に終えるところはすごく勤勉なんですけれども、それ以上でもそれ以下でもないという感じです。
タスクにしても、「その期日までにどうやっても達成できないだろう」という時は、期日自体をずらしてしまうところがありますね。自分で勝手にずらすんじゃなくて、もちろん上司やお客さん、関係者と相談して、ちゃんと理由を説明した上で、自分のできる範囲の中での作業をこなすみたいなところが1つの違いです。
あとは、日本の場合は真面目に働いていると言っても、「自分がやりたいから」というよりも、「周りからこう見られているから」と、周りの目線を気にしながら働いているところが、ちょっと違うかなと。ドイツ人は、そういう周りの目はまったく気にしないんです。
残業せずに結果を出すドイツ人の働き方
——「周りの目はあまり気にしない」ということなんですけど、ドイツ人はどういった部分を大事にされているんですか?
西村:やはり仕事とプライベートをきっちり分けるということですね。なので基本的には残業がなくて、定時の中で仕事を終えるんです。
今は日本でもだいぶ働き方改革で減ってきているとは思いますが、サービス残業があったり、自分の仕事は終わっているのに「上司がいるからちょっと帰りづらい」とか。周りから「なんであの人だけ早く帰るの?」みたいに見られるのが嫌で、仕事をやっているふりをするみたいなところがあるかもしれませんね。
——西村さんは28歳の頃に初海外出張でドイツに赴任されたとのことですが、最初はどんな思いでしたか?
西村:そうですね。その時は驚きと「悔しい」みたいな感情が出てきたのをよく覚えています。私は当時、すごく残業続きで、時には休日出勤みたいなこともやっていたのに、ドイツで働いている人たちは余裕で楽しそうにやっているし、その割にはちゃんと結果も出している。そのギャップに悔しさを感じましたね。
効率が悪く残業せざるをえない日本人の働き方
——なるほど。そういった悔しさがきっかけになり、ドイツの働き方に注目されるようになったんですね。逆に日本人とドイツ人で共通している部分はありますか?
西村:共通しているのは、定められたルールを守るところですね。でも、ドイツ人はルールがあれば守るんですけど、ルールがないところは一切守らなかったりします(笑)。
私が30年ぐらい前にドイツに来た時には、すでにジョブ型の働き方でした。ジョブ型は「職務定義書」(ジョブディスクリプション)が定義されています。例えばセールスアシスタントという職種では、事務の仕事や営業のアシスタントの役割があります。
ジョブディスクリプションでは、「ここに書かれていることはやります」と事細かにタスクが明文化されているんです。逆に言うと「そこに書かれていないことは一切やりません」ということなんですね。
例えば、今は日本でもだいぶなくなっていると思いますけど、お茶汲みの仕事。「お客さんが来た時にお茶を出してね」というのは当然ジョブディスクリプションに書かれていないので、もし頼まれたとしても、「それは私の仕事ではありません」ときっちり断るところがありますね。
——西村さんは、日本人の働き方はどんな部分に課題感があるとお考えでしょうか?
西村:やはり労働時間の部分ですかね。まだまだ残業をしている人が多いというところで、結局悪循環になってしまうと思うんです。悪循環とは、例えばタスクが終わらないから残業します。残業することによって、十分リフレッシュできないから、疲れが残ったまま翌日の仕事をする。
疲れが残っているので効率が下がる。そして効率が下がるので残業せざるを得ない、という負のループに陥っていると思うんです。なので、どこかでこの負のサイクルを断ち切らないと、健全な働き方にはならないと思いますね。
ドイツ式・限られた時間で成果を出せる秘訣
——ドイツでは残業を一切しないとのことですが、限られた時間で成果を出せる秘訣はありますか?
西村:これは組織というか、仕組みや制度でできる部分と、個人で変えられる部分の2つの側面があると思います。
制度や規制という意味で言うと、基本的には法制度で完全に残業が禁止されているわけではないんですけども。基本的に会社の制度として、残業なしで回るという前提の下にリソースが確保されています。そして、その分で回せるようなタスクの量しかないというところが1つ。
それから、効率を上げるために必要な投資をしています。例えば最近だとITツールへの投資や、社員が効率良く働けるような職場環境を提供するといった、環境面での充実もあると思います。これがどっちかというと、組織や制度でできることですね。
個人に関しては、やはり仕事とプライベートをきっちり分けるという意識があります。例えば「この後コンサートに行くので」「オペラを観に行くので」という予定があって、17時に帰らなきゃいけないとします。
「じゃあ今日やらなきゃいけないタスクはこれだけあります」と洗い出して、それを効率良くこなすにはどうしたらいいかという、やり方の部分を自分で考えるんですね。それで集中してやることによって、結果的に効率が上がるんです。
人間はずっとマックスで集中し続けることは難しいですよね。やはり集中してやらなきゃいけない仕事や頭を使ってやらなきゃいけない仕事と、ある意味ルーティンワーク的に手足さえ動かしていればできる仕事と、分けられると思うんです。そこの組み合わせを自分なりに工夫する。その意識と習慣づけが違うのかなと思いますね。
ドイツのオフィスは朝7時から働き始める人も
——例えば17時に退勤するとしたら、どういったスケジュールで仕事をされているのでしょうか?
