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2025.02.18
AIが「嘘のデータ」を返してしまう アルペンが生成AI導入で味わった失敗と、その教訓
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飯間浩明氏(以下、飯間):みなさん、はじめまして。よろしくお願いいたします。飯間と申します。……ええと、これは立ってお話を?
(会場笑)
椅子がありますね(笑)。では座りますね。みなさん、顔は見えますかね? 大丈夫ですか? まあ、ちょっと見えなかったら、(顔を傾けて)こうやって見ていただければと思います。なにはともあれ、これから1時間半ですかね、お付き合いいただきます。改めてよろしくお願いいたします。
今日は私の本を買って、あるいは人にもらって、持ってきてくださった方が多いかと思いますが(笑)。このほど、『国語辞典のゆくえ』という題で本を出しました。それを記念して、こういうかたちでお話をさせていただくわけです。しかし、あまりこういう場で話すのに慣れていないんですよね。
私は大学でもコマを持っていまして、今日も成城大学と早稲田大学で教えてきました。文章表現の授業と、辞書の言葉を学生に集めさせるという授業です。私は辞書を作る人間ですが、自分が楽をして、学生に言葉を集めさせるという、そういう授業をやっております。「楽をして」というのは冗談です(笑)。
(会場笑)
辞書を作る、言葉を集める、そのおもしろさを学生に味わってもらいたいので、(学生に)「自分で雑誌を見たりして言葉を集めてみましょう」と、そういう課題を与える授業です。今日はそれを終えてから来ました。
授業中に教壇に立って話すことはもうだいぶ慣れました。まあ10年以上やっていますので。でも、こういう炉辺談話(ろへんだんわ)みたいなものは慣れないですね(笑)。
(会場笑)
(今日は)ちょっとどういう失態があるかわかりませんが……(iPadを手に取って)今は電子化の時代ですから、iPadを持ってきまして、ここに話すことを書きました。これを時々見ながら話をしていきます。
今日の構成ですが、まず、この本を出した経緯についてお話をするというのが1つ目。それから、この本に書かれている内容に関連することですね。
『国語辞典のゆくえ』は、「辞書のゆくえが明るくてすばらしいな」という本ではありません。「あまり明るくないね」ということなので、どうして明るくないのかをお話しします。この事情は辞書だけに限らないですね。活字文化全体が、まあ今の言葉で言うと「ヤバい」ということになってますので、どうヤバいのかという話、これが2つ目です。
それから、そのヤバい状態からどのようにして反転攻勢をしていくか、ということについての目論見を語ります。これが3つ目です。
そして、その目論見についてお話した後に、最後は理想の辞書、私が作りたい辞書、どういう国語辞典になってほしいかということをお話します。それで1時間以上になるのかどうか、話してみないとわかりませんが。
それから、今日は(事前に)みなさんにご質問を書いていただいていますので、時間が許す限り、それについても。まあ、今日パッと見ただけで、調べる時間もありませんので、思いつきしか言えないんですけれど、そのご質問にお答えしたいと思っております。
それでは、話に入りましょう。なんかこう、落語家ならここで、羽織を脱ぐところなんですが(笑)。
(会場笑)
この本をどうして出したかについてですが、私は去年、NHK文化センターで講演したことがあります。その時お世話になった方に「またNHKラジオでなにか話してみないか?」というお話をいただいたわけですね。
去年の講演というのは、辞書を作るうえで、いろいろ考えたことを話しました。特に、辞書によってそれぞれ内容に個性がありますから、辞書ごとにどういうふうに違うのかという、そういう話をしたんです。
そして、今回のご依頼は「NHKの『カルチャーラジオ』という番組で、全13回で話してください」ということだったんですね。「さあ、なにを話そうか?」と考えていたら、ちょうどその時、というのは去年の秋から冬ぐらいですかね、もう寒い時期になっていましたけれど。
ちょうどその時期に、新宿で「語彙・辞書研究会」という研究者の集まりがあったんです。そこで、「紙の辞書に未来はあるか」というテーマで、研究者たちが討論をしていました。
その話を聞いていますと、「紙の辞書にはいいところがあるので、なくならないでしょう」「紙の辞書はこれからも使われるでしょう」という話になっていたんですね。「紙の辞書万歳!」みたいな話になっていたんです(笑)。
(会場笑)
「あれ、ちょっと待てよ」と。私は辞書を作っている人間として非常に違和感を覚えまして。私自身が発言をさせていただく機会があったもんですから、ひと言述べたわけです。
「みなさん、ここに集まっている研究者のみなさん方は、紙の辞書をお使いでしょう。しかし、この研究会の外を一歩出ますと……」と言ってから、発言席の後方にあった窓のブラインドを、よく刑事がやるようにしてパシッと開けました。
そして「あの表を通っている人たちは、紙の辞書を使っていません。紙の辞書は死んだんです」と言ったら、会場の研究者たちから、クスクスと笑い声が漏れたんですね。
