
2025.04.02
働く人が増えても、日本の「人手不足」問題は解決しない “労働力=人手”という捉え方の盲点
「人とパーパス」を本気で大切にするリーダーシップ(ユベール・ジョリー&平井一夫&矢野陽一朗)──『THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)』出版記念オンラインセミナー(全5記事)
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矢野陽一朗氏(以下、矢野):どうもありがとうございます。個人のパーパスと組織のパーパスについて、平井さんはいかがでしょうか?
平井一夫氏(以下、平井):私が一番重要だと思っているのは、ユベールさんもずっとおっしゃっていますが、組織のパーパスをリーダー自ら、もしくはマネジメントチーム自らが現場と対話を続けることで、腹落ちしてもらうことです。
私はよく冗談で言うんですが、新年のあいさつに1回パーパスを言って、名刺の裏に刷ったりWebサイトに載せるだけで、そのあとCEOやマネジメントチームがそれをまったく語らないのでは、腹落ちしないんですよね。
ユベールさんは、いかに腹落ちさせるかを徹底的にされています。私は6年間CEOをしたんですが、70回くらいタウンホールミーティングをやりました。月1回、全世界のどこかのソニーの拠点でタウンホールミーティングをして、ソニーのパーパスは何か、今ソニーはどんな現状に置かれていて何をしなければいけないかを、自ら現場を回って説明して、腹落ちしてもらいました。
「会社はこういうことをしようとしている」「こういうパーパスがあるんだ」ということに腹落ちしてもらう。みなさんは自分の人生観や社会にどう貢献したいかなどの軸を持っていますから、それと腹落ちしてきた会社のパーパスをどうマッチングさせるかは、自分なりに解釈していかないといけません。
みなさんは個人のパーパスを持っていらっしゃるから、会社として一番やらなければいけないのは、それに対して「会社のパーパスはこうですよ」と腹落ちするまで説明を尽くすことだと思います。
それがちゃんとできて、「このパーパスは自分が考えていることとはまったく違うし、自分のパーパスとはまったく違うんだ」とわかれば、その人はパーパスを変えるか、もしくは別の仕事を探すことができます。それも決して悪いことではなくて、パーパスが自分とは違うんだとわかれば選択肢ができます。
一番良くないのは、会社のパーパスがよくわからず、自分の軸とどう対峙していいかわからないことです。これは会社にとっても悲しいことですし、社員にとっても非常に悲しいことです。
だから、申し上げているように、まずはリーダーとして腹落ちするまで会社のパーパスを説明して、社員のみなさんもそれに対して自分はどうなのかを考えてもらう機会を作ることが大事だと思います。
矢野:それでは、最後のトピックに入りたいと思います。リーダーシップについてこれまでにもいろいろと語っていただいていますが、この本の中で取り上げられたリーダーシップの考え方は「Authentic Leadership(オーセンティック・リーダーシップ)」です。日本語で「自分らしいリーダーシップ」と翻訳されます。これがユベールさんご自身の経験をもとに詳しく語られているのが、非常に大きな特徴だと思います。
リーダーシップのスタイルについては古くからいろいろな議論がされていますが、アメリカの経営学者のウォレン・ベニスはさまざまなリーダーにインタビューした結果、「リーダーに共通する特質はない」と結論づけました。
「リーダーはそれぞれ自分のスタイルで人を導く」と言っています。そして「リーダーは自分の人生経験を通じてリーダーになる」と示しました。
ウォレン・ベニスの後継者とも言われているメドトロニックの元CEOのビル・ジョージは、リーダーシップ論についてさまざまな著作を残しています。特に『True North リーダーたちの羅針盤』という本は日本でもよく読まれていますが、「チームを共通の目標に向けて結集させられるんだ」と言っています。
ユベールさんは本の中でビル・ジョージさんとの親交についてもお書きになっていますが、どのような影響を受けられたかをぜひお聞かせいただければと思います。
ユベール・ジョリー氏(以下、ユベール):私はビル・ジョージさんを本当に尊敬しています。友だちで、ミネアポリスのご近所さんで、ハーバード・ビジネススクールでも同僚です。そして『THE HEART OF BUSINESS』のアメリカバージョンの序文を書いてくれました。「True North」とパーパスは同じようなことだと思っていて、パーパスに基づいたリーダーシップが大事です。