西村:基本的には(私の職場は)フレックス制なので、週にだいたい38~40時間、1日で割ると、だいたい8時間働きます。働く時間はある程度自分の裁量に任されているんですけど、どっちかというと朝型にシフトしている人が多くて、人によっては朝7時ぐらいから働いている人もいます。
7時から働き始める場合、やはり朝の時間は集中して頭を使いながらやる仕事や、なるべく1人で完結してできる仕事をする。グループでやるにしても、アイデアや創造性を必要とするようなディスカッションは午前中にやります。
ランチは、人によっては早く帰りたいので30分で切り上げたり、仕事をしながら机でサンドイッチを食べて終わらせる人もいるぐらいです。
午後はだいたい会議が入ったり、ルーティンワーク的な仕事を中心にやるというふうに、全体の時間の使い方を、アウトプットが一番出しやすくなるようにうまく当てはめるイメージですね。
“退勤前の30秒”でやっておきたいこと
——なるほど。残業せず仕事を終わらせるために、他に工夫されていることはありますか?
西村:そうですね。ToDoリストを作られている方は多いかなと思うんですけども、その中でも優先順位を明確にするのが大事です。書籍
『ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密』の中では7つの習慣に沿って、重要度と緊急度でタスクを分けましょうという例も入れています。
最初は意識的に書き出すといいと思うんですけれども、慣れてくるとけっこう反射的にできるようになってくるので、習慣づけが大事ですね。また、タスクを書き出して優先順位付けするのを朝イチでやっている人が多いと思いますが、朝イチで「今日のタスクはこれ」って書き出そうとしても、頭が働いていなくて出てこないこともあります。
前日の帰る直前に、乱雑でもいいのでタスクだけ書き出しておいて、翌朝そのリストを基に優先順位づけをすると、すぐに仕事に入っていけます。
例えばPowerPointでプレゼン資料を作る時には、前日にPowerPointのタイトルだけを入れたファイルを作っておく。中身はなくてもいいので、ファイル名だけを付けて保存するやり方なら30秒もあればできますし、退勤前にやっておくと翌日にすごくスムーズにスタートできるんですよね。
会議はあえて中途半端な時間に設定する
——退勤前のひと工夫で翌朝に「昨日どこまでやっていたっけ?」「今日は何すればいいんだっけ?」とならずに仕事に取り掛かれるんですね。ちなみに、個人の工夫だけではなく、組織でできることはありますか?
西村:例えば会議は本の中でもけっこうページを割いていて、反応がいい部分です。たぶん、会議に対して問題意識を持っている人が多いのではないのかなと思います。もちろんすべての会議が必要ないと言うつもりはないんですけれども。
まずは、極力会議に参加する人数を限定したほうがいいと思います。これはちょっと個人レベルでは難しいかもしれないので、少なくともグループとか組織レベルで、1つ取り入れられることかなと思います。
冒頭で日本人とドイツ人の「勤勉さ」の違いについてお話ししましたが、日本では、勤勉さを周りに示すためだけに、必要のない会議に出て座っているだけみたいな人も多いんじゃないかと思うんですね。
「出ていることに意義がある」みたいな会議があると気づかれたら、個人レベルでも「この会議は私は必要ないですよね」と言うことぐらいはできると思うので、会議の取捨選択をするのも1つ大事です。
あとはやはり30分なら30分、1時間なら1時間と終了時刻を必ず守る。おすすめは、ちょっと中途半端な時間にしておくといいんですよね。「今日の会議は30分じゃなくて25分」とか「1時間55分で終わります」とすると、より時間内に終わらせる意識が高まります。
あとは会社によっては会議室の机をわざと高くしていて、立ったまま会議をするところもあります。集中力も高まるし、単純にずっと立っていると疲れるので、早く終わらせようっていう意識が高まります(笑)。
会議の時間を短くするコツ
——まず会議に出る人数を絞るということですが、ドイツでは会議に出る人数や人をどのように決めているのでしょうか?
西村:考え方としては、人数ありきではなく、会議の目的を明確にしてから出席する人を決めます。会議の目的とは、例えば、グループ会議とかで上長の人が、「会社でこういうことが決まったので、こういう情報をみんなにお知らせします」という情報伝達とか。
あとはプロジェクトをスタートする時に、誰がどういう役割をするかなどで議論したり合意を得たりするのは、またちょっと違うタイプですよね。
もしくはブレインストーミングのように、新しいアイデアを生み出すのにみんなでわいわいディスカッションをする。それぞれ目的があると思うんですけど、その目的をまず明確にして、それに合わせて必要な人数を決めていくプロセスが必要になると思います。
例えば情報共有にしても、ある程度メールやグループウェア、チャットで連絡できるものは事前に連絡しておいて、みんながそれを読んでいる前提で、会議では質問だけしてもらうと時間も短縮できると思います。
一方で、私が日本のビジネスパーソンに向けた研修をする中でよく聞くのが、「自分がいくらやろうと思っても、会社の制度でできないところがある」というお悩みです。答えとしては、やはり「自分のコントロールできる部分と、できない部分を分けましょう」ということです。
自分がコントロールできる部分、例えば時間の使い方やアウトプットの出し方から取り組んでいきましょう、と言っています。個人個人がそういう意識を持っていると、結果的に組織としても変わっていくので、ちょっと時間はかかるかもしれないですが、「まずは個人のできることからやってみましょう」とお伝えさせていただいています。