つまり、「冗談だろ」というような受け取り方だったんです。「紙の辞書は死にました?」「飯間さん、おもしろいこと言うな(笑)」という感じでした。
それで私は「違うのに!」と。「本当に紙の辞書は使われてないんですから!」と心の中で叫んだんですが、どうもその場の研究者の方々はそのことが実感としておわかりにならなかった。
そこで、「これはもっと私自身がわめきたてなければいけないのじゃないかな」と思いまして。いや、「わめきたてる」とは、「紙の辞書は古いよ。みんな使うなよ」というわけではないんです。
私はもっとも紙の辞書を愛している人間のうちの1人だと思いますし、紙の辞書が大好きなんですが、「その紙の辞書が今や危機的ですよ」「研究者のみなさんが考えているように『紙の辞書万歳!』『これからも紙の辞書は繁栄するだろう』ということは、ぜんぜんないんです」と。それを声を大にして言わないといけない。
これからはもっと新思考で、新しい考え方です。この間、安倍さん(安倍首相)がおっしゃっていましたね。「新しい考え方」という(笑)。
(会場笑)
なんかちょっと安倍首相みたいになってきましたが(笑)。その「新しい考え方でやっていかなければならないんだ」と言おうと思った。それをラジオで話そうと考えたんです。
ラジオで話すといっても、ただ話すのではなくて、テキストがあるんですよ。「テキストをまず書いてください」と言われました。私は「本も書くのか」と思ってびっくりしたんですけれど(笑)。それがカタチになったのが、今みなさんがお持ちの『国語辞典のゆくえ』という本です。
これを出版するに至るまでは、かなり苦労いたしました。決して分厚い本ではないんですけれど、私自身が遅筆でしてね。それから、ちょっと他の仕事もあったもんですから、なかなか執筆時間をとれなかった。
NHK出版の担当の白川さんに「ちょっと書けません」とご相談しました。「しゃべるだけだったらいいんだけど、テキストまでは……」と泣き言を言ったら、「いやいや、書いてもらわないとダメだ」と言われました。
どうしようかと思っていたら、口述筆記をご提案をいただきました。それで、白川さんと一緒に私の家の近所の喫茶店に入って、そこで私が思いついたことをなんでもしゃべる。それを白川さんが録音なさって、編集部に帰って、ワードのファイルにしてくださる。そういうことを13回分くり返しました。
こう言いますと、お手元のテキストは、「白川さんが文字化したものであって、飯間が書いたものではないんだな」と思われるかもしれません。そうじゃないんです。やっぱりね、自分のしゃべりがまとめられたものを見ますとね、あの……ひどい文章で(笑)。
(会場笑)
ひどい文章というのは、彼がひどい文章を書いたんじゃなくて、私のしゃべったものがひどかったわけ。つまり、話の流れが乱脈を極めていて、行きつ戻りつして、なにが言いたいのかわからない。それから、あいまいな部分もある。しかも数字が間違っている。
このままNHKのテキストにするわけにはいかないんですね。そこで、白川さんのまとめてくださった文章を見ながら、それを改めて、イチから私の文章で構成を考えて書き直すというふうにしたわけです。
「じゃあ、おまえ、自分で一から書きゃいいじゃん」という話ですが、そういうわけではありません。白川さんがまとめてくださったからこそ、「あ、ここは違うな」「ここは話を繰り返している。間延びしている」ということがわかるわけですね。
こういう2段構えで本を書いたとことで、内容が簡潔でわかりやすくなりました。いや、簡潔でわかりやすいものに少しでも近づけるために、そういう方法が役に立ちました。
この本を書く作業は、今年の春先から始まって、6月の初旬までかかりました。口述筆記の期間を含めてですけれども。
そんな中、少々体調を崩しまして、寝込んだりしていたわけです。これが、「もう本が出るよ」「もうまとめなきゃいけませんよ」というタイミングでした。私としても、「ここで寝込むと本が出せないな」とよくわかっていたんです。
「さあ困った」と思って、白川さんにご連絡しまして「すいません。ちょっと起き上がれないんで、出版は無理です」「ラジオもできません」「NHKにも、NHK出版にも、ほうぼうにご迷惑をおかけしますけれども、一生かけて償いますんで」と言ったら、白川さんは「ダメです」とおっしゃいました(笑)。
(会場笑)
「いや、もちろんゆっくりお休みになってください。その後のサポートは十分しますから。なんとかここまでできたんだから、書きあげてください」と。……いや、「書きあげてください」じゃなかった。もっとやさしく「大丈夫です。先生ならできます」と励ましてくださった(笑)。そうすると、まあ……体調も良くなりまして。
(会場笑)
「病は気から」と言いますからね(笑)。なんとか書き終えることができたわけです。
ですから、通常の本であれば「あとがき」というのがあります。そこで、編集者への謝辞を述べるところがあるんですが、このテキストはどうもそういうシステムになってないらしくて、謝辞が述べられないんですね。だからずっと申し訳なく思っておりましたんで、今ここで……改めて感謝を伝えたいと思います。ありがとうございました。
(会場笑、拍手)
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