私がリーダーとして自分が成長していた時、20世紀のリーダー像は手本があって、すべてを知っているトップダウンのリーダーが「人を導くリーダー」と言われていましたが、今日では危機が次々と起き、誰もすべてを知っているわけではありません。「すべてを知っている」なんて言うリーダーをフォローしたくないわけです。
ユベール:ですから「パーパス」の重要性があり、人々のために適切な環境を作り出すのが非常に大事です。人に「何をやれ、これをやれ」ということではないのです。そして20年前には出てこなかった、いわゆる「自分らしさ(authenticity)」も大事です。つまり自分らしくあることを恐れないということです。長い間、私はあまり人間らしいことはやらず、頭と心が分離していました。
それから「バルネラビリティ(vulnerability)」、いわゆる「弱さ」ですね。自分がパーフェクトではないということです。例えば、自己紹介で「私はユベールで、私はすべてを知っていません」と言うと、当然社員もそう思います。誰もすべてを知っているわけではないのです。
それから、謙虚さや人のためにケアする、お客さまに思いやりを持つ「共感力」です。このことによって、もしかしたら潜在的なニーズが明らかになるかもしれません。
それから「人間性(humanity)」。コロナ禍でみなさんも経験されたと思いますが、我々はみんな人間であるということです。非常に複雑なニーズを持っていますし、すごく優れた才能もそれぞれの人の中にあります。リーダーの役割は、この一人ひとりの人間がいかにすばらしいかを認識してもらい、最高のその人になってもらうことです。ヒューマン・マジックを解き放つのが今の私の仕事です。
矢野:平井さんにもぜひ、影響を受けた方についておうかがいしたいのですが、『ソニー再生』にソニー・ミュージックエンタテインメントの社長でいらっしゃいました丸山茂雄さんとのご関係について、かなり詳しく書かれています。丸山さんは私も尊敬している経営者の1人ですが、彼も非常に人間味あふれる方だったと思います。どのような影響を受けられたのでしょうか?
平井:あえて「丸山さん」と呼ばせていただきますが、アメリカのプレイステーションビジネスの再生の中で、かなり密に一緒に仕事をさせていただきました。丸山さんは私との接し方も周りの人たちとの接し方も非常に謙虚といいますか、自分が上にあるという上から目線の話は一切しませんし、「この人のためにがんばろう」という内なるものを必ず引き出してくれるようなリーダーシップだったんですね。
そういうのを見ている中で、先ほどから申し上げているように、本当のリーダーシップは肩書きがあるから偉いのではなくて、人間としてリスペクトされているから偉いということに私は30代半ばで気づき、そういうスタイルに変えました。
ポイントは、先ほどユベールさんが「5つのクオリティ」とおっしゃっていましたが、私が言っている「EQ(心の知能指数)」がいかに高いかと、たぶん同じだと思うんですよね。表現は違いますが、それができるかできないかによって、リーダーとして成功しているかしていないかが非常に変わってきます。
これは自分がそうならなければいけないですし、自分のリーダーシップチームにも「あなたたちも自分のスタッフに対して高いEQをちゃんと発揮してくださいよ」ということを、仕事ができる・できないというクライテリアの1つとして必ず掲げなければいけません。仕事以外というか、「リーダーシップの中でEQを発揮することが、あなたが成功していく1つの要因になっていくんですよ」と言わなければいけない。
EQの高いマネジメントは上だけでやってもダメで、レイヤーの下のほうにもいかなければいけない。なるべく早い段階で、組織のセカンドレイヤー、サードレイヤー、それ以下に持っていけるように、いかにこれが大事かをリーダーは常に話さなければいけないですし、自らがちゃんと実行していくことの大事さをあえてここで強調させていただければと思います。
矢野:そろそろ残り時間が少なくなってきたんですが、ユベールさん、これからリーダーを目指す人に対してアドバイスがあればぜひお願いいたします。
ユベール:アドバイスですか(笑)。私は知らない方にアドバイスをするほど偉くないんですが、私の経験から何かシェアさせていただきます。コロナ禍で外に出かけられなかった時に自分の内面を見ることができました。内省することができました。そういう時に、自分に対して「私はどんなタイプのリーダーになりたいんだろうか」「自分はどのように人に覚えられたいんだろうか」と問うわけです。
ハーバード・ビジネススクールでは新しいCEOに対して「自分の退任スピーチ原稿をまず書いてください」と言います。私の妻もリーダーシップのコーチですが、彼女はまず「自分の弔辞を書いてください」と言うそうです。それをやることで、自分を明確にすることができます。自分のことをちゃんと認識していないリーダーに人は付いていかないので、それを学んできました。
矢野:ありがとうございます。平井さん、いかがでしょうか?
平井:1つだけアドバイスとなるとなかなか難しいのですが、ユベールさんの本もそうですし、ここで議論されたことはCEOだけに当てはまることではありません。どんなに小さな組織であってもいいし、例えば5人のグループのグループ長でも、係長でも課長でも社長でもいいんですけど、どんなレベルのリーダーにも当てはまることをまずは認識するべきだと思います。
ユベールさんの本を読んで「俺/私も、いつかCEOになったらこうしよう」ではなくて、5人のグループリーダーになった時に5人のモチベーションをどう上げるのか。「私たち6人のチームのパーパスは何なの?」と議論すべきですし、1人のリーダープラス5人が同じ方向を向いて成果を出すことはすごく大事になります。
ぜひ若い頃からリーダーシップのクオリティや要素がいかに大事かを理解して、ユベールさんの本は非常に参考になりますから見ていただくのと同時に、私はいつも「EQの高さ」と言っていますけど、EQに関する本もいっぱい出ていますのでぜひ目を通していただきたい。
せっかくリーダーとして抜擢されるのですから、それに応えるようなリーダーシップの要素をなるべく早い段階で身につけていただきたいと考えています。
矢野:名残惜しいですが、そろそろお時間が終わりに近づいておりますので、最後にユベールさん、次のステップはどんなキャリアを歩もうとされているのかをお聞かせください。
ユベール:このあとで視聴者の方から質問をいただけるのを楽しみにしております(笑)。ベスト・バイのリーダーシップは2020年に次の方にバトンを渡しました。そして次の章は、ゴルフをやるとか、別のCEOになるということではなく、私は常に「違いを生み出したい」と思っているので、次世代のリーダーをサポートしたいと思っています。私の声や力をそこに注ぎたい。
ビジネスや資本主義に対して、「人・パーパス」という観点でぜひ貢献していきたいと思っています。本を書いたり、ハーバード・ビジネススクールで講師をしたり、MBAやエグゼクティブプログラムをやったり、CEOやシニアエグゼクティブの方々へのメンタリングやコーチングも提供しています。しっかりとしたビジネスの基盤に対して支援をしていきたいというのが、私の次の章です。
矢野:ありがとうございます。平井さんはソニーのあとにどのような活動をされているかをお話しいただけますでしょうか?
平井:昨年、一般社団法人プロジェクト希望を立ち上げました。そこではまず首都圏、東京圏に焦点を当てています。日本は少子化と言われている中で、7人に1人のお子さんが相対的貧困に苦しんでいるという非常に厳しい状況があります。
教育の格差も言われていますが、それをサポートするNPOさん、NGOさんはけっこういらっしゃいます。その中で、教育の格差と同時に「体験の格差」があります。つまり、普通のお子さんならご両親や保護者と一緒に遊園地や旅行に行ったり、サッカーや野球の試合を見に行ったり、いろんな体験ができるんですが、貧困に苦しんでいるお子さんは必ずしもそういった体験ができるわけではありません。
プロジェクト希望はいろんなNPOさん・NGOさんと一緒にコラボレーションしながら、そういったお子さまに対していろんな感動体験を無償で提供する活動をしています。コロナでなかなか開始できなかったんですが、今年に入ってから活動を少しずつ開始することができました。
すでにいくつかの感動体験を提供しているのと同時に、私自身が自分の経験に基づいて高校生もしくは中学生のみなさんに、これから進路を考える時にどういう考え方をすればいいのか、つまり優先順位をどうつけるのか、いろんな問題に直面した時に問題やチャレンジに対してどう解決策を考えていくのかというアドバイスをするようなセミナーをしたりしています。
同時に活動をファンディングをしないといけないので、そういった意味では私も本を出させていただいたのと、さまざまな場面でリーダーシップについての講演をさせていただいています。そういった収入をプロジェクト希望に全額寄付することで、ファンディングをするというかたちです。
いろいろな仕事をしていますが、ソニー以外の収入はプロジェクト希望に全部寄付するかたちで、やっと少しずつ活動を開始することができました。興味がある方はぜひプロジェクト希望のサイトを見ていただくと、さらに詳しいことが書いてありますので、ぜひいろいろとサポートしていただければと思っています。
矢野:すばらしい活動ですね。どうもありがとうございます。
ユベール:カズさん、すみません。私の本の日本語版の印税は、プロジェクト希望に全額お渡ししたいと思います。
矢野:おぉ……!
平井:ユベールさん、本当にありがとうございます! 心から感謝申し上げます。
ユベール:聞いていらっしゃるみなさんはこの本を買って、プロジェクト希望をサポートしましょう。
矢野:ありがとうございます。